DRI テレコムウォッチャー


Samsung、スマホ市場でAppleとの差を広げる:凋落著しいNokia

2012年12月1日号

 今回は、グローバル市場における携帯電話、スマホの出荷状況(3Q 2012)を紹介する。2Q 2012の同様の報告は、2012年9月のテレコムウォッチャーに掲載しているので、併せてお読みいただきたい(注1)。数値は、すべてIDC社の調査報告書によった。ネット資料からの孫引きである。
 最初に、統計資料の提示と簡潔な説明をし、次に、この時期に生じた最も大きなトピックス、スマホの最大メーカーApple、Samsungの主力製品Apple5とGalaxy S3の競争状況および、ほんの2年前まで他社の追随を許さない携帯・スマホ業界の王者であったNokia社の凋落振りについて、最新のニュースを解説する。
 それにつけても、スマホ市場の激烈な競争における業界地図の変動は驚くほどである。このまま推移していけば、Samsung、Appleの寡占状況が強まるばかりとなろう。
 LTE時代になれば、わが国携帯電話業界の出番があるとは、常々言われていることではある。しかし、iPhone部品の製造でわが国メーカーが大きな役割を果たしている程度の記事が、ときどきジャーナリズムに報道されるに過ぎない。スマホについて、海外での大きな成功事例が見当たらないのは、淋しいことである。


モバイル電話市場で、NokiaはSamsungに次いで第2位を堅持

表1 3Q 2012におけるモバイル電話出荷数(単位:100万)
メーカー名3Q 20123Q 2011増減比
Samsung105.4(23.7%)87.2(20.1%)+20.9%
Nokia82.9(18.7%)106.5(24.5%)−22.2%
Apple26.9(6.1%)17.1(3.9%)+57.3%
LG Electrics14.0(3.3%)21.1(4.9%)−33.6%
ZTE13.7(3.1%)17.6(4.1%)−22.2%
その他201.6(43.3%)184.6(42.5%)+9.2%
444.5(100%)434.1(100%)+2.4%
(括弧内の数字は、マーケットシェアを示す。表2、3、4についても同様)

  • モバイル電話出荷数では、2012年第1四半期から、SamsungがNokiaの地位を奪い首位の座を占めている。以来、Samsung は、毎期、Nokiaとの差を広げ今期に及んでいる。しかし、毎期、莫大な数の加入者を喪失しつつも、Nokiaは依然、世界第2位の携帯電話メーカーの地位を守っている。

  • 5大メーカーのうちSamsung、Nokia、Appleの上位3社は、出荷数の規模の大きさからして、今後数年間は、5位までのリストから落ちることはないものと思われる。ただ、6位以下のメーカーの出荷数が全体の40%を占めていることからも判るとおり、メーカー数が多く、競争が激しい状況からすると、LG Electronics、ZTEの両社が、いつまで現在の地位を確保できるかは不明である。


スマホ市場はSamsung、Apple両社がほぼ市場の半ばを占め寡占状況

表2 3Q2012におけるスマートフォン出荷数(単位:100万)
メーカー名3Q 20123Q 2011増減比
Samsung56.3(31.3%)28.1(22.7%)+100.4%
Apple26.9(15.0%)17.1(13.8%)+57.3%
RIM7.7(4.3%)11.8%(9,6%)+34.7%
ZTE7.5(4.2%)4.1%(3.3%)+82.9%
HTC7.3(4.0%)12.7%(10.3%)−42.5%
その他74.0(41.2%)49.9(40.3%)+48.3%
179.7(100%)123.7(100%)+45.3%


  • スマホ市場では、Samsungの成長が他社を圧しており、かつてiPhoneで相当期間、トップの座を占めていたAppleを大きく引き離した。2012年第3四半期、両社の出荷数の差は、倍以上に開いている。

  • また、前期まで第3位の地位を占めていたNokia が、表2の5社のリストから外れて、一挙に7位(表にはないが別の資料の記述から)に転落した。


表3 3Q 2012におけるスマホ、一般モバイル電話の出荷数内訳
メーカー名3Q 20123Q 2011増減比
スマホ179.7(40.4%)123.7(28.5%)+45.3%
一般モバイル電話265.8(59.6%)310.4(71.5%)−14.6%
444.5(100%)434.1(100%)+2.4%
(表3は、表1と表2の計欄から作成した。)

 出荷数に占めるスマホの比率は、急速に高まっており、3Q 2012には50%に達した。現在、音声のみを送受する電話機の出荷数はきわめて少なく、スマホ以外のモバイル電話のほとんどは、フィーチャーフォン(機能付き電話機、音声以外のメール送受、簡易な情報の入手等を行得る携帯電話)の出荷数である。表3に示すとおり、モバイル電話の成長率は鈍っているので、今後の出荷数は、グローバルに見ると30億程度もの膨大なモバイル電話の保有量から生じる買い替え需要、なかんずく、フォーチャーフォンからスマホへの取替え需要が主体となって行くだろう。スマホ市場のシェア獲得合戦が、ますます熾烈になっているのは、このためである。


AndroidとiOS、スマホのOSで90%超のシェアを占める

表4 3Q 2012におけるOS別スマホ出荷数(単位:100万)
OS名3Q 20123Q 2011増減比
Android136.0(75.0%)71.0(51.6%)+91.5%
*1 iOS26.9(14.9%)17.1(13.8%)+57.3%
*2 BlackBerry7.7(4.3%)11.8(9.5%)−34.7%
*3 Symbian4.1(2.3%)18.1(14.6%)−7.3%
*4 Windows Phone/Windows Mobile3.6(2.0%)1.5(1.2%)+140.0%
Linux2.8(1.5%)4.1(3.3%)−31.7%
その他0.0%0.0%0.1%(−100%)
181.1(100%)123.7(100%)+46.4%
*1 iOS:Appleのスマホ、iPhoneのOS。
*2 Black Berry:カナダRIM社スマホOS。
*3 Symbian:NokiaのスマホのOS。
*4 Windows Phone7:Microsoftの最新スマホOS。Windows Mobile:3G等の旧スマホ対応のOS。
いずれも、Microsoft製。


 表4から、およそ、次の諸点が明らかとなる。 
  • Androidの伸びは、シェアの面でも成長率でも際立っている。3Q 2012では、Androidだけで市場シェアの75%を占めた。表2に示した業界1位、4位、5位のSamsung、ZTE、HTCを始め、自社OSを所有しないメーカーは、そのほとんどがAndroidを利用しているのであるから、このOSは成長が著しいのも当然である。Apple社のiOSが第2位の地位を占めている。
    これまで圧倒的に単体として他をリードしてきたAppleのiPhone(もちろんiOS搭載)は、この期、SamsungのGalaxy S3の猛追を受けた。この結果、Galaxy S3の出荷数は、iPhone4の出荷数を上回った模様である。この件については後述する。

  • 増率からすれば、MicrosoftのWindow Phone7およびWindow Mobileも高いのであるが、これは元々、ここ1、2年の間にゼロからスタートしたものである。MicrosoftとNokiaが、ソフトおよび機器の開発並びに宣伝に大量の経費を投じた点からすると全く期待外れの成果に終わったといってよい。この件についても後述する。

  • カナダのモバイル電話機メーカーRIM社のBlack Berry OSによるスマホは、AppleのiPhoneが登場するまでは、最も評判の良いOSの1つであったが、最近RIM社は、新製品の開発に遅れ、大きな顧客ベース(8000万程度)を基礎にした取替需要が主体となっており、昔日のおもかげはない。2013年新年には、新機種BB10モデルが登場するが、そのモデルが成功すればともかく、将来見通しは明るくない。


激化するAppleとSamsungのスマホ市場を巡る争奪戦 ― Apple5か? Galaxy S3か?

 調査会社、Strategy Analyticsは、3Q 2012においてApple、Samsung両社の主力機種、Galaxy3SとApple4S、Apple5がどれだけのマーケットシェアを獲得したかについての推計値を表5のとおり発表している(注3)。  

 

表5 Q2 2012、Q3 2013におけるGalaxy S3、iPhoneの出荷数(単位:万)
項目Q2 2012Q3 2012
Samsung
Galaxy 3S

5.4

18.0
Apple
iPhone4S
iPhone5
iPhone 計

19.4
0.0
19.4

16.2
6.0
22.2
   

 上表で注目すべき点は、まず、2012年7月から9月の期間に、世界のスマホ機種のなかで、Galaxy3SがiPhone4Sを出荷数において追い抜き、トップの座を占めたことである。第2に、2012年9月に販売されたLTE対応のAppleのiPhone新機種、iPhone5は、一ヶ月弱で600万という堅調な出荷数を示し、トータルでは、iPhone機種は、Samsungの主力機種より出荷数が多い。従って、全期間が両機種の販売期間となる4Q 2012においての販売合戦で、両機種のいずれが勝ちを収めるかが、もっとも興味が持たれていたところであった。
 それにしても驚嘆すべきは、性能面、使い勝手、デザイン性、いずれの面においても、Galaxy3SがApple5と遜色のないスマホであると多くのアナリストが評価している(Apple信仰が強い米国でも、Galaxy3Sの評価は強まっていることである)ことである。Samsungは、この上げ潮に棹差す勢いで、2012年11月には、Galaxy3Sを上回る性能を持つ新機種Galaxy Note2を市場に出すと発表した。

 Appleは、iPhone5については、自前のGPS検索サービスが失敗であったことを認めざるを得なかったし、中国でのApple工場の争議の影響等もあったものの、同社のサプラインチェインの運営のまずさも指摘されている。上記のような情勢から、現在、世界最大の株式時価総額を誇るApple社の株価も、下げが続いている。
 しかし、3Q 2012のApple販売機種の主体は、未だLTE対応でないiPhone4Sであり、iPhone5は1ヶ月未満の販売実績しかなかった。現在、iPhone5の売り上げは、きわめて好調であるとのニュースも多く、筆者は、上記のApple株価低下にもかかわらず。4Q 2012には、iPhone5の出荷がGalaxy3Sのそれを上回る可能性が強いと見ている。


Microsoft、Nokia連合、新スマホ機種Lumia920に賭ける

 機器の製造はNokia、OSの提供はMicrosoftという分業体制によるMicrosoft、Nokia連合により、2012年4月、満を持して市場に出したスマホ、Lumia900は、表4に示したとおり、たかだか400万弱の出荷数に留まった。皮肉なことに、新規販売には使用をストップした旧スマホOS Symbianの出荷数の方が、これを上回る結果となった(注3)。
 両社連合は、2012年9月、Lumia900の改良型Lumia920を市場に出した。これで、2012年のクリスマス商戦には、Apple5、Samsung Galaxy3S、Lumia920と、いずれもアナリスト筋ではきわめて評価が高いスマホ3機種が、激しい商戦を繰り広げることとなる。特に、Nokia Microsoft連合にとっては、Samsung、Apple両社の寡占体制にあるスマホ市場寡占的支配に第3極の存在を誇示できる程度のシェアは、どうしても獲得したいところである。評価が高い割に、これまでLumiaの売れ行きが悪いのはなぜか。2010年9月、Microsoft社のソフト制作担当役員から、Nokiaの会長兼CEOに就任したStephen Elop氏に批判が集中している。
 Nokiaの自社ソフト、Symbianの使用を中断し、Microsoft社のソフトに切り替える決断をし、同社の製品開発、販売方針を抜本的に改革したのは、同氏であったからである。
 現在、赤字経営、株価下落、モーバイル電話、特にスマホの販売不調、従業員の合理化、数多くの店舗の閉鎖等々、Nokia社には、異様に険悪な空気が漂っている模様である。欧州のネット記事には、すべての責任はStephen Elop氏の誤った政策にあるとして糾弾する声が高い。こういう状況であるから同氏には、残された期間は少ない。現状のNokiaの不振が継続すれば、後、数ヶ月でStephen Elop氏は辞職を余儀なくされるだろうとの見通しが広く流布している(注4)。


(注1)DRIテレコムウォッチャー、2012年9月1日号、「スマートフォンのグローバル市場で際立つSamsung、Appleの寡占化傾向 - 2012年第2四半期の出荷数統計から」
(注2)MacRumor、http://www.macrumors.com、”Samsung Galaxy SB Estimated to Top iPhone 4S in 3Q 2012.”
(注3)NokiaのLumia900については、DRIテレコムウォッチャー、2012年6月1日号、「主役の交代が進む携帯電話製造業界 ― 携帯、スマートフォン出荷数の双方でトップの座を占めたSamsung」
(注4)たとえば、次のネット記事。
http://www.businessinsider.com、”Stephen Elop only has a few months left to fix Nokia.”


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