DRI テレコムウォッチャー


AppleとSamsung、2011年次の世界スマートフォン市場を制す
2012年3月1日号

 2012年2月初旬、調査会社のIDC、Gartner Groupは、相次いで、2011年通期、2011年第4四半期の携帯電話・スマートフォンのメーカ別、あるいはOS別のグローバル出荷数の調査数値を発表した(注1)。
 今回は、孫引き資料により、これら調査数値を紹介し、筆者のコメントを付け加える。なお、テレコムウォッチャーでは、ちょうど1年前にも、2010年次の携帯電話・スマートフォンの出荷数について、類似の調査資料紹介を行ったので、是非参照してほしい。(注2)。

 世界経済が沈滞し、将来の危機が国際的な論議になっている最中に、成長しつあるIT業界の牽引車、スマートフォンが質量ともに疾走を続け、他業界を圧倒していることは心強い。しかし、関連業界への影響も深甚のものがあり、広範な業界再編すら引き起こしている。
 たとえば、PCの2011年出荷数は4億1500万に留まり、この数値は、同年におけるスマートフォン出荷数4億8800万を大きく引き離したという(注3)。スマートフォンの機能がPC機能の多くを代替できるようになった今日、PC→スマートフォンへの移行が大幅に進行していることによるものだ。また、2月28日のわが国の主要日刊紙朝刊は、エルピーダメモリ社の破産申請を大見出しで報道した。2002年、わが国のDRAMメーカが一丸となって結成したコンソーシャムも、強力なSamsungの競争力とDRAMの需要変化(これまた、多分にPC→スマートフォンへの移行)に応じきれなかったことにより、敗北を余儀なくされたというショッキングなニュースであった。
 このように、2011年から、引き続きIT・通信業界の台風の目となり続けているスマートフォンの推移については、2012年も到底、目を離すことができそうもない。

 2011/2010年におけるスマートフォン、携帯電話の出荷数統計の詳細は、本文で紹介する。


2011年次、前年次に比し、スマートフォンは61%、携帯電話は11%増と高成長

 2011年次、スマートフォンの出荷数は、総計4億9400万台の出荷数を示し、前年出荷数対比61.3%の増となった。2010年次出荷数の2009年次対比の増率は74.4%であって、2011 年次のそれを上回る。しかし、出荷数急増の前年を受けて、さらにそれを上回る増率を達成するのは至難の業である。実は、出荷数絶対数の増で見ると、2011年の増数の方が、2010 年の増数を600万台上回っている。
 携帯電話総体(スマートフォンを含む)の出荷数は、2011年次に約17億7400万台であって、2011年の約15億9700万台に比し、11.1%の増である。この比率は、2009年出荷数にする2010年出荷数の比率10.5%に比すれば、少し高い。
 スマートフォンの成長率と携帯電話総体の成長率との間に、大きな差違があることは、即、スマートフォン以外の携帯電話機(旧タイプの音声サービス+メールサービスだけの電話機、多機能携帯電話(フィーチャーフォン) )の伸び率が低いことを意味する。
 以下の項のスマートフォンの出荷数を示す統計表(IDCの資料)、携帯電話の出荷数を示す統計表(Gartner Groupの資料)は、それぞれ資料供給元が異なるので、ここで算出根拠を示すことは控えるが、筆者が推計したところでは、2011年通年で、スマートフォンを除いた携帯電話機数(携帯電話機数−スマートフォン)は、2010年出荷数と2011年出荷数がほぼ近似した価となる。
 これは、2011年次の携帯電話機の増を推進した原動力が、ひとえにスマートフォンにあり、スマートフォンを除く携帯電話機の需要は、取替需要がもっぱらであることを示す。
 以下の項では、スマートフォン、携帯電話の別にメーカ別の出荷数増減の動向を分析する。


市場シェア1、2位が一年で入れ替ったスマートフォンのグローバル市場:トップの座を競い合うAppleとSamsung

表1 世界5大スマートフォン・メーカの出荷数、市場シェア(2011/2010年、単位:100万)
メーカ名2011年次出荷数(シェア)2010年次出荷数(シェア)2011/2010増減比
Samsung94.0(19.1%)22.9(7.5%)+96.2%
Apple93.2(19.0%)47.5(15.7%)+310.5%
Nokia77.3(15.7%)100.1(32.9%)-22.9%
RIM51.1(10.4%)48.8(16.0%)+4.7%
HTC43.5(8.9%)21.9(7.1%)+100.5%
その他132.3(26.9%)63.7(20.9%)+107.7%
491.4(100%)304.7(100%)+61.3%


表2 世界5大スマートフォン・メーカの出荷数、市場シェア(2011年第4四半期・2011年第4四半期:単位:100万)
メーカ名2011.4Q出荷数(シェア)2010.4Q出荷数(シェア)増減比
Apple37.0(23.5%)16,2(15.9%)+128.4%
Samsung36.0(22.8%)9.6(9.4%)+275.0%
Nokia19.6(12.4%)28.1(27.6%)-30.6%
RIM13.0(8.2%)14.6(14,3%)-11.0%
HTC10.2(6.5%)8.7(8.5%)+17.2%
その他42.0(26.6%)24.8(24.3%)+61.4%
157.8(100%)102.0(100%)+54.7%

 表1、2から読み取れる主な事項は次のとおり。

  • 出荷数トップのメーカは、通年ではSamsung、また2011年第4四半期では、Appleである。Samsungは、Android OSを使用する最大のメーカであり、幾種類もの機種を矢継ぎ早に市場に投入して、AppleのiPhoneに挑んでいる。特に、同社は、2010年末から、4Gネットワーク対応の機種(たとえば、Galaxy II)も市場化しており、現在、4Gネットワークに使用できる機種がないAppleのiPhone(2011年10月に商用化したiPhone4Sは、誤解を招くような名称ではあるものの、4Gネットワーク対応ではない)に対し、差異化に成功している。しかし、第4四半期には、Apple出荷数がSamsungスマートフォンの出荷数をしのぎ、Samsungを急追している。Samsung、Appleの競争は、このように接戦であり、2012年における推移が注目される。
  • 第3位、第4位のスマートフォンのメーカは、2010年には、それぞれ、トップ、2位の地位を占めていたNokia、RIMの両社である。特に、2010年まで、圧倒的なシェアを占めていたNokiaは、2011年通年に20%超、2011年第4四半期には30%強ものドラマティックなシェア低落となった。Nokiaは、Microsoftと提携し、同社のOS、Windows Phoneを使用することとし、すでに使用機種も発表している。しかし、そもそも、このOS搭載の機器の売り上げ自体が不調である(表3参照)。したがって、Nokia、Microsoft連合による スマートフォンの販売見通しは、決して明るいものではないだろう。
    カナダのRIMのスマートフォン、数年前まで、オバマ大統領の愛用機種であり、同社は、特に米国市場を中心に評価は高かったが、最近、新機種の売れ行きが伸び悩み、シェアを下げている。
  • 台湾メーカのHTCは、2011年において5位であるが、このメーカも、Android OSにより、性能の良い機種を販売し、成長力が高い。この趨勢が続けば、近い将来、Nokiaを凌駕する可能性もある。


スマートフォンOSで独走するAndroid、iOS

表3 スマートフォンOS別の販売数、シェア(2011 4Q、2011年通年、単位:1000)
OS名2011 4Q出荷数(シェア)2011年通年出荷数(シェア)増減比(%)
Android75,906.1(50.9%)30,801.2(30.5%)+66.9%
*1 iOS35,456.0(23.8%)16,011.1(15.8%)+50.6%
*2 Symbian17,458.4(11.7%)32,642.1(32.3%)-73.8%
RIM13,184.5(8.8%)14,762.0(14.6%)-39.0%
*3 Boda3,111.3(2.1%)2,026.8(2.0%)+5.0%
*4 Windows Phone2,759.0(1.9%)3,419.3(3.4%)-44.2%
その他1,166.5(0.8%)1,487.9(1.5%)-46.7%
149,041.8(100.0%)101,150(100.0%)100.0%
*1 iOS: Apple社iPhoneのスマートフォンOS
*2 Symbian: NokiaのスマートフォンOS
*3 Boda: Samsung社のスマートフォンOS
*4 Windows Phone: Microsoft社のスマートフォンOS

 スマートフォンのOS別に、2011年通期、2011年第4四半期の出荷数を比較したのが表3である。これによると、Androidが総体のシェアの過半数を有しており、それに、iOSが続く。双方のシェアの合計は、総市場シェアの5分の4に迫る勢いである。
 他のスマートフォンOSが、BODAを例外として、2010年から2011年に掛けての1年間で、軒並み40%から50%もの大きな落ち込み示している点からして、今後、Android、iOSの両スマートフォンOSの寡占化が一層進行するものと見られる。


携帯電話数出荷数では、トップの地位を堅持するNokia

表4 主要携帯電話メーカの出荷数および市場シェア(1)-2011/2010年通年(単位:1000)
メーカ名2011年出荷数(シェア)2010年出荷数(シェア)増減比(%)
Nokia422,478.3(23.8%)461,398.2(28.9%)-8.5%
Samsung313,904.2(17.7%)281,065.6(17.6%)+11.7%
Apple89,263.2(5.0%)46,598.3(2.9%)+91.6%
LG86,370.9(4.9%)114,154.6(7.7%)-24.4%
ZTE56,881.8(3.2%)29,686.0(1.9%)+91.4%
RIM51,541.9(2.9%)49,651.6(3.1%)+5.3%
HTC43,266.9(2.3%)23,814.7(1.5%)+81.7%
Motorola40,268.0(2.3%)38,533.7(2.4%)+4.5%
Sony/Ericsson32,597.5(1.8%)41,819.2(2.6%)+22.2%
その他567.326.9(33.7%)485,452.0(30.4%)+16.9%
1,774,564.1(100%)1,596,802.4(100%)+11.1%


表5 主要携帯電話メーカの出荷数および市場シェア(2)-2011 4Q/2011 4Q (単位:1000)
メーカ名2011 4Q出荷数(シェア)2010 4Q出荷数(シェア)増減比(%)
Nokia111,699.4(23.4%)122,278.1(27.1%)-8.7%
Samsung92,482.3(19.4%)79.169.7(17.8%)+16.8%
Apple35,456.6(+7.4%)16,011.1(3.5%)+121.4%
ZTE18.915.1(+4.0%)9,033.9(2.0%)+109.4%
LG15,955.3(+3.6%)36,119.1(1.7%)-56.3%
Huawei13,966.3(2.9%)7,824.0(6.7%)+78.5%
RIM13,154.5(2.5%)14,762.0(1.7%)-8.5%
HTC10,837.4(+2.3%)8,907.6(2.0%)+21.6%
Motorola10,075.3(+2.1%)10,905.4(2.4%)-7.3%
Alcatel9,804.7(1.9%)7,997.6(1.8%)+22.6%
その他143,795.6(30.2%)145,026.3(32.3%)-0.8%
476,554.9(100%)452,926.5(100%)+5.2%

 表4、5に、Gartner Groupの資料に基づき、携帯電話総体の2011年通期、第4四半期の主要メーカの出荷数を示す。ここでは、Nokiaがともかく、23.4%(2011年第4四半期)のシェアを保持し、まだ、トップの座を保持している。しかし、同社は、かつては、世界携帯電話市場で例年30%を優に超える携帯電話メーカであったが、その凋落は著しい。
 Samsung、Appleの両社がこれに次ぐ。iPhone機種のみで、携帯電話市場に参入してから、4年半にしかならないAppleが巨大な携帯電話業界出荷数で、業界3位の地位を占めたのは、同社の凄まじい企業力というべきだろう。Steve Jobs氏亡き後、Appleの将来を案じる向きもあるが、当面、同社の圧倒的な成長力は衰えを見せないようである。株式時価総額世界1の地位を何時まで保持できるかに興味が持たれる。
 紙面の関係で、4位以下の個々のメーカの記述は省略する。ただ、年々高まりつつあるアジア地域メーカの地位の強大化についてのみ触れておく。
 表4において、上位9社の携帯メーカが列挙されているが、これらメーカを地域別に見ると、アジア5社:Samsung(韓国)、LG(韓国)、ZTE(中国)、HTC(台湾)、Sony/Ericsson(日本)、欧州1社:Nokia、北米3社:Apple(米国)、Motorola (米国)、RIM(カナダ)となる。
 つまり、アジア勢の力が強く、成長力が逞しい。これに反し、欧米勢は、Appleのみが隔絶した力を持っているものの、その他の3社、Nokia、RIM、Motorolaの3社は、旧来の強大企業であるものの、斜陽化が著しい。
 それにしても、わが国のメーカで、唯一9位までの順位に登場するのが、Sony(Sony/Ericssonは、近々Sony単独の企業となる見込み)だけであるのは、いかにも淋しい。今後も成長が期待される携帯市場(とりわけスマートフォン市場)は、まだまだ市場参入の機会が充分にある。日本企業の進出が大きく期待されるところである。


(注1)IDC社の5大スマートフォンメーカのスマートフォン出荷状況については、2012.2.6付け、同社のプレスレリース、"Smartphone markets Hits All Time Quarterly High Due To Seasonal Strength and Wider Variety of Offerings."に、また、Gartner社のメーカ別携帯電話出荷数の出荷状況については、2012.2.15付け、http://www.gsmarena.com/、"Gartner releases phone market share report for 2011."を、また、同じくGartner社のOS別出荷状況については、2015.2.15付け、http://www.macworld.co.uk、"Apple's iPhone sales will decline in Q1-Gartner."によった。
(注2)DRIテレコムウォッチャー、2011年2月15日号、「2010年次、過去最大の拡大を示した携帯・スマートフォンの世界市場」
(注3)2012.2.3付、"Canalys: Smartphone shipments surpassed PCs in 2011."


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