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DRI テレコムウォッチャー


  T-MobileによるMetroPCSの取得、実現間近
2013年4月15日号

 米国第4位のモーバイル企業、T-Mobile USAと米国第5位モーバイル企業MetroPCSの統合案件が、近く決着する見通しである。
 T-Mobile USAの100%親会社であるDT(Deutsche Telekom)が両社に資金提供、負債の肩代わり等のテコ入れを行い、両社を傘下に収めシナジー効果を発揮することにより、大手モーバイル企業3社(AT&T、Verizon、Sprint/Nextel)に対抗して生き残りを図ることを目的としたこの合意は、DTとT-Mobileの間で2012年10月2日に結ばれた。背景は、高速ネットワークの統合による米国全土へのサービス提供である。両社とも、周波数の獲得、ネットワーク構築ともに、不十分であり、両社のネットワークを共用しなければ、全国展開ができない。業績が芳しくないT-Mobile USAが親会社DTの威勢を借りて、業績の良いMetroPCSの統合合意の締結に至った理由は、ここにある。
 FCC、司法省は、2011年末にAT&TによるT-Mobile USAの合併を拒否して以来、米国におけるモーバイル市場の競争促進を図る意図から、2013年2月から3月に掛けて、この合併案件を認めた。しかし、MetroPCSの一部株主は、合併する側のDTが自社にとり有利な条件を押し付けたため、MetroPCSの株主の利益が不当に侵害されているとの不満が高まった。このため、4月12日に予定されていたこの案件を票決するMetroPSCの特別株主総会における採決の帰趨が不透明になるという事態に立ち至った。
 DTは、特別総会開催3日前になって株主総会開催の日を4月24日に繰り越すとともに、合併条件の一部をMetroPCS株主に有利になるように緩和し、4月24日にこの案件に決着を付ける決断を行った。
 結果について予断は許されないが、土壇場になってのDTの譲歩により、賛成の票決が反対数を上回り、新生MetroPCSの誕生が認められることになるものと予想される。

 本文では、DTがT-Mobile USAとMetroPSCの統合を提案して以来、この提案の修正を行うまでの経緯を紹介する。さらに、参考として、この案件に関連する3社(DT、T-Mobile USA、MetroPCS)の2012年次決算の概要を記した。
 2012年決算を通読して感じることは、3社の業績がいずれも不調であって、特に、T-Mobile USAの加入者流出とこれに伴なう赤字が増大しているという冷厳な事実である。

 DTが起死回生の方策として推進した傘下事業再編成が、無事、実行の段階に入っても新生T-Mobileさらには、親会社DTは、今後、苦難の道を歩むことになろう。


DTとMetroPCSの合意内容(2012年10月2日)

 2012年10月2日にDTとMetroPCSが、T-Mobile USAとMetroPCSの合併条件について合意した。その骨子は、以下のとおりである(注1)。

DTは、MetroPCSの株主に、現金15億ドル、新生T-Mobile株式26%を提供する。
現T-Mobileは、新生T-Mobile株式74%を所有する。
新生T-Mobileは、DTに対し150億ドルの約束手形を発行する(つまり、現T-Mobile USAとMetroPCSが有している負債を160億ユーロと確定、これをDTが肩代わりし、その金額を延払いで新生T-Mobileが支払う)。
現T-Mobile USAのCEO兼会長のJohn Legere氏は、新生T-MobileのCEO兼会長に、また、現MetroPCSのCFO兼副会長のBraxton Carter氏は、新生T-MobileのCFOに就任する。
新生T-Mobileにおいて、現、T-Mobile、MetroPCSのビジネス部門は統合しない。現在のブランド名により、別箇のサービスを提供する。
新生T-Mobileは、加入者数4,250万、年収348億ドル、EBITDA63億ドル、投資金額21億ドル、フリーキャシュフロー21億ドル程度の規模になる。


規制機関の承認

 2012年3月上旬、司法省、FCCは相次いでT-Mobile USAとMetroPCSの合併を承認した(注2)。すでに、両規制機関の米国モーバイル業界に対する規制方針は、2012年末AT&TによるT-Mobile統合を拒否していた当時から定まっていた。すなわち米国モーバイル市場では、1位、2位のAT&T、Verizonが強力過ぎて寡占的行動を行っているのであって、この弊害を矯正するためには、3位Sprint/Nextel、4位T-Mobile USAの力を強くする方向の施策を助長すべきであるというものであった。司法省、FCCが無条件で、T-Mobile USA、MetroPCS両社に賛同したのは、この理由による。

 ここでは合併承認理由の説明は省略し、2013年3月12日、FCCのGenachowski委員長の両社合併の意義を説いた箇所を引用するに留める。
 “本日の承認により、米国のモーバイル市場は、強固な競争、活性化された力を備えた競争業者の出現により、引き続き力を持ったものとなる。本日のFCC裁定は、数百万もの米国の消費者に利益を与えるとともに、米国が近年、獲得してきたモーバイル分野での指導性の保持に役立つだろう。”


一部大口株主、両社統合に強く反対(注3)

 上記のように、両社の合併は規制機関からは、絶大な支持を受けて大詰めを迎え、最後の承認手続きは、4月12日に予定されているMetroPCSの特別株主総会での投票となった、しかし、2013年2月中旬以降、MetroPCSの有力な株主2社が、強硬に合併への反対を表明、さらに株主に対しても、レターを送りつけ、投票に反対することを要請した。このため、合併が果たして実現するかいなか、予断を許さない状況に立ち至った。
 両社とは、MetroPCS株をそれぞれ、8.7%、2.0%を所有する株主、P.Schoenfield Asset Managementである。
 両社は、DTは新生MetroPCS株式の割り当て比率(24%)においても、現金給付(15億ドル)にしても僅少に過ぎ、明らかに過小評価されたし、さらに、DTが新生T-Mobile用に設定した借入金枠150億ユーロにしても、利率7%は高過ぎるし、将来、過大な負債で新生T-Mobileの経営を悩ませることになりかねないと主張した。
 さらに、両社はMetroPCSの財務状況が良好である点を強調し、将来を展望すれば、MetroPCSは、従来通り、単独路線を貫けるではないか。また、他社と合併せざるをえないにしても、より有利な条件による企業提携が可能にかもしれず、今、この合併を取り決めるのは、時期尚早であると論陣を張った。両社はこのようにして、4月12日特別総会を控えての現在のDTおよびMetroPCSの経営陣に対し、合併条件がMetroPCS両社に有利になるようDTに圧力を掛けた。


DTの修正提案

 DTは、2013年4月9日、T-MobileとMetroPCSの合併条件を修正した。前述の反対闘争により、4月12日における特別株主総会における議決の結果に自信が持てなくなったからである。同時に、DTは、特別株主総会の開催日を4月24日に延期した。
 DTが提示した修正条件は、次の諸点であり、両社統合の枠組み自体への変更はない(注4)。


参考:DT、T-Mobile、MetroPCS各社の2012年業績等(注5)

 2012年次に大きな欠損を計上したDT

 

表1 2012/2011年におけるDTの収入、利益(単位:100万ユーロ)

項目

2012年

2011年

2012/2-11増減比

総収入

58,169

58,653

-0.8%

国内収入   

25,775

26,361

-2.2%

国際収入   

32,394

32,292

+0.3%

EBITA

18,147

20,022

-9,4%

純利益(実績)

-6,255

557

*-6,012

純利益(調整後)

2,529

2,851

-11,3%

*は、比率ではなく、2012実績と2011実績との差を示したもののである。
表1に示すとおり、DTの売り上げ減少は、2009年以来、持続している。また、2012年次は、62,55億ドルという大きな純損失を出した。後述するとおり、この損失のほとんどは、同社100%子会社のT-Mobile USAの経営不振による赤字増大に起因する。

表2 2012年におけるDT事業部門別収入等(単位:100万ユーロ)

項目

収入

EBITDA

従業員数

ドイツ

22,736(-2.0%)

8,736(-1.4%)

68,653(-2.7%)

欧州

14,408(-4,7%)

4,717(-5.6%)

30,184(+12.6%)

米国

15,371(+3.8%)

-7,547(-710)

30,184(-12.6%)

システムズ・ソリューション

10,016(+0.6%)

*110(23)

52,742(+1.0%)

本部

2,978(-0.0%)

-1,506(-5.8%)

22,808(-0.7%)

(EBITAは、Earnings Before Interest,Taxes, Depriciation and Amortizationの略称であって、文字通り税金、減価償却、債権償却前の利益を指す)。

 表2は、DT部門別収入、利益の状況を見たものであるが、この表をもってしても、DTの成長分野はほとんどなく、継続的な収入減に直面して効果的な施策が打てなかったことを示している。

 DTの大幅欠損の主原因となったT-Mobile USAの欠損

 表3 T-Mobile USAの2012/2011年の収支状況(単位:100万ドル)

項目

2012年通年

2011年通年

増減比率

収入

19,719

20,618

-4.4%

営業利益

-6,397

-4,279

*-2,118

純利益

-7,336

-4,718

*-2.618

(*は、比率ではなく、利益減少分の絶対値である。)

 

 表3で見ると、T-Mobile USAは、すでに、2011年次から大幅な営業赤字を出していたのである。この赤字額は、2012年次に至ってさらに拡大している。
 その原因は、(1)大手3社(Verizon Wireless、AT&T Mobile、Sprint/Nextel)に比し、加入者数において半ばに達しない規模しか有しないため、規模の経済において大きなハンディキャップを有していたこと。(2)競争に当たっての必須条件であるLTEネットワークへの切り替えが遅れ、さらに、米国モーバイル業界における最大の販売商品、iPhoneの販売権取得ができなかったこと。(3)2011年末、FCCにより、ほぼ、確実とみられていたAT&Tへの合併が拒否され、これにより同社加入者の流出が絶えないことなどが挙げられる。

 

 表4 2012/2011年におけるT-Mobile USA加入者数(単位:100万)

項目

2012

2011

増減率

Tブランド加入者数

26,119

27,186

-4%

契約加入者数

20,293

22,367

-9%

プリペイド加入者数

5,826

4,819

+21%

卸加入者数

7,210

5,979

+12%

33,389

33,185

+1%


 

 T-Mobile USAは、表4により、加入者数の総計が増加したことをもって、同社の将来展望が暗くない証明だとしているが、内訳を検討していくと、その分析が正しくないことが、ただちに判る。
 増大しているのは、APRU(加入者一人当たり月額収入)が低いプリペイド加入者、卸加入者であって、本体、事業の中核となるべき契約加入者数は9%も減少している。
 T-Mobile USAは、安価な料金を求めて、同社を利用しようとするプリペイド加入者を頼りにしなければならないのであるが、ARPUが契約加入者に比し、半分程度(2012年における契約加入者、プリペイド加入者のARPUは、それぞれ、55.47ドル、27.69ドル)に過ぎない。


業績がT-Mobile USAより良好なMetroPCS

 MetroPCSは、テキサス州、ダラスに本拠を置く米国第5位の携帯電話事業者であって、2012年末現在、約890万の加入者を有している。同社の加入者は、すべて無契約(プリペイド)加入者であって、サービスエリアは、米国全土。2.9億の人口をカバーしている。
 表5に示す通り、2012年には前年2011年を上回る収入、利益を上げている。

 

表5 2012/2011年におけるMetroPCSの収入、利益(単位:100万ドル)

項目

2012

2011

増減率

収入

5,101

4,847

+5%

EBITDA

1,512

1,332

+14%

純利益

824

746

+10%


 ただし、加入者数は、2011年末の約935万から2012年末の約880万へと55万(5%減)へと減少傾向を辿っている。この加入者数減少の傾向が、同社の利益が比較的良好であるにもかかわらず、企業イメージが高いドイツの大通信事業者DTの傘下に加わろうと決意させた大きな理由であったのであろう。



(注1)2012年10月3日付け、DTのプレスレリース、"T-Mobile USA and MetroPCS to combine, creating value leader in US wireless marketplace."
(注2)2013年3月12日付け、http://www.engadget.com、"FCC approves T-Mobile-MetroPCS deal, deems the merger will serve the public interest."
(注3)多くのネット記事があるが、すぐれたものとして、2013年4月1日付け、http://Mobile.bloomberg.com/news、”T-Mobile’s MetroPCS Merger Opponents Gaining Traction."
(注4)2013年4月11日付け、http://www.pressreleasepoint.com/、"Deutsche Telekom submits best and final offer to MetroPCS."
(注5)DT、T-Mobile USA、MetroPCS3社による以下の2012年通期の決算報告によった。
2013年2月28日付け、DTのプレスレリース、”Deutsche Telekom achieves financial targets for 2012."
同日付け、T-Mobileのプレスレリース、”T-Mobile USA Reports Fourth Quarter 2012 Financial Results."
2013年2月26日付け、MetroPCSのプレスレリース、”MetroPCS Reports Fourth Quarter and Year End Results."



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