今回は、世界市場における携帯電話、スマートフォンの出荷状況(2012年第2四半期)を紹介する。
2012年第1四半期の同様のデータについては、2012年6月1日号に掲載してあるので、合わせて参照頂きたい(注1)。
前回の報告の場合同様、最近の携帯・スマートフォン業界では、Samsung、Apple両社の急ピッチなシェア拡大、市場寡占化に向けての流れが進んでいる。両社以外のメーカは、中国のZTEを例外として、おおむね出荷数が減少し、市場シェアを失っている。
典型は、Nokiaであり、同社は、現在は転換期であり今後再建できるとしているが、赤字が継続している。
出荷数の数値からするとSamsungがAppleを大きく引き離しつつあるのだが、利益の点で、SamsungがAppleに到底及ばない。その理由は、Appleの売り手市場を掌握している点からするキャリアとの特殊な個別契約方式(原則として1台当たりの高い報酬をApple側が要求し、この条件を呑むキャリアだけに販売を認める)にある。この点も良質のネット資料が得られたので説明を加えた。
この原稿執筆時、米国のメディアは、(1)iPhone4Sに次ぐLTE対応iPhone機種(iPhone5となる可能性が強いが未公表)の販売が9月中(9月12日との予想もある)に始まると予想されること、(2)(1)と関連し、Appleの株価が急騰しており、8月20日、過去最高の6235億ドル(マイクロソフトが1999年に達成)を抜いたこと、(3)米国において、裁判所がAppleが提起した特許侵害訴訟に勝訴し、Samsungに10億ドル超の賠償支払いを命じた、等のニュースを報じている。
Appleの総帥、Steve Jobs氏が死去して、早くも1年近くが経過するが、Appleの猛進撃にいささかも衰えが見えない。IT業界において、あまりにも巨大なAppleの存在自体が問題になる時期が到来するのかもしれない。
Samsung、携帯電話市場1位の地位を固める - 5大携帯電話メーカ中3社がアジアメーカに(注2)
表1 2012年第2四半期における世界5大メーカの携帯電話出荷数(単位:100万)
メーカ名 | 2Q 2012 | 2Q 2011 | 増減率 |
Samsung | 97,8(24.1%) | 75.4(18.8) | +29.7% |
Nokia | 83.7(20.6%) | 88.5(22.0%) | −5.4% |
Apple | 26.0(6.4%) | 20.4(5.1%) | +27.5% |
ZTE | 17.7(4.4%) | 16.3(4.1%) | +8.6% |
LG Electrics | 13.1(3.2%) | 24.8(6.2%) | −47.2% |
その他 | 167.7(41.3%) | 176.4(43.9%) | −4.9% |
計 | 406.0(100%) | 401.8(100%) | +1.0% |
(括弧内の数字は、マーケットシェアを示す。)
表1から読み取れる携帯電話グローバル市場の主な動向は、次のとおりである。
2011年第2四半期に、携帯電話出荷数においてNokiaを抜いたSamsungは、2012年第2四半期も業界トップの地位を固めた。
Nokiaは、携帯電話出荷数の総数では2位の座を保ってはいるものの、後述するとおり大幅な赤字を計上している。
総じて、5大携帯電話市場は、成長しつつあるSamsung、Apple、ZTEと減速が著しいNokia、LG Electrics等の勝ち組、負け組みに2極化している。2極化現象は、次項で述べるとおり、スマートフォンのメーカ、スマートフォンのOS相互間においても、さらに顕著に見られる。
Samsung、スマートフォンでもAppleを大きく引き離す - 注目される中国メーカZTEの台頭
表2 2012年第2四半期における世界5メーカのスマートフォン出荷数(単位:100万)
メーカ名 | 2Q 2012 | 2Q 2011 | 増減率 |
Samsung | 50.2(32.6%) | 18.4(17.0%) | +72.8% |
Apple | 26.0(16.0%) | 20.4(18.8%) | +27.5% |
Nokia | 10.2(6.6%) | 16.7(15.4%) | −38.9% |
HTC | 8.8(5.7%) | 11.6(10.7%) | −24.1% |
ZTE | 8.0(5.2%) | 2.0(1.8%) | +300.0% |
その他 | 50.7(32.9%) | 39.2(36.2%) | +29.3% |
計 | 153.9(100%) | 108.3(100%) | +42.1% |
スマートフォンでもSamsung、Appleが2強であり、両社で市場の約50%を押さえている。今後も両社のシェアが一段と高まっていくものと見られ、寡占化の傾向が見られる。
Nokiaの市場シェアは、一年間で15.4%から6.6%へと3分1程度まで低下してしまった。同社は、携帯、スマートフォンの両市場において、それぞれ2位、3位の地位をともかく保ちはしたものの、業務の縮小傾向に歯止めが掛らず、また赤字も嵩んでいる。
中国最大の携帯電話メーカ、ZTEは、成長の激しい国内市場に加え、欧州、ラテン・アメリカ諸国への進出も順調である。
携帯電話出荷数総体の伸びが停滞するなかで、高まって行くスマートフォン出荷数の比率
表3 2012年第2四半期における携帯電話の内訳別出荷数(単位:100万)
メーカ名 | 2Q 2012 | 2Q 2011 | 増減率 |
スマートフォン | 153.9(37.9%) | 108.3(26.9%) | +42,1% |
一般携帯電話 | 252.1(62.1%) | 293.5(73.1%) | −14.2% |
計 | 406.0(100%) | 401.8(100%) | +1.0% |
(一般携帯電話(多機能付き電話を含む)の数値は、「携帯電話出荷数の計」−「スマートフォン出荷数」から求めた。)
表3が示すとおり、2011年第2四半期から2012年第2四半期に掛けての1年間で、携帯電話出荷数の成長率は、僅か1%程度である。これは、さしも旺盛であった携帯電話の新規需要が、グローバルに飽和に向かっており、出荷数のほとんどが、取替え需要によるものであることを推測させる。
携帯電話のうちのスマートフォンの出荷数の成長率が、年間40%強と高率である点は、取替需要のうち一般電話→スマートフォンへの転換が急速に進んでいることを示すものであろう。
表3から算出した携帯電話に占めるスマートフォンの出荷比率は、37.9%である。
スマートフォンから一般電話への移行には上限(たとえば50%とか60%とか)があることは確実と見られるが、少なくとも、今後、スマートフォンの出荷数の増は、当分継続するであろう。
AndroidとiOS、OS市場の80%を制覇(注3)
表4 2012年第2四半期におけるOS別スマートフォンの出荷数(単位:100万)
OS名 | 2Q 2012 | 2Q 2011 | 増減率 |
Android | 104.8(68.1%) | 50.8(46.9%) | +106.5% |
*1 iOS | 26.0(16.9%) | 20.4(18.8%) | +27.5% |
*2 Blackberry OS | 7.4(4.8%) | 18.3(16.9%) | −40.9% |
*3 Symbian | 6.8(4.4%) | 12.5(11.5%) | −62.9% |
*4 Window Phone7 Window Mobile | 5.4(3.5%) | 2.5(2.3%) | +115.3% |
Linux | 3.5(2.3%) | 3.3(3.0%) | 6.3% |
その他 | 0.1(0.1%) | 0.6(0.5%) | −80.0% |
計 | 154.0(100%) | 108.3(100.0%) | +42.2% |
(表4の資料は、IDCのWorldwide Mobile Phone Tucker)
*1 | iOS:Appleのスマートフォン、iPhoneのOS |
*2 | Blackberry:カナダRIM社のOS |
*3 | Symbian:NokiaのスマートフォンのOS |
*4 | Windows Mobile:MicrosoftのスマートフォンOS。Window Phone7:Microsoftの最新の第4世代ネットワーク対応のOS。MicrosoftとNokiaの提携により、現在、NokiaはこのOS搭載のスマートフォン販売に社運を賭けている。 |
表4から見ると、次のように、特定OSの市場制覇が際立つ。
Androidの成長は著しく、今や単独でグローバルOS市場の約70%を占めるに至った。iOSの成長も依然として高いが、この期は減速している。これは、AppleのLTE対応iPhone5の市場化が遅れていることが大きく影響しているものと見られている。Android、iOSの両OSで世界OS市場の85%が占められている。
かつてスマートフォンOSの雄であったSymbian、Blackberryは4位、5位のシェアを保っているが、これらOSを搭載するスマートフォン出荷数の減速は著しい。なお、Symbianは、Window Phoneへの移行を決定しており、このOS搭載スマートフォンの出荷は、今後、過渡的なものに留まる。
マイクロソフト、Nokiaの両社は、莫大な労力、広告費を掛けて、Window PhoneOS搭載機器の販売を行っている。その成果が、OS市場第5位の地位の確保となって結実した。しかし、Window Phoneの評判はかなり良いものの、爆発的な成果を収めてはいない。Nokiaの財務は赤字であり、同社の経営不振はなおも継続するだろう。
Apple、Samsungの2社が108%の利益を生み出すスマートフォン業界
これまで、2012年第2四半期の携帯・スマートフォン市場について、出荷数の面から、数量的な統計データを紹介してきた。当然、出荷を行っているメーカの利益面での実態はどうかに関心が向けられるはずである。この点について、ネット情報、Digital TrendのGeoff Duncan氏は、Apple、Samsungがいかに利益を独り占めしているか、また、利益率において、AppleがいかにSamsungに勝っているか、さらには、スマートフォン業界におけるApple、Samsungに次ぐ第3の強力な事業者の登場期待について、優れた論説を発表している(注4)。
以下、この論文の骨子を紹介する。
他社に利益計上を許さないApple、Samsungの強さ
表2に示したとおり、2012年第2四半期におけるSamsung、Apple両社のスマートフォン市場の出荷数のシェアは、それぞれ32.6%、16.0%であって、両社で市場のほぼ50%を押さえている。
ところで、ある調査会社の調査によれば、両社の利益のシェアは、それぞれ37%、71%であって、両社の市場シェアの合計は108%。つまり、両社以外の平均利益のシェアは−8%であって、利益分野での勝組、負組は際立っている。
個々のメーカの利益(損失)の状況は不明であるが、かなりのメーカは、赤字計上をしているのではないかと見られる。
たとえばNokiaは、この期、13億ユーロの赤字を計上した。売り上げが78億ドルに達する大企業であり、なおかつ黒字が生み出せないというのは、いかにこの業界の競争が激しいかを物語るものである。
対照的なAppleとSamsungのマーケティング戦略
Appleは、出荷数では、Samsungに後れを取っているものの、利益額では、はるかに、Samsungを凌いでいる(すでに述べたとおり、Appleの利益額は、Samsungの倍以上)。
これは、Appleが他のスマートフォンメーカに比し、キャリアとの契約において、他社と比較にならないほどの好条件で、iPhoneを卸売りしていることによるものである。iPhoneのみが、完全に売り手市場で、キャリアとの契約交渉ができるので、キャリア側の犠牲(キャリアは、高値で買い取ったiPhoneをコスト割れの価格で顧客に小売し、この赤字を月々の月額料金により埋め合わせていく)により、いわば超過利潤を手中に収めているのである。
これに比し、Samsungの営業政策は、通常の市場競争に立脚している。スマートフォンの品揃えに、重点を置き、特に、最新のLTE対応の機種GalaxySBの売れ行き好調が、同社野業績を大きく支えている。この点、2011年7月に発売されたiPhone4S(第3世代携帯ネットワーク対応)以来、新機種を出していないAppleに比し、優位のマーケティングを進めており、これが、2012年第2四半期に出荷ベースで、Appleとの差を広げた大きな原因だと見られている。
メーカの寡占的支配を望まない米国キャリアの動き ー Microsoft/Nokia連合のチャンス
キャリア側からすれば、スマートフォンのメーカの力が強くなり過ぎるのは、好ましくない。Appleとの契約が示すとおり、スマートフォンを顧客に対し赤字で販売し、長期間にわたる料金収入により、やっと利益を得るようなマーケティング方法では、利幅が薄いからである。
Verizon Wirelessの小売店では、Appleより他機種に対し報奨金を多く支出しており、販売員も新規顧客に対し、まずApple以外の機種を勧めているという。
すでに、見てきたとおり、現在、Samsung、Appleに次ぐ第3位の業者は、シェアを大幅に減らしているNokiaであるが、一桁台のマーケットシェアでは、競争に影響を及ぼさないので、ぜひとも、同社の奮起が望まれるところである。
(注1) | DRIテレコムウォッチャー、2012年6月1日号、「主役の交代が進む携帯電話製造業界」。 |
(注2) | 本文の最初の2つの項の表、記述は、主としてIDCの報告書を基にしたものである。次のネット資料から孫引きした。 2012.8.2付け、http://www.androidauthority.com、"IDC report shows Samsung leading the way in Q2 smartphone shipments." |
(注3) | この項の数値、説明は、主として、次のIDCプレスレリースによった。 2012.8.8付け、http://www.idc.com/、"Android and iOS Surge to New Smartphone OS Record in Second Qoater, According to IDC." |
(注4) | 2012.8.6付け、"How Apple and Samsung cornered al smartphone profits." |
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