DRI テレコムウォッチャー


FCC、高コスト地域への補助制度改革について裁定を下す
2011年11月15日号

 FCCは、2011年10月27日、高コスト地域における市内キャリアに対する補助制度を抜本的に改定する趣旨の裁定をFCC委員4名全員の賛成により採択した。

 2009年初頭、オバマ新民主党政権とほぼ時期を同じくしてスタートした“ブロードバンド計画”プロジェクトは、米国高速ブロードバンドを質量ともにレベルアップし、米国民が、これまでの音声サービスだけでなく、高速ブロードバンドサービスにもユニバーサルにアクセスできるようにすることを目標にした、壮大な国家プロジェクトである。このプロジェクトへの政府資金投入の資金源であるUSF(ユニバーサル・サービス・ファンド)の改革は、このプロジェクトにおける最重要項目である。FCCは、本年、USFのあり方について、幾つもの調査告示の発出、裁定などの決定(たとえばライフライン、リンクアップ、さらにはE−Rateの改革等)を行ってきた。今回のFCC裁定は、USFの根幹を為し19世紀半ば以来の伝統を持つユニバーサル・サービスの維持を目的とする補助制度の全面的見直しであって、その意義はきわめて大きい。
 Genachowski委員長を始めとするFCC委員4名はいずれも、今回の裁定の成果を自賛している。たとえば、同委員長は、声明文のなかで、“われわれは、アレクサンダー・グラハム・ベルのロータリー交換機の時代にデザインされたシステムをSteve Jobsの時代、Steveが構想した未来に向けて、刷新しつつあるのだ”と述べた。この言は、気負いに満ちているにせよ、決して過言ではない。
 高コスト地域への補助は、そもそも音声サービスのみを対象としてスタートしたものであるが、ブロードバンドの成長が著しくなっている現在の状況に対応できる形になっておらず、かねてからこの不備が指摘されていた。さらに、USFの範疇には入らず、相互接続通信キャリア相互の取り決めに委ねられているものの、音声サービス提供に当たり、ネットワークの貸し借りをする場合に支払うICC(相互接続料金)のシステムは、煩雑かつ不正が行われやすい構造になっている。このICCフレイムワークの改革も、利害関係者の間で大きな批判の的になっていたものである。今回、FCCは、USFの「高コスト地域への補助」および「ICCの改革」という大きな懸案事項2件に対する抜本的な改正の枠組みを策定するという、いわば “偉業”を達成した。
 今回の裁定についての調査告示は、2011年2月8日に発出されており、その概要は、2011年3月15日付け、DRIテレコムウォッチャーに紹介した(注1)。本稿と合わせて、お読み頂きたい。
 本文では、裁定が出された当日のFCCプレスレリースの大部分と裁定分のエグゼキュティブ・サマリー(A4版7ページの簡単なもの)の主要部分(筆者が独自に編集した部分を含む)および、利害関係者による本裁定の評価を掲載した。
 なお、裁定の全文(500ページの大部のものだという)は、まだ、発表されていない。裁定文が発表される段階で、エグゼキュティブ・サマリーに記載された内容の一部(根幹にかかわる部分ではないにせよ)が修正されることは、大いにありうることをお断りしておく。


高コスト補助制度の目的、効果(注2)

FCCは、米国民のすべてに高速ブロードバンド利用を可能にする政策を策定した。FCCの推計によれば、今後6年間のこの政策実施により、米国の富は500億ドル増大する。FCCはCAF(Connect America Fund)を創設し、音声サービスに加え、ブロードバンドに対する資金援助も実施する。このファンドで提供される資金額は年間45億ドル(2011年における高コスト地域への補助金額と同額)に固定される。原則として、消費者の負担(現在、固定、ワイアレスによる長距離電話料に対する付加税として消費者に課せられている)は、増えない。
 今後6年間に、ルーラル地域の人々のインターネット利用者が700万人増加し、50万人の雇用が創出されるだろう。
 FCCは、この改革の一環として、モーバイル・ブロードバンドのルーラル地域への導入を促進する。このプロジェクトに対する資金投入は、固定ブロードバンドとは別個のMobility Fund(モビィリティー基金)を通じて行う。
 無駄を廃し、真に必要なところに基金を集中投入することにより、ユニバーサル・サービスの実現に向け、確固とした財務基盤が確立されることとなった。
 この調査告示に対しては、さまざまの利害関係層から、2,700ものコメントが提出された。
 この改革の主な効果、目的は次のとおり。

消費者利益の増大
 6年間で、700万の利用者(ブロードバンドにアクセスできない人の数は2,800万)増。これで、ブロードバンドのユニバーサル化が大きく進む。また、今後、10年間で、ブロードバンドのユニバーサル化は完了するものと考える。
 Mobility Fundには、専用線による少数民族地域へのネットワーク構築に対する補助金支出も行う。さらに、相互接続料金の改革も実施する。これにより、消費者に発行される支払い請求書のうちの隠されたコスト(hidden cost、不正による水増し分)が排除され、これを支払っている長距離通信、ワイアレス通信のユーザの負担減となろう。

財務上の責任の履行

  1. 6年の間、毎年の支出金額は45億ドルに固定されるので、消費者にとって、従来に比して負担増にならない。
  2. ブロードバンドの架設に当たっては、競争入札制度が導入されるので、資源の配分がより、効率的となる。
ネットワークの品質確保
 キャリアは、CAFの資金を受けるためには、ブロードバンドの提供を求められる。また、ブロードバンドの品質について、品質標準 - スピード、幾つかのアプリケーション(遠隔学習、遠隔医療、VOIP提供等を含む) - が定められる。


高コスト補助制度改革の概要(注3)

  1. 改革の目的
    通信法254条(b)に基づき、ブロードバンドを提供できるネットワークに財務支援を行う。
    具体的には、次の5点を目標とする。
    1. 音声サービスネットワークを維持・向上する。
    2. 家庭、ビジネス、コミュニティーの基幹を為す団体(図書館、役所、病院、警察等)に音声/ブロードバンドを提供できる新鋭ネットワークをユニバーサルに利用できるようにする。
    3. ワイアレスによる高度の音声/ブロードバンドを提供できるネットワークをユニバーサルに利用できるようにする。
    4. ブロードバンド・音声のサービスの料率を米国全土で提供されている料率と 理にかなった範囲で同等なものとする。
    5. 消費者、ビジネス・ユーザのユニバーサル・サービス拠出金を最小にとどめること
  2. 予算
    CAFの予算額は、今後、6年間、毎年、45億ドル(2011年実績)に、固定する。
    6年次の末に、それまでの使用実績等を勘案し、7年目以降の予算額を定める。
  3. 公益に資する義務(public interest obligations)
    FCCは、すべての公認の電気通信キャリアに対し従来どおり音声サービス提供の義務を課するが、今後は、これに加えて、ブロードバンド・サービス提供の義務も課する。FCCは、ユニバーサル・サービス達成の観点から、音声サービスの定義をアップツーデートなものにする。さればといって、各州における最後に頼りにできるキャリア(last resort carrier)の義務を廃しようとするものではない。FCCは、また、CAF基金を受けるキャリアには、特別に厳しいブロードバンド要件を課する。
  4. CAF基金利用による各市内通信キャリアに課するブロードバンド・サービス提供義務、未設置地域へのブロードバンド・ネットワーク構築の機会
    次表に示すとおり、CAF基金を利用して、自社営業エリアへのブロードバンド構築を義務付けられ、あるいは、他地域への競争入札によるブロードバンド(特定地域に対するモーバイル・ブロードバンドサービス(注4)も含む)提供の機会に参入するキャリアは、現に、ブロードバンド・サービスを提供していないキャップ規制(料金上限規制)の下にある市内通信キャリアである。
    ちなみに、現在、ブロードバンドにアクセスできない米国の1,800万の人口のうち、83%は、これらキャリアの営業地域に居住している。

表 市内電気通信キャリア別ブロードバンド・サービス提供義務、未設置地域へのブロードバンド提供機会
市内通信キャリアブロードバンドサービス提供義務、提供機会
プライス・キャップ適用を受け、かつ、ブロードバンド・サービス未提供のキャリア
1.これまで提供してきたUSF資金の供与は凍結。ブロードバンド構築を確約したキャリアには、FCCが算出した額のCAF基金を付与する。同時に、上記のUSF基金凍結は解除。
2.構築するブロードバンドネットワークは、@下り4Mbps、上り1Mbpsの伝送速度 A都市部のインターネット利用者に提供されるのと同程度の月額料金等を含む品質標準を満たさなければならない。
なお、上記の措置に対応し、キャリアが競争のため故意に料金を引き上げていると見られる高コスト地域に対するUSF補助金は、廃止する(上記措置は、フェイズ I)。フェイズ I に投じられるCAF総資金額は、年間3億ドル。
フェイズ II。フェイズ I に引き続き、ブロードバンドのネットワークが設置されていないルーラル地域に対し、5年間にわたり音声/ブロードバンド構築を行うため、逆競争入札(最安値提示のキャリアが落札する)の機会も提供する。
FCCは、落札したキャリアたちに対し、総額5億ドルのCAF基金(一時金)を供与する。
3.CAFMobilityFundの設定、この基金によるモーバイル・ブロードバンド網の構築
FCCは、通常のCAF Fundのほか、これと独立して、CAF Mobile Fundを設定する。
このファンドは、特定のブロードバンド未設立ルーラル地域に、逆競争入札により、キャリアを選び、モーバイル・ブロードバンド網の提供、サービスの実施を行わせるプロジェクトである。
実施は、フェイズ I (競争入札に実施、キャリアの選定、5億ドルの資金供与)
フェイズ II(2012年第4四半期からサービス提供、年間3億ドルの資金供与)の2段階に分かれる。
選ばれたキャリア(米国全土にサービス提供を約す1社のみが指定される)は、3年以内に4Gサービス、2年以内に3Gサービス(一年後に4Gサービスへの切り替え)を提供する(注4)。
プライス・キャップ適用を受け、すでにブを提供しているキャリアブロードバンドのネットワーク構築目的でのCAFの受給を受けない。
公正報酬率規制を受けているキャリア
1.加入者からの要請があれば、ブロードバンドサービスを提供しなければならない。
2.加入者数の増大を求められない。
3.CAFによる高コスト基金支給額は、従来どおり、年間、約20億ドルを今後、7年間、支給する。

 上表によれば、公正報酬率キャリアは、当面、高コスト基金の減額がなく、FCC裁定による不利益が伴わないようであるが、次項で説明する相互接続料金制度改革の影響を最も大きく受ける。これによる収入減がかなり響くことになろう。

  1. 回線の相互接続料金(ICC)の改正(注5)
    1. ただちに開始する改革
      キャリア、消費者に年間、数億ドルの被害をもたらしている不当利得(arbitrage) - アクセスの水増し、架空のトラヒックの捏造 - の根絶を即急に開始する。
    2. 全面的なICC改革
      終局的には、bill-and-keep(A、B両キャリアの相互接続に要する通話料をトラフィック量、接続の量のいかんにかかわらず同等とみなして、相互接続料金を廃止すること)への移行を考える。
    3. bill-and-keep方式で、どうしても赤字が出る場合は、該当するキャリアは、ユーザからアクセスコスト回収料金(ARC、Accss Recovery Charge)を徴収できる。限度額は、加入者当たり年間0.5ドル(住宅用ユーザ)、1.0ドル(ビジネス加入者)。


当面、高い評価を受けたFCC裁定

 今回のFCC裁定は、議会筋からも、アナリストたちからも、深甚な影響を受ける各種キャリアからも、一般的に評価が高い。
 長年の懸案であった音声サービスから、ブロードバンドへのCAF基金の投資先変更の枠組みを構築したこと、さらに、乱脈をきわめていたICC(相互接続料金)の改正を示し、ゆくゆくは原則廃止(bill-and-keep)の道筋を指し示したことが、利害関係者の強い共感を呼んだものであろう。
 これまで、FCC委員長Genachowskiの評判は、実のところあまり芳しいものではなかった。2011年春ごろには、任期途中で交代説が飛び交ったほどであった。しかし、今回、ブロードバンド計画のうち、最難関の高コスト地域への財務補助案件の採決を見事に完了し、同氏の評価は大いに高まっている。
 大方のキャリアは、これまで採算が合わず、実施できなかった不採算ルーラル地域へのブロードバンド構築をCAF基金で実施できることになったのであるから、今回のFCC裁定に賛成するのは当然である。
 ただ、将来の見通し困難を思い知らされたのは、公正報酬率規制を受けているキャリアであろう。これらキャリアは、将来7年間、CAFからの資金供与に頼っていけるわけであるが、それより、ICC改革による市内着信アクセス料金の逓減による収入減の及ぼすインパクトを懸念している模様である。ただ、RLECs(ルーラル地域電気通信事業者)の利害を代弁、または、監督する3団体、NTCA、OPASTCU、WTAは、いずれもFCC裁定を絶賛している。ルーラル地域の将来は、高速ブロードバンドの発展に依存するしかなく、ブロードバンドを利用し得ない一部中小キャリアの衰退(廃業を含め)止むを得ないとの方向を明らかにしているようである(注6)。
 しかし、現在のFCCに対するポジティブな評価は、エグゼキュティブ・サマリーのみに基づいている点に注意する必要があろう。近々発表されるであろう大部のFCC裁定の全文が明らかになった段階で、利害関係者の批判がある程度出ることは、確実である。
 なにしろ、現在年間45億ドルの基金を据え置いた上で、ブロードバンドへの投資金額(ワイアおよびモーバイルのブロードバンド投資で年間10数億ドル)を捻出するのである。
 このためには、高コスト補助を相当、削らなければならないのであって、その設計、実施(FCCのワイアライン・競争局が主として所管)には、多大の困難が伴うものと予想される。


(注1)DRIテレコムウォッチャー、2011年3月15日号、「FCC、USF刷新についての調査告示を発出−USF基金をインターネット網に重点投資する方針を明示」
(注2)2011.10.27付けの次のFCC レリースの大半を訳した。
FCC News、"FCC creates "Connect America Fund" to help extend high-speed internet to 18Million unserved Americans:creating jobs & increased consumer benefits."
(注3)FCC裁定、"Connect America Fund & Interconnection Reform order and FNPRM." のエグゼキュティブ・サマリーを要約あるいは再編した。再編した部分は、高コスト補助制度が及ぼす規制上の変更を長距離音声・ブロードバンド提供のキャリア別にまとめた部分である。内容的には、エグゼキュティブ・サマリーの記述のままにしてある。
(注4)ここでのモバイル・ブロードバンド・サービスは、4Gネットワークを住宅、ビジネスの固定用に使おうという新技術である。かねてから、Verizon Wirelesが構築に強い意欲を示し、FCCに要望してきたものであって、同社が落札の最有力候補である。また、特定地域とは、少数民族(インディアン)の居住区域を含む。
(注5)前号において、ICR(その実、さまざまのワイア、ワイアレス中小キャリア)が、相互接続に当たって、接続拒否、接続ボイコットを行っているとの疑惑が問題になっていること、この疑惑を、RLECs側が、FCCに提起、FCCがワーキング・グループ設立という形で、調査を開始した旨を説明した。
本稿で紹介したICL問題は、まさに、前号に説明した内容と密接不可分であって、すべて、長距離通話接続に当たって生じている“相互接続問題”の一環として捉えねばならない。
DRIテレコムウォッチャー、2011年11月1日号、「FCC、ルーラル地域における長距離着信題の対策に乗り出す」
(注6)2011.10.29付け、http://www.pcworld.com、"Small Carriers Question FCC's Phone Subsdidy Reform."


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