DRI テレコムウォッチャー


主役の交代が進む携帯電話製造業界
― 携帯、スマートフォン出荷数の双方でトップの座を占めたSamsung

2012年6月1日号

  携帯電話、スマートフォンの2011年通期における出荷状況については、2012年3月、テレコムウォッチャーで紹介したところである(注1)。
 今回は、前回の記事に引き続き、2012年第1四半期における同様の資料について報告する。
 このはしがきでは、2001年通期の記事で明らかになっていたSamsung、Appleによる市場制覇の動向、その後わずか3ヶ月で一層に進行したこと、その結果、Samsungによる携帯電話器、スマートフォン双方の業界トップの地位達成、この業界における旧来の覇者であったフィンランドの巨大ITC企業、Nokiaの転落が、最大のハイライトである点を強調するにとどめる。
 細部は、本文をお読み頂きたい。


Samsung、携帯電話出荷数でも首位の座に(注2)

表1 2012年第1四半期における世界5大メーカの携帯電話出荷数(単位:100万)
メーカ名1Q 20121Q 2011増減率
Samsung93.8(23.5%)69.3(17.1%)+35.4%
Nokia82.7(20.8%)108.5(26.8%)−23.8
Apple36.1(8.8%)18.6(4.6%)+88.4%
ZTE19.1(4.8%)15.0(3.7%)+27.0%
LG Electronics13.7(3.4%)24.5(6.1%)−44.1%
その他134.0(38.7%)168.4(41.7%)−8.6%
398.4(100%)404.3(199%)−1.5%
(括弧の中の数値は、マーケットシェアを表す。)

  • Samsungは、この期、大きく携帯電話の出荷数を伸ばし、一気に携帯電話業者のトップに踊り出た。次項のスマートフォンの統計資料(表2)の説明で述べるとおり、この転換は、同社のスマートフォン出荷の急増によるものである。

  • Nokiaは、出荷数を大きく減らし、一挙に首位Samsungに引き離され、業界2位に転落した。これの原因も、スマートフォン出荷の落ち込みによる。

  • 3位のZTEは、中国最大の携帯電話メーカである。好調な出荷数の伸びは、主として、きわめて大きな国内市場から得られたものである。現在のところ、販売している大半の電話機は、通常の電話機および多機能電話機が多い。同社は、スマートフォンの販売にも力を入れており、2012年次には、1億台のスマートフォン販売(主として国際市場用)に、力を注ぐ戦略を取っている。

  • Appleの携帯電話は、そのすべてがスマートフォンである。Samsungに比し、Appleが及ばなかった理由についても次項で触れる。


Samsung、スマートフォンでも首位の座を堅持

表2 2012年第1四半期における世界5大メーカのスマートフォン出荷数
メーカ名1Q 20121Q 2011増減率
Samsung42.2(29.1%)11.5(11.3%)267.0%
Apple35.1(24.2%)18.6(18.3%)88.7%
Nokia11.9(8.2%)24.2(23.8%)−50.8%
RIM9.7(6.7%)13.8(13.6%)−29.7%
HTC6.9(4.8%)9.0(8.9%)−23.3%
その他39.1(27.0)24.5(24.1%)+59.6%
144.9(100.0%)101.7(100%)+42.5%
(括弧の中の数値は、マーケットシェアを表す。)

 表2は、表1と同じ期間の出荷数をスマートフォンについて計上した。この表によれば、2011年第1四半期と2012年第1四半期の一年間に、スマートフォンの主要メーカの間に、いかに大きな地殻変動が生じたかがよく判る。

  • SamsungとNokiaの地位が逆転した。2011年第1四半期には、Nokiaは、スマートフォンで首位の位置を占めていたが、Nokiaの出荷数が半減、シェアも大きく減らし(23.8%→8.2%)、3位へと転落した。この理由は、ひとえに、同社のスマートフォンOS、Symbianが、新世代OS(すなわち、AppleのiOS、GoogleのAndroid)に対し、全く競争力を欠いていることにある。

  • Samsung は、この一年間で、Nokia転落のコースを逆に辿り、トップの座に躍進した。すなわち、年間2.7倍近く出荷を増やし、市場シェアを3倍近く伸ばす(11.8%→24.2%)ことに成功した。これは、同社がAndroid OS搭載の機種(LTE対応機種も含めて)を数多く商用化した点に負うところが大きい。

  • Appleの躍進も目覚しい。Appleは2011年第4四半期には、スマートフォンで首位の座を占めていたのであって、2012年初頭には、同社が、Samsungに追い抜かれると予想するアナリストはほとんどいなかった。Appleが遅れを取ったのは、最新機種iPhone4Sが、好調な売れ行きを続けているものの、LTE(対応機種第4世代ディジタルネットワーク)対応の機種を市場に出していない(2012年秋にも、商用化されると噂されている)による点が大きいだろう。しかし、いつも売り手市場(iPhone販売権を求め、同社と交渉する携帯電話キャリアは、今でも数多い)を背景として、他の携帯メーカと差異を付けうる優位な立場にあるAppleが、Samsungをはるかに上回る売り上げ高、利益を挙げている点は、注目すべきである。

  • 表2は、スマートフォン・メーカの両極化を端的に示している。快進撃を続けるのは、SamsungとAppleの2社のみで、他の3社は、出荷数を大きく減らしている。しかも、市場シェアは、軒並み一桁台。ほんの数年前まで、特に米国市場で、スマートフォンの最大のメーカであったカナダのRIMも、斜陽企業になりつつある。


スマートフォン出荷数が支える携帯電話産業

表3 2012年第1四半期における携帯電話の内訳別出荷数(単位:100万)
メーカ名1Q 20121Q 2011増減率
スマートフォン144.9(36.4%)101.7(25.2%)+42.5%
*一般携帯電話263.5(72.6%)302.6(74.8%)−16.3%
398.4(100%)404.3(100.0%)−1.5%
(一般携帯電話(多機能付き携帯電話を含む)の数値は、「携帯電話出荷数の計」―「スマートフォン出荷数」により求めた。)

 2011年第1四半期から2012年第1四半期の一年間における、スマートフォンと一般携帯電話の対照的な増減傾向の差は、表3によって、明らかになる。
 すなわち、  

 携帯電話の出荷数は、この期、はじめて1.5%の減少に転じた。これは、携帯電話産業 の需要が総体として、飽和に達したこと(最近、継続している不況の影響はあるにせよ)を示すものとして注目される。
 携帯電話出荷数が減少した原因として、スマートフォンを除く一般電話出荷数の大きな減少(16.3%)が上げられる。スマトートフォンの40%強にも及ぶ増加によっても、この減少をカバーすることができなかった。つまり、携帯電話産業での出荷数の主体は、全般的な需要増(加入者数の増を伴う)から、既加入者のスマートフォンへの乗り換え需要に移行しつつある。
 携帯電話出荷数に占めるスマートフォンの比率も急速に高まっており、36.4%に達した。
 今後、スマートフォンの有効需要がどれだけ伸びていくか、不透明な要因はあるにせよ、この比率は、スマートフォン需要が、長期に続くことを予想させる。


Android、iOSがスマートフォン市場OSを寡占

表4 2012年第1四半期におけるOS別スマートフォンのシェア(単位:1000)
OS名1Q 2012販売数1Q 2011販売数増減率
Android81,067.4(56.1%)36,350.1(36.4%)+123.0%
*1 iOS33,120.5(22.9%)16,883.2(16.9%)+96.7%
*2 Symbian12,466.9(8.6%)27,598.5(27.2%)−54.8%
RIM9,939,3(6.9%)13,004,0(13.0%)−23.6%
*3 Bada3,842,2(2,7%)1,852,2(1.9%)+106.3%
*4 Microsoft2,712,5(1,9%)2,582,1(2,6%)+4.9%
その他1,242,9(0.9%)1,495,0(1.5%)−17,0%
144,391,7(100%)99,765.1(100%)+57.3%
(表4の資料の出所は、Gartner Group(注3)。)
*1iOS:Appleのスマートフォン、iPhoneのOS
*2Symbian:NokiaのスマートフォンのOS
*3Bada:Samsung社のスマートフォンのOS。このOSは、自社製携帯機器にスマートフォンの機能を与える目的のものであって、他社のスマートフォンOSと競合するものではない。
*4Microsoft:原文どおり記載したが、Microsoftはスマートフォンの呼称ではなく不正確。MicrosoftはスマートフォンOSとして、Windows Mobile(旧)とWindows Phone(新)を持っている。Windows Mobile+Windows Phoneと記述すべきだろう。

 OS別に見ると、特定OSへの寡占化傾向が、明確に読み取れる。
 すなわち、AndroidとiOSの両OSが、2012年初期において、前年同期の50%強から80%弱へと、市場の5分4強を取得した。草刈場となったのは、SymbianとRIM であった。
 最後に注目すべきなのは、Microsoft社のOSの不振である。この件については、次項で論ずる。


NokiaとMicrosoft、最新鋭機種“Lumia900”により、起死回生を計る

表5 2012年第1四半期におけるNokiaの収入、営業利益(単位:100万ユーロ)
項目1Q 20121Q 2011増減率
収入7,35410,399−29%
営業利益−1,340439
(本表は、Nokiaの2012年第1四半期決算ニュースレリース、“Nokia Corporation Q1 2010 Interim Report”
の表から数値を抜き出し、作成した。)

 前項までで、Nokiaが2011年第1四半期から1年間で、大きく出荷数を減らした模様を紹介したのであるが、このインパクトは、表5に示すとおり、端的に、同社の売り上げ、営業利益に反映されている。Nokiaは、13.4億ドルもの大幅な営業赤字を計上するに至った。
 もっとも、この赤字額には、Nokiaが実施した大掛かりなリストラ経費のコスト計上が含まれている。同社は、この機会に、すべての赤字を計上した模様である。
 Nokiaは、2012年第2四半期以降は、Microsoftのスマートフォン最新OS、Window Phoneを搭載した最新スマートフォン機種、Lumia900により、一挙に退勢を挽回する戦略を展開中である。
 “Lumia900”は、米国では、2012年4月始めから販売され、幸い好評を博している模様である。AT&Tは、この機種を導入しており、iPhone販売のとき以上のマーケティング経費を掛けているという。
 販売後間もないが、今のところ、@デザインがいい。AiPhoneとiPadを組み合わせたほどの機能を兼ね備えているB価格が99.9ドルと安い。Cバッテリの持ちがよい等の利点が、好評を呼んでおり、出足は好調のようである(注4)。今後、特に、米国市場では、Nokia、Microsoft、AT&T3社の総力を尽くしたLumia900販売マーケティングが継続するだろう。
 この機種が、グローバル市場において、Nokia、Microsoft連合軍の救世主になるのかどうかが、注目される。


(注1)DRIテレコムウォッチャー、2012年3月1日号、「AppleとSamsung、2011年次の世界スマートフォン市場を制す」
(注2)表1、表2、表3で示した携帯電話、スマートフォンの統計資料は、IDC社のものである。2012.5.1付け、http://www.thegetmsters.com, "Samsung ovetakes Nokia and Apple to become the top smartphone vendor worldwide."から、孫引きした。
(注3)表4は、次のネット情報から孫引きした。
http:www.greekwire.com, "Microsoft stuck behind Samsung Bada in Smartphone sales."
(注4)Lumia900、iPhone900の優劣を論じる数多くの記事がネットをにぎわしている。たとえば、2012.5.25付け、http:www Wired Com, "iPhone 4S and Lumia 900 Have Fun Answering 'Who's the Best Smartphone?"

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