|
|
DRI テレコムウォッチャー |
|
2011年第2四半期のAT&T、Verizon両社業績:AT&TよりVerizonが良好
2011年8月1日号
AT&T、Verizonの両社は、7月21、22の両日、2011年第2四半期の決算を発表した。
ワイアレス部門では、Verizonが加入者数の増で、大きくAT&Tをリードしている。この期、VerizonにiPhone販売の収益が、もろに同社業績に加わった効果は絶大であった。この効果は、来期以降も持続するものであるし、そもそも、Verizonは、ワイアレスネットワークの品質の優秀さ、4Gネットワークの構築が進んでいること(2011年内に、ほぼ敷設完了の予定)からいって、AT&Tより有利な地位にある。
ワイアライン部門では、AT&T、Verizon両社ともに、相変わらず公衆電話回線からの減収をビデオ、ブロードバンド等からの収入により取り戻す努力が続いている。
この努力は、両社の光ファイバーサービス(FiOS、U−Verse)の加入者増が着実にすすんでいること、クラウドサービスの進展などによりビジネス部門のIPサービスの収入も増大しつつあることからして、かなり成功を収めてはいる。
ただし、ブロードバンドの加入者増は明らかに停滞しており(AT&Tで微増、Verizonで実質、明らかな減少)本年8月2日以降、米国経済のさらなる激動が予想されることもあり、今後の成り行きが懸念される。
本文では、とくに、上記2点について紹介する。
利益率で大きくAT&Tに差を付けたVerizon(注1)
表1 2011年第2四半期におけるAT&T、Verizonの総体の業績比較(単位:100万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
収入 | 31,495(+2.2%) | 27,536(+2.8%) |
営業利益 | 6,165(+1.3%) | 4,892(+1,092%) |
純利益 | 3,658(−10.5%) | 3,604(+552%) |
純利益率 | 6.2% | 13.0% |
(括弧内の数値は、2010年第2四半期に対する増減比である。表2、4、5の場合も同様)
表1で特徴的なことは、AT&Tに比し、Verizonの利益率がきわめて高いことである。
次項目では、ワイアレス、ワイアラインの別に、AT&T、Verizon両社の収入、利益を示す。
ワイアレス部門において、AT&Tに対する優位性を継続するVerizon
表2 2011年第2四半期におけるAT&T、Verizonワイアレス部門の業績比較(単位:100万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
収入 | 15,602(+9.5%) | 17,273(+10.7%) |
営業利益 | 4,207(+2.3%) | 4,692(+0.2%) |
営業利益率 | 27.0%(+4.7%) | 27.1%(+5.0%) |
表2に示すとおり、AT&T、Verizonのワイレス部門はともに、利益率において同等の高水準を示しており、いずれも、最近のスマートフォンブームの波に乗ったかの観がある。
しかし、Verizonは、AT&Tに比し、収入の伸びにおいて勝り、また、収入規模は、10%強上回る状況である。この傾向は、前期(2011年第1四半期)にもその兆しが見えているが、第2四半期において、ますます明らかになったように思われる。
この点をさらに、両社のスマートフォン販売状況、両社のワイアレス加入者の構成比について検討してみる。
加入者基盤が堅固でプリペイド加入者数でAT&Tに大きく差を付けたVerizon
表3 2011年第2四半期におけるAT&T、Verizonのワイアレス加入者数・加入者増 (単位:1000)
項目 | AT&T | Verizon |
2011年第2四半期加入者数増分 ポストペイド加入者数 プリペイド加入者数 リセラーによる加入者数 ネット接続機器加入者数 | 331(−33.3%) 137(−54.3%) *2 248(−130) 379(−57.7%) | 1,257(+90.2%) *1 61(−200) *3 890(−23.3%) |
計 | 1,095(−29.9%) | 2,208(+36.1%) |
2011年第2四半期末加入者数 ポストペイド加入者数 プリペイド加入者数 リセラーによる加入者数 ネット接続機器加入者数 | 68,353(+2.1%) 6,750(+14.8%) 12,522(+18.2%) 10,990(+64.5%)
| 85,290(+4.6%) 4,445(−3.4%) *4 16,557(+22.1%)
|
計 | 98,615(+9.4%) | 106,272(+6.6%) |
1、 | 上表の括弧内の数値は、前期(2011年第1四半期)対比の増減比であるが、*1、*2の括弧内数値は、実績値である。 |
2、 | *3、*4は、「リセラーによる加入者数」の位置に表示されているが、実は、ネット接続機器加入者数も含んでいる。「リセラーによる加入者数+ネット接続機器加入者数」と理解して頂きたい。 |
表3は、2011年第2四半期の3ヶ月間において、Verizonのワイアレス部門がいかに加入者増でAT&Tを圧倒したか、またこれと関連し、Verisonのワイアレス加入基盤がAT&Tワイアレスに比し、いかに強固なものであるかを示している。以下に箇条書きにおいて、その幾点かを指摘する。
- Verizonは2011年第2四半期において、220.8万の加入者を新規に獲得した。これに対し、AT&Tの加入者獲得数は109.5万であって、Verizonの2分の1に満たなかった。
- さらに、加入者数で基幹となるのは、ポストペイド加入者(支払い余力があり月額支払い料金も高く、他社への移動も少ないワイアレス事業者にとって、もっとも頼りとなる加入者層)であるが、Verizonは、この層の加入者を特に増やした。これに対し、AT&T加入者増は、ネット接続機器加入者(iPOT、Tablet、電子書籍等のネット端末加入者であって、月額支払い単金が低い)増が、ポストペイド加入者数を上回っている。
- 2011年第2四半期末の加入者数で見ても、AT&TとVerizonのワイアレス加入者の種類別構成比が、大きく異なる点が特徴的である。すなわち、ポストペイド加入者数の比率は、AT&Tが69.3%と7割弱であるのに対し、Verizonのポストペイド加入者比率は、80.2%と8割に達している。また、AT&Tが加入者数の10%近くをリセラー業者による販売に頼っており、しかも、この増加比率が高いに比して、Verizonは、リセラー業者による加入者比率が低く、しかも、前年同期に比しその数が減少している点も注目される。
さて、2011年第2四半期は、Apple社のiPhone端末をVerizonも販売(2011年2月から)するようになり、その販売実績がフルに決算に反映された最初の四半期である。次項では、この四半期におけるAT&T、Verizon両社のiPhone獲得競争の結果がどのようになったかを紹介する。
iPhoneで大きく加入者数を伸ばしたVerizon、AT&Tは健闘(注2)
AT&Tは、2011年第2四半期に、360万台のiPhoneを販売した。これに対し、VerizonのiPhone販売数は、230万台であった。VerizonがiPhone販売市場に参入すると、AT&TのiPhone加入者は、なだれを打って、Verizonに移動するだろうという事前予測もあったので、上記の数字は、AT&Tが意外に健闘し、iPhone市場トップの地位を死守したかに見える。事実、(1)AT&Tと加入者との間に通常交わされている契約により、1年から3年の契約期間内に解約した場合は、多額のペナルティーが課されている。このペナルティー条項が、AT&TからのiPhone流出を防ぐ役割を果たしたこと(2)iPhoneの販売合戦の主役は、今や、最新のiPhone4に移っているのであるが、AT&Tは、旧型のiPhone3を50ドルの安値で販売しており、この機種が意外に評判を呼んだこと等が挙げられる。
ちなみに、Apple社は、2011年第2四半期、全世界において、2060万のiPhoneを駆動させたと発表している。してみると、今や、米国のiPhone市場は、世界市場の4分1程度のシェアに過ぎないわけであって、いかに、iPhoneが世界市場のスーパー端末として、成功を収めているかが判るというものである。
ところで、AT&Tは360万台のiPhoneの24%は、新規加入者によるものだと称している。この数字は、同社iPhoneが、まだ、自社加入者からの取替え需要だけではないことを喧伝する資料になるかもしれないが、iPhoneにおいて、加入者増に貢献した部分は、86万に過ぎなかったとも理解できる。事実、AT&Tワイアレス部門の加入者増数は、109.5万であるから、iPhoneが、加入者増の中で、いかに重要な役割を果たしたかが判る。
同様のことは、Verizonについても言える。VerizonのiPhone獲得数、230万台は、絶対数こそ、AT&Tの3分2程度に過ぎないが、新規加入者(AT&Tからの移行分を含む)の比率は、AT&Tの場合より高いと推測できる。してみると、Verizonの純加入者増220万のうちかなりの部分は、iPhoneにより占められたはずである。つまり、Verizonが2011年第2四半期に同社として、最高のワイアレス収入、加入者増を達成した原動力の大半は、この期の全期を通じてのiPhone販売に求められると見て良いのであって、AT&T、VerizonのiPhone獲得競争は互角であったというべきであろう。
両社とも不振が続くワイアライン部門 ― ブロードバンドでは、DSLから光ファイバーの移行が進む
表4 2011年第2四半期におけるAT&T、Verizonワイアラインの収入・利益の比較 (単位:100万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
収入 | 14,935(−3.2%) | 10,274(−0.3%) |
営業利益 | 1,955(−3.6%) | 318(+53.6%) |
営業利益率 | 13.1%(+13.2%) | 3.1%(+2.0%) |
AT&T、Verizonともに、ワイアレス部門の収入減となった。もっとも、Verizonの収入減は、ごくわずかである。ただし利益は、はるかにAT&Tより低く、純利益でVerizonは、赤字を計上しているのではないかと推測される。
表5 2011年第2四半期におけるAT&T・Verizonのワイアライン加入者数の比較 (単位:1000)
項目 | AT&T | Verizon |
音声回線総加入者数 | 41,298(−10.3%) | 24,997(−7.9%) |
ブロードバンド加入者数 | U-Verse:3,407(+36.0%) Satellite:1,852(−9.8%) DSL: 9,261(−1.2%) 計 14,520(+4.3%) | FiOS Internet:4,478(+22.4%) 高速DSL等: 4074(−11.8%) 計 8,552(+3.4%) |
(Verizonは、前期までは、DSL加入者数を推計できたが、今回、「高速DSL等」と定義を変更したので、推計すらできなくなった。多分、この定義の項目では、DSLのうち、一定のスピード以下の加入者を落とし、多分、そのほか、Wi-Fi利用者か何かを付け加えたのではないかと考えられる。DSLの加入者をそのまま、計上していれば、多分、2011年第1四半期の場合と同様に、Verizonのブロードバンド加入者総数は、2011年第2四半期に、前年同期に比し減少していたことは、確実である。)
表5で明らかになっているのは、ここ数年来、同じ現象であるが、音声回線の急激な落ち込みと、これを当然代替しなければならないブロードバンド回線の緩やかな伸び率である。
ブロードバンド分野でのAT&T、Verizonの最大の競争相手は、Comcast、TimeWarner等のMSO(大手ケーブル会社)であるが、MSOの2011年第2四半期の業績は、まだ発表されていない。大手電話会社とMSOの競争状況は、折りを見て紹介することにしたい。
(注1) | 本号の資料は、AT&T、Verizonの両社が、7月21、22日の両日に発表した両社の2011年第2四半期決算報告書からのものである。また、記述に当たっては、DRIテレコムウオッチャー、2011年5月15日号、「2011年第1四半期におけるAT&T、Verizonの業績比較」を参照したことはもちろんである。今回、ワイアレスの加入者数について、AT&T、Verizonの両社が、同様の分類項目により、加入者数数値を計上しているので、5月15日号の記事に比し、より確定的な両社の差異分析ができたものと考えている。 |
(注2) | この項では、次の2つのネット資料を参照した。しかし、InformationWeekは、AT&Tに好意的に、ニューヨークタイムスは、中立の立場から記事を構成している。これに対し、筆者の論調は、資料の解釈から、Verizonに好意的な記事となった。 2011.7.21、http://www.informationweek.com,“Smartphones Dominate AT&T Sales: No iPhone Mass Exodus.” http://www.nytimes.com/2011/07/23/technology/iphone-bolsters-verizon-results.html?scp=1&sq=Verizon%92s%20Bet%20on%20iPhones%20Brings%20a%20Slow%20Return&st=cse
, “Verizon’s Bet on iPhones Brings a Slow Return.” |
テレコムウォッチャーのバックナンバーはこちらから
|
|