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DRI テレコムウォッチャー


  挫折したGenachowski FCC委員長のメディア相互持合い規則の改定
:FCC委員長後任者論議高まる

2013年3月15日号

 FCC委員長のGenachowski氏は、2013年2月26日声明を発表し、審理中のメディアにおける株式の相互持合いの規則改正案件について、まずMMTC(Minority Media and Telecommunications Council)の調査に委ね、FCCの票決はその後にする旨を明らかにした。しかも、MMTCの調査結果を受け取ったのち、公衆の意見も聴取するという(注1)。
 2012年1月に調査告示を発出して以来、FCC委員相互間で、この案件については、多大の時間を掛けた論議が行われた。特に、2012年11月初めに、Genachowski氏の草案が委員相互間に回覧されて以来の論議は激しかったはずである。
 その内容は公表されていないが、本文中で紹介したMignon Clyburn (民主)、McDowell氏の声明内容が、それぞれ他の民主党、共和党FCC委員(Jessica Rosenworcel(民主)、Agit Veradaraj Pai(共和)と共有されていることは、間違いない。
 してみると、Genachowski委員長は、(1)MMTCにFCC草案がマイノリティーの人々のTV局、放送局の株式所有にどのような影響をもたらすかの調査を依頼した後、しかも、公衆からの意見を聴取して票決を行うべきであるとする民主党委員の意見(2)規制はすべて不要であるとの共和党委員の意見のいずれとも異なる持論に固執したが、結局、4人の委員のいずれからも、賛同を得られなかったということになる。
 方針変更した結果、民主党委員2名の意見に従い、MMTCの調査の受け入れに応じたわけであるが、よくも、1年近くもの期間を空費したものである。

 この案件に関し、メディアの多様性、なかんずく、消費者団体等マイノリティーのTV、放送局の表現の自由保護を目的とする団体からの批判は、強烈であった。たまたま、米国では、その評判が芳しくないメデイア王、Rupert Murdock氏が地方の大手新聞社2社の取得に熱意を示しているという記事が米国ジャーナリズムに大きく喧伝された時期と重なった。Genachowski氏のメディア修正規則は、これまで認められていなかった、同一エリア内において、TV配信、新聞発行の双方を行うことの禁止を解禁する内容が含まれていたことも、Genachowski委員長には、不幸なことであった。たちまち、同氏は、Murdock氏からの依頼を受けて、上記の条文を草案に盛り込んだかのではないかとの疑惑記事が、2012年12月、新聞、ネット紙で大々的に流された。
 上記のような状況から、仮にMMTCが予定した通り調査報告書を数週間後に提出しても、Genachowski委員長が、変更した方針に沿って草案の書き換えを行ない、FCC委員長としての裁断が下せるものなのかどうかについては、疑問が持たれる。
 こうして、ジャーナリズムの関心は、今や、Genachowski氏の早期退任は当然のこととして、誰が後任FCC委員長に就任するのかに移っている。


MTCに調査を付託するに際してのFCC委員長ほか2名のFCC委員の声明(注2)

Genachowski委員長の声明
 昨日、MMTCから、FCC審議に当たっての記録性を高める目的で、メディアの相互株式持合い(Media Cross Ownership)規則がマイノリティー(少数民族、婦人)およびニュースの収集に及ぼす影響について焦点を絞り、かつ、独立した調査を行う旨の通知を受けた。この調査は、今後、数週間かかる見通しであり、その後、FCCは公衆の意見を徴し、FCC委員の投票に付するべきだとの示唆をしてくれている。訴訟が多く強力な記録が重要となるこの分野において、このアプローチは、本案件の審議で提起された問題を前進させ、また、解決するに当たり、当を得たものと考える。
 この案件を考えるに当たり、次の目標がきわめて肝要である。
 つまり、メディアの過度の集中を防ぎ、株式所有の多様性を促進し、すべてのコミュニティーにおける強靭なローカルニュースの提供が可能になるようにし、さらに、経済成長と機会を促すことである。同時に、ブロードバンドの利用は増大しているものの、1,000万人もの米国人は、まだ、インターネット上のニュース、その他のコンテンツにアクセスできていない。株式相互持合い規則の改定は、インターネットにアクセスできる者とできない者とに、異なった影響をもたらしかねない。
 上記の諸点を念頭に置いて、私は、先般、メディア株式相互所有規則の修正案をFCC委員諸氏の検討に付した。この修正案の主要点は、次の通りであった。

(1) 

放送局の株式相互持合いに関する規則は、現行のままとする。いずれの市場においても、共同所有できるTV局、放送局の数を制限すること、主要放送ネットワークの複数所有の禁止等。

(2) 

多様性の提供。小企業への放送サービス提供の機会の促進、次回の規則見直しの機会に、マイノリティーへの株式所有を促進する機会が与えられるべきか否かの調査を行う可能性の検討等。

(3) 

テレビと新聞の株式共同所有は、従来通り禁止。ただし、主要テレビ局と新聞の相互間の株式持ち合いの禁止は強めるが、上位20社の規模がより小さい株式持ち合いの制限を緩和する方向での特認を認める。

(4) 

放送局と新聞社との間の株式の相互持合いを緩和する。


 草案の回覧により、FCC委員、利害関係者相互間でこの案件の本質およびFCCが有する記録の状況について、建設的な議論がなされた。MMTCの調査により、審理の記録性が高められ、FCCは、この案件解決について、助けを受けることとなろう。

McDowell委員(共和)の声明
 私は、現行の記録だけで、新聞/放送/ラジオ/テレビの株式相互持ち合いについての旧弊な規則の撤廃を正当化できるものと固く信じている。しかし、他方、MMTCの調査、さらには、公衆からの意見聴取という慎重な手続きによる進行にも、敬意を表するものである。FCCの見直しは、迅速、健全なものでなくてはならない。議会は、競争が存在することによって、株式相互持合いの規則が不要になれば、ただちにこれを廃止するよう、要請しているからである(筆者注:通信法202条(8h)の解釈による。最近、議会が、この件について行動をおこしたということではない)。したがって、この案件審理の遅延は、今回限りにしてほしい。私は、本年夏までには、この件をFCC委員の投票に付したいと考える。  

Mignon L Clyburn 委員(民主)の声明
 将来、メデイアの統合の増大から生じうる損害に照明を当てる調査をMMTCが行うことに賛同する。FCCは、米国のメディアの変化を見据えながら、前向きの裁定を行うのに必要なデータを必要としている。私は、この調査が行わること、および、その成果を待ち望んでいる。  


Genachowski委員長の修正規則案の票決を延期させたもの ー 噂されたメディア王Murdock氏とFCC委員長の関係

 前項に示したFCC委員長の声明を読むと、一見、理にかなっているかのように見えるのであるが、修正案内容の(3)、(4)が強い批判を受けている。(3)「放送局と新聞社との間の株式相互持合いの禁止」の条項については、消費者団体等マイノリティー(黒人、女性等)のメディアからの発言を重視する利害関係者強く反発している。
 今回のFCC修正案に対し、もっとも激しい批判を展開している非営利機関、Free Pressのプレスレリースによれば、(1)女性は、米国人口の51%を占めているのに、TV、放送局の株式所有率は、わずか、7%。また、有色人種の人々は、人口の36%を占めているのにもかかわらず、ラジオ、TVのライセンスを所有している人の比率は7%強である(注2)。(3)が効力を発すれば、今後、女性、有色民族の主張を代弁するTV、ラジオ局はなくなってしまうだろうという。
 さらに、疑惑を招いたのは、第4項「テレビと新聞の株式の相互持合い」の項である。この項では、特認において、米国トップ20市場において、主要テレビ局が新聞を買収することを認めている。この条文により、なおも、メデイア部門における支配の強大化を推進しようとするメディア王、Rupert Murdock氏のもくろみを可能にするとされるのである。
 Bloombergのネット記事は、この件について、詳細に背景を説明している。(注3)。この記事によれば、同氏はかねがね、メディア会社、Tribune Coが所有している米国第2、第3位の日刊新聞社、Los Angeles Times(米国第2位)、Chicago Tribune(米国第3位)の取得に、触手を伸ばしていたが、FCCによるメディア間の株式相互持合い規制のため実現できなかった。今回のFCC草案が実施に移されれば、この実現の可能性が高まると論じている。さらに、この記事に引用されたFree Press(最近のFCC政策にもっとも批判的な人権保護団体)の会長、Craig Aaron氏は、”FCCは、Murdock氏のために、この改正案を起草したのだ“と断定している。


今やたけなわのジャーナリズムによるGenachowski氏パッシング

 2008年12月、ブッシュ政権の下で、共和党FCC委員長として辣腕を振るったMartin氏が、陰湿な形で、早期辞任を迫られた事実が想起される(注4)。同氏は、2009年1月にスタートするオバマ民主党政権が、共和党FCC委員長であるMartin氏が2009年3月の任期満了まで残留しては困るというだけのことで、同氏の委員長としての資質に問題があるという報告書を民主党議員が多数を占める下院の商務・通信委員会に作成させ、同氏を早期辞任に追い込んだのであった。しかも、その理由たるや、Martins氏は傲慢不遜、下僚につらく当たるというだけの理由であった。いわばパワハラを問題にされたのであるが辞任しなけれならないレベルのものでは、決してなかった。
 筆者がこの記事を書いているこの時点で、Genachowski氏の後任者を論じる記事が、数多く出ている。これは、自ら辞めようとしないFCC委員長を2013年6月30日の同氏任期満了以前に、退陣に追い込むジャーナリズムによるパッシングである。しかも、底流にあるのは、明らかに、同氏の動揺し不安定な意思決定、民主党委員長として考えられない企業寄りのスタンス、部下の掌握ができないための業務遂行の遅れ等々である。ジャーナリズムの攻撃には、正当性がより強い。
 Genachowski氏候補者の下馬評も多いがそのほとんどが、同様のものである点から、これら氏名は、米国政府筋から、直接流れだしているもののようである。
 ここでは、ワシントンに本拠を置き、米国政府筋の情報に強い点では中央政治、行政についての情報収集については定評があるワシントン・ポストが発表したGenachowski委員の候補者名を紹介しておく(注5)。なお、同紙は、政府は他の人事案件を処理するのに忙しく、Genachowski氏後任者の決定は、順位が低いと論じ、Genachowski氏の早期辞任には、慎重なスタンスを取っている。なお、以下の候補者名簿で、4人中3名までが女性である点は、注目される。実は初の女性FCC委員長を求める動きも強くあり、この動きが実現する可能性もあるとみられる。

次期FCC委員長候補者

Blair Levin;

オバマ大統領の元アドバイザー

Karen Komblue:

OECD米国大使

Mignon Clyburn:

FCC委員(民主党)

Jessica Rosenworth:

FCC委員(民主)



(注1)FCC委員長が不人気であって、早期辞任が噂されている点については、DRIテレコムウォッチャー、2013年2月1日号、「Genachowski FCC委員長辞任、ほぼ確定」。
(注2)2013年2月26日付けの次のFCCプレスレリース。
・ Statement From FCC Chairman Julius Genachowski on the status of Media Ownership Proceedings
・ Statement of FCC Commissioner Robert M. Mc Donell on the Minority Media And Telecommunications Council Media Cross-ownership Study Proposal
・ Statement of FCC Commissioner Mignon L. Clyburn on Media Ownership Study Proposed by MMTC.
(注3)2013年2月5日付け、http://www.bloomberg.com、”Murdock Coveting Papers Must Wait as Rift Stalls Media Rules.”
(注4)DRIテレコムウォッチャー、2009年1月1日号、「FCCから石もて追われ行くMartin委員長」
(注5)2013年2月25日付け、http://www.washingtonpost.com,”FCC chair Genachowski looks to stay out”



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