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Sprint/Nextel、NetWork Visionに社運を賭ける
2012年3月15日号

 今回は、米国第3位の携帯通信キャリア、Sprint/Nextelの2011年通期・同年第4四半期の業績および同社の長期投資計画、NetWork Visionの概要を紹介する。
 Sprint/Nextelといえば、2011年後半に、同社会長のDan Hesse氏が、AT&TによるT-Mobile合併計画に強硬な反対運動を展開し、最終局面においては司法省に倣って、AT&Tを相手取って訴訟を提起し、脚光を浴びた。長期間AT&Tに勤務した電気通信の専門家であり、AT&Tの最後のポストはAT&T WirelessのCEOであった。今や、米国、携帯通信業界の大立者である。同氏は、Sprint/Nextel に入社以来、加入者数の減少、赤字増大、サービスの低下等もろもろの問題を抱え危機に瀕していた同社の立ち直しに懸命の努力を続けている。
 ただ、同社はこれまで、他社との差異化を求め、大胆に早急に大きな構想を描き実行に移すが、中途で挫折する苦い経験を積み重ねている。技術的にも優れ、AT&T、Verizonに先んじて、4Gサービスを提供するとの触れ込みでスタートしたWi-Max技術による4Gサービス提供も、中途で挫折し、同社が大半の資本を持つネットワーク提供子会社、Clearwireも大きな赤字を抱えている状況である。
 Dan Hesse氏は、2010年12月、現行ネットワークの補強、さらに自前のLTE(4G)ネットワークを構築して、本格的にAT&T、Verizonの強豪2社に挑戦しようとするNetWork Vision計画を発表、現に、その一部を実施中である。
 ただし、本文で説明したとおり、競争がますます激化しつある周波数獲得競争の中で、今後、所要の周波数が獲得できるかどうか、また、Sprint/Nextelの通弊である脆弱な財務構造が、NetWork Visionの完遂に耐えられるかが懸念される。
 さらに、あえて言えば、Dan Hesse氏が、Sprint/Nextel計画の策定、遂行に当たり、役員会の意向を無視して、独断専行している恐れはないのか。前任者のGay Foresee氏が、意に反し解任された例もあり、憂慮されるところではある。
 いずれにせよ、Sprint/Nextelおよび同社を率いるDan Hesse氏の双方がともに、正念場に立っている。


2011年通期および第4四半期におけるSprint/Nextelの収入、利益

 表1、表2に、Sprint/Nextelの2011 年通期、第4四半期における収入、利益の状況を 示した(注1)。

表1 2001年通期、第4四半期におけるSprint /Nextelの収入・利益(単位:億ドル)
項目2011年通年2011年第4四半期
収入336.79(+3.4%)87.22(+5.1%)
営業利益*1.08(-5.95)*-0.38(-1.39)
純利益*-28.9(-34.65)*-13.03(-9.29)
括弧内の数値は2011年同期に対する増減比であるが、*は実績値。表2の場合も同様。

 Sprint/Nextel は、ここ数年来、懸命な合理化努力、大手ライバルに対抗するための差異化を図ったマーケティング戦略の実施により、次第に業績の改善に努め、その効果も上がってきた。
 表1で見ると、その成果は、2011年の通期では、赤字額の多少の減少として現われている。
 しかし、第4四半期には純利益が大きく落ち込み、年間改善幅を小さくしてしまった。これは後述するように、iPhone4Sの販売に伴うものである。
 Sprint/Nextelの2011 年通期の成長率3.4%は、Verizon、AT&Tのそれぞれ2.0%、4.0%に匹敵するものであって、同社が多くの困難を抱えているにせよ、経営のやり方次第で、増収、増益基調に復しうる可能性があることを示す。
 以下、表2において、さらに、ワイアレス、ワイアラインの別に同社の収入、利益を考察してみよう。

表2 2011年通年、第4四半期におけるSprint/Nextelのワイアレス、ワイアライン別の収入、利益
            (単位:億ドル)

項目2011年通年2011年第4四半期
ワイアレス収入303.01(+6.1%)79.2(+7.6%)
営業利益*-2.56(12.29)*-5.0(-2.67)
ワイアライン収入43.26(-14.2%)10.54(-14.1%)
営業利益*0.6(1.28)*3.6(6.3)

 表2は、ワイアライン部門は、Sprint/Nextel においては、全体収の1割強程度であり、しかも急速に縮小しつつあること、また、同社事業の主体がワイアレス部門であることを示している。


経営指標は7年前に比べると格段に向上、ただし、莫大な負債が重荷

 Sprint/Nextel は、従前より、いかに経営内容が改善されているかについて、4点の指標について、2011年第4四半期の数値と2007年第4四半期の数値とを比較している(注3)。
 表3に、この指標比較を示す。

表3 2011年第4四半期、2007年第4四半期の主要経営指標比較
項目2011年第4四半期2007年第4四半期
加入者数増減220万の減少330万の増加
収入増減(前年比)1%減3%増
ユーザからの評価下降中上昇中
利益(OBITAによる)629ポイント減200ポイント増

 確かに、上表4項の項目のうち、最初の3項目は評価できる。
 4年前、Sprint/Nextelの評判は最低であった。加入者の流出は止まらず、同社サービスの評判も、大手キャリア中最低であった。それが、2011年第4四半期には、加入者数の大幅増となり、さらにSprint/Nextel は、加入者からのサービス評価の高さにおいて、Verizonに並ぶとの民間調査資料も出ている。
 問題なのは、最後の利益指標、OBITAである。OBITA(Operating Income before Depreciation and Amortization)は、減価償却、社債関係諸経費前の営業利益であって、減価償却、社債関係諸経費が極めて多額に上るSprint/Nextelのような企業に、良く利用されるが、この指標の数値の上がり下がりは、決して財務の改善、悪化を意味するものではない。
 むしろ、Sprint/Nextelの一番の経営上の最大の弱点は、莫大な負債を伴うことにある。現に、2011年末に置ける純負債額は146.677億ドルに上る。この額は、1年前の負債額(147.18 億ドル)に比し、さほど減少していない。  


大きく利益を減らしたiPhone4Sの販売(注2)

 Sprint/Nextel は、Appleから販売権を得て、2011年10月半ばから、待望のiPhone4Sの販売を始めた。2011年第4四半期におけるiPhone4Sの販売数は180万台、うち、新規加入者に対する販売数は75万台で全体の約4割を占めた。同期におけるAT&T、Verizonの販売数は、それぞれ760万台、430万台であった。Sprint/Nextelのワイアレス部門は、収入、加入者数からして、Verizonの半分程度の規模であるから、180万の販売数はVerizonに劣らない成果だといえる。料金設定が全般的に安いとか、データ料金の定額制を維持しているとか、Sprint/Nextel は、AT&T、Verizonとの差異に努めている。販売成果があったのは、特に、低利用加入者にとって、同社の販売政策が魅力であったことによるのだろう。
 ところが、iPhone4Sの好調な売れ行きが、2011年第4四半期における同社の利益の足を大きく引っ張ったのだから皮肉である(もっともAT&T、Verizonの場合も同様であるが)。
 Sprint/Nextelの推計によると、iPhone4Sは、一台販売するごとに350ドルの赤字を生むのであって、これによる営業利益の赤字額は6.3億ドルにも達した。
 今では周知の事実となっているが、Appleは、iPhone販売に際し、多額の報酬を求めるためであって、販売権を受けるキャリアの側は、当面は赤字を覚悟の上で、自社の負担によりiPhone端末を販売しなければならない。
 Sprint/Nextel経営陣も、iPhone販売に伴う赤字解消は、2015年になるとの見解を販売開始前から表明していた。   


NetWork Vision政策の推進:成功のカギは、周波数の確保と財務の健全性

 Sprint/Nextel は、2011年12月、複数ネットワークの効率化を計るとともに、2013年末には、全国規模の4Gネットワーク網を構築する目的で、NetWork Vision計画を打ち上げた。この構想は、2005年に、SprintがNextelを合併して以来、当然、早期に実施すべきであったのに、実行できなかったNextel Network(iDEN仕様)の段階的廃棄を含むとともに、これまでのWi-Max仕様に基づく4Gネットワーク(スピードからして、実態は、3.5Gであるとも言われる)に替えて自前で、LTE(4G)ネットワークを構築するというものである。
 その概要は、次表のとおりであるが、Sprint/Nextel起死回生のこのプロジェクトの成否は、同社が充分な周波数を確保できるか否かに掛っていると評されている(注4)。
 筆者は、さらに、財務の健全性確保をプロジェクト成功の要件に付け加えたい。

表4 Sprint/Nextelが実施中のNetwork Vision政策の概要
項目概要
目標3Gネットワークを補強、Nextel Network(iDEN方式)は段階的に廃棄して行き、加入者をSprint Networkに移す。さらに、自前のLTEネットワークを構築する。
実施状況すでに、3Gネットワークの補強は、着々実施中。LTEについては、2012年半ばに、このネットワーク対応の3機種を発表。
*1 所要コスト5ヵ年間で、40億ドルから50億ドル
*2 工事実施、
設備提供メーカ
Alcatel ー Lucent、Samsung、Ericssonの3社。米国全土を3地域にわけ、これら地域をそれぞれの社が工事実施、設備提供を行う。
*3 所要周波数の獲得周波数は、スマートフォンの爆発的な普及による音声からデータへの需要変化に伴い、現在、希少資源となり、ワイアレスキャリア相互間で奪い合いの状況である。こういう状況のなかで、Sprint/Nextel は、立ち遅れている。あるネット紙は、同社は、今後、周波数帯のオークションによる入手に頼らざるを得ないのではないかと推測している。
*1 表示した所要コストの数値は、次のネット紙が報道しているものであって、Sprint/Nextel社は公式には発表していない。2012.3.16付け、http://www.bizjounals.com,”Sprint picks Ericsson, Samsung, Alcatel, Lucent for $5B network overhaul.”
*2 3メーカ名は、公式には発表されていない。
*3 この部分は、次のネット紙によった。2012.3.15付け、http://news.cnet.com, ”Sprint's 4G aspirations depend on spectrum deals.”


(注1)Sprint-Nextelの業績については、2012.2.8付けの同社プレスレリース、"Sprint-Nextel reports fourth quarter and full year 2011 results."
(注2)この項は、2001.2.8付け、http:www.celullar–news.com, "Sprint Nextel Loss Deepens to$1.3million During the Fourth Quarter."
(注3)"Sprint/Nextel 4Q11 Earnings Conference Call 2012.2.08"
(注4)崖っぷちに立つSprint/Nextel - 株価の急激な下落で噂される他社からの買収
(注5)2012.3.15付け、http://news.cnet.com, "Sprint’s4G aspirations depends on spectrum deals."


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