DRI テレコムウォッチャー


Google、Motorola Mobility取得で合意:主目的は特許訴訟対策
2011年10月1日号

 I DC発表の統計によると、2011年第2四半期、スマートフォンの出荷数は、一挙にPC出荷数を追い抜いた。2010年第2四半期の全世界におけるスマートフォンの出荷総数は、5340 万台であったのが、2011年第2四半期には1億9万台へとほぼ倍増した。これに対し、PCの2010年第2四半期、2011年第2四半期における出荷総数は、それぞれ8950万台、9210万台と微増に留まり、明らかにスマートフォン台数より下回ったことが明らかとなった(注1)。
 Apple社が、PC機能を大幅に取り込んだ高性能のスマートフォン、iPhoneを市場に出したのが2007年7月、まだ、わずか4年前のことである。以来、他社の製造するスマートフォンも性能が急速に高まり、さらには、iPadに見られるように広画面でe-book、e-mail、音楽配信等、従来PCで利用できていた諸機能をより快適な環境の下に提供できるタブレットの販売が伸びている。このように、PCの市場が急速にスマ-トフォンにより侵食されている。つまり、スマートフォンによる凄まじいPC市場侵入が進行しているのであって、上記の統計数値は、このような背景の下で理解すべきであろう。

 こうして、今や、万能のIT機器としてのスマートフォン並びに関連機器は、不景気が続く経済情勢下において、飛躍的な市場拡大が期待できる分野であり、Apple、Google、Microsoftの3大強豪IT企業を始めとして、数多くのメーカが、世界市場を舞台として、競争している。
 8月15日、Googleは、スマートフォン機器メーカのMotorola Mobilityの買収で合意した。一見、唐突に見えるGoogleのこの大型M&Aも、同社の弱点である特許分野の弱点をMotorolaの豊富な特許の蓄積により補強しようとする懸命の努力であり、観測筋は同社が当然に打つべき企業防衛措置であったと見ている。

 本論では、Motorola Mobility取得についてのGoogle、Motorola Mobility合意の概要および、このM&AがGoogleのスマートフォン特許ポートフォリオ確立にとって必要不可欠であった理由を紹介した。
 また、本文の理解には、最新のスマートフォンの出荷数資料が役立つので、参考として、資料(表3点)を付加した。


Google、Motorola Mobility取得で合意

Motorola Mobility取得の条件
 Googleは、2011年8月15日、Motorola Mobilityを買収することで、同社と合意した。
 この合意は、両社役員会の承認がすでに得られたものである。ただ、規制機関(司法省、FCC等)の承認を取る必要があるので、両社の統合が実現するのは2011年末か、2012年初頭になるものと見られる。
 GoogleによるMotorola Mobility取得の条件は、およそ次のとおり。

  • 取得金額は125億ドル(これは、2011年8月12日現在のMotorola Mobility株式総額に63%のプレミアムを付けた破格の金額)である。支払いはキャッシュ。周知のとおり、Googleは米国有数の最優秀企業であって、380億ドルほどのキャッシュを有している。
  • Motorola Mobilityは、Googleに統合せず、分離子会社とする(注2)。同社は、Googleが創ったスマートフォンのOS、Android搭載のスマートフォン、Droidシリーズの製造にコミットしているが、Android利用についてのMotorolaとの関係は、従来どおり。
  • また、世界のスマートフォン機器メーカには、Android OSを搭載したスマートフォンの製造販売を行っている機器メーカが、数多くある(注3)。主要メーカは、Motorola Mobileのほかは、Samsung(韓)、LG(韓)、HTC(台湾)であるが、Motorola Mobility取得後、Androidをめぐるこれらメーカとの関係も変化なく、オープンとする。

GoogleのCEO、Larry Page氏、Motorola Mobility取得の目的を説明
 Larry Page氏は、2011年8月15日のプレスレリースにおいて、GoogleがMotorola Mobilityを取得した目的は、次の2点にあるという点を強調した(注4)。
 第1は、Androidのエコーシステム(ワイアレス業界で流行の用語。ここでは、スマートフォンのソフトのグローバルな発展を確保するために必要なもろもろの環境をエコーシステム(生態系)になぞらえたもの)を飛躍的に強化し、携帯のコンピューティング端末市場において競争力を高めるには、どうしても緊密な提携関係にあるMotorola Mobilityの株式を取得する必要がある。
 第2は、Apple、Microsoft等の競争相手から、Androidについてのパテントについて、他社のパテントを無料で使っているのは法律違反であるから、パテント料を払えという訴訟が生じている情勢にかんがみ、自己防衛のため、自社パテントのポートフォリオを確立するため、Motorola Mobility取得が必要である。


激化する特許競争の環境下で、緊急に特許のポートフォリオ確立を迫られたGoogle
 GoogleによるMotorola Mobilityの取得は、一見唐突に行われた感があったが、その実これは、日増しに激しくなっているスマートフォンの特許による訴訟争いが、大規模なM&Aの形で現われたものであって、Googleからすれば、特許訴訟に負けた場合の特許料、あるいは、賠償金支払いを要求される可能性があることについての危険を払拭するための切羽詰まった行動であった。
 すでに、8月3日付けのGoogle上級副社長David Drumann氏署名の同社プレスレリースは、次のように、同社にとっての特許問題の重要性、緊急性を訴え、2週間後のMotorola Mobility取得を予告したかのような内容である(注5)。
 「これまで、敵対関係にあったAppleとMicrosoftは、たがいに連携して、特許の分野で当社に攻撃を掛けている。
 Apple、Microsoft等は、特許訴訟を起こす目的等のためにCPTN連合を組織し、早速、45億ドルでNortelの特許を購入、この特許を武器として、Google、Motolora、HTCに訴訟を起している。
 当社は、司法省に彼らの行動が不当であることを訴えるとともに、Apple防衛のためには、当社独自の特許ポートフォリオを構築することも考え、この案件では徹底的に争う決意である。

 実のところ、Googleは2011年3月に行われたNortel特許(7000件)売却の入札に9億ドル強の金額で応札したのであるが、この金額では到底、CPTN連合に抗することができず、敗退した。Googleは、知的所有権を守る意識が薄い点を、これまで、再三再四、利害関係者から指摘され続けていたのである。Googleは、上記応札に敗れてから2011年6、7月ごろまでの期間に翻然としてスマートフォン特許の重要性に目覚めたらしい。CPTN連合が、Nortelから取得した特許を武器として、GoogleおよびAndroid OS使用企業(たとえばMotorola Mobility HTC)に大掛かりな訴訟を起こす戦略をとることが明らかになったからである。Googleの対応は、すぐさまMotorola Mobility取得の合意となって現われた。
 GoogleのMotorola Mobility取得の買収金額は、株式総額+プレミアム分株式総額の63%という被買収側のMotorola Mobilityにとり、破格に有利なものとなった。これについて、一部の情報筋は、Motorola Mobilityは、Google以外に、明らかに幾社かと交渉をしていた(このうちに、Microsoftは確実に含まれていたと考えられている)のであって、その結果、Googleの買収価格が吊り上げられたものと観測している。
 このように、今やスマートフォン業界も訴訟に訴えて、賠償金を取ることを、重要なマーケッティング戦略の一環であると考えるようになっている。もっとも、司法省、一部の裁判所自体、このような動きを批判的に見ている点もあり、いずれ、基本的な判決が下されれば、その時点で、特許を巡る訴訟が下火になる可能性は大いにある(注6)。


参考:2011年第2四半期における携帯・スマートフォンの出荷数

 以下、表1、2、3において、最新の資料を紹介する。今回は、GoogleのMotorola Mobility取得の意義をより良く理解して頂くために、紹介したまでであるので、特に説明は付けない。ただ、携帯・スマートフォン業界は、総体的に成長はめざましいのであるが、キャリア、OS提供業者の盛衰が著しく起こっており、地殻変動が著しい。この点については、本年6月のテレコムウォッチャーで、2011、2010年の第1四半期の状況について紹介したので、本論と合わせてお読み頂きたい(注7)。

表1 主要携帯電話メーカ7社の携帯電話出荷数(2011 2Q/2010 2Q、単位:1000)
メーカ2011 2Q(シェア)2010 2Q2011/2010増減率
Apple20,340(18.4%)8,398+142.2%
Samsung19,800(17.8%)2,800+800.0%
Nokia18,700(15.1%)24,000−30.4%
RIM13,200(12.0%)11,200+17.9%
HTC11,966(10.8%)5,079135.6%
Motorola4,400(4.0%)2,700+83.0%
Sharp20,340(18.4%)1,480(1.3%)+37.3%
その他22,714(20.6%)5,546309.8%
総 計110,400(100%)60,80084.6%
(資料:his iSupply、August 2011)

表2 主要メーカ7社のスマートフォン出荷数(2011 2Q/2010 2Q、単位:1000)
メーカ2011 2Q(シェア)2010 2Q2011/2010増減率
Apple20.3(19.1%)8.4(13.0%)+141.7%
Samsung17.3(16.2%)3.6(5.6%)+380.6%
Nokia16.7(15.7%)24.0(37.3%)−30.4%
RIM12.4(11.6%)11.2(17.4%)+10.7%
HTC11.7(11.0%)4.4(6.6%)+165.9%
Motorola4.1(4.0%)2.7(7.3%)+51.9%
その他22.6(22.3%)10.1(12.8%)+123.7%
総 計105.5(100.0%)64.4(100.0%)+63.8%
(資料:IDC Worldwide Mobile Phone Tracker)

表3 スマートフォンOSのシェア予測(2011年、2012年)
OS2011年市場シェア2015年市場シェア2011-15年間増減率
Android38.9%43.8%+23.7%
*1 Symbian20.6%0.1%−68.8%
*2 iOS18.2%16.9%+17.9%
*3 BlackBerry OS14.2%13.4%+18.3%
Window/Phone73.8%20.3%+82.3%
その他4.3%5.5%27.6%
100.0%100.0%20.1%
*1Symbian:NokiaのスマートフォンOS
*2iOS:Apple社iPhoneのOS
*3Black BerryOS:RIM社のスマートフォンのOS
(資料:IDC Worldwide Tracker)

 なお、表3は、MicrosoftのOSのWindowが、将来5年間で、NokiaのSymbian加入者を承継し、順調に加入者数、シェア数を伸ばすものと仮定している。しかし、この仮定は、いかにも甘過ぎる。


(注1)2011.2.7付け、http://tech.fortune.cnn.com, "Industry first: Smartphones pass PCs in sales."
(注2)Motorolaは、2011年1月、Motorola Mobility(スマートフォンを含むワイアレス機器製造)とMobile Solutionに事業を分割した。同社は、世界で最初の携帯電話を製造した米国第一のワイアレス通信機器メーカであるが、最近は新興メーカに押され、赤字でないまでも業績は振るわない。同社は、特許14,600を所有しており、さらに申請中の特許が6,700ある。これがGoogleによる買収を決断させる主要因となった。
(注3)Androidは、周知のとおり、AppleのiPhoneに刺激されスタートした、利用無料、オープンタイプのスマートフォンOSであるが、その後、飛躍的に販売数を伸ばしている。表3が示すとおり、世界のシェアはトップである。Googleの最近の発表によれば、アンドロイド搭載スマートフォンは1億5千万、搭載キャリア数231、利用国数は123。
(注4)2011年8月15日付け、Googleのプレスレリース、"Superchaging Android Google to Acquiring Mobile Mobility."
(注5)2011年8月3日付け、Googleのプレスレリース、"When Patents Attack Android."
(注6)8月15日以降、Andriod OSを巡り、特許侵害であるとして、これを攻撃するOPTNコンソーシャム、防衛に懸命なGoogleの動きについては、幾つも記事が出回っている。筆者は、その幾点かを参照してこの記事を書いた。すべてを挙げるのは省略するが、優れた記事として、2011.8.15付け、New York Times, "In the World of Wireless, the Company With the Best Patents Wins."
(注7)DRIテレコムウオッチャー、2011年6月1日号、「2011年次、成長著しいグローバル携帯・スマートフォン市場」


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