FCCは2011年6月17日、ルーラルエリアにおけるブロードバンドの現状についての報告書を発表した(注1)。FCCは、すでに、2011年5月20日、第7回ブロードバンド報告書を発表しており(注2)、今回のルーラルエリア・ブロードバンド報告書は、前回の報告書を補足する内容のものである。
この報告書は、(1)ルーラル地域のブロードバンドへのアクセス可能者数の比率、アクセス加入者の比率(普及率)の計上(2)ブロードバンドをダイアルトーン・サービスを含めた広義のものとして捉え、スピード別の3段階にわけて、所要の数値を計上している点が特徴である。この作業は、NTIAが中心となり、地域別のブロードバンドの詳細をプロットして完成したブロードバンド地図の作成により可能となったものである。
FCCは、今回の資料は、諸種の事情(あまり筋が通った説明をしていないが)により、第7回ブロードバンド報告の場合と同様、固定ブロードバンドの分析に留まったものであって、ワイアレスブロードバンドの資料は提出できなかったと弁解している。
もっとも、報告書のなかで、固定ブロードバンド、ワイアレスブロードバンドの双方のネットワークにより、ブロードバンドでカバーされていない区域(単位:人口)は、米国全土で2%、ルーラル地域においては8%という数字(2009年11月)を明らかにされている(この数字には、ダイアルトーンは含まれていない)。
この数字は、当然、予想されたところであって、米国のブロードバンドは、インフラ構築の見地からは、現在、さほど問題がないレベルに到達しているのである。この数値が、既に1年半ほど前のものであるから、最近の数値はさらに向上しているに違いない。
もっとも、まもなく発表される2011年第2四半期の決算は、米国経済の不況の影響を受けて、高速ブロードバンド加入者数の伸びは、大きく停滞(場合によれば、全体で減少)するとの予測も既になされている。案外、2009、2010に精力的に実施された政府資金の投入が今後も持続されないとすると、米国のブロードバンドは、有効需要が喚起されないで、普及率の横這いが続くという最悪の事態までも予想される。
本文では、ブロードバンド報告書に掲載された2点の主な統計、および、NTIA、RUSがここ2年間、ブロードバンド構築のために行ってきた投融資の状況を紹介する。
ブロードバンドのアクセス可能・利用比率
表1 固定ブロードバンドのアクセス可能比率(ルーラル・非ルーラル、2010年6月)
地域 | 人口 | 3Mbps/768kbps超の固定ブロードバンドにアクセスできない人口 | 3Mbps/768bps超の固定ブロードバンドにアクセスできない人口の比率 |
ルーラル | 67,224,943 | 118,974,285 | 28.2% |
非ルーラル | 343,181,422 | 7,186,053 | 3.0% |
全エリア | 310,406,365 | 26,160,338 | 8.4% |
ルーラルエリア比率 | 21.7% | 72.5% | - |
上表は、3Mbps/768kbps超のブロードバンドにアクセスできない米国の人口比率が、ルーラル地域、非ルーラル地域でいかに異なっているかを示したものである。
ルーラルエリアの人口比率は、全人口の21.7%を占めるに過ぎない。ところが、ブロードバンドにアクセスできない人口比率は、28.2%と単なる人口比率より、かなり高くなっている。
これに対し、非ルーラル地域の人口比率は78.3%(100%−21.7%)と、ルーラル地域に比し優に3倍を超えているにもかかわらず、ブロードバンドにアクセスできない人口比率はわずか3.0%に過ぎない。全エリアで見ると、8.4%が非アクセスエリアになっている。
表2では、速度別のブロードバンド別に、全地域、ルーラル地域双方において、ブロードバンドの普及率がどの程度になっているのか、また、2009年6月から翌2010年6月までの1年間で、どれだけ普及率が成長したかの状況を示す。
表2 固定ブロードバンド普及率のルーラル・米国全地域比較(2009年6月、2010年6月)
スピード/調査年月 | 米国全土 | ルーラル地域 |
2009年6月 | 2010年6月 | 2009年6月 | 2010年6月 |
768/200kbpsのものおよびこのスピードを超えるもの | 55.9% (5.3%) | 59.7%(3.8%) (6.9%) | 41.4% (33.4%) | 45.9%(4.5%) (19.0%) |
3Mbps/768kbpsのスピードのものおよびこのスピードを超えるもの | 26.8% (13.0%) | 33.6%(6.8%) (14.4%) | 13.4% (8.8%) | 18.9%(5.5%) (11.8%) |
6Mbps/1.5Mbpsのスピードのものおよびこのスピードを超えるもの | 13.8% | 19.2%(5.4%) | 4.6% | 7.1%(2.5%) |
1. | 上表のルーラル地域の調査は、全地域について行われたものではない。抽出調査であるが、全ルーラル地域人口の少なくとも50%は網羅しているという。 |
2. | 2010年6月実績の後の括弧内の数値は、2009年6月から、2009年6月までの普及率増である。 |
3. | 各項目は2段構成で示してあるが、最初の段の数字は累積値であり、2段目の括弧で示した数値は当該欄のみの数値である。括弧内の数値は原資料にはなく、筆者が算出したものであるが、分析には、主としてこの数値を使った。 |
以下、表2から読み取れる主な事項を列挙する。
- 第3欄は、高速ブロードバンドで、その代表的なものは、ケーブルテレビ会社による同軸ケーブルブロードバンドおよび電話系企業による光ファイババー・ブロードバンド(代表的なものは、Verizon、AT&TによるFios、U-Verse)であろう。ルーラル地域の普及率7.1%に対し、全国の普及率は13.8%でルーラル地域は、都市部に比し、半ばに満たない。
- 第2欄は、中速のブロードバンドであって、第1欄の同軸ケーブル、光ファイバに加え、DSLサービス加入者数が加わっているものと見られる。中速ブロードバンドの分野では、ルーラル地域の比率がかなり高まり、ある程度、全体の数値に近づいて、事項で述べるとおり、この期間、ブロードバンドの振興に多額の資金が投じられたのであるが、この投資の効果が上がったものと推定される。
- 第1欄は、ダイアルトーン・サービスの加入者数の比率を示したものであるが、ルーラル地位における大きな減少、米国全土においては、わずかながらの増加が対照的である。
ルーラル地域では、中速、高速のブロードバンドに振り代わった加入者の増により、この現象はあらまし説明できる。また、米国全体では、経済不況の浸透とともに、通常のブロードバンド加入を放棄して、ダイアル・トーンで我慢する加入者数が生じているものと考えられる。
ブロードバンド投資、ブロードバンド普及のための米国政府の財政投融資政策
米国では、2009年2月、「American Recovery and Reinvest Act」に基づき、7,890億ドルの大掛かりな財政資金の支出がスタートした。この政策は、リーマン・ショック後の米国経済不況の打開を目的とした未曾有の経済回復施策であった。注目すべきことに、ブロードバンド振興に対しては、基本的なインフラ形成であり、しかも景気浮揚に大きく役立つ投資であると評価され、総額72億ドルが割り振られた(注3)。
FCCルーラル報告書は、主として、NTIA(National Telecommunications and Information Administrations、米国商務省の内局)とRUS(Departmenr of Agriculture's Rural Utilities Service)による、上記再生資金の支出(贈与または融資)が、どのようになされたか、また、この財政投融資策が、どのように米国ブロードバンドの発展に貢献したかを記述している。以下に、その概要を紹介する。
NTIAのBTOP(Broadband Technology Opportunity Program、ブロードバンド技術に機会を提供するプログラム)
BTOPは、ルーラルおよび発展の遅れた地域に対し、選りすぐった公共的事業体(地方自治体を含む)を通じて、ブロードバンドサービスの開発、拡大を行わせる目的で、資金を供給することを目的とする。
NTIAは、BTOPにより、233のプロジェクトに資金を投資した。投資は、米国すべての州に及んだ。投資総額は、約、40億ドルであった。
上記のプロジェクトには、次のものが含まれている。
* | ブロードバンド・ネットの構築:123プロジェクト、35億ドル |
* | コンピュータ・センターの構築:66プロジェクト、2.01億ドル |
* | ブロードバンド普及拡大への資金供与:普及率の低い地域、および低度の技術しか提供されていない地域に対する44プロジェクト、2億5070万ドル |
なお、これらプロジェクトにより、ブロードバンドの強化、普及率改善等に大きな効果が生じるものと期待されるが、現段階で、完全な評価をすることはできない。
RUSによるBIPプログラム
BIPプログラムは、280万家庭(人口1000万人)、36.4万企業、32万枢要コミュニティー組織(学校、医療機関、保安機関等)へのブロードバンドサービスの提供あるいはブロードバンド高度化をもたらすことになろう。これらプロジェクトにより、また、31の少数民族地域、124の恒常的貧困地域のブロード改善が、同時にもたらされることとなる。
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