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DRI テレコムウォッチャー


  AT&T、Verizonの2012年次決算:ITサービス成長の波に乗り好調

2013年2月15日号

 AT&T、Verizonは、それぞれ、2013年の1月24日、1月22日に、2012年通期および2012年第4四半期の決算を発表した。
 実際のところ、決算数値自体は、さほど目覚しいものとも思えないが、決算発表の際の両社CEOのコメントは、例年になく高揚したものであり、自信に満ち溢れている点が注目される。
 AT&TのCEO兼会長、Randall Stevenson氏は、“2012年は素晴らしい年だった。収入は伸び、1株当たり利益は、実質8.5%増えた。営業活動からのキャッシュフローは記録的な水準に達した。また、配当、株式買戻しにより、株主には230億ドルの利益を還元した。当社の成長業務 ― モーバイルデータ、U-verse、ワイヤラインのビジネス戦略的部門(クラウド、企業用ブロードバンド等)には弾みが付いている。今後、当社の高度成長部門のプラットフォームは、幾百万もの加入者を追加していくだろう”と述べた。
 Verizonの会長兼CEOのLowell MacAdams氏は、“第4四半期は、成長の機会を捉え、全分野にわたるビジネスにおいて堅実な進展を成し遂げ、2012年を締めくくった期間であった。当社は、株主に43.2%の見返りを提供した。2013年、この弾みをさらに加速し、株主に対する価値を高める準備は、充分にできている”と述べている。

 今回、参考資料に決算の主要数値を掲載するに留め、AT&T、Verizon両社の財務の分析は省略させて頂いた。ただ、さほどの収入増、利益増を達成したのでもないのに、両社のトップが同一基調の強気声明を出したのは、本文で紹介するように、スマホ、タブレット等新型モーバイル端末が記録的な売行きを示し、さらに、将来もITが経済、社会の隅々に至るまで浸透し、巨大な重要を引き続き生み出していく大きな流れ(いわゆるIT革命)の中で、基本インフラのネットワークおよび接続機器を提供する枢要企業として、相応の利益を獲得して行けるとの確信を抱いたことによるものであろう。
 周知のとおり、AT&T、Verizon両社がスマホの主要製品として販売しているiPhoneは、Appleからの買取り価格が非常に高く、両社は、契約時にコスト割れの価格で提供するiPhoneの赤字を以降の契約期間(通常3年)で回収することになる。幸い、2012年の夏から秋に掛けて、導入できることになった従量制料金によって、コスト回収は、問題なく行える展望が開かれたわけである。
 つまり、iPhone販売プロジェクトにおいては、AT&T、Verizonは先行投資をしているのであって、その見返りが、本年も、また来年にも期待できる。したがって、加入者数の純増は、先細りになっているにもかかわらず、両社のモーバイル部門における収益見通しは明るいこととなる。
 
 本文では、AT&T、Verizonが、激しい競争環境の下で、AT&Tはワイアライン部門で、また、Verizonはモーバイル部門で、それぞれ有利に立っている状況を紹介した。ただ、総体的に言えば、事業の焦点をブロードバンドとモーバイルに傾注したVerizonの方が、ここ当分の期間、AT&Tより優れた業績を上げていくものと推測される。株価において、両社間に9ポイントもの差が生じているのは、そのためであろう(注1)。


Verizon、スマホ販売数・加入者獲得数でAT&Tに圧勝(注2)

 2007年7月Apple社のiPhoneが市場に出て以来、AT&Tは当初、米国におけるiPhoneの排他的販売企業として、スマホの販売で競争者Verizonに差を付けてきた。しかしVerizonは、2011年に、待望のiPhone販売権を獲得して以来、着実にAT&Tとの差を縮めた。
 2012年後半に入ると、Verizonは、iPhone販売数での格差を縮めたばかりでなく、スマホ販売数、スマホ加入者獲得数において、大きくAT&Tをリードした。
 

表1 2012 4Q、3QにおけるAT&T、Verizonのスマホ販売数(単位:10,000)
項目VerizonAT&T
期間2012 4Q2012 3Q2012 4Q2012 3Q
iPhone680(+119%)310860(+83.0%)470
他のスマホ300(-19%)370160(+14.3%)140
980(+44.1%)6801,020(+25.9%)810
(表中、2012 4Qにおける括弧内の数値は、2012 3Q対比の増減率である。)

 表1から、次の点が明らかとなる。
 Verizonは、2012 3Qまで、スマホ販売数において、かなりAT&Tに水をあけられていたのであるが、2012 4Qには、激しくAT&Tを追い上げた。すなわち、スマホの販売数において、AT&Tの1020万台に対し、980万台と肉薄した。特に、iPhoneでは前期に比し、倍以上の伸びを示し、iPhone販売後発の遅れを取り返すのに、成功した。
 表2は、Verizon、AT&T両社のスマホ加入者数等を比較したものであるが、この表によれば、スマホ販売においてのVerizonの優位性が一層際立つ。
 

表2 Verizon、AT&Tの携帯・スマホ加入者数等(単位:1000)
項目VerizonAT&T
ポストペイド加入者数増分(2012年4Q)2,100(+74.0%)780(+8.8%)
モーバイル端末加入者数(2012年末)98,230(+6.6%)106,957(+6.6%)
1、ポストペイド加入者には、スマホ加入者のほか、その他一般のモーバイル端末加入者が含まれている。
2、括弧内の数値は、前年同期に対する増減比率である。
3、さらに詳しくは、本稿末尾の参考資料表3を参照されたい。

 Verizonは、モーバイル部門の中核をなすポストペイド加入者数増(210万)において、AT&T(78万)の約3倍の成長を示し、過去最高の成果を誇示した。この結果、2012年末のモーバイル加入者総数においても、今回1億加入者数を越えたAT&Tに肉薄している。この勢いが持続すれば、ポストペイド加入者数において、Verizonが2013年中にAT&Tに追いつく可能性は高い。
 VerizonのAT&Tに対する勝利の要因は、主として次の3点が数えられる。第1に、VerizonがLTEネットワーク(4Gネット)をほぼ敷設しおわったことである。同社のLTEネットワークは、2013年初頭現在、米国476の市場において、人口2億7300万(総人口の89%)をカバーしている。2013年半ばには、3Gネットワークのすべてのエリアをカバーするようになると見られる。これに対し、AT&TのLTEがカバーする人口は、1億7000万に過ぎない。
 第2は、従来から定評がある他事業者に比してのサービス品質の高さである。同社は、常に、米国携帯事業者のなかでトップの評価を受けてきた。これに対しAT&Tは、しばしば、評価は最下位の付近を低迷している。
 最後に、Verizonの事業革新に当たっての意欲、行動性が挙げられる。たとえば、モーバイルブロードバンドサービスへの従量制の導入は、その好例である。同社は、AT&Tに先駆けて、2012年7月からこれを導入し、数ヶ月遅れでAT&Tが後を追った。Verizon、AT&Tともに、新料金制の効果について多くを語らないが、モーバイル市場の加入者面でのサチュレーションが進行している折から、両社共に念願していた料金改訂の実現が財務基盤の確立に重要な役割を果たしたことは疑いない。


ワイアライン部門では、Verizonより優位に立つAT&T

 参考資料表4で見るとおり、AT&T、Verizonは共にワイアラインの2012年収入が減収である。これは、成長分野であるはずのブロードバンド部門の増収分をもってしても、PSTN(公衆交換網)縮小による減少を食い止めるに至っていないことを示す。
 もっとも、Verizonの場合、ワイアレス部門は、営業利益が僅少に留まり、純利益のべースからすると赤字に転落していることがほぼ確実である。これに対しAT&Tは、ともかく最小限の利益率は確保しており、この部門自体の独立採算が保たれている。
 表5で見ると、AT&T、Verizonともに、DSLが過渡的技術として減少が著しいのは当然として、ワイアレスブロードバンドの本命である光ファイバー(AT&T:U-verse、Verozon:FiOS Internet)の加入者数の伸びは、この減少分をカバーする程度に留まり、ブロードバンド加入者数の伸び率はきわめて低い。つまり、2012年次、AT&T、Verizonの光ファイバーの成長は、たかだかDSLの代替が主であったとすら言いうるのであって、あいも変わらず、MSO(大手ケーブル会社)のケーブルによるブロードバンドに遅れを取っている。たとえば、Comcastに次ぐ第2位のMSO、Time Warner Cableの2012年末の高速ブロードバンドの加入者数は1073万である。数字を発表していないComcastの加入者数は1500 万を超えているのではあるまいか。高速固定ブロードバンドの主導権は、AT&T、Veizonではなく、MSO側が握っている。  


参考資料:AT&T、Verizon両社の2012年次決算資料数値比較(注3)

 

表1 2012年通期におけるAT&T、Verizon総体の決算数値比較(単位:100万ドル)
項目VerizonAT&T
収入127,434(+0.6%)115,846(+4.5%)
営業利益12,997(+41.0%)13,160(+2.2%)
純利益7,539(+80.2%)*1 660(-28.5)
純利益率5,9%(+190,3%)*2 0.6%(-4.2%)
1、括弧内の数値は、2011年通期に対する増減比である。表2以降の諸表についても同じ。
2、*1、*2の括弧内数値は、実数値。

表2 2012年通期におけるAT&T、Verizonワイアレス部門の決算数値比較(単位:100万ドル)
項目VerizonAT&T
収入66,763(+5.6%)75.868(+8.1%)
営業利益15,594(+16.3%)21,768(+17.5%)
営業利益率24.9%(+0.8%)28.7%(+8.7%)
(営業利益率の項の括弧内は、比率ではなく実数値)

表3 2012年通期、2012年第4四半期におけるモーバイル加入者数および加入者増数(単位:1000)
項目VerizonAT&T
2012年第4四半期加入者増数
ポストペイド加入者増数
プリペイド加入者増数
リセラーによる加入者増数
ネット接続加入者増数
調整

780(+8.8%)
*1-166(+159)
234(-60.5%)
246(-76.1%)
*2-8(+12)
1,094 (-56.2%)

2,100(+74,0%)
142(-43.7%)
2.100(+53,7%)


2,242(+53.7%)
2012年末加入者数
ポストペイド加入者数
プリペイド加入者数
リセラーによる加入者数
ネット接続加入者数

70,497(+1.7%)
7,328(+1.4%)
14,875(+9.0%)
14,257(+9.1%)
106,957(+3,6%)

92,530(+5.4%)
5,700 (+19,1)


98,230(+6.6%)
*1、*2の括弧内の数値は実数である。

表4 2012年通期におけるAT&T、Verizonワイアライン部門の決算数値比較(単位:100万ドル)
項目VerizonAT&T
収入59,567(-1.0%)39.780(-2.2%)
営業利益7,237(+1.0%)60(-93.7%)
営業利益率+12.1%(+1.7%)+0.2%(+2.4%)


表5 2012年末におけるAT&T、Verizonワイアレス部門の音声、ブロードバンド加入者数(単位:10.000)
項目VerizonAT&T
音声回線加入者数34,792(-10.8%)22,508(-6.8%)
ブロードバンド加入者数

U-verse:4.536(+19,7%)
Sattelite:1.600(-9,3%)
DSL:8.395(-3.9%)
14,531(+0.3%)
FiOS Interet:5,424(+12.6%)
高速DSL:3,371(-12.5%)

8,795(+1.4%)


(注1)2013.2.12付けのVerizon株価は44.5ドル、AT&T株価は35.6ドル。
(注2)この項の執筆は、AT&T、Verizon両社の決算資料の他、次の2種の資料によった。
(注3)決算資料のうち、本稿作成に当たっては、次のAT&T、Verizonそれぞれ2種の資料を利用した。
2012.1.24付け、AT&T資料
  • Strong Growth in wireless and U-verse Drives Revenue and Adjusted Earnings Per Share Growth in AT&T's Fourth Quarters Results
  • Investor Briefing
2012.1.22付け、Verizon資料
  • Verizon Reports Strong Revenues and Customer Growth for Verizon Wireless and FiOS Services in 4Q 2012
  • 2012 4Q Investor Quarterly



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