DRI テレコムウォッチャー


AT&T、2011年次におけるiPhone販売合戦でVerizonに圧勝
2012年2月15日号

 2012年2月24日にはVerizonが、翌々日の2月26日にはAT&Tが、それぞれ、2011年第4四半期・2011年次通期の決算を発表した。今回は、これら決算資料に基づき、この期における両社の収支、利益の概況を説明する。
 2011年第4四半期において、AT&T、Verizon両社の競争関係にもっとも大きな関心が払われた分野は、両社が激しくシェア合戦で対決したiPhone販売戦で、どちらが勝ちを制するかについてであった。この販売合戦においては、AT&Tが巧みなマーケティング戦略を行使し、Verizonに倍する加入者を獲得することに成功した。本文では、この件についても解説する。
 
 2011年次の決算を総括すると、(1)全体として、マイルド(一桁下位)の収入増、2桁台には達しない低位の純利益(2)部門別に見ると縮小気味のワイアラインとこれを補う成長が大きいワイアレス部門ということになる。この決算の動向は、2010年次のそれと同様のものである(注1)。
 業界の覇者として疾走するGoogle、Apple、Microsoft、Yahoo!等の巨大利益を挙げる一群のIT企業には、到底及ばない業績と言ってよい。
 両社の株価もじわじわと下がっている(現在、Verizon、AT&Tはそれぞれ20ドル台後半、30ドル台後半の水準にある)。
 さらに両社とも、決算報告では一言も触れなかったが、それぞれ不足する3G用周波数の調達、まだ決着しないCWAとの労使交渉といった難問を抱えている。
 残念ながら、両社の業績が、株主を魅惑する優良企業に脱皮することは、到底、望めまい。


2011年次におけるAT&T、Verizonの業績

T−Mobileの取得失敗で大きく純利益を落としたAT&T(総合業績)

表1 2011年次におけるAT&T、Verizonの総業績比較(単位:100万ドル)
項目AT&TVerizon
収入126,723(+2.0%)110,875(+4.0%)
営業利益9,218(−52.9%)12,880(−12.1%)
純利益3,944(−80.1%)10,198(−0.2%)
純利益率3.1%(−80.5%)9.2%(−4.2%)
(括弧内の%は、2010年次に対する増減比である。表2から表5までも同様)

 AT&T、Verizonともに、収入において、前年に対する伸び率はわずかである。次項で示すように、特にワイアレス部門において、機器、サービスの販売を大きく伸ばしていたのにもかかわらず、これだけ売り上げが伸び悩んだのは、いかに競争が激しかったかを示すものである。
 表1で、AT&Tが大きく利益(純利益、営業利益とも)を減らしているのは、2011年12月末、T-Mobile取得を断念した時点で、同社との協定において、約束した違約金を含む費用(AT&Tはその額を明かにしていないが、決算資料から推測すると10億ドルを超える)を2011年第4四半期に経費に計上すると発表した協定を実施に移したものである。それでも、AT&Tは赤字に転落せず、一流企業としての貫禄を見せた。
 Verizonも、2010年に比し、営業利益、純利益をある程度減らした。しかしこれは、おおむね従業員に対する年金積み立てを経費に計上したことによる。

ワイアレス部門:AT&T、Verizon両社とも、好調に売り上げを伸ばす。営業利益は前年(2010年)に及ばず

表2 2011年次におけるAT&T、Verizonワイアレス部門の業績比較(単位:100万ドル)
項目AT&TVerizon
収入63,212(+8.1%)70,154(+10.6%)
営業利益15,278(+0.1%)18,527(−1.1%)
営業利益率24.2%(−7.3%)26.4%(−10.5%)

 AT&T、Verizonはともに、2011年の期間を通じて、ワイアレス部門の売り上げを伸ばした。これは、2007年7月、Apple社のiPhone発売により、これまでの機能付き電話メーカが、揃ってスマホの開発、生産、販売に重点を移し、以来、年を追うにしたがって、スマホの売上増加に伴って、サービス、機器の両面からキャリアの売り上げ増加が継続しているからである。
 ただし利益の面から見ると、AT&T、Verizon両社とも、2010年よりおおむね下回っている。激しい市場競争の結果、マーケティング費用、投資ともに経費が嵩むため、利益を伸ばす環境になかったというところであろう。
 売り上げ、利益の点では、2010年も2011年も、AT&Tは、いまいちVerizonに遅れを取っている。その原因は、表3により明らかとなる。

表3 AT&T、Verizonの2011年第四半期における加入者数、2011年末における加入者数(単位:1000)
項目AT&TVerizon
   2011年次第4四半期加入者増分
ポストペイド加入者数     
プリペイド加入者数     
リセラーによる加入者数     
ネット接続機器加入者数     
調整     

717(+79.3%)
159(-48.2%)
592(-0.5%)
1,029(-31.4%)
*1 12(28)

1,207(+38.4%)
*1 252(-69)
*1 *2 -490(338)
2,497(-10.9%)969(-15.1%)
   2011年末加入者数
ポストペイド加入者数     
プリペイド加入者数          
リセラーによる加入者数     
ネット接続機器加入者数     

69,309(+1.9%)
7,225(+10.7%)
13,644(17.2%)
13,069(8.1%)

87,382(+5.1%)
4,785(+8,5%)
*2 16.500(+12.2%)
103,247(+8.1%)108,667(+6.3%)
1.上表の括弧内の数値は、前年同期に対する増減比であるが、*1を付したものの括弧内数値は、前年同期の実績値である。
2.*2を付した数値は、リセラー加入者数 + ネット接続機器を示す。

 AT&Tは、2011年において、Verizonに比し加入者を倍以上増やし、2011年末の総数においても、Verizonに肉薄する成果を上げた。
 しかし、それにもかかわらず、総収入(AT&T:約630億ドル、Verizon:約700億ドル) とVerizonが10%以上多い。これは、加入者の構造上の相違から説明できる。
 つまり、AT&Tは、Verizonに比して、ARPUの低い「プリペイド加入者」と「ネット機器加入者」を数多く有しており、機器総体のARPU(毎月の機器当たり収入)が低い。さらに皮肉なことに、iPhoneの売れ行き増大は支出増になり、利益を減らす結果をもたらしているのである。これは、iPhone1個当たりの、キャリアからApple社に支払う卸売り価格が高額であって、キャリアが販売時に、卸売り価格を下回る価格で(つまり赤字を出して)販売を行っているからである。
 さて、AT&Tは、2011年第4四半期に、記録的なiPhone販売に成功し、Verizonに圧勝したのであるが、この件については、項を改めて解説する。

ワイアライン部門、両社ともに減収減益 − 固定ブロードバンドは不振

表4 2011年次におけるAT&T、Verizonワイアライン部門の業績比較(単位:100万ドル)
項目AT&TVerizon
収入59,765(−2.5%)40,682(−1.3%)
営業利益7,271(−7.2%)959(+24.9%)
営業利益率12.2%(−4.7%)2.4%(+26%)


表5 2011年次におけるAT&T、Verizonの音声回線・ブロードバンド加入者数(単位:1000)
項目AT&TVerizon
音声回線加入者数39,102(−10.4%)24,137(−7.2%)
ブロードバンド加入者数U-Verse:3791(+26.9%)
Satellite:1,765(−8.5%)
DSL:8,735(−10.4%)
計 14,491(+1.2%)
FiOS Internet:4.817(20.2%)

高速DSL:3,856(−10.6%)
計 8,670(+3.3%)

 表4で明らかなとおり、AT&T、Verizonともに、ワイアライン収入は減少を続けている。両社とも、ワイアレス部門だけの純利益を発表していないが、営業利益の額から推定すると、AT&Tで些細な利益を、またVerizonでは、多分、純利益で赤字を出しているのではないかと見られる。
 表5から、ワイアライン部門の不振の原因として、(1)引き続く、音声回線数の大幅な減少(2)ブロードバンドの伸びの減速があげられる。もっとも(2)については、AT&T、Verizonともに、U-Verse、FiOSの加入者数増がDSL、Satelliteの減少数を上回っており、光ファイバーによる両社ブロードバンドがようやく、当初、所期した拡大軌道に入ってきたかの動きを示している。2013年次以降、期待される動向であろう。


AT&T vs. Verizon:先発性と強力なマーケティングで、iPhone販売に勝利したAT&T

 表6に、2011年第4四半期において、AT&T、Verizonの両社が、どれだけのスマホ、とりわけiPhoneを販売したかを示す(注3)。
 

表6 2011年第4四半期におけるAT&T、Verizon両社のスマホ加入者、スマホ販売数の増(単位:万)
AT&TVerizon
スマホ加入者数増249.796.9
スマホ販売数の増940.0770.0
iPhoneの増76004300
その他機種の増180.0340.0

 さらに、図1において、2011年四半期ごとのAT&T、Verizon両社のiPhone販売数の数値を示す。

図1 2011年四半期別のAT&T、VerizonのiPhone販売数(単位:100万)

 さて、iPhoneは、2007年7月から2011年2月までの期間、AT&Tのみが、米国における販売キャリアであった。Verison Mobileのサービスの方が、AT&T Wirelessに比し、サービスが良好であり、ネットワークも強靭であるとは、従来から喧伝されてきたことであり、テレコムのアナリストたちは、iPhoneにも解禁になれば、AT&Tは、多くの加入者をVerizonに奪われ、ゆくゆくは、VerizonがAT&Tに変わって、米国最大のiPhone所有キャリアになると予測する向きが多かった。
 ところが、上記の表6、図1が示すように、AT&Tは、iPhone販売の独占権を失って以来、終始、Verizonを上回る販売高を維持した。とくに、2011年10月、最新機種iPhone4Sが発売されて以来(2012年第4四半期のすべてがiPhone4S販売期間に包摂される)、AT&Tは、Verizonに大きな差異を付けた。
 では、どうして、AT&Tは、次のような成果をおさめたのだろうか。
 AT&T Mobileのマーケティング担当の最高責任者、David Christopher氏は、今回のiPhone販売の成功を誇示し、これを喧伝している。このPRが、今後のiPhoneのさらなる販促に結びつくと考えてのことであろう。
 Forbes誌の記者、Elizabeth Woyke氏が、AT&T側の解説をベースにして、分析したAT&Tの勝因は、おおよそ次のとおりである。

  • iPhoneの販売が解禁になって以来、あらゆるメディアを利用して、販促を行ったこと。
  • GSMネットを利用するAT&TのiPhoneは、通話と同時にインターネットの利用も可能であること(VerizonのCDMA網ではできない。)
  • GSM網は、国際的に多くのキャリアが使用しているため、国際ワイアレス通信を行うことが、Verizon網より便利であること。
  • iPhone4Sにおいては、AT&Tは、3G網において、HSPA+規格(準4Gネットワークのスピードが出るといわれる)を使い、Verizonより、ネットワークでの伝送速度が速いこと。
  • iPhone4S販売時点において、AT&Tは、3年有余の販売先行期間を有していた利点を生かすことができたこと。
  • iPhone4Sと同時に、旧機種iPhone4を無料という破格のプレミアムを付けて、販売した。この旧機種の売れ行きが好調であったこと(筆者注:AT&TはiPhone販売数において、iPhone4SとiPhone4の内訳を示していない。意外に、iPhone4が大量に売れていたということもありうる)。

 現在、ジャーナリズムの関心は、Apple社が、4Gネット対応の次のiPhoneバージョンを何時、市場に出すかについての観測に向かっている。2012年7月頃というのが、多数説であるが、それ以前にも行われるのではないかとの観測も強い。
 4Gネットワーク対応機となると、このネットワークの全米展開が進んでおり、2012年内に、ほぼ完成する予定のVerizonに、またまたAT&Tに挑む機会が到来する可能性がある。


(注1)DRIテレコムウォッチャー、2011年3月1日号、「2010年次のAT&T・Verizonの決算 - 業績は両社とも2009年次より少し悪化」
(注2)表1から表6までの表は、すべて、次のAT&T、Verizon両社の決算資料から作成した。
           AT&T:Investor Briefing 4th Quarter 2011
           Verizon:Investor Quarterly 4th Quarter 2011
(注3)図1および、AT&TがVerizonより多くのiPhoneを販売した理由については、次のForbsのネット資料に負うところが多かった。
2012.2.3付け、http://www.forbs.com, "AT&T CMO: This Is How We Sold Millions More iPhones Than Verizon In 2011."


テレコムウォッチャーのバックナンバーはこちらから



COPYRIGHT(C) 2012 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.