DRI テレコムウォッチャー


第8回FCCブロードバンド進捗状況報告:2名の共和党委員の痛烈な批判
2012年10月15日号

 今回は、FCCが通信法の規定に基づき2012年8月に発表したブロードバンド進捗状況報告書(今回は第8回)を取り上げた(注1)。
 テレコムウォッチャーでは、2011年6月、第7回報告書の内容を紹介しているので、今回の報告書と併せてお読み頂きたい(注2)。本文では、報告書中、最重要と思われる表を5点紹介し、さらにFCC委員長の声明と共和党委員Ajit Pai氏の反対意見の骨子を紹介した。
 この報告書は、資料を含めると176ページに及ぶものであるが、FCCの様々の思惑により、モバイルブロードバンドの資料が皆無に近く、普及率の正確な数値も提示されていないのは残念である。
 内容もさることながら、注目すべき点は、FCC共和党委員2名がこの内容に激しく反対したことである。これまでも、共和党McDowell委員は、持論であるブロードバンドへの競争重視の立場から、第7回、第6回の報告書においても、強硬な反対意見を提示してきた。しかし、今回は、同士に気鋭のPai共和党委員が加わり、通信法解釈の精緻な法理論を展開し、痛烈に報告書の内容を批判した。
 FCC委員長、Genachouski氏は、共和党委員の反対に真正面から反論を出しておらず、民主党委員3名の多数決票決により、強引に報告書を発効させてしまった。
 時あたかも大統領選挙戦たけなわであり、オバマ大統領とロムニー共和党候補との論戦が大きく報じられている。周知のとおり、Genachouski氏はオバマ大統領とハーバード大学の学友である。このため、筆者には、FCCにおける彼と共和党委員2名の論戦が、オバマ、ロムニー両氏の大統領戦での論戦と二重写しに見えてしまう。
 2013年に任期切れとなるFCC委員長Genachouski氏にとって、このような共和党委員との対決姿勢のもとで、まだ積み残された懸案(最大のものは、これも毎年論議を呼ぶメディア企業による地方放送局買収の規制問題)を2012年内にどこまで処理できるか、懸念される。


ブロードバンドへのアクセス不可能人口・総人口に対する比率の状況

(1)固定ブロードバンド
固定ブロードバンドにアクセスできない人口、総人口に対する比率を以下、4つの表で示す。表1は総体、表2はルーラル、非ルーラルの別、表3は小数民族地域における数値である。さらに、表4に、2011年6月と2010年6月のアクセス不可能人口比率の比較を示す。

表1 固定ブロードバンドにアクセスできない人口数、世帯数等(単位:100万)
全米人口アクセス不可能人口/比率全米世帯数アクセス不可能世帯/比率
315.919.0/6.0%119.27.0/5.9%


表2 固定ブロードバンドにアクセスできない人口数(1)
(ルーラル地域、非ルーラル地域の別、単位:100万)

総体アクセスできない地域前欄地域の比率
人口315.9 19.06.0%
ルーラル地域人口、比率61.0/19.3%14.5/76.2%23.7%
非ルーラル地域、人口254.9/80.7%4.5/23.8%1.8%


表3 固定ブロードバンドにアクセスできない人口数(2)
(少数民族地域、単位:100万)

総体アクセスできない地域前欄地域の比率
人口3.9 1.129.0%
ルーラル地域人口、比率2.0/50.7%1.0/86.5%49.5%
非ルーラル地域、人口1.9/49.3%0.2/13.5%7.9%


表4 固定ブロードバンドにアクセスできない人口数
(伝送速度別、経年別比較、単位:100万)

2012年6月2011年6月
768kbps/200kbps9.616.0
3Mbps/768kbps19.026.4
6Mbps/1.5Mbps48.362.6
(上表ゴシックの19.0は、表1の数値と一致する。これは、統計に使用する標準的なブロードバンド伝送速度が中スピード(3G相当の3Mbps/768bps)に定められたことによる)。

 上記4表から、次の諸点が読み取れる。

  • 3億人を越える米国の総人口のうち、固定ブロードバンドにアクセスできない(換言すれば、ブロードバンドインフラが架設されていない)地域の総人口は1900万人、総人口比6.0%である。世帯数で見ると700万世帯であって、アクセス不可能数はさらに低い。

  • ルーラル、非ルーラルの別に見ると、非ルーラル地域のアクセス不可能地域の人口比率が僅か1.8%であるのに対し、ルーラル地域のそれは23.7%と、両者間の不均衡が際立つ。少数民族(インディアン、イヌイット)のルーラル地域では、およそ半数の人々が、固定ブロードバンドを享受できない状況である。

(2)モバイルブロードバンド

表5 モバイルブロードバンドサービスにアクセスできない人口、比率、
2011年6月と2012年6月の比較(単位、100万)

伝送速度2012年6月2011年6月
768kbps/200kbps5.1/1.6%15.4/5.0%
3Mbps/768kbps19.7/6.2%66.4/21.4%
8Mbps/1.5Mbps104.5/33.1%232.3/74.8%

 表5は、伝送速度別に、モバイルブロードバンドサービスにアクセスできない地域の人口、総人口に対する比率を2011年6月、2012年6月の1年間の期間で対比したものである。
 この表によれば、(1)この期間におけるアクセスできない人の減少(換言すれば、アクセスできる人の増加)は著しいこと(2)この結果、低速(メガには満たないが、住宅用でデータを伝送するには、一応用が足せる程度のスピード)でのアクセス不可能地域は510万までに縮小しており、この数字だけでみると、固定ブロードバンドの1900 万よりはるかに少ない。もっとも、報告書では、モバイルブロードバンドの統計数値は、精度が低い(多くのキャリアからの申告によっているのであるが、その申告数値が大きめに出る)と称して、この資料をリファーしたがらない。


固定ブロードバンドの普及率

表6 米国の固定ブロードバンド普及率(都市部・非都市部・少数民族の層別)
普及率
768kbs〜200kbs3Mbbps〜68bps6Mbps〜1.5Mbps
総体64.0%40.4%27.6%
都市部65.0%43.0%30.0%
非都市部62.7%36.8%24.0%
少数民族地域51.2%25.9%19.9%

 なお、FCC報告書には、モバイルブロードバンドについて、同様の資料がない。推計資料でも良いが、この資料が望まれたところである。仮に、掲載されていたとすれば、表6で示されたものより、数等高い数値であったはずである。


FCCのGenachouski委員長、米国ブロードバンドの拡大と国際的順位の高まりを強調(注3)

 Genachouski委員長は、今回の第8次報告書が、前回の第7次報告書に比し優れている点、ブロードバンドアクセス不可能人口が大きく減少した点等を強調し自画自賛した。
 前回(2011年6月)、固定ブロードバンドにアクセスできなかった人口は2640万であったが、今回は1900万へと相当数減少した。また、大手電話会社の光ファイバー、ケーブル事業者のDCSSIS 3.0標準の高速ケーブルが普及しつつあり、ブロードバンドの高速化が進展している。モバイルブローバンドの面では、米国はLTE(4Gネットワーク)の拡充が急ピッチで進んでおり、世界をリードしている。
 この結果、ブロードバンドにおける米国の国際的地位も高まった。最新の数字では、米国は、ブロードバンドのアクセスで7位、ブロードバンドの普及率で15位である。固定ブロードバンドの普及率は、3分1程度に留まっているが。
 このように、ブローバンドが急速に進展しているのは、2010年、オバマ政権が、ブロードバンド振興を政府の最重要政策として掲げ、また、FCCが政府の意を受けて、“ブロードバンド・イニシャティブ政策”を推進しているからである。この政策実施に伴い、多額の政府資金がネットワークの構築に当てられ、これにより、ブロードバンド投資が遂行されている。
 しかし、一部論者(次項に紹介する共和党FCC委員2名をさす)のいうように、ブロードバンドへの投資は十分に行われているから、今後は民間企業の自助努力に任せるべきだとの主張には、賛同できない。
 ブロードバンドは、技術進歩によって、日々、そのスピードが高まり品質が向上しているし、ユーザーの要求も高まっている。FCCは、通信法が規定した条件に応じうるよう、今後も、ブロードバンドの質量ともの向上を図っていく必要がある。


共和党Pai委員の強硬な反対意見(注4)

 第8回ブロードバンド進捗状況報告書については、この報告書の採択に反対票を投じた共和党委員2名(Robert M McDOWELL氏、Robert Ajit Pai氏)から、痛烈な反対意見が出された。表現こそ異なるものの、その趣旨は変わらないので、今回は、本年FCCに加わったPai委員の反論の骨子を紹介しておく。

  • 報告書は、固定ブロードバンドにおいて、アクセスができない加入者数が1900万人残っているから、通信法706条(b)項に定められた、“ブロードバンドをタイムリーに適切な方法で、アクセス可能なものとする”との条件を満たしていないと論じる。
    しかし、他方、同じくFCC発表による“ブロードバンド・イニシャティブ”の報告書によれば、ネットワーク事業者は、2011年において660億ドルの投資を行っており、固定ブロードバンド、モバイルブロードバンドで、それぞれ、740万人、4670万人へのアクセスを拡大した”と報告している。実のところ、第6回報告書提出以来ブロードバンドの架設が目標に達していないという結論は、今回で3回目である。第5回の報告書までは、目標は達成しているという結論であった。これは、委員長変更にともない、FCCが急にハードルを高くする意図があったからではないか。
    これまでMcDowell委員が、毎年指摘し続けてきたことであるが、通信法は、“いかなる高度な技術を使用するにせよ、高度サービスの容量をアクセス可能なものにすること”を要求している。すなわち、アクセス可能性(deployment)が求められているのであって、実際の利用率(Adoption)には触れていない。ところが、今回の報告書ではまたもや、deploymentの他adoptionの向上をもFCCの所管に取り込んでおり、米国市民がブロードバンドを利用しないのは、やれ経済的余裕がないからだとか、digital literacyが欠如しているから等の議論が為されている。これはFCCの越権行為であって、不要な規制を引き起こす原因を作る。

  • FCCは、過去3回にわたり、通信法706条(b)項のネガティブな条文解釈のみを根拠にして、毎年、未だこの条文の要件が満たされていないという結論を出して、報告書の存在理由を強調してきた。しかし、本来、目標が政策を左右すべきではなく、データの内容いかんにより、政策は変更されなければならない。早晩、この報告書においては、ブロードバンドは、タイムリーな方法で適切に提供されているとの結論を出さざるをえなくなるのではなかろうか。


(注1)2012.8.14付け、FCC報告書、"Eighth Broadband Progress Report."
本文の統計表は、すべて、上記のFCC報告書から選んだ。
(注2)DRIテレコムウォッチャー、2011年6月15日号、「FCC、第7回ブロードバンド進捗状況報告書を発表」
(注3)2012.8.12付け、"Statement of Chairman Julius Genachouski."
(注4)2012.8.12付け、"Dissenting Statement of Commissioner Robert M. McDOWELL."、および、"Dissenting Statement of Commissioner Robert Ajit Pai."


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