DRI テレコムウォッチャー  from USA

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  年間情報サービス「The Compass」 と 「The Compass」年鑑レポート
 放送/メディア会社、通信事業者・機器ベンダを対象としています。


モバイルDTVの進行状況 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.95)
2012年4月25日号

 ATSCを使ったモバイル放送の最初のデモは、Samsungが2006年のNABで行った。その翌年のNABでは、LGとHarrisがSamsungのA-VSBに競合するMPH技術を発表した。モバイル放送の普及を目的とした地上波局のアライアンス、Open Mobile Video Coalition(OMVC)はこの2つのグループの調節を行い、2009年10月には規格化にこぎ着けた。サービスの名称は、モバイルDTVと決まり、2010年のNABでは、テストサービスが行われるという、急速なペースで進行をしてきた。

 しかし、ここ2年間では大きな進歩は無い。それまでの進歩があまりにも急速であったので、動きが鈍く感じるだけでなく、2011年にはQualcommが行ってきたFLO TVが閉鎖になった事で、モバイルDTVも失速したように感じる。しかし、モバイルDTVの動きは止まっている訳では無く、今年のNABでは確実な進歩が見えた。

 モバイルDTVは2つのグループに分かれて進み始めている。1つは、3つのネットワーク(Fox、ION、NBC)それに9つの放送局会社(Belo Corp., Cox Media Group, E.W. Scripps Co., Gannett Broadcasting, Hearst Television Inc., Media General Inc., Meredith Corp., Post-Newsweek Stations Inc., Raycom Media)が作ったMobile Content Venture(MVC)だ。MVCにはその後、ABC、CBSも加わり、大手TVネットワークが全て参加している。

 もう1つのグループはMobile500と呼ばれるグループでMCVには参加していない中小規模の放送局で構成されている。MCVはコンテンツ側が主体であり、参加している局数は70局程で、全米TV世帯のカバー率は50%程度である。これに対してMobile500には430以上の局が参加し、TV世帯のの94%をカバーしている。

 MCVはそのサービスのブランド名をDyleと決め、最初の携帯電話事業者としてMetroPCSとの契約をした。Dyleのサービスは2012年に立ち上がる予定である。Dyleは有料コンテンツの配信も検討しているが、最初は、地上波番組の再配信でスタートをする。NABでは、Samsungのタブレット、LGのスマートフォン、それにiPad向けチューナを使ってのデモを行っていた。

 Dyleのデモは、単なる放送であったのに対して、Mobile500はiPadへのチューナとアプリケーションを使い、放送番組の巻き戻し、ストップ、早送り等の機能、DVR(録画)機能、Twitter等とのインテグレーション、インターネットで配信されるビデオのサポート等、Dyleより進んだサービスのコンセプトををアピールしていた。Mobile500も今年中にサービスを立ち上げる予定だが、まだ、携帯電話事業者のパートナーは無い。

 2つのグループがある事は競合があり、進歩にはプラスになる。しかし、互換性が無いと発展に悪影響を及ぼす可能性がある。DyleもMobile500も、携帯電話への機能搭載以上に、既存スマートフォン、タブレット向けのチューナを使いサービスを広げようとしている。しかし、放送部分の規格は互換があるが、追加機能ではDyleとMobile500では互換性は無い。このため、Dyle向けのチューナを使って、Mobile500のアプリケーションを走らせることは現状では出来ない。この状態では利用者の不満を買うことになる。


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