FCC委員長Genachowski氏は、2013年に入り持論のFCC主導によるオークション実施で所要の周波数帯を確保する必要性を力説するなど、意欲的な活動を続けている。1月初頭のIT業界の大きなイベント、CESでも、例年と異なり業界側からFCCに対する批判は見られず、FCCと業界の蜜月ぶりが際立った。
しかし、2012年末からすでに、過去約3年半のGenachowski氏の施策が失敗であり、オバマ政権は、後継者を選ぶや、すぐにでも同氏を辞任させるだろうとの観測が流れている。
本文では、代表的なGenachowski氏批判の論説2点を中心とし、米国ジャーナリズムがFCC委員長をどのように評価しているかの資料を紹介した。
長期間にわたりFCCをウオッチしてきた者の立場から、敢えて私見を述べさせて頂くと、Genachowski氏は、(1)FCC委員長の職責を誤解し、委員長として最も重要な意思決定の仕事から逃避していること(2)業界の要人との話し合いを好み、公聴会、集会においての一般市民の声を聴く機会を極力避けようとしていること(3)上記の結果、民主党FCC委員長でありながら議論の展開、結論が著しく共和党寄りであり、到底、オバマ政権から託された競争導入によるブロードバンドサービスの安価、高品質提供の負託に応じているとはいえないこと等欠陥が多すぎる。到底、2期FCC委員長を務める器量の持ち主ではない。米国の一部ジャーナリズムが推測しているように、任期満了の本年7月より、相当早期に辞任を余儀なくされると思われる。
Genachowski氏は、幾つかの重要な懸案を積み残し、現在に至っている。その最大の問題として、大手新聞社による地方放送局株式取得をどの程度認めるかの案件処理があり、現在、氏の大幅な取得条件緩和提案について、他の民主党委員から反対が提起され、委員間での結論がまとまっていない状況のようである。たとえば、この問題の処理遅延が契機となって、Genachowski氏批判が高まり、同氏の早期辞職に結びつく等の事態も考えられる。
Genachowski氏にとって、辞任に至るまでの期間は、多難なものとなろう。
FCCとIT業界、CESで蜜月振りを演出
2013年1月8日から11日に掛けて、米国ラスベガスで恒例のInternational CES(Consumer Electronic Show)が、開催された。世界最大の消費者用電器、電子商品の展示会であるこのショウは、平行して開催されるセミナー等において、IT業界、FCCの要人が見解発表、意見交換を行う場でもある。
例年、FCCとIT業界との間には、1件か2件程度は、両者間で容易に解決できない案件が提起され、場の雰囲気が乱されるような状況も見られたという。ところが、本年のCESでは、難しい問題が提起されることも、業界あるいはFCC側から、参会者を驚かせるような発言もなんら見かけられなかった。主催者側、FCCの双方は、和やかな雰囲気で終始したという(注1)。
Genachowski委員長は、CESが開催されていた期間の1月9日、FCCは、米国政府が所有している周波数帯をモーバイルインターネット分野で利用できるよう、開放すると発表した(注2)。幾つもの連邦政府機関で未使用のまま放置されている5ギガ帯の周波数を最高35%まで、輻輳に悩まされている米国主要拠点(空港、会議センター等)に提供し、高速高品質のWi-Fiネットワーク(Gigabit Wi-Fi)を構築しようというものである。手始めに、もう来月2月から、195メガヘルツ分の周波数帯の移行を行いたいとの強い意欲を示した。
Genachowski氏は、2012年にすでに、TV業界の空き周波数を業界自らの発意により提供させ、オークションによりこの周波数に価格を付け、モバイル業者に落札させた上で利用させるという方式(いわゆるincentive auction)の調査告示を發出し、2014年からの実施に向け、着々、準備を進めている。2013年に至り、委員長の視線は、細部に及び、今や、ブロードバンド実施のため不可欠な周波数を既存利用者からの徴収により、強引に調達するという方向に向かっている。
1月8日から10日の期間に、展示会と平行して開催されたInnovative Policy Summitでも、FCC、業界の話し合いは円滑であった。FCCは、将来の問題として、旧来のカパーワイア中心のPSTN(旧来のアナログの公衆通信網)を廃棄し、そのすべてをディジタルインターネット網に置き換えるプロジェクトの説明を行ったが、これはIT業界が前々から熱望していたことがらであって、好意的に受け取られた模様である。
しかし業界は、多分、ここ数ヶ月の間に辞任する可能性が強いFCC委員長に対し、いまさら、まともな注文を付けても仕方がない。これが、Genachowski氏の多分、公式の場での最後の晴れ舞台だから、本人が良い気分で過ごせるように取り計らおうとの演出であったとの見方もできよう。
きびしくGenachowski委員長を批判する一部ジャーナリズム
FCC委員長Genachowski氏が、すでに2009年7月の時点でネットニュートラリティー案件の調整に失敗したとの評価を下され、大統領官房筋から任期途中で他のポストに移されるとの確度の高い情報が流されていたことについては、すでに、2012年4月1日のテレコムウオッチャーで説明したところである(注3)。
前項で述べたとおり、2013年初頭のCESの場面ではFCCとIT業界との和やかな協調ムードがかもしだされたものの、ジャーナリズム、消費者団体筋からのGenachowski氏批判は、依然として鋭いものがある。以下、2012年12月に発表された代表的な批判2点の概要を紹介する。(注4)。
慎重過ぎて決断が鈍い調整型の委員長 ― Cecila Kang氏の批評(ワシントンポスト紙)
FCCの事情に明るいジャーナリストKang氏は、Genachowski氏のポーカの賭け方から、同氏の性格判断をする。
FCC委員長は、他のプレアーの配り札を仔細に推測し、考慮に考慮を重ねた末、判断を下す慎重なポーカ愛好者である。強気の賭けをしないが、堅実に得点を重ねていくという。
Genachowski氏は、IT業界の人々、展示会に出席する人々とは好んでよく会うが、公開の席で公衆にマイクで話しかけ、まして質疑に答えるというようなことは、好まない。
本来、折衝し、複数の関係者の利害の調整をするということには興味を感じるタイプであろう。しかし、こういう性格の委員長は、これまでのFCCの路線を踏襲するのに向いているかもしれないが、転換期に当たり、新たな規制政策を定めることが求められるという委員長として、最適だとはいえない。
FCC委員長がもっとも強い批判を受けたのは、過去幾年にもわたり論議され、ようやく2011年の秋にOpen NetworkについてのFCC規則制定という形で決着したNet Neutrality問題であった。この問題の本質は、その重要性が年々加速度的に高まっており、旧来のPSTN(公衆通信ネットワーク)以上の効力を発揮しているブロードバンドネットワークに対する規制をどうすべきかにある。民主党支持者の多くは、インターネットをインフォメーションサービスという定義を外し、通信サービスと同等(すなわち、規制強化が可能になる)とみなすべきであると強く主張した。結局、FCCは、定義問題には触れないが、FCCはインターネットを規制対象にするという妥協的な結論を下した。この結論が、FCCはインターネットの規制権限を大幅に確保しておくべきだという民主党一部委員の強い反発を受けているのである。
最後に、Kang氏は、Genachowski氏の友人で 元FCC委員長のHundt氏の“私が委員長当時の1990年代、電気通信全面自由化の流れが大きく進行したきと現在とは、状況が異なる。ブロードバンドを一人でも多くの米国民に広めようという革新的ではなく、斬新的(evolutionary)変化に対応するミッションが求められているのである”との委員長弁護論を引用している。これは、委員長に対する慰めの言葉に過ぎない。
Genachowski氏の規制政策は失敗の連続 ― Free PressのCEO、Craig Aaron氏
非営利の消費者保護団体Free PressのCEO、Craig Aaron氏によるGenachowski氏批判は、Kang氏の自制の利いた評論に比し、より直裁、辛辣である。
Craig氏は、FCC委員長はポーカの名手であり、慎重なプレイをするとのKang氏の批評に対し、そもそも彼には、ネゴシエイターとしての資格などない、相手が強いと見ると直ぐ降りてしまうのだからと反論する。強豪AT&Tの強い主張に反し、同社のT-Mobile統合を食い止めたのは、同氏が唯一、業界に対する指導性を発揮した事例だが、これとて、司法省が最初に、AT&T、T-Mobile統合に反対するとの決定を行った後のことであったとAaron氏 はいう。
Craig Aaron氏は、Genachowski氏は、手を付けたすべての案件の処理について、失敗をしたと断定するのであるが、言論人らしく、もっとも憤りを覚えているのは、新聞社に対し、どの程度まで地方放送局の株式所有を認めるか(いわゆる media ownership)の問題である。歴代のFCC委員長が解決できなかった難問ではあるが。
この案件は、FCC事務局の草案が、FCC委員に回覧されている段階だという。しかし、この草案の概要はすでに外部に漏れており、これまでのものより、大手新聞会社の地方放送局取得をしやすくした内容(つまり大手新聞社に有利)だという。
Craig氏は、この論説を“オバマ政権は、正に今、次期委員長を選考している最中であるが、米国民は、もはや、次期FCC委員長に、Genachowski氏のような人物を持つリスクを犯すわけにはいかない”と結び、次期FCC委員長の資質にまで注文を付けた。
(注1) | 2013.1.11付け、http://ces.cnet.com/、"FCC, stakeholders align on communicatios policy − for now." |
(注2) | 2013.1.09付け、FCC News、"FCC Chairman Julius Genachowski announces major efforts to increase Wi-Fi speeds and alleviate Wi-Fi congestion at airports ,convention centers, and in homes with multiple devices and users." |
(注3) | DRIテレコムウォッチャー、2012年4月1日号、「厳しい批判を受けるFCC委員長Genachowski氏」。 |
(注4) | 22012.11.28付け、http://www.washingtonpost.com、"FCC chief’s painstaking approach earns mixed reviews in turbulent times for telecom industry." 2012.12.13付け、http://www.huffingtonpost.com/、"What’so funny about the FCC`s Failures ?" |
(注5) | 2012.7.3付け、http://www.prweb.com、"NPD DisplaySearch: Tablet and Smart Phone Demand to Drive 2012 Touch Screen Revenue to $16 Billion." |
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