2007年7月、AppleがiPhoneを市場に出して以来、モバイルメーカは、Googleが提唱し創り上げたAndroid OS搭載のスマホ機種を次々と発表し、iPhoneを追撃した。以来、5年半にわたりスマホ市場を巡り、激しい競争が続いている。2000年代後半から、今日に至るまでのモバイル業界の競争は、スマホをめぐって行われたといってよい。
Appleは2010年4月、広画面でスマホと同様タッチパネル方式で入力ができるタブレット端末、iPadを商用化した。この端末も売れ行きが良く、最近ではタブレットPCと呼ばれることも多い。現在、Google、Microsoft、Amazon といった錚々たるIT業者が2012年に参入を開始し、現在、もっとも競争の激しい分野となった。タブレットの売れ行きは、2012年後半期に入り、にわかにテンポが早まっている。IDC等の調査会社は、このような情勢にかんがみ、タブレットPCの売れ行き予測を上方修正した。
本論では、クリスマス商戦の一部予測、さらに、一部調査会社の2017年におけるスマホ、タブレットPC、ノートPCの出荷台数の予測を紹介する。
実は、“スマホ”も、機能的には、モバイルPCに他ならない。キーボードで大量の文字入力をし、その場でプリントアウトする発信中心のユーザには、ノートPCが今後も最強の用具であろう。しかし、それ以外の需要には、スマホ、タブレットPCで十分に対応できるし、用途は広く便利である。今後、デスクトップ、ノートPCを経由しないで、タッチ方式のスマホから即、IT利用に入る若者の比率は、年々増えていくと考えられる。
私は、2013年には、タブレットPCが爆発的な売れ行きを示し、“タブレットPCの年”になるものと予想する。
2017年に10億台を超えると予測されるスマホの出荷数(注1)
表1 3Q 2012、3Q 2011におけるモバイル電話の出荷数(単位:100万)
項目 | 3Q 2012 | 3Q 2011 | 増減率 |
スマホ | 179.7(40.4%) | 123.7(28.5%) | +45.3% |
スマホ以外の電話機 | 265.6(59.6%) | 310.4(71.5%) | -14.6% |
計 | 444.5(100%) | 434.1(100%) | +2.4% |
表1に示すとおり、3Q2012 におけるスマホの出荷比率は、全体の電話機の40.4%であって、前年同期(3Q2011)の28.5%に比し10ポイント以上も伸びた。
しかし、電話機総体の出荷数の伸びはわずか2.4%であって、グローバルに見てモバイル電話機の需要は、飽和に近くなっているといってよいだろう。今、起こっているのは、通常の電話機、機能付き電話機からスマホへ向けてのモバイル電話機の機種変更の進展である。
もっとも、出荷数の構成比率が、現在の40%程度から、どこまでも高まって行くとは考えられない。スマホが提供する様々なアプリケーションに無関心なモバイルユーザ、使いこなすことができないユーザ、さらに購入する余裕がなくて、普通のモバイル電話の利用に甘んじるユーザは数多い。従って、出荷数に占める構成比率は、早晩、頭打ちになるものと考えられる。
それにしても、2013年以降に予想されるスマホの需要は、第3世代LTEネットワークのグローバルな浸透とあいまって、莫大なものになるものと予想される。
大方の調査会社は、2012年5億台超と予測されるスマホの出荷数は、2017年末には倍増し、10億台を超えるものとの予測を発表している。
2012年下半期、10数年振りに出荷数減少が見込まれるPC出荷数(注2)
表2は、3Q 2012 におけるグローバルなPC出荷数を示したものである。
表2 3Q 2012のグローバル市場におけるPC出荷数
PCメーカ | 3Q 2012出荷数 | シェア(%) | 3Q 2012/2Q 2011 |
Lenovo | 13,767,776 | 15.7(17.0) | +9.6% |
HP | 13,550,761 | 15.5(17.0) | -16.4% |
Dell | 9,216,638 | 10.5(11.2) | -13.7% |
Acer Group | 8,633,267 | 9.9(10.1) | -10.2% |
その他 | 35,954,748 | 41.1(42.6) | -11.6% |
計 | 87,504,080 | 100.0(100.0) | -8.3% |
1, | PCには、デスクトップ、ノートブック、ウルトラブック等すべてのPCが含まれるが、タブレットは含まない。 |
2, | シェア欄のカッコ内の数値は、3Q2011のシェアである。 |
IDCによるこの資料は、PC出荷数が11年振りに、前年同期より減少するとの推計値を示したため、関係筋に相当の衝撃を及ぼした。もちろん、Microsoftによる新たな基本OS(Microsoft 8)の販売日(10月26日)を間近に控えての3ヶ月間(2012年7月、8月、9月)についてのことであるから、ユーザから相当数の買い控えが生じたものと想定される。しかし、この要因を考慮しても、前年同期対比、8.3%という減少幅は大きい。
従って、大方の観測筋は、最近売り上げに弾みが付いているスマホ、タブレットPCにより、PCのシェアが奪われつつあるという結果が、遂に明確な数値として現われたものだと推測している。
第4四半期を加えた2012年全期の出荷状況がどうなるかについて、調査会社の推測は分かれる。IDCは、第1四半期、第2四半期の出荷数は、前年対比いずれもプラスなので、年間を通しては、0.8%とわずかではあるが増になるとの推計をしている。これに対し、IHS iSuppli(台湾のPC、スマホのメーカIHS傘下の調査会社)は、1.2%減少するとの見通しを出している。
表2に記載されたPC主要メーカ別に数値によると、これまでPC出荷数で1位、2位であったHP、Dells、さらに大手のAcer Group(台湾)が軒並み10%を超える出荷数減となっており、出荷数増のPC メーカは、Lenovo(中国)、Asus(台湾)の2社に過ぎない。しかも、この2社は値段の安い低位機種に強いメーカである。こう見ると総計8.3%の減は当然の数値であって、これら2社の好調な出荷数増に支えられ、ようやく一桁台の減少比率に収まったとも言えよう。
最もホットなタブレットPCの売れ行き、評価が分かれる将来需要
2012年のクリスマスは、Tablet Christmas
タブレットPCは、最初、AmazonのKindleなど、e-Bookの販売から始まった。しかし、Appleは2010年4月、e-Book機能を包含し、さらにメールの送受、インターネット検索、ビデオの受信等をスマホに比しはるかに広い液晶画面により提供できる複合機能を持ったタブレットPCを市場に出し、今日に至っている。
その後、Google(Nexus)、Apple(Surface)など、大手IT業者の参入が相次いだ。Amazon も、電子図書、Kindleの他、最近はタブレットPC、Fire Kindleを市場に出した。このように、タブレットPCを巡る競争は、激化の一途を辿っている。
市場シェアの大半を占めているのは、この分野でも、抜群の知名度と先行参入の優位点を生かしたAppleである。2012年11月初旬、同社は、iPadに比し、液晶画面が一回り小さいiPad miniの販売を開始した。専門筋は、機能がほとんど変わらないのに、大きさだけを変えた機種の販売は、共食い(キャニバリズム)をもたらすだけで、利益率を下げるだけだと批判している。Appleは、共食い現象を否定してはいないが、両機種ともに売れ行きは好調だとして意に介する気配はない。
しかし、観測筋は、Appleの快走も、幾つものIT競争業者が、続々と市場参入をしつつあるため、iPadのシェアも低下していくのではないかとの見方で一致しつつある。
すでに、サンクスギビングデイ(感謝祭)から始まっている年末商戦の進行状況を踏まえて、英国新聞ガーディアンの記者2名は、クリスマスにおける米国タブレットPCの売れ行き等について、次の要点を含む、記事を書いている(注3)。
“2012年のクリスマス商戦の最大の売れ筋商品は、タブレットPCだ。本年のクリスマスは、”Tablet Christmas”になる。
2011年のクリスマスは、“Smart Phone”クリスマスであった。その後、一年を経て、顧客はタブレットPCの使い道を理解し、さらにiPad以外に幾つもの製品が市場に出たことで、タブレットPCの需要が伸びている。
売れ筋の機種としては、iPadは無論強い。しかし、GoogleのNexus、AmazonのFire Kindleも、凄く売れている。Nexus は、iPad、iPad miniを凌駕するかもしれない。“
調査会社、おおむね、タブレットPCの高成長を予測
2012年後半に至り、固定PCの出荷数が低下傾向になり、思いの外、売れ行きが低下してきた状況からして、調査会社は、タブレットPCの出荷数予測を上方修正している。
IDC、NPDの売り上げ予測は、次のとおり。
IDC社のタブレットPC出荷数予測値(注4)
2012年 | : | 1億2300万台 | |
2013年 | : | 1億7240万台 |
2016年 | : | 2億8270万台 |
NPD社のタブレットPC、ノートパソコン出荷数予測値(注5)
表3に示すとおりである。
表3 タブレット、ノートPCの出荷数予測(2012〜2016年、単位:100万台)
項目 | 2012年出荷数 | 2016年出荷数 | 2016/2012 伸び率 |
タブレットPC | 121 | 416 | +343% |
ノートPC | 208 | 393 | +89% |
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