他国におけるのと同様、米国でも、旧来のPSTN(公衆通信ネットワーク)使用の市内通話、長距離通話のウェイトは、ブロードバンド使用のインターネット、携帯電話に侵食され、低くなりつつある。しかし、特に、ルーラルエリア(米国では“ルーラル・アメリカ”という表現がよく使われる)を支えるそのサービスの重要性は、相変わらず大きい。他のネットワークとの混用によって、ルーラル・アメリカでは、未だに、PSTNに大きく依存している。
しかし、ルーラル・アメリカに着信する長距離通話が、ここ1年余りの間に、不着、あるいは不達にならなくても、品質が悪いとか着信表示番号サービス(コーラID)が誤った番号を表示するとかの苦情が多く増えている。
この問題は、ようやく9月末に至り、FCCがタスクフォースの設立という形で取り組むこととなった。しかし、問題は多岐にわたり、今のところRLECs側からだけの報告がなされているが、他方、当事者である発信側の長距離通信事業者さらには、LCR(Least Cost Router、これは機能に即した名称であって、長距離通信事業者、VOIP、携帯電話事業者等多様なキャリアが含まれる)の言い分も聞かないことには、実態把握すら完全なものにならない。
さらに、FCCは、この問題を現在検討中のUSF(ユニバーサル・アクセス・チャージ)解決との関連において措置するとの意向を表明している。してみると、将来、問題を提起したRLECs側に有利な裁定が下されるとは必ずしも考えられない。なにしろ、RLECsは、USF(ユニバーサル・サービス・ファンド)において最大の補助金の受給者(2010年実績で総額10.24億ドルの受給であり、これは、USFによる高コスト支出額の約3分の1を占める)である。PSTNに頼る事業者の補給金を減らし、これをブロードバンド利用業者の方に回すべきだとの方向をすでに、FCC自体が打ち出しているところであるのだから。もちろん、少なくとも、長距離電話会社、RLECsとの間で、長距離通話中継の役割を果たしているLCRが非違行為あるいは法律違反のかどで、なんらかの処分を受ける可能性は、大きいとしても。
本文では、FCCが9月末に行ったタスク・フォースの設立、この問題に対するNECA、一部RLECsの取り組み状況の一部を紹介した。問題が広範囲であるので、論述の焦点は、LECの違法あるいは違法に近い行動を行っているとのRLECs側の強い推測の紹介に当てた。
それにしても、どうして、ここ1年ほどの間に長距離通信に対する苦情がこれほどまでに増大したか。FCC主導による今後の調査結果、及び、改善に向けての果敢な行動を期待したいところである。
タスクフォース設立を宣言した2011年9月26日付けのFCCプレスレリース(注1)
FCCは2011年9月26日、ルーラル地域における長距離着信通話についてのユーザからの苦情に対処するため、タスクフォース設立を宣言した。
後述するとおり、ルーラル地域における長距離着信通話に対する苦情が、2010年4月以来、急増している。RLECの利害を代弁する諸組織(中心となるのは、NECA-National Telecommunications Association-)、RLECs(Rural Local Exchange Company、ルーラル地域にサービスを提供する電話会社)が、この問題の解決に努力をしてきたものの、問題の複雑さと、原因を起こしている業者に強制力を行使できないことからして、2001年春以来、再三再四、この問題への対処をFCCに要請してきた。FCCタスクフォースの設立は、この強い要請に応じて為されたものである。
FCCタスクフォースは、10月18日に第一回のワークショップを開催した。この会合の内容は公表されていないが、FCCは所管の競争有線局長のほか、保安関係の局長も、タスクファースのメンバーに加えており、この問題と真剣に取り組もうとする意気込みが感じられる。
タスクフォースは、次の3点を討議するとしている。
- ルーラル地域におけるコール着信問題の範囲
- 問題の原因、これには、コールを阻止あるいは制限することによって、法律違反が生じているようなことはないかの検討を含む
- この問題解決のため、FCCが取り得る解決策
NECA等による問題点の指摘とFCCへの対策要望
2011年7月13日、RLECsの運営、融資等の支援に当たる7つの団体(NECAが主導)は、FCC考査局(Enforcement Bureau)調査・聴聞部のMs.Cavanagh、Ms.Daily両氏宛の“Call Routing and Termination Problem”というタイトルが付された書簡を送った(注2)。この書簡には、この時点までのルーラル地域電話会社の支援団体、一部RLECsによる問題分析、FCCへの要望が集大成されている。以下、その内容の一部を紹介する。
ルーラル地域における着信通話不良と苦情増大の実態
- 電話を掛けた人に発信音が聞こえるが、掛けられた当人には、何らの信号も聞こえない。
- 電話を掛けられた本人が呼出し音に応じ受話器を取ってもなんらの応答もない。
- 電話を掛けてから、相手方が応答するまでに異常に長い時間が掛る。時には、50秒も。
- 着信電話表示(コーラID)に誤った電話番号が表示される。
- 通話を試みようとする途中に、割り込みの通知が入る。たとえば、“着信側の電話会社が、通話を受けてくれないので、おつなぎできません”などの。
- 電話がかかるものの、音声の品質が悪い。時には、聞き取りにくい。
- ファックスが受信できない。
2011年6月以来の一年間で、着信長距離通話に対する苦情申告数が激増している。
月単位の苦情件数は、2007年の78件から、年々急増を続け、2011年8月には1811件に達した。約20倍の増である。これら苦情のうち、その後の調査で、問題が解決したのは24%、他の76%は未解決のままとなっている。
しかも、この件数は特定の月であって、年間の総数ではないこと、さらに苦情申告をするのは、ユーザが通話に支障がある事態を耐え難いと見ての行動であって、支障がある通話総数のいわば氷山の一角に過ぎない。通話が正常に行われていない実態は、相当に深刻なものであるといわなければならない。
上記のような状況からして、ルーラル米国には、次のような実害が生じている。
- 中小企業の一部から、通話不完了の損害賠償を申し立てる事例がある。
- 警察の派出所から、犯罪防止ができないから、場所を移転しなければならないとの話も出ている。
- 災害の同時通報ができないとの自治体からの苦情がある。
なお、RLECs、NTCA等のRECs関連団体は、苦情の対応、事後処理に追われ、本来の業務に掛る時間をこれに割かれ、その疲労は限界に来ている。
このような事態が生じているのはなぜか
RLECs側は、この問題の基本にあるのは、長距離電話の接続に当たり、現在、幾つもの迂回ルートを通って通話が運ばれ、発信側の長距離電話事業者、着信側のRLECとの間に、幾社ものLCR業者(他の長距離電話会社、回線リテール業者、VOIP業者)が介在し、その間に通話の正常な接続が妨げられていると判断している。
つまりこの問題の原因は、(1)長距離電話接続には、競争導入により発信キャリア(長距離通信事業者)、着信キャリア(RLEC)のほか、中間に通話の中継に当たるLCRが介在している。(2)発信キャリアは、最もコストの掛らないルートの選択(most least cost routing)を採用している。さらに、過疎のルーラル地域においては、RLECsに支払いを求められる回線アクセス料金が割高であるといった事情もあり、この要因が通話不達を始めとする問題を招いている。(3)問題が、特定通信事業者の故意の行為により、引き起こされていると信じたくはない。しかし、そのような行為が行われているとの疑惑は消えない。と指摘する。
ところが、次項で述べるとおり、その後、一部RLECsから、次項でのべるように、一部LRCは、故意に通話を発信加入者から着信加入者(RLECs)に伝送する義務を果たさず、LRC相互間でコールをたらい回しし、着信させないようにしているとの証言が現われた。
このように、上記(3)の疑惑は確信に変った。
RLECあるいはRLECsグループで進む調査とユーザに対する協力依頼
RLECsあるいは、RLECsグループ間で、長距離市外通話問題の検討が進んでいる。その事例を2点、次に上げる。
Toredo Telephoneの調査結果
FCCが10月18日に行ったワークショップにおいて、Toledo Telephone(ワシントン州の小規模のルーラル電話事業者)の経営者、Dale Mertenは、パネリストの一員として、“幾つかの企業は、熟慮した後、故意に着信コールの問題を生み出している”と発言した。Merten氏は、50万ドルを投じ、コール分析用の機器を購入して、調査を行ったという(注3)。
Alpine Telecomのホームページでのユーザ周知とニューメキシコ州交換グループ作成のダイアグラム
Alpine Telecomは、オハイオ州に本拠を置く小規模なRLECであるが、同社は、ホームページで、着信コール問題を周知し、ユーザに対し、違法、不自然な着信通話接続の事例があったら同社に通告してほしいと呼びかけている(注4)。
なお、このホームページには、ニューメキシコ州市内交換グループ作成のダイアグラムが掲載されているので、参考までに、説明文の部分は略し、見出しを訳したものを次図に掲げる。
図:発信者の長距離通話は、どうして着信者につながらないのか
(画像をクリックすると拡大表示します。)
注: | 上図によれば、受信者といずれのLCRとの間に、接続回線が引かれていないが、これは、長距離通話が、LCR内のループを回り、非完了になる場合のケースを浮き彫りにするための故意の表示であると考えられる。実際には、LCR1、LCR2、LCR3から、接続回線が延びていることは、もちろんである。 |
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(注1) | FCC News, September 26 2011, "FCC launches rural call Completion Task Force to address call routing and termination problems in rural America." |
(注2) | http://prodnet.www.neca.org/public |
(注3) | ネット紙Telecompetitorの2011.10.20の記事、"Stakeholders Debate Rural Call Competition Problems, Solutions at FCC." |
(注4) | Alpine社ホームページ、http://www.alpinecom.net/call-completion |
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