DRI テレコムウォッチャー


VerizonWirelessケーブル会社4社との提携による果断な戦略策定についてFCC、DOJの承認を得る

2012年10月1日号

 2011年12月、VerizonWirelessは、(1)ケーブルテレビ会社4社からのAWS周波数(LTEネットワーク設立に利用できる700MHZ高速周波数)の大量購入(2)Verizonとケーブルテレビ会社4社間のサービスの相互販売、さらには、将来のワイアライン、ワイアレスの統合新サービス開発についての合弁会社設立(Coxを除くケーブル会社3社)等の業務提携について、合意したと発表した(注1)。
 DOJ(司法省)とFCCは、上記2件の合意、業務提携について、反競争的行動の有無、公益違反の有無の観点から、通例の6ヶ月を大きく上回る8ヶ月あまりの審理を行った後、2012年8月23日、このままの形では半競争的行動を惹起し、また公益に反する危険性は免れないが、所要の修正、条件を遵守すればその危険性は抑えられ、しかもブロードバンドの成長に資すると判断し、修正条件を付した上でこれを認めた。
 今回のテレコムウオッチャーでは、DOJ、FCCが下した結論の概要と、利害関係者の批判を紹介する。
 
 詳細は、本文の説明に尽きているのであるが、1、2点、本文を取りまとめた後の感想を付しておく。
 第1は、今回のVerizonWirelessのケーブルテレビ4社との業務提携は、VerizonWireless側から働きかけた同社ワイアライン部門救済を目的とした起死回生の大胆な戦略である。今後、この戦略実施がどう推移していくかは不明であるが、少なくとも規制機関の審理をクリアしたことは、成功に至る大きな第1歩であることは間違いない。これは、2011年に、AT&TがDJIからの強い反対を受けて、T-MobileUSAの買収に失敗したのと対照的である。
 第2に、規制機関によるVerizonWirelessの業務提携開始は、2005年夏、同社がFCCの絶大の支援を得て大々的に開始したFiOSサービス(FiOSInternet、FiOSVideo)が、同社営業エリア内での全般的サービス展開を終えることなく、半ばにおいて事実上凍結される(すなわち新規投資はなし)ことを意味する。DOJ、FCCは、このような事態が生じるようなことを恐れ、VerizonWirelessが現にFiOSサービスを提供しているエリア、将来提供する予定のあるエリアについての同社によるケーブル会社4社のサービス販売を禁じたのであるが、この措置によっても、VerizonWirelessに対するFiOSサービスへの投資の誘引は喚起されないだろう。
 第3に、本文で紹介した元司法省職員、CWAと同様に、筆者も、今回のVerizonWirelessとケーブルテレビ会社の提携は、著しく反競争的な性格を持っているものと考える。VerizonWirelessは、将来、ケーブルテレビ会社との間に、双方が現にサービス提供を行っている地域を基盤として、地域別サービス提供の独占化を狙うのではないかと推測される。市場競争をベースにして、もろもろのサービス展開を基本的原則に掲げている現通信法(1996年制定)に基本的に違反する企業相互間のカルテル構築だといっても過言ではないだろう。このような内容の業務協定を米国の2大規制機関、DOJ、FCCが認めてしまったことは、2012年における米国電気通信規制上の大きな事件として記憶に留めておくべきであろう。
 周知のとおり、FCCは、インターネットの普及を2012年における最大の課題だとしており、鋭意、その目標(2020年次までに米国世帯の90%にブロードバンドを利用させるなど)の達成に邁進しているところである(注2)。今回のVerizonWirelessとケーブルテレビ4社による業務提携は、FCCのこの達成目標の実現を遅延させることになりはしまいか。


FCC、VerizonWirelessに4大ケーブル会社からの大量のAWS(高速ワイアレス周波数)の購入を認める(注3)

(1)VerizonWirelessの周波数購入の概要

表1 VerizonWirelessが購入したAWS周波数の購入元、購入金額
購入元購入金額(単位:億ドル)
Comcast23
TimeWarner11
Bright Home1.9
Cox3.15
39

  1. 上表購入元に記した最初の3社(Comcast、TimeWarner、Bright Home)は、2008 年、FCCに対する周波数購入目的で設立したコンソーシャム、Spectrum Coへの参加会社である。

  2. Coxは、VerizonWirelessと Spectrum Coが AWS売買を合意してから2週間ほど遅れて、単独でVerizonWirelessとAWS取得の協定を結んだ

 表1に示されるとおりVerizonWirelessは、4大ケーブル会社から総計152件、米国全人口の94%をカバーする大規模な周波数購入(購入金額、約39億ドル)をFCCから承認された。周知のごとく、同社はAT&Tにも増して、高速ワイアレスネットワーク(具体的には第4世代ワイアレスネットワーク、LTE)の構築に力を入れている。その構築は着々と進み2012年末には完成する予定である。しかし、スマートフォンが通常の電話機に置き換わるスピードはきわめて急ピッチであり、これに伴い、ユーザからのデータサービスの利用も予想をはるかに上回る勢いで伸びている。従って、将来、より一層のLTEネットワークの需要が生じることは、確実である。このため、米国のワイアレス通信事業者は、現在、周波数の獲得に狂奔している。VerizonWirelessは、早くも、ワイアライン(インターネット、ビデオ、音声)の分野で最大の競争業者であるケーブル事業者から、未利用のAWSを大量購入するという大胆な行動に打って出たのは、このような背景を基盤にしている。

(2)VerizonWireless、周波数集中の批判を回避するため、ワイアレス2次業者と周波数の売却、交換で合意

 VerizonWirelessは、4大業者からAWS購入を取り付けるとともに、他方、過剰な周波数の再販を他業者と交渉している。それが、結実したのが次の2件である。FCCは、VerizonWirelessのこの行動を同社への周波数集中を緩和する効果を生むとして、VerizonWirelessの周波数買収を認める理由に組み込んだ。

VerizonWireless、T-Mobileに大量のAWS周波数を売却、または交換で提供(注4)
 VerizonWirelessは、2012年6月、T−Mobileと周波数の売却あるいは交換について、合意した。
 T-Mobileは、Verizon Mobileから6000万の人口を有する地域に、LTE提供ができるAWS周波数を獲得する。他方、T−Mobileも人口2000万人をカバーするAWS周波数をVerizon Wirelessに提供する。売買の差額の人口4000万人分周波数の代価は、T−Mobileが現金で支払う(すなわち2000万人分のAWSはスワップ(交換)となる)。
 2011年秋、AT&Tへの身売りが不発に終ったため、LTEの展開には周波数が不足し将来展望が切り開けないと悩んでいたT-Mobileにとって、VerizonWirelessからの周波数付与は、干天に慈雨を得た思いであろう。同社CEO兼会長のPhilipp Humm氏は、“これでわが社は、新たな新周波数を新ネットワークの導入、2013年次からのサービス提供に結びつけることができる”と語った。

VerizonWireless、LeapWireless(中堅携帯通信会社)に700MH帯周波数販売で合意(注5)
 Leap Wireless(中規模のプリペイド加入者を対象とした携帯電話会社)は、2012年8月28日、VerizonWirelessから700MHZ帯(Aブロック)の周波数1.2億ドルで購入した。VerizonWirelessは、同年4月ごろから、Aブロック帯(Verizonが大量に所有している同じくATS700MHZのCブロック帯周波数に比し、品質が少し落ちるといわれる)を売却する意向を示しており、Leap Wirelessがこの呼びかけに応じたものである。Verizonはさらに、他社に対しも今回と同様の販売を行う可能性もあると見る向きもある。


周波数購入についてFCCがVerizonWirelessに課した条件

 前項で紹介したのは、VerizonWirelessによる他事業者に対する自発的な周波数販売である。
 これに加え、FCCは、同社の周波数集中による反競争的インパクトを緩和し、購入する周波数の他事業者への早急な効率的利用を促進するため、同社に対し、次の諸条件を課した。しかし、これらの条件は、これまでも幾つかのM&A案件で使われてきた手法であって、とりわけ、目新しいものではない。

周波数提供の期限設定
 Verizon Wirelessは、周波数取得後3年以内に周波数免許適用エリア内における人口30%の地域に対し、また7年以内には人口70%の地域に対し、サービスを提供しなければならない。
ローミングサービス提供の義務付け
 ローミングの提供を求めるワイアレス業者に対し、VerizonWirelessは、経済的に理のかなった条件により、商用モバイルデータサービスを提供しなければならない。サービス提供義務は、5年間で解除される。
FCCへの定期報告義務
 Verizonは、今回の協定実施後、DSL加入者数の動きについてFCCに対し、年2回の報告を義務付けられる。


当初の業務協定とその修正

表2 VerizonWirelessとケーブル会社(4社または3社)との業務協定
項目当初協定の内容付された条件の内容
VerizonWirelessとケーブル会社4社のサービスの相互販売VerizonWirelessとケーブル会社4社は、それぞれの営業エリアでサービスの相互販売を行う。VerizonWirelessに課された販売地域の限定:FiOSサービスが現に販売されている地域、および、将来、販売予定である地域での同社によるケーブル会社サービスの提供を禁じる。
VerizonWirelessとケーブル会社3社間の合弁会社の設立VerizonWirelessとケーブル会社3社(Fox)を除く)は、ワイアレスサービス、ワイアラインサービスを統合した新サービス発を目的として、合弁会社を設立する。合弁会社設立後、4年間経過後は、ケーブル会社は、他のワイアレス会社と同様の協定を結ぶことができる。すなわち、締結後、4年間で、この合弁会社協定は排他性を失う。

 表2第1項に示すとおり、当初の協定内容では、VerizonWirelessが自社のFiOS販売地域内において、競争業者であるケーブル会社のビデオサービスを販売するという奇妙な内容(互いに競争が展開されている地域で競争業者のサービスを販売する)のものであった。
 FCCがこの点に制約を加えたのは、あまりにも当然のことである。
 また、第2項は、将来、ケーブル会社3社は、VerizonWirelessが提供するワイアレス/ワイアライン共通ネットワークを通じて、これまで果たせなかった自社エリアにおける大々的なワイアレス通信サービス分野への進出を計画していること予想させる。

(2)DOJによるモニタリング措置およびVerizonWirelessの報告義務

  • DOJは、VerizonWireless、ケーブル会社3社が開発する技術、サービスを確実に他社に利用させるようにするため、モニタリングを実施する。

  • Verizonは、FCCに対し、今回の協定がVerizonによるDSL加入者数に影響が及ぶものであるかどうかを確認するため、年2回の報告を義務付けられる。


DOJ、FCC決定に対する強い批判−2事例の紹介

 DOJ、FCCは共に、VerizonWireline、ケーブル会社4社の業務協定の認可に際して、(1)明らかに反競争的行動、公益に反すると見られた当初の協定に多くの歯止めを掛け、こういった事態が起こらないようにしたこと(2)その他の点では、Verizonとケーブル会社4社間の協定は、高速周波数の利用、Verizon、ケーブル会社両者のサービス、技術のシナジー効果創出等によりブロードバンドの成長、公益に資するものであるとの判断を下している。
 しかし、当初からこの協定に反対の意を表明していた競争業者、消費者団体、一部国会議員等の利害者団体は、8ヶ月ほどの期間を費やしてDOJ、FCCが決定を下した最終決定についても、依然としてその反競争的、反公益的業務運営を導く危険性がある点を指摘している。
 以下、DOJ、FCC決定に対する痛烈な批判を行った2件の事例を紹介する。

(1)David Baldo氏(元DOJ反トラスト部門の検察官)の批判(注6)

 これまで、FiOSサービスは、ケーブルテレビ諸会社のビデオ、インターネットサービスに対する強力な競争事業者として、サービスの販売に努めてきており、この結果、これらサービスの市場の競争促進に大きな役割を果たしてきた。ケーブル会社のサービス販売地域をFiOS販売地域、販売予定地域に限定するとのDOJ、FCCが付した歯止め条件により、競争の低下は多少食い止められた。

  • しかし、VerizonWirelessは、現にFiOSサービスを提供していない地域、将来提供する計画がない地域のユーザ(筆者の推計では、同社音声加入者数の20%程度にはなると考える)は、本格的なビデオサービスの利用について、電話系会社からの利用を受けられなくなる。これは、ユーザ側から見て大きな利便の低下である。

  • VerizonWirelessは、FiOSサービス提供地域においいても、ケーブル会社に対し、協定を通じてビデオコンテンツの提供、サービスの相互接続、技術開発等のサービス提供により、援助することはできる。


 DOJ、FCCは、当初の協定から多くの譲歩を引き出したと主張するが、これは、隠れ蓑の発言に過ぎない。今後、VerizonWireless、ケーブル会社4社が、反競争的行動、公益に反する行動に訴える余地は大きく残っている。

(2)CWA−協定は、失業を増やし消費者の利益を損なうと声明(注7)

 電気通信関係の大手労働組合、CWAも痛烈に、安易にVerizonWirelessとケーブル会社4社の協定を認めたとして、FCCを非難している。
 CWAは、端的に、この協定は、実質的に大手ケーブル会社4社に対し、幾百万もの家庭に対するワイアラインおよびビデオの分野への独占を認めたものであって、この結果、ユーザのサービス、雇用に重大な悪影響をもたらすと指摘する。
 つまり、ある地域の消費者は、サービス選択のオプションに制約を受けるし、また、Verizonの従業員は、雇用カットを迫られることになると言うのである。
 さらにCWAは、今回のFCC決定は、インターネットの成長により、ユーザ数を増やし、雇用を増やすというオバマ政権のインターネット政策の公約と相反すると批判する。
 ちなみにCWAは、2011年8月に期限切れのなったVerizonWireless労使との労働協約の更改について、一年以上にわたり団体交渉を続けており、未だ、妥結に至らないという異常事態にある。CWAが冒頭に指摘しているように、FCCによる今回の協定の承認は、Verizonワイアレス部門の構造改革の促進を支援する働きをするものであることは明らかである。それだけに、CWAによるFCC批判の語調は鋭い。


(注1)DRIテレコムウォッチャー、2012年1月15日号、「Verizon Wirelessとケーブル事業者3社の業務提携の意義、インパクト」。
(注2)DRIテレコムウォッチャー、2010年3月15日号、「米国FCCブロードバンド計画報告書の概要(1)− 定まった米国ユニバーサル・ブロードバンドの定義 」。
(注3)FCCは、2012年8月23日、Verizonとケーブル会社との周波数売買、業務協定承認に関するプレスレリース、承認の本文、5人のFCC委員の声明文を発表した。
  • FCC NEWS “FCC concludes review of Verizon Wireless-Spectrum Co deal and approves related spectrum transactions
  • FCC Pulick Notice “FCC Established for monitoring the recent Verizon Wireless transactions” Memorandum Opinion and order and declaratory ruling
筆者の紹介記事は、特に断りがない場合、すべて上記資料によった。
本来、FCC、DOJが取り扱った今回の2件の事案は、AWS売買はFCC、業務協定はDOJと審理所管がそれぞれ分かれている。
従って、DOJは、別個に業務協定についての文書を発表していることは、もちろんのことである。しかし、FCC委員長Genachowski氏自身が言明しているとおり、協定審査に、FCCはDOJと緊密に協力し双方の事案の審議にあずかっており、FCCの裁定書には、業務協定についての記述も行われている。
ついでながら、FCC委員の声明文において、今回、共和党の2人の委員(Robert M Mc Dowell、Ajit Pal)は、この点を越権行為であると批判した。
上記の事情により、筆者は、DOJから発表された資料を参照する手間を省いたことをお断りしておく。
(注4)2012年6月25日付け、http:www.androidcentral.com, "T-Mobile buying AWS spectrum off Verizon in mondo deal."
(注5)2012年8月28日付け、http://www.electronistra.com, "Verizon finalizes spectrum deal with Leap Wireless."
(注6)2012年8月23日付け、http:www.huffingtonpost.com, "Half a loaf is not Enough: The DOJ's Approval of a Cable Cartel Will Harm Consumers."
(注7)2012年8月23日付け、http:www.multichanellcom, "CWA Slams Verizon/Spectrum Co Approval as Job Killer."

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