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DRI テレコムウォッチャー |
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AT&T、Verizon両社の業績良好の理由 - 2012年第2四半期の決算報告から
2012年9月15日号
今回は、AT&T、Verizon両社の2012年第2四半期の決算数値を紹介するとともに、この決算が米国経済の低迷にもかかわらず、良好であった理由の幾点かを説明する。
決算数値の紹介自体は、毎決算期ごとに行っているので、今回は、本文と切り離し末尾に「参考」として表示した。本文をお読み頂けば明らかであるが、AT&T、Verizonがともに、あるいは、従業員の労働条件を引き下げて利益を拡大し、あるいは、待望のスマートフォン料金の従量制料金を実施してでも財務体質を改善し、ともかく収益を向上させようとする執念を感じさせる。
しかし、FCCが掲げているブロードバンドの品質向上、末端の低所得者層に対する普及の重要目標に対して、AT&T、Verizonが果たしてどれだけ貢献したのだろうか。
参考資料で明らかにされているとおり、両社のDSL回線数は、急激に減少を始めており、このサービスが光ファイバーによる本格的な固定あるいは携帯の高速ブロードバンドサービスに移行しつつある。しかし、肝心の両社の光ファイバーサービス(AT&TのU-Verse、VerizonのFiOS)の加入者の伸びは、たかだかDSLの減少分をカバーする程度に留まり、両社はブロードバンド普及率の増大にほとんど寄与しない。
AT&T、Verizonの長期にわたっている増益の伸びは、確かに素晴らしい。しかしこれは、企業自体あるいは株主の観点から見て好ましいものであるにせよ、従業員、利用者の視点からして、果たして健全なものかどうかの批判も高まることが予想される。
スマートフォン競争を通じ利益を伸ばすAT&T、Verizon − 揺らがぬVerizonの優位(注1)
毎期、四半期の決算期ごとに、VerizonとAT&Tの業績比較をウオッチしているのであるが、AT&Tは、総合のワイアレス加入者数でVerizonを上回っているとか、Verizonに先んじてiPhoneを導入したとか、センセーショナルな情報を提供しているので、業績もVerizonより良いのではないかと錯覚してしまう。
ところが、2012年第1四半期、2012年第2四半期と最近の2回の四半期決算をチェックした結果からすると、ワイアレス部門におけるVerizonの優位性は、ここ当分の期間、揺らぎそうにもない。ここでは、携帯電話機、スマートフォンの販売状況を紹介して、Verizonの優越さの証拠を補強しておく。
表1 2012年第2四半期におけるAT&T、Verizonのスマートフォン販売数(単位:万)
項目 | Verizon | AT&T |
期間 | 2012 2Q | 2012 1Q | 2012 2Q | 2012 1Q |
iPhone | 270 | 320 | 430 | 270 |
他のスマホ | 320 | 310 | 120 | 260 |
計 | 590 | 630 | 550 | 530 |
表1によれば、(1)スマートフォン総数の販売数において、Verizonが2期とも、AT&Tを上回っていること(2)スマートフォンに占めるiPhoneのシェアが、AT&Tで高まっているに比しVerizonでは低くなっていることの2点が特徴的である。
この数字は、Verizonが、(1)LTEネットワークの拡張を大きく進めていること(現在、営業エリアの75%をカバー)(2)Samsung等のLTE対応スマートフォンの販売に力を入れていることの点を勘案すると、納得できる結果である。
また、従来、AT&Tが専売していたiPhoneをVerizonも販売できるようになったため、同社のスマートフォンの販売先として、Appleが新規に加わったため、同社のスマートフォン市場が大きく拡大、これがAT&Tに対する強みとなっている。
要するに、Verizonのワイアレスネットワークと同社が提供するワイアレスサービスは、米国ワイアレスキャリアの中で、従来から、最高の評価を得てきたのであり、ユーザからの信頼性の高さは、確固たるものである。この高い評価を基盤として積み重ねてきたAT&Tより大きいポストペイド加入者ベース(Verizon:約8,800万、AT&T:約7,000万)から生み出される収入の安定性が、AT&Tに対するVerizonの最大の強みなのであろう。
なお、2012年第2四半期、Samsungが米国市場において、どれだけの市場シェアを得ているかについては、iPhoneシェアの31%に対し、24%と拮抗しているとの情報もある。iPhoneが圧倒的に強い米国市場でも、Samsungの新型機種GalaxySBはiPhone4Sを急追しているのであって、Appleが特許訴訟等に見られるとおり、いかに、Samsungを最大の競争相手としてマークしているかがよく理解できる。
コスト節減、料金改定による利益拡大への努力
ワイアライン部門における経費節減の努力 ― 人件費の削減、労働条件切り下げ
表5、表6で明らかなとおり、ワイアライン部門ではAT&T、Verizonともに共通して、(1)収入で僅かながら減少傾向(2)営業利益はわずかながら増大の傾向が見られる。
両社ともに、相変わらず減少が止まらない音声回線減少に伴う収入減を経費節減、利用者当たり収入の増加で補うため懸命の努力を続けているが、それでも及ばないという状況が継続している。
経費の減少の努力は、人件費についてもその例外ではない。2011年第2四半期から、2012年第2四半期に至る1年間で、AT&T、Verizonはそれぞれ、258,870名→242,380名(−6,4%)、193,900名→188,200名(−3,5%)へと従業員削減を実施している。
また、すでに2011年7月15日付けのテレコム・ウォッチャーで紹介したとおり、期限切れになった後の労働協約改定についての交渉がAT&T、Verizonともに難航している(注2)。
最新情報によると、AT&Tでは、一部の組合員について、労使交渉が妥結した模様である。しかし、Verizonは、連邦の調停機関、Federal Mediation and Conciliation Services(連邦調停和解局)が懸命に労使間の主張の妥結点を求め調停に努めているのにもかかわらず、依然、組合員による健康保険の負担、年金等の基本問題について、労使双方の溝は埋まらない状況である(注3)。Verizonの場合、途中でストを含め、1年有余の期間を過ぎても、労使交渉が妥結しないとい事態、しかも、この事態を一般のジャーナリズムがほとんど報道しないという事実は、きわめて異常のことである。
AT&T、Verizonの両社、スマートフォンのデータサービスに従量制料金を導入
Verizon Wirelessは2012年6月から、また、AT&T MobileはVerizonに倣い同年8月から、スマートフォンのデータサービスについて、定額制をベースにするが、当初合意されていたデータ量をオーバーする場合は、月額1GB当たり10ドルを課金するという新料金をスタートした(注4)。
両社は、それぞれこの自社の新料金を“Verizon Share Everything”、“Mobile Share Plan”と名づけているが、その本質は、従来の掛け放題の料金制度を改め従量制に移行したことを示すものである。両社とも、ポストペイド加入者についてのスマートフォン利用者の数は、過半数(AT&Tは61.9%、Verizonは50%)を超えている。従って、ワイアレス料金に占める今回のデータサービスに対する従量制料金は、料金体系の主体になっていくだろう。
両社のサービスの名称は、家族のメンバーが有する複数の携帯端末すべてについて、この料金プランのトラヒックが加算されて適用されるメリットの側面を強調したものである、Verizon、AT&Tの従量制料金制度は酷似しているので、ここでは、Verizonの料金について、具体的な事例を示すと次のとおりである。
ユーザは、Verizonが指定する月額の使用データ最高限度(キャップ)とこれに対する料金の組み合わせの中から、選択する。6月に発表された層別料金(Tiered Price)は、公表されたもので、1GB(50ドル)、2GB(60ドル)、4GB(70ドル)、6GB(80ドル)、8GB(90ドル)、10GB(100ドル)であった。 その後、Verizonのウェブサイトには、次の5つの層別料金が付加されている。 12GB(110ドル)、14GB(120ドル)、16GB(130ドル)、18GB (140ドル)、20GB(140ドル)。
選択したGBをオーバーした場合、GB当たり、10ドルの追加料金の支払いが必要となる。
音声、テキストは、掛け放題である。
携帯端末は10個まで、この料金によってカバーすることを請求できる。その種類は、スマートフォンのほか、フィーチャフォン、タブレット、ホットスポットが含まれる。もっとも、各端末について、月額固定料は徴収される。各端末からの毎月の使用データ量は、集計され、総使用データ量について、単一の料金が賦課される。
Verizon、AT&T両社によるスマートフォン従量料金の導入は、FCCが2010年末、「オープン・インターネット」の規則を制定したとき、暗黙の了解を与えていたものであって、利害関係者は当然、予想していたものである(注5)。
ところが、いざ、実施に移されてみるとその将来に対する潜在的影響力が大きいことに驚かされる。本年、第3四半期、第4四半期に決算報告においてそのインパクト(多分、両社のさらに大幅な利益増、利用者からの苦情等)が明らかになるであろうから、その時期に、この料金導入のインパクトの詳細については、さらに紹介したい。
参考:AT&T、Verizon両社の2012年第2四半期の業績資料
表2 2012年第2四半期におけるAT&T、Verizonの収入、利益(単位:100万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
収入 | 31,575(+0.3%) | 28.552(+3.7%) |
営業利益 | 6,817(+10.6%) | 5,651(+15.5%) |
純利益 | 3,965(+8.4%) | 4,285(+18.9%) |
純利益率 | 12.6%(+11.6%) | 15.0%(+13.0%) |
(括弧内の数値は、2011年第2四半期対増減比)
表3 2012年第2四半期におけるAT&T、Verizonワイアレス部門の収入、利益(単位:100万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
収入 | 16,353(+4.3%) | 18,577(+7,4%) |
営業利益 | 4,937(+17,7%) | 5,713(+21.8%) |
営業利益率 | +30.3% | +30.8%(+27.1%) |
(括弧内の数値は、2011年第2四半期対増減比)
表4 AT&T、Verizonの2012年第2四半期における携帯電話加入者増加数、同期末における加入者数 (単位:10,000)
項目 | AT&T | Verizon |
2012年第2四半期加入者増数 ポストペイド加入者増数 プリペイド加入者増数 リセラーによる加入者増数 ネット接続機器加入者数 計 | 32.0(−3.3%) 9.2(−32.8%) 47.2(+90.3%) 38.2(+0.8%) 126.6(+15.6%) | 88.8(−29.4%) 29.0(+475.4%) *1 *2 117.8(−10.6%) |
2012年第2四半期末加入者数 ポストペイド加入者数 プリペイド加入者数 リセラーによる加入者数 ネット接続機器加入者数 計 | 6966.6(+1.9%) 747.3 (+10.7%) 1438.2(+14.9%) 1368.5(+24.5%) 10520.6(+6.7%) | 8883.8(+4.2%) 531.6(+19.6%) *1 *2 9415.4(+4.9%) |
1. | 括弧内数値は、前年同期に対する増減比である。 |
2. | 項目のタイトルは、AT&Tの項目の枠組みに従ったので、Verizonには、*1、*2のように、空欄ができた。Verizonでは、リセラーによる加入者数、ネット接続機器加入者数を別掲せず、これら加入者数を“ポストペイド”、”プリペイド“に割り振っている。 |
表5 2012年第2四半期におけるAT&T、Verizonワイアライン部門の収入、利益(単位:100万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
収入 | 14,904(−0.8%) | 9,931(−3.1%) |
営業利益 | 2,053(+2.2%) | 188(−40.9%) |
営業利益率 | 13.8%(13,4%) | 1.9%(3.1%) |
(括弧内の数値は、2011年第2四半期に対する増減比)
表6 2012年第2四半期におけるAT&T、Verizonのワイアライン部門の音声・ブロードバンド回線数 (単位:1000)
項目 | AT&T | Verizon |
音声回線加入者数 | 36,841(−10.8%) | 23,278(−6.9%) |
ブロードバンド加入者数 | U-Verse:4,146(+21,7%) Sarellite:1,684(−9,1%) DSL:8,687(−6,2%) 計 14,517(−0.0%) | FiOS Internet:5,144(+14.9%) 高速DSL等:3,632(−10.8%)
計 8,776(+2,6%) |
(括弧内の数値は、2011年第2四半期に対する増減比)
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