DRI テレコムウォッチャー  from USA

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  年間情報サービス「The Compass」 と 「The Compass」年鑑レポート
 放送/メディア会社、通信事業者・機器ベンダを対象としています。


何世帯が地上波受信しているか
(ブロードキャスティングレビューシリーズ No.85)
2011年6月20日号

 アメリカでは、地上波テレビの普及はケーブルTVに支えられてきた。地上波局が全米をカバーする前、ケーブルTVが離れた地域の地上波放送を再送信し、テレビを広めていった。地上波局が全米をカバーした後も、放送局は電波の届きにくい地域への放送はケーブルTVに任せきりであった。ケーブルTV、そしてその他のチャンネルサービスが普及して行くことで、地上波放送を直接受信する世帯は大きく減ってきた。どの程度の世帯が実際に地上波を直接に受信しているかは、これまでは大きな話題にはならなかった。視聴率上は、地上波放送の受信が直接であっても、多チャンネルでの再送信であっても同じ事である。

 しかし、モバイル通信が普及し、その為の帯域の不足が大きな話題になることで、地上波だけに頼っているテレビ世帯の数がどの程度あるかが、重要になっている。モバイル事業者を代表するCTIA(Cellular Telecommunications Industry Association)、それに家電ベンダー代表のCEA(Consumer Electronic Association)は、TV放送向けの帯域を減らし、回収し、モバイル通信向けに競売する事を求めている。TV放送向けは公共向けのサービスであり、その帯域は無料で提供されている。もし、地上波放送にだけに頼っている世帯が少ないのであれば、多くの帯域をテレビ放送にあてがうことは無駄である。国が帯域を返還させ、競売した方が国も儲かり、ブロードバンドの普及にも貢献する。

 CEAは、1,256人を対象に行った電話調査の結果として、TV視聴を地上波のみに頼っている世帯はTV視聴世帯の8%にあたる900万世帯でしかないと発表した。さらに、この調査結果では、多チャンネルサービスへの加入者は、サービスに忠実であり、加入世帯の76%はサービスを止める可能性は無い、あるいはほとんど無いと答えている。多チャンネルサービスを止める可能性が高いと答えたのは10%でしかなく、CEAは今後も地上波だけの視聴世帯が増える可能性は低く、多くの帯域をテレビ放送向けだけに使うことは、経済的に無駄だと結論付けている。

 放送局代表のNational Broadcaster Association(NAB)は、当然ながら、放送帯域の縮小には反対である。NABは、CEAの調査は大きな間違いであり、Knowledge Networks(KN)社の最近発表した「2010 Ownership Survey and Trend Report」の数値がより正しいとの声明を発表している。KN社の調査によると、地上波放送に頼っている世帯は、TV視聴世帯の15%となる1700万世帯である。人口数にすると4600万人が地上波に頼っている世帯に住んでいる。また、地上波のみの世帯は、ここ1年で増加をしている。1年前では4200万人が地上波のみの世帯に住んでいたのに対して、2010年末では9.5%増えている。 KNの調査では、地上波に頼ってる世帯は特に低所得世帯に多く、年収3万ドル以下の世帯では23%が地上波のみである。また、地上波だけの世帯の40%はマイノリティーであり、その内、アジア系が25%、ヒスパニック系が23%となっている。世帯の年齢も大きな影響があり、世帯主が18歳から34歳の世帯の20%が地上波だけに頼っている。

 NABは、「The Future of TV」と言うウェブサイトを立ち上げ、地上波放送の重要性を訴え、放送帯域を減少させることは間違いであると主張している。地上波放送は重要な技術であり、公共性が高いことも事実である。しかし、多くの帯域を放送専用に保護して置くことは経済的な無駄だと言うCEAの主張にも一理ある。放送帯域の再編成により、放送局が大きく減るのであれば問題がある。しかし、放送局の一部は、インフォマーシャルと再放送番組が主体で、ローカルニュースも無い。これらの局が減ったとして、それが公共のロスになるとは思えない。

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