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DRI テレコムウォッチャー |
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AT&T、Verizonの2012年第1四半期決算:両社ともに増収・増益
2012年6月15日号
AT&TとVerizonは、2012年4月下旬、相次いで2012年次初の四半期決算(2012年次第1四半期決算)を発表した。
両社とも、2011年第1四半期に比すれば、増収増益の決算であり、両社のCEO会長であるRandall Stephenson氏(AT&T)も、Lowell MacAdam氏(Verizon)も業績好調の決算結果を誇示するとともに、将来の経営についての自信を示した。
この好決算は、マクロ的に見れば、米国のITC業界が、特にスマートフォンが引き起こした劇的な技術革新応用の波(消費者、ビジネス需要のスマートフォンおよびタブレット等関連端末需要の急上昇、これに伴う音声→データへの急激な需要等)が進展しているさなかにあって、Verizon、AT&T両社が、ITCインフラサービスの提供という重要な役割を果たしている過程で、着実に、業績の保持、向上を果たした事実を示すものである。
詳細については、以下、本文(今回、資料の提示において、やや末梢の分野まで入り過ぎたきらいがあるが)をご覧頂きたい。
収入・利益の伸びの双方でAT&Tを抜いたVerizon
表1 2012年第1四半期におけるAT&T、Verizonの収入・利益(単位:100万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
収入 | 31,822(+1.8%) | 28,242(+4.6%) |
営業利益 | 6,101(+5.0%) | 5,195(+16.7%) |
純利益 | 1,865(+3.5%) | 3,906(+19.7%) |
純利益率 | +5.9%(+5.8%) | +13.8%(+12.0%) |
(括弧内の数値は、2011年第1四半期対増減比である。)
表1 に示すとおり、AT&T、Verizonもともに、増収・増益の決算であった。
これまで、両社ともに、スマートフォンの売り上げが、自社の業績に大きく貢献してきた点を強調してきた。しかし、2012年第1四半期の実績は、スマホのみならず、インターネット、データサービスがいずれも好調であった。
特に、Verizonの業績が際立って向上し、AT&Tにかなりの差を付けている点が注目される。その原因は、次項のワイアレス、ワイアライン部門別の両社業績の比較を通じて、明らかにする。
ワイアレス部門 ― 加入者数の安定的確保でAT&Tに勝るVerizon
表2 2012年第1四半期におけるAT&T、Verizonワイアレス部門の収入、利益(単位:100万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
収入 | 14,566(+4.3%) | 14,866(+8.9%) |
部門純利益 | 4,374(+11.3%) | 5,217(+19.9%) |
部門純利益率 | +30.0% | +35.5% |
(括弧内の数値は、2012年第1四半期対増減比を示すこと。)
表2から読み取れる主な事項は、次の2点である。
AT&T、Verizonともに、堅実な増収、増益を示している。また、収入の伸び率に比し、利益の伸びが際立つ。収入の伸び率は、2011年通年は、AT&Tが8.1%、Verizonが10.6%であったのであり、この期、伸び率が鈍化している。
AT&T、Verizonの両社を比較すると、Verizonの方が、収入、利益の双方でAT&Tを上回っている。これは、従来から引き続いていることであって、Verizonのワイアレス運営が、本質的にAT&Tより堅実(ネットワークの高度化、事業の根幹となるプリペイド加入者比率の高さ等々)であることによるものであろう(注1)。
AT&T、Verizonともに大きく鈍化している携帯電話加入者増加数
表3 AT&T、Verizonの2012年第1四半期における携帯電話加入者増数、 同期末における加入者数(単位:万)
項目 | AT&T | Verizon |
2012年第1四半期加入者増数 ポストペイド加入者数 プリペイド加入者数 リセラーによる加入者数 ネット接続機器加入者数 調整 | 18.7(+201%、−74%) 12.5(+47.1%,−21.4%) 18.4(−67.2%、−82.2%) 23.0(−82.0%、−77.6%) −3.3(*+12) | 50.1(−44,7%、−58,5%) 23.3(*−27、−7.5%) *1 *2 |
計 | 72.6(−63.4%、−71.0%) | 73.4(−16.5%、−49.3%) |
2012年第1四半期末加入者数 ポストペイド加入者数 プリペイド加入者数 リセラーによる加入者数 ネット接続機器加入者数 | 6940.3(+2.0%、+1,3%) 736.8(+11.4%、+2.0%) 1386.9(+13,3%、+1.6%) 1330.0(+25.4%、+2,0%) | 8790.3(+4,7%、+0.7%) 502.5(−4.6%、−5.0%) *1 *2 |
計 | 10394.0(+6,6%、+0.7%) | 9298.3(+5,2%、不明) |
1、 | 上表の括弧内数値は、*の付いた2件(実績値)を除きいずれも、増減比である。 最初の数値は、前年同期に対する増減比、2番目の数値は、前期に対する増減比を示す。 |
2、 | 項目のタイトルは、AT&Tの項目の枠組みに従ったので、*1、*2のように、Verizonには、欠けている数値がある。Verizonは、リセラーによる加入者数、ネット接続機器加入者数を取り出して計上することを止め、これらを “ポストペイド” “プリペイド” に割り振ったのである。 |
表3から、(1)加入者増の絶対数が、AT&T、Verizon両社とも、ほぼ同程度で70万台となったこと。(2)加入者数増率は、2011年第1四半期に比し、AT&Tでは大幅に(−63.4%)、また、Verizonにもかなり大きく(−16,5%)低下したこと。(3)さらに、前期(2011年第4四半期)に比しても、大きな減少(AT&T−71%、Verizon−49.3%)を示していること。(4)さらに、2011年末の加入者数を2010年末の加入者数と比較すると、AT&T、Verizon両社とも、5%ないし、6%と一見、堅実な成長を行ったかに見えるものの、これは、2011年第1四半期から、第3四半期の高成長に支えられてきたことによるものであって、2012年第4四半期における加入者増率はほとんど、貢献していないことが明らかになる。
一部のアナリストたちも、上記のような数値の検討を通じ、携帯電話の成長の時期は終り、量的競争から質的競争(一般携帯電話→スマートフォンへの移行、音声→データへの移行)への変化が進行していると評している(注2)。
Verizon、スマホ販売合戦でAT&Tに雪辱
表4 2012年第1四半期と2011年第1四半期におけるAT&T、Verizon両社のスマホ加入者の増、 スマホ機器販売数(単位:100万)
項目 | AT&T | Verizon |
2012 1Q | 2011 1Q | 2012 1Q | 2011 1Q |
スマホ加入者数 | 18.7 | 71.7 | * 50.1 | 96.9 |
スマホ販売数 | 550.0 | 940.0 | 630.0 | 770.0 |
(内)iPhone 非iPhone | 430.0 120.0 | 760.0 180.0 | 320.9 310.0 | 430.0 340.0 |
* | Verizonのスマホ加入者純増のこの50.1万の数字をAT&Tの純増数18.7万と同次元で取り扱ってはいけない。Verizonの数字には、表3下部の“注2”で述べたとおり、リセラーの販売数、ネット接続機器も含まれているからである。しかし、これら接続機器分を差し引いても、2012年第1四半期に、Verizonのスマホ販売数がAT&Tを上回っている(多分、大きく)事実に変わりはないはずである。 |
表4から、次の事実を読み取ることができる。
スマホの販売数競争では、AT&T、Verizon両社が角逐している。その総数において、2011年第4四半期、AT&TはVerizonを抜いていたが、2012年第1四半期には、Verizonに引き離された。
両社ともに、スマホのうち、iPhoneが、相当の比率を占めている。iPhoneが2011年2月にVerizonにも販売を認められて以来、AT&T、Verizon両社は、激しい争奪戦を展開したが、結果は、収まるべきところに収まった感がある。Verizonは、大きくAT&Tからシェアを奪い、iPhoneを自社の主力スマホ機種に組み込むことに成功した。しかしiPhone販売数におけるAT&Tの首位は揺らいでいない。
スマホ電話機の販売数に比し、スマホ加入者の増分が少ないのには、驚かされる。これは、スマホに対する需要の多くは、加入者の機種変更(スマホ相互、一般電話→スマホを含む)であって、新機購入が少ないことによる。逆に言えば、米国における携帯電話に対する需要が、飽和しつつあることを示すといってよい。
スマホ加入者の増加数では、2期ともに、VerizonがAT&Tをリードしている。しかし、現在、特に、近い将来、携帯ネットワークの主流になると見られるLTEネットワーク(4G)の発展に伴い、需要増が見込まれるLTE対応用機器の販売が、盛んになっており、Appleも2012年秋には、iPhone新機種(LTE対応)を市場に出すと見られておる。AT&T、Verizon両社のスマートフォン市場を巡っての競争は、まだまだ続く。
2012年第1四半期におけるAT&T、Verizonワイアライン部門の業績比較
表5 2012年第1四半期におけるAT&T、Verizonワイアライン部門の業績比較(単位:100万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
収入 | 14,928(−0.8%) データ 7795(+8.7%) 音声 5,893(−10%) その他 1,240(−6.8%) | 9,945(−0.7%) *1 マス市場 4,103(+0.6%) *2 グローバル企業 3,852(+0.9%) *3 グローバル卸 1,861(−8.9%) |
部門利益 | 1,823(+2.4%) | 157(−45.5%) |
部門利益率 | 12.2%(11,8%) | 1.6%(2.9%) |
(括弧内の数値は、2011年第1四半期の数値に対する増減比である。)
*1 | Mass Marke:住宅用・小企業通信部門。FiOS Internet、FiOSTVのサービスを含む。 |
*2 | Global Enterprise:Strategic ServiceとCoreの両部門からなる。大中企業向けサ−ビス機器を提供する。 |
*3 | Global Wholesale:*2のサービスを他業者に卸売りするサービス。 |
表5に示すとおり、ワイアライン部門では、これまでと同様、両社ともに収入が減少しているが、その減少比率はわずかであり、ようやく、下げ止まり傾向が見られる。
これは、次項で述べるように、両社の光ファイバーサービス(AT&TのU—Verse,VerizonのFiOSが、ようやく、収入の大きな柱のなるほどの規模に達してきたこと、さらに、ビジネス用データの伸びが(クラウド・サービスのなど)が堅調であることによる。
ただ、ワイアレス部門では、その規模、利益率において、Verizonが危機的状況にある事実には、変わりがない。
減少する住宅用サービスを補えるようになったAT&T、VerizonのU-Verse、FiOSサービス
表6 2012年第1四半期におけるAT&T、Verizonの音声回線・ブロードバンド加入者数(単位:1000)
項目 | AT&T | Verizon |
音声回線加入者数 | 37,878(−10.8%) | 23,700(−6.9%) |
ブロードバンド加入者数 | U-Verse: 3,991 (+24.5%) Sattelite: 1,732(−8.2%) DSL: 8,677(−5.4%) 計 14,595(−0.6%) | FiOSInternet: 5,010(+16,8%) 高速DSL等: 3,764(−10,4%)
計 8,774(−3.3%) |
(括弧の中の数値は、2011年第四半期の数値に対する増減比率である。)
表6においては、顕著な動向3点のみを指摘しておく。
音声回線の減少は、AT&T、Verizonともに、依然として強い勢いで続いている。
ただし、光ファイバーによる大きな加入者増、さらに、ワイアレス部門における加入者の増を勘案すると、音声回線を解約した加入者の相当部分は、(1)一部は、ワイアライン→ワイアレスへ(いわゆる、“Cut the cord”)、(2)一部は、光ファイバーあるいは、DSLによる音声サービス利用に流れていったのであって、少なくとも、収入面においては、両社に財務面での負担を掛けていないという推計が、裏付けられている。
DSL回線の減少も定着した感があり、今や、この回線は、光ファイバーに吸収されつつある傾向が明らかとなった。問題は、光ファイバーの成長がMSO(Comcast、TimeWarner等大手ケーブル事業者)に比し遅れを取っているのではないかという点である。また、VerizonのFiOSに遅れて、サービスインしたAT&TのU-Verseが、技術的に不完全な技術であるはずなのに、ここ数年来、大きく加入者数を伸ばし、加入者数においても、FiOSを大きく追い上げている点が注目される。
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