送信料に関わる多チャンネル事業者とコンテンツ事業者(あるいは地上波放送局)の争いは以前からある。契約更新時に、コンテンツ事業者、あるいは地上波放送局は多チャンネル事業者に対して、以前より多い料金を求める。多チャンネル事業者は、値上げを最低限に止めようとする。しかし、これが大きな争いになり、放送が中止になる様な事はあまりなかった。
しかし、最近は争いがエスカレートし、放送が停止になる事も珍しくない。Dish NetworkはAMCと契約更新で喧嘩をしており、AMCのチャンネルの放送を7月1日から放送中止にした。Time Warner Cable(TWC)は、地上波局会社のHearstともめ、Hearst社の持つ29局中、ハワイ、ボストン、タンパ等の都市の15局が10日間、TWCで再送信されなかった。
さらに、加入者数2000万世帯を持つ、全米2位の多チャンネル事業者のDirecTVとMTV、Nickelodeon、Comedy Channel等、17のチャンネルを持つ大手コンテンツ事業者のViacomが争い、DirecTVは7月12日からViacomの放送を中止した。DirecTVとViacomはプレスリリース、ブログ、ツイート等でお互いに相手がいかに不当かをアピールし、争いは1週間続いた。結局、DirecTVはViacomに対して1加入者当たり、月$2.80(推定)を払うことで合意し、放送が戻った。これまでの料金は1加入世帯あたり$2.35であった。
送信料の争いが放送中止までにエスカレートし始めている理由の1つは、この市場が競争市場になっていることだ。多チャンネル事業者がケーブルTVだけで、多チャンネルネットワークが少なかった時代、争いを起こす事はお互いに大きな損であった。ネットワーク事業者はその加入者を怒らせ、コンテンツ事業者(放送局)は広告収入を失う事になる。
しかし、多チャンネルサービスのオプションは、ケーブルTV、衛星、IPTVを増えている。コンテンツ事業者は1社と争っても、送信事業者は他にもあり、リスクは少なくなっている。これは、多チャンネル事業者にとっても同様である。チャンネル数は100を超えており、チャンネルが数個放送出来なくなっても問題は少なくなっている。
もう1つの理由は、コンテンツ事業者に取り、送信料がこれまで以上に重要になっているためである。コンテンツ事業者には広告と送信料の収入があるが、広告収入は増えていない。これに対して、多チャンネル事業者から来る送信料は安定した収入である。不景気になれば、広告は大きく減るが、多チャンネルサービスの加入者は減らない。
今後この争いに対して、インターネットでのTV番組の配信が大きな影響を与えていく。多チャンネル事業者は、TV Everywhereとして、セカンドスクリーン向けの番組配信を始めている。当然、コンテンツ事業者はそれを許可する条件として、送信料の値上げを求める。DirecTVとViacomが揉めたのも、Viacomが求めたTV Everywhere向けの配信料が高価だったためである。
また、送信料の交渉の際、コンテンツ事業者がキャッチアップ向けの送信をしている事が不利になる可能性がある。多チャンネル事業者が放送を中止しても、インターネットでの配信があれば、その加入者が怒り出す可能性は少ない。番組が無料配信されているのであれば、多チャンネル事業者は、逆に値下げを求める可能性もある。Viacomは、DirecTVとの交渉が破綻する直前に、そのほとんどの番組のキャッチアップ配信を放送翌日から、放送21日後に変えていた。