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DRI テレコムウォッチャー |
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欧州不況による業績悪化を好調な中南米市場での発展で乗り切るテレフォニカ
2012年4月15日号
10年前には、テレフォニカは、欧州において、DT(ドイツテレコム)、FT(フランステレコム)よりはるかに規模が小さく、スペインの国力に相応した通信事業者に過ぎなかった(注1)。
ところが、以来、同社は、本国外に市場を求め、中南米地域、英国、ドイツ等の欧州地域へと発展を続け、成功を収めている。特に、言語を共通にする中南米地域への進出が著しい。
16世紀の大航海時代に、スペインは、武力により、中南米地域に一大殖民地を築き上げたものであった。21世紀の現在、武器にかえ資本と技術の力により、同一地域に電気通信帝国を築き上げつつあるといっても過言ではない。もっとも、現地資本による強力なライバル(America Movil、世界有数の富豪Carlos Slim氏の統率の下、テレフォニカに匹敵する電気通信事業を展開)が存在している点では趣きを異にするが。
テレフォニカは、2012年2月、2011年通年の年次決算を発表した。総収入は、前年同期に比し、3.5%増の628.37億ユーロ。純利益は、2010年次に比し46.9%も減少したものの、純利益率は8.6%と、まだかなり高い。
2000年から、テレフォニカ会長兼CEOの地位にあるCesare Alierta氏は、決算報告に当たり、“困難な環境にあってわが社は多様化、柔軟性を発揮することにより、目標に沿った成果を上げることができた”との満足気な声明を発表した。2012年も、総収入を1%増やすことができると強気の姿勢である。つまり、テレフォニカは、不況による欧州地域の業績低下を、未だ携帯電話に発展の余地があり、景気が冷えていない中南米地域の好業績により補填し乗り越えようと計画している。2011年の決算は、この目論見が当面、成功したことを示す。旧ドイツ語圏への事業展開を試み、一時は成功したかに見えたDTが、2011年期、米国における携帯電話子会社、T-Mobile USA売却が失敗に終り、大きな赤字を計上したのとは対照的である(DTについては、近々、テレコムウォッチャーで取り上げる予定)。
本文において、テレフォニカが事業活動を展開している3つの地域―スペイン本土、中南米諸国、欧州諸国―における2011年次の収入、固定・携帯のアクセス数の統計資料を紹介し、テレフォニカの戦略の数値的根拠を紹介する。
テレフォニカの収入、利益、事業規模を示す総体的な統計
地域別事業の説明に入る前に、テレフォニカの収入・利益、アクセス回線数を記した統計表を3点提示する(注2)。
表1 2011年における収入、利益(単位:100万ユーロ)
項目 | テレフォニカ | 内訳 |
*2 スペイン | *2 中南米 | *2 欧州 |
収入 | 62,837(+3.5%) | 17,284(-7.6%) | 29.237(+13.5%) | 15,524(-1.3%) |
*1 OIBDA | 20,210(-21.6%) | 5,072(-40.5%) | 10.941(-20.2%) | 4,233(+3.8%) |
営業利益 | 10,064(-38.9%) | 2,984(-54.2%) | 6,157(-36.9%) | 1,116(+27.0%) |
純利益 | 5,403(-46.9%) | - | - | - |
*1 | OIBDAは、「減価償却、株式利子支払い前営業利益(Operating Income Before Depreciation and Amortization)。 |
*2 | 簡潔さを重んじて、このように表記したが、原名はそれぞれ、Telefonica Espana、Telefonica Latinoamerica、Telefonica Europaである。それぞれの地域ごとに運営会社が設けられており、テレフォニカは、持ち株会社である。 |
表2 2011年末におけるテレフォニカのアクセス回線数(単位:1000)
項目 | 2011年末 | 2010年末 | 2011/2010(増加率) |
小売アクセス数 固定電話回線数 インタネット・データアクセス数 ナローバンド ブロードバンド その他 携帯アクセス回線数 プリペイド 契約ベース ペイTV | 301,311.8 40,119.2 19,134,2 909.2 18,066.3 158.7 238,748.6 162,246.9 76,501.7 3,309.9 | 282.994.9 41.355.7 18,611.4 1,314.1 17,129.6 167.8 220,240.5 151,2773.9 68,966.6 2,787.4 | +6.5% -1.0% +2.8% -30.8% +5.5% -5.4% +8.4% +7.3% +10.9% +18.7% |
卸回線数 アンバンドルによる市内回線の販売 市内回線の一部 市内回線全部 卸ADSL その他 | 35,296.0 2,928.7 205.0 2723,7 849.3 1,518.0 | 4,637.4 2.529.3 264.0 2,265.3 687.4 1,420.7 | +14.2 +15.8% -22.3% +20.2 +23.5 +6.8% |
総アクセス数 | 306,607.8 | 287,632.3 | +6.6% |
表2および他の資料から、読み取れるテレフォニカ総体の固定電話、携帯電話の状況は、次のとおりである。
- テレフォニカのアクセス回線の総数(固定+携帯)は、2011年末に3億台を超えた。
同社はアクセス回線の点でも、世界有数の電気通信キャリアなのである。
- アクセス回線では、圧倒的に携帯アクセス回線の比率が高く、テレフォニカは、携帯電話に大きく傾斜したキャリアだと言うことができる。
- ただし、スマートフォンの普及率はまだ低く、ブロードバンドができる携帯電話の比率は16%、総数にして3800万だという。しかし、それでも固定のブロードバンド(約1800万)を大きく超えている。
- 総じて、テレフォニカは、これまで、量的な発展に力を入れ、品質の向上、新技術の導入には、遅れを取る面があった。これは、半先進国、スペインに本拠を置くテレフォニカとしては、ある程度、止むを得ないことであった。同社は、2011年11月先端技術を取り入れるための会社、Telefonica Digitalを設立し、高度技術の吸収に努めているところである
表3 地域別の固定・携帯アクセス数(単位:1000)
項目 | 2011年末 | 2010年末 | 構成比 |
固定アクセス数 スペイン本国 中南米諸国 欧州諸国 計 | 12,305.4(-7.4%) 23,960.7(-1.8%) 3,853.1(+4.9%) 40,119.3(-1.0%) | 13.279.7 24,403.6 3,672.4 41,355 | 30.7% 59.7% 4.9% 100.0% |
携帯アクセス数 スペイン本国 中南米諸国 欧州諸国 計 | 24,174.3(-0.6%) 166,297.9(+3.4%) 48,276.4(+11.4%) 238,748.6(+8.4%) | 24,309.6 149,255.4 46,675.5 220,240.5 | 10.1% 67.7% 22.2% 100.0% |
スペイン本国:大きく落ち込んだ収入
表1に見るとおり、スペイン本国における収入は大きく落ち込み、収入減は7.6%に及んだ。表1に掲示していないが、固定電話・携帯電話の収入減は、それぞれ6.7%、9.4%であり、携帯電話の収入への不況のもたらす影響がもっとも大きくなっている。総体の営業利益も、ほぼ半減した。
固定電話の収入減が、アクセス回線の減(7.6%)にほぼ見合っているのにもかかわらず、携帯電話アクセス回線数はほとんど横這い(0.6%)であるのに、収入が9.9%とほぼ10%近くも減っていることが注目される。これは、ユーザが必要最小限までに利用を押さえたことによるものである。
そもそも、テレフォニカは、スペイン本土で、競争業者からの挑戦を受けているが、競争に敗退している。携帯電話加入者のシェアにしても、また、ブロードバンド加入者のシェアにしても、50%を大きく割っているのである。また、2011年には7000人ものリストラを実施し、これに要するコストの支払いで、利益をさらに圧迫した。
欧州諸国:不況下に健闘
テレフォニカ傘下にあって、欧州の幾つかの地域で電気通信サービスを展開してきたのは、Telefonica Europaである、同社は、2006年、英国を拠点とする携帯電話会社、O2を取得し、この企業(取得時には、すでにドイツの中堅携帯電話会社をO2 Deutsclandとして保有していた)をベースにして、その後、アイルランド、チェコスロバキアの電話事業にも進出した。
欧州企業は、2011年後半から、深刻な不況に見舞われているが、表1に示したように、Telefonica Europaは、収入を前年比微減(−1.3%)に押さえ、利益(OBIDA)をわずか(+3.8%)ながら伸ばしたのは、賞賛に値する。
Telefonica Europaは、なおもM&Aを継続的に実施している。2010年以降の主なM&Aは、次の2件である。
2010年2月 HanseMet Telekommunikationを完全取得
2011年10月 Portugal Telekomの株式50%取得
なお、表4にTelefonica Europa傘下企業の収入、アクセス回線数を示す。
表4 Telecom Europa傘下企業の収入、アクセス回線数
通信事業者 | 収入(100万ユーロ) | 固定アクセス(1000) | 携帯アクセス(1000) |
TE英国 | 6,926(−3.8%) | 216.1(+144.1%) | 22,167.5(−0.2%) |
TEドイツ | 5,036(+43%) | 2,055.1(+7.2%) | 18,380.1(+7.8%) |
TEアイルランド | 7,23(−14.7%) | ― | 1,622,9(−4,3%) |
TEチェコ | 2,130(−3.0%) | 1,581.9(−5,2%) | 4,941.7(+2.1%) |
計 | 14,814(−1.4%) | 3,853.1(+4.9%) | 46.412.2(+1,3%) |
1、 | TFは、Telefonicaの略 |
2、 | 括弧内の%は、2010 年に対する増減比である。 |
3、 | 計は、表3の数値より小さいが、これは統計処理上から生じたものであろう。 |
中南米:テレフォニカ事業の中枢を担う
1992年、テレフォニカがチリの電気通信市場に参入を始めたとき、当時のチリの不安定、政権の腐敗等からして、中南米市場への進出は、大変にリスクが大きいギャンブルだと評されたものである。
ところが、現在、テレフォニカの売り上げ、利益、回線数等いずれの指標からしても、テレフォニカは、中南米市場の業務により、今日あるを得ているのである。事実、テレフォニカは、本拠こそスペインのマドリッドに置くものの、その実態は、中南米を中核にし、欧州でも相応の発展をする多国籍通信事業者であると見るべきではないかとも、思えてくるほどである。
表5で、テレフォニカが展開している中南米事業の規模の概要を理解して頂きたい。
さて、これら諸国において、テレフォニカは、需要がサチュレイトしつつある市場の下で、激しい競争にさらされながら、これまで相応の利益を獲得してきたのではあるが、今後、業務を拡大していくのは、困難な事情が生じていることも確かである。
最近、ニューヨークタイムスに、テレフォニカがおかれている状況を解説した好論説が掲載されたので、その記事により、中南米2市場、ブラジル、メキシコ、の状況を紹介する(注3)。
ブラジル:2010年、テレフォニカは、ブラジルの大規模電気通信企業Vivoの株式を完全取得し、同国における最大の通信事業会社となった。Vivo株式50%は、それまでVivoの共同株主であったPortugal Telecomから、譲り受けたものである。
ブラジルは、テレフォニカの収入49%を生み出す最大の市場である。同国における競争業者は、Carlos Salim氏率いるTimBrasiliaである。Telefonica Brasilは、中南米最大の市場を発展させるため、今後も激烈は競争を続けていくだろう。
メキシコ:表5で明らかなとおり、メキシコでテレフォニカの収入は、大きく落ち込んでいる。これは、政府の規制が関係しており、テレフォニカの他の業者から得る相互接続料金徴収が否定されたことによるものである。
表5 中南米諸国におけるテレフォニカの収入、利益、アクセス回線数
地域 | 収入(100万ドル) | 固定アクセス(1000) | 携帯アクセス(1000) |
ブラジル | 143.26(+28.8%) | 10,877.4(−2.8%) | 55,438.1(+16.3%) |
アルゼンチン | 3,174(+3.3%) | 4,611,0(−0.2%) | 16,766.7(+3.8%) |
チリ | 2,310(+3.6%) | 1,848.1(−4.7%) | 9,548.1(+8.6%) |
ペルー | 2,030(+3.6%) | 2,848.4(−0.8%) | 13,998.3(+11.9%) |
コロンビア | 1,561(+2.1%) | 1,480.6(−6.7%) | 11,391.1(+11.9%) |
メキシコ | 1,557(−15.0%) | 745.3(+31.8%) | 19,42.4(−0.4%) |
ヴェネズエラ | 2,688(+16.0%) | 883.4(−8.6%) | 9,438.7(−0.8%) |
*1 中央アメリカ | 543(−3.4%) | 530.1(+13.8%) | 7,562.5(+18.1%) |
エクアドル | 408(+3.2%) | 364(+61.6%) | 4,477.5(+6.1%) |
ウルグアイ | 228(+5.0%) | ― | 1,819.0(+6.5%) |
*2 計 | 29,237(+13,5%) | 23,960.7(−6.8%) | 166,297,9(+3.4%) |
*1 | 中央アメリカには、グアテマラ、パナマ、エル・サルバドル、ニクアラガ、コスタリカを含む。 |
*2 | 収入の数値は、他の資料から転記した(この表の和とは合致しない)。固定アクセス数、携帯アクセス数は、筆者が計算した総和(他の資料とも一致する)。 |
(注1) | 2004年半ばごろのテレフォニカの状況については、DRIテレコムウォッチャー、2004年7月15日号、「 堅実経営で成果を上げるテレフォニカ 」を参照されたい。 |
(注2) | 統計表の基となる資料は、すべて2012年2月に発表されたテレフォニカの2012年決算報告である。 |
(注3) | 2012.2.2付け、New York Times、"Telefonica's 20-yeas Gamble Pays off." |
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