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DRI テレコムウォッチャー


  Comcast、GEからNBC Universalを完全取得
2013年4月1日号

 Comcastは、2013年2月、GEから同社との合弁会社、NBC Universalを完全取得することで合意した。これにより、Comcastは、名実ともに、ケーブルテレビ、市内・長距離通話、高速インターネット、放送、映画、テーマパーク等、メディア、通信、娯楽分野のサービスを総合的に提供する大企業へと飛躍する。
 Comcastが、ゆくゆくはNBC Universalを統合するであろうことは、2009年12月の同社とGEとの最初の合意締結の時点から推測されたことであった(注1)。しかし、予測された期限を前倒ししての今回の大型M&Aは、環境が有利に働いた幾つかの点はあるにせよ、基本的には、同社の事業運営が卓抜であって継続的に業績が成長しており、総額167億ドルの巨額の投資をなし得るに足る実力を備えていたからである。
 同時にComcastは、Rockefeller Plazaに位置し、GEビルとして米国市民に親しまれてきたComcast Universal本社ビルも買収する。早晩、このビルには“GE”に代って“Comcast”のネオンサインがニューヨーク中心部の夜空を照らすこととなろう。1964年に数千のケーブルテレビ加入者の零細企業からスタートしたComcastの会長兼CEO、Brian Roberts氏は、M&A合意当日の2月12日、声明のなかで、”本日は、当社にとって、素晴らしい日である。”との感慨を漏らした。創業者Ralph Roberts氏(Comcast名誉会長、90才を超えて、なお、健在の模様)を含め親子2代の経営者が成し遂げた快挙であった。
 ただし、Comcastは、消費者の利益を無視する企業だとの批判も受けている。本稿では触れなかったものの、同社とFCCとの、ここ数年来の密接な関係は並々ならぬものがあり、FCCも含め規制機関への同社のロビイング活動も、ますます大掛かりなものになっているとの噂もある。さらに、Comcast -実は、Comcastだけでなく、MSO(大手ケーブル会社)すべてについて言えることであるが- が、同社営業エリアの多くにおいて、独占企業として、コスト+αのレベルに料金を設定できる総括原価主義を利用し、継続的にテレビ料金を値上してきている。これが、同社の収入、利益を押し上げている点も指摘しておかねばならない。
 本文では、今回のComcast、GEの合意、その背景、さらに、この合意をもたらしたComcastの良好な業績(2012年通期決算)を紹介する。


Comcast、GE双方にとって満足な取引 ― Comcastは好調な業績を背景にNBC Universalを完全取得

ComcastのNBC Universal100%株式取得の条件(注2)
 2013年2月12日、Comcastは、GEがNBC Universalに有する49%の株式をすべて買収し、同社の完全親会社になることで、GEと合意したと発表した。合意内容の骨子は次のとおり。

 

   
・   

買収金額は167億ドル。さらにComcastは、Rockefeller PlazaにあるGE所有のNBC Universal本社ビル及び、ニュージャージー州にあるCNBCのビルを14億ドルで買い取る。

・ 

上記費用のうち114億ドルは、Comcastの現金、40億ドルは、Comcast子会社によるGEあての小切手、20億ドルは、Comcast及びComcast子会社の銀行からの借金、7.25億ドルは、GEに対する優先株発行によりまかなう。

 

 

Comcastの会長兼CEO、Brian L Roberts氏の声明(注3)
 “期日を大きく前倒し、NBC Universalの買収を達成した本日は、Comcastにとって、胸をわくわくさせる日である。過去2年間、GEのマネージメント・チームは、素晴らしいパートナーであって、このチ-ムから、われわれは、貴重な支援を受けた。われわれが、NBC Universalの完全取得に駆り立てられた原動力といえば、同社の将来展望を楽観的にとらえたからである。また、われわれは、将来の顧客に対し、付加価値を創造したいと望んでいる。“  

ComcastによるNBC Universalの早期完全取得を可能にした背景
 2009年12月初旬、ComcastがGEと締結した両者間の合意では、GEは、社所有の株式49%を新合弁会社(すなわち、NBC Universal)設立後、3年半後に売却することができるとされていた。では、この期日を前倒ししてConcastがNBC Universalの完全取得を成し遂げることができたのはなぜであろうか。その背景としては、次の3点が挙げられよう。
 第1は、Comcastの業績が予想した以上に好調であって、巨額の買収金額のうち、かなりの部分(本社ビル費用をも含む180億ドルのうち114億ドル、63.3%)を準備できたからである。Comcastの業績が、いかにすぐれたものであるかは次項で詳しく紹介するが、ここでは、2012年次決算におけるComcastとAT&T、Verizonの数値を比較しておく。  

 

表 2012年通期におけるComcast、AT&T、Verizonの決算数値比較 (単位:100万ドル)

項目

Comcast

AT&T

Verizon

収入

62,570(+12,1%)

115,846(+4.5%)

127,434(+4,55)

営業利益

12,179(13.6%)

13,160(+2.2%)

12,997(+41,0)

純利益

7,798(+1,6%)

*1 1,660(-28.5)

7,539(+80.2%)

純利益率

12,3%

*2 0.6%(-4.2%)

5.9%(+90.3%)

1.括弧内数値は、2011年通期に対する増減比である。
2.*1、*2の括弧内数値は、実数。

 上表において、収入でAT&T、Verizonにはるかに及ばないComcastの純利益額が、両社を抜いており、この純利益の蓄積による高い内部留保により、待望のNBC Universal買収が可能になったのであった。
 第2に、Comcastにとって幸せなことに、同社と共同で、NBC Universalを経営してきたGEが、ここ3年余りの期間の間にNBC Universeの経営権(51%の株式所有)を持つComcastの経営手法に違和感を感じるようになり、利益を上げているこの合弁会社の持ち分をComcastに譲渡し、収益を他の投資分野に振り向けた方が、有益であろうと考え始めたことである。こうして、1926年の放送事業の幕開き時代以来、3大放送事業の雄として名声を保ってきた伝統あるNBCを含むNBC Universalが、今回、終に、Comcastに、譲渡するに至ったのである。
 第3に、現在、米国経済には、再び好況の波が戻っており、しかも、世界的な金融緩和の状況の下で金利は低く、M&Aの実施は低利子の資金を銀行から融資して実行できる。こうした状況の下に、様々な業種において、大型のM&Aが実施されている。特に、ケーブルテレビ業界は、世界的に、この業界が提供する高速インターネットの価値が次第に評価されており、大手ケーブル企業をめぐるM&Aの動きは、活発化を加えている。ComcastによるNBC Universal完全買収の動きは、この大きな流れに竿さして行われたともいえよう(注4)。
 たとえば、米国に本拠を置き世界各国で数多くのケーブルテレビネットワークを有するLiberty Globalは、すでに、2013年2月3日、英国最大のケーブルテレビ会社、Virgin Mediaを240億ドルで取得することで合意した。また、米国大手ケーブル会社のCharter Communicationsも、ケーブルテレビ会社、Optimum Westを16.3億ドルで取得することに合意している。さらに、世界有数の携帯電話会社、Vodafoneは、ドイツ最大のケーブルテレビ会社、Kabel Deutschlandから、同社買収の示唆を受け、目下、この案件を検討中であるという。  


Comcastの2012/2011年通年の収入 ― ほとんど、すべての部門が増収(注5)

ケーブルコミュニケーション ― 多角化部門が大きく成長
 

 

表1 2012/2011年通期におけるComcastケーブルコミュニケーション部門の加入者数 (単位:1,000)

項目

2012年通年

2011年通年

2012/2011増減比

ビデオ

21,995

22,331

-0,16%

高速インターネット

19,367

18,144

+6,7%

市内・長距離通話サービス

9,955

9,342

+6,6%

51,317

49.817

+3,0%


 まず、NBC Universalの経営支配権を取得する以前のComcastの本来業務の加入者数の動きを見てみよう。表1に示す通り、Comcastの基幹事業であるビデオ(ケーブルテレビ)を除き、ケーブル回線を使って新たに進出したインターネット、市内・長距離サービスの両部門は堅実に加入者数を増やしている。そして、Comcastは、高速インターネットサービス(第2位)、市内・長距離サービス(第2位)のそれぞれにおいて、米国有数の加入者数を誇っている。
 本来のビデオ事業において、Comcastは、2011年から2012年に掛けて、相当数の加入者数を減らし、ジャーナリズムは、一斉に、ケーブルテレビ業界でも、AT&T、Verizonの場合と同様に、“Off The Cord”(加入者がコードを引きぬいて、携帯電話加入者等に移ること)の減少が起きだしたのではないかと報道した。しかし、上表からすると、2012年通期の加入者減は、きわめて微小に留まっている。  

収入ベースでは、さらに成長率が高いケーブルコミュニケーションの各サービス
 

 

表2 2012/2011年におけるComcast ケーブルコミュニケーションのサービス別収入 (単位:100万ドル)

項目

2012年通年

2011年通年

増減比

ビデオ

20,112

19,625

+2,5%

高速インターネット

9,544

8,743

+9,2%

市内・長距離通話サービス

3,557

3,503

+1,5%

ビジネス・サービス

2,404

1.792

+34,2%

広告

2,005

2,287

-12.4%

その他

1,700

1,559

+9,1%

39,604

37.226

+6.4%


 表2では、個々の項目の説明は省き、ケーブルコミュニケーションの収入の総体が、2012年通期において6,4%増と、表1の加入者数増3,0%に比し、倍増している点だけについて、触れる。
 その大きな原因は、全収入の半数超の収入を占めるケーブルコミュニケーションが、加入者数において1.5%の減少を示しているのにもかかわらず、収入では2,5%増大していることが大きく影響している。
 これは、Comcastのビデオサービスが、なお、相当多くの地域において、独占の地位にあり、恒常的に料金値上げを認められている点が影響している。  

NBC Universal - 収入の伸び、ケーブルコミュニケーションを超える
 

 

表3 2012/2011年におけるNBC Universalの部門別年間収入 (単位:100万ドル)

項目

2012年通年

2011年通年

増減比

*ケーグルネットワーク

8,773

8,496

+3.3%

テレビ放送(NBC)

8,154

6,399

+27,45

映画

5,159

4,592

+12,4%

テーマパーク

2,085

1,989

+4,8%

本社収入等

-359

-352

-2,1%

23,812

21,124

+12,7%

*ケーブルネットワークという名称は、誤解を招きやすいが、ここでは、NBC Universalが個別に料金を付して販売するビデオサービス(ニュースとか、歴史とか、娯楽とかの専門分野のテレビを24時間放映するのが通常)を意味する。同社は、この種のビデオサービスを多数有している。

 表3において、テレビ放送(NBC)が特に収入を大きく伸ばしている。これは、2012年に、スーパーボール(4年に一回行われるアメリカンフットボール)の放映、ロンドンオリンピックの放映により得た大きな臨時収入によるものである。しかし、この要因を抜きにしても、NBC Universalは、2012年、その他のすべての部門において、前年を上回る強い成長を示している。



(注1)DRIテレコムウォッチャー、2010年1月1日号、「Comcast、NBC Universal経営権の取得でGEと合意 ― Videoの配送とコンテンツ支配の一元化を図る」。
(注2)2013年2月12日付け、Comcastプレスレリース、"Comcast to acquire GEs 49% common equity ownership interest in NBC Universal."
(注3)Financial Times、2013.2.16、"Primetime arrives in saga of TV takeover."
(注4)http://mediadecorder.blogs.nytimes,com/2013/02/12、"Comcast Buys Rest of NBC in Early Sale."
(注5)2013.2.12日付け、Comcastのプレスレリース、"Comcast Reports 4TH Quarter And Year End 2012 Results."



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