ケーブルTV事業が地上波局の再送信を行う際、その信号を暗号化する事は禁止されていた。これより、ケーブルTVへの加入者は、STBを使わずともアナログ、あるいはQAMチューナ内蔵のテレビで地上波の再送信だけは視聴する事が出来た。地上波再送信がMust Carry規制に基づき、無償で行われていた時代には問題の無い規制であった。不法な視聴があっても、コンテンツは無料であった。しかし、現在では主要な地上波局のほとんどが、多チャンネル事業者に対し再送信料を請求しており、事業者は不正なアクセスを無くしたい。
ケーブルTV事業者は、FCCに対して地上波再送信も暗号化する事を可能にする様に求めてきた。ケーブルTVへの違法のアクセスを減らすだけでなく、STBで全チャンネルへのアクセスを管理する事で、サービスの導入、解約が容易になる。解約の場合、加入者に対してSTBを郵送で返還させれば良く、現在の様にその家庭に行き、STBを外し、ケーブルに信号遮断のフィルターを取り付ける必要は無くなる。
新しい規制では、ケーブルTV事業者が地上波の暗号化をした場合、既存の加入者に対して、無料で地上波再送信の暗号を解除するSTBを提供しなければならない。現在、地上波再送信のみのベーシックサービスだけに加入している世帯に対しては、暗号化開始から2年、STBを無料で提供する。ベーシック以上のサービスに加入し、すでにSTBを使っている世帯でも、2台目以降のテレビでSTB無しで地上波放送を見ていた場合、そのテレビに対して1年間無料でSTBを提供しなければならない。
デジタルサービスでの暗号規制を解除する事で、アナログとデジタルの並行放送から、フルデジタルのサービスに移行するケーブルTV事業者が増えると思われ、大きな反対はなかったが、ストリーミングメディア向けのSTBを販売してるBoxeeが規制解除に反対をしていた。BoxeeはクリアQAMチューナが接続可能なインターネットビデオ向けSTBを売っており、ケーブルTVの全チャンネルが暗号化された場合、これら製品は利用不可能になる。
ケーブルTV事業者を代表するNCTA(National Cable Telecommunications Association)は、Boxeeの異議は見当違いだと反論したが、Comcast等の大手事業者はBoxeeと和解し、Boxee等のIPベースのデバイス向けに暗号化無しで地上波再送信を提供する方法を開発する事を約束した。この約束は、新しいFCCの規制に含まれているが、3年後に見直しとなる。
BoxeeのSTBは大きく普及をしている訳では無く、この和解無しでもFCCは解除に賛成した可能性が高い。しかし、Comcast、Time Warner Cable等は、すでにタブレット等のIPデバイスに対して、家庭内のWiFiでケーブルTVで提供しているチャンネルをサイマルキャストしているか、その様なサービスをテスト中であり、Boxeeの要求を満たす事は特別に困難ではない。ケーブルTV事業者は、自らがSTBを提供するサービスモデルから、加入者が持つIPベースのデバイスにサービスを提供するモデルにスイッチをしようとしている。すでに多くの事業者は、QAMとIPの両立化を進めており、これを機にIPベースでの配信方法の規格化を進めることは得策である。