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  オバマ大統領、Tom Wheeler氏をFCC委員長に任命:委員長就任は2013年秋頃か
2013年6月1日号

 オバマ大統領は、5月に入り、ようやくGenachowski氏退任後のFCC委員長、委員のラインアップを半ば定めた(注1)。
 5月1日のTom Wheeler氏のFCC委員長任命、5月18日におけるMignon Clyburn氏のFCC委員長代行就任により、FCCのトップは決まったものの、現在、FCC委員は、Mignon Clyburn氏 (民)、Jessica Rosenworcel氏(民)、Ajit Pai氏(共和)の3名。残り2名の委員は、上院における来るべきFCC委員長承認手続き終了後、新委員長Tom Wheeler氏および、同時に承認を受ける予定のFCC委員(共和)が就任し、その時点で5名の定員が充足されることとなろう。
 以下、本論では、Tom Wheeler氏、およびMignon Clyburn氏2名が登場した経緯、両者のプロフィール等について紹介する。
 なお、前FCC委員長Genachowski氏は、5月18日、淋しくFCCを去った。氏は、Aspen Institute(中立系の米国大手のシンクタンク)のシニア・フェローに就任するという。本文で明らかなとおり、辞任後10日を経ていない今日、もうGenachowski氏は過去の人となった。氏が引き合いに出されるのは、他山の石、反面教師としてである。FCCトップの座も厳しい職であることを実感させられる。


Tom Wheeler氏に剛腕のFCC委員長を期待する利害関係者

異常時に望まれた強いFCC委員長(注2)
 Tom Wheeler氏は、当初からFCC次期委員長候補者として多くのニュース紙で報道されてはいたが、必ずしも本命視されていなかった。むしろ、民主党の現FCC委員、Mignon Clyburn氏あるいはJessica Rosenworth氏のいずれかが、次期FCC委員長に就任するとの無難な選択を予想する向きが強かった。
 Tom Wheeler氏が本命との報道が一気にニュース紙を埋めたのは、4月の中旬から下旬に掛けてのことであった。察するに、慎重にこの人事を検討していたObama大統領は、実力者をFCC委員長に付けよとの利害関係者からの熱気に押され、この時期、Tom Wheeler氏の任命を決意したのではなかろうか。
 これまで、電気通信事業における競争のあり方について、厳しい批判を続けてきた消費者団体切っての論客であるFree PressのCEO、Craig Aaron氏は、最後の切り札、Wheeler氏に掛けるほかに選択肢がないという心情を次の様に語っている。
 ”FCCには強いリーダを必要だ。FCC委員長という強い地位を利用して業界の巨大事業に立ち向かい、公益を守る人物である。Tom Wheeler氏は、これまで、1つだけでなく、2つまでも業界団体のトップを歴任しており、一見、こういうことがやれそうな人ではない。
 しかし、氏には、今、批評家たちの誤りを正し、前任者が残した混乱を正し、われわれが、FCCに切に求めている”公僕“になる機会が与えられている。”

 正直のところ、米国の電気通信規制は、石橋を叩いて渡らない式のあまりにも慎重居士の前FCC委員長、Genachowski氏の下で、山積する課題が先延ばしされ、混迷をきわめている。皮肉な見方ではあるが、無能な委員長の後任探しという異常な事態の後であるからこそ、異能の才能の持ち主といわれる67才のベテラン、Tom Wheeler氏の登板が望まれ、実現したのであろう。しかも、オバマ大統領は、この際、女性FCC委員長を実現すべきであるとの一部(多分、女性層と女性票を引き付けようという民主党議員連)の意見に応じるため、暫定期間の代行という立場であるにせよ、民主党筆頭FCCアフリカ系女性委員、Mignon Clyburn氏をFCCトップに据えるという心憎い配慮も行った。

Tom Wheeler氏のプロフィール:ロビイスト、企業家、規制・政策についての提言者として一流と評価される傑物
 Tom Wheeler氏の経歴は、ネット情報から詳細は得られなかった。オハイオ州立大学という地方大学を卒業(なにを専攻したかも不明)して、1992年から2004年の間、モーバイル業界、ケーブルテレビ業界のロビイストであった。
 同時に、彼の専門的知見の卓越さが認められ、数多くの政府、地方自治体の委員会から意見を徴されるようになり、この活動は現在も続いている。現に、彼は、FCCのTecnology Advisory Councilの委員長である。さらに、Tom Wheeler氏は、ケーブルテレビ、モーバイルの業界団体のトップにも就任する。すなわち、1987年から1994年までNCTA(National Cable Television Association)の理事長であったし、また、2004年までCTIA(Cellular Telecommunications & Internet Association)のCEOを勤めた。
 Tom Wheeler氏の多角的な事業の本拠は、ベンチャーキャピタリスト(すなわち起業家)である。ケーブルテレビ、モーバイル電話、ニュース伝送等、数々の事業にたずさわり、それなりの成功を収めている。氏は2005年から、Core Capitalの経営に参画しており、現在も同社の社長である。
 当然、FCC委員長になった後は、すべての事業活動をやめることとなるから、Tom Wheeler氏自身、異常な覚悟でFCC委員長を引き受けたに違いない。


上院において資格審査を受けるに当たってのWheeler氏のアキレス腱:ロビイストの経歴とオバマ大統領への献金(注3)

 Wheeler氏がFCC委員長に就任するには、すでに述べたとおり、上院委員からの承認を取り付けなければならないのであるが、この手続きを踏むに際し、同氏のキャリアには次の2点が障壁になるものと思われる。
 第1は、Wheeler氏の電気通信業界進出が、ロビイストとしての活躍から始まっていることである、業界から報酬を受けて、政界に有利な法律の制定を働き掛けるロビイストの社会的地位は、米国では確立した職業として認められてはいるが、プロフェッショナルとしての評価が低いことは間違いない。まして、業界から中立の立場に立って、公平、中立の立場から、法規に基づきレフリー役を務めるFCCの、しかも委員長に、元ロビイストの経歴を持つ人物が就任するなどということは、従来の考え方からすれば、想像の域を超えた発想だといわなければならない。オバマ大統領の側は、Wheeleer氏がロビイストをやめたのは2004年のことで、昔のことだと主張するのであるが、さほどと説得力があるとも思えない。
 今、一点の問題はより直接的なものであり、Tom Wheeler氏が、2008年、2012年の大統領選挙に当たって、多額の献金をしていたというものである。長年にわたるオバマの支持者であるWheeler氏の献金額は、2回の選挙運動を通じ、70万ドルの巨額に登ったという。この問題も、同氏の上院において、厳しい追求を受けることとなろう。


Mignon Clyburn氏、FCCのリレイ走者としての決意を語る(注3)

 Mignon Clyburn氏は、サウスカロライナ大学で金融、経済学を専攻した。卒業後は14年間、家業の地方新聞の発行に携わった。その後、サウスカロライナ州公益事業委員会に勤め、2002年から2004年に掛けて同委員会委員長の職にあった。
 Clyburn氏が一見、大学での専攻と関係のない規制分野で順調に出世階段を昇ることができたのには、同氏の資質もさることながら、オバマ大統領との関係が深い、民主党南カロライナ州出身の下院議員、James Clyburn氏が父親として、庇護に当たったことによる点が大きいといわれている。
 代行という立場であるにせよ、FCCのトップに女性(しかもアフリカ系)が座るのは、今回が最初である。
 Mignon Clyburn氏は、FCC委員長代行に就任して間もない2013年5月20日、次のような趣旨の職員宛ての短い声明文を発表し、自分の職責を果たす決意を表明した。
 “使命の遂行に忠実で、かつ、ワールドクラスの資質を持つ人材を有するFCCの長に任命されたことは、光栄である。
 しかし、私は、前FCC委員長Genachowski氏と就任次期未定の次期委員長との間の橋渡しをするのが職責であることをよく自覚している。私は、FCC委員長代行は、責任の大きいポストであると考えるが、同時に謙虚な気持ちでこの職を引き受けた。
 いわば、マラソンの中間ランナーである私は、FCCの現在の力を保持し、次期FCC委員長にバトンタッチする役割である。バトンを落とさないようにしなければならない。“
 報じられているように、Tom Wheeler氏の就任が、2013年秋頃とすると、まだ4、5カ月間の期間がある。たとえば、わが国の通信にも多大の影響が及ぶ重要案件として、SoftbankがSprintと合意しているM&A案件に対するFCC、司法省の承認問題(結論を出す期限は7月)を同氏は、自己の判断で処理するのであろうか。



(注1)3月中旬、FCCにおけるメディア相互持合い規則の改定が予定通りに進行していない問題とからめて、FCC委員長後任者候補者の下馬評を紹介した。
DRIテレコムウォッチャー、2013.3.15号、「挫折したGenachowski FCC委員長のメディア相互持合い規則の改定:FCC委員長後任者論議高まる」
(注2)2013年4月末から5月初めに掛けて、米国のネットは、Tom Wheelerを讃える記事と、過去の同氏の履歴からしてFCC委員長として適任であるかいなかに疑問を持つ記事で埋まった感があった。
筆者は、主として、次の3資料を参考にした。
(注3)2013.5.20付け、http://www.adweek.com/news, "Clyburn makes History at FCC Obama’s nominee for Chairman waits for hearing."
2013.5.20付け、FCCプレスレリース、"Statement From FCC Acting Chairwoman Mignon Clyburn to Staff."



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