DRI テレコムウォッチャー


Comcast、高速ブロードバンド利用による多彩かつ高品質のTVサービスを提供へ
2011年7月1日号

 Comcastは、2011年初頭、念願であったNBC Universalを傘下に収めて以来、他のMSO(TimeWarner、Cablevisionなどの大手ケーブル会社)とは、一味、異なったマルティメディア企業に脱皮した。
 Comcastは、これまでも最大加入者数を有するMSOであった。しかも本来のビデオ事業以外に、高速インターネット、音声通信サービスの提供において、最も成功している企業である。同社は、さらに、NBC Universalの番組(コンテンツ)の相当部分を自社内で調達できる利点も兼ね備えるようになったし、仮にNBC Universalの売り上げを加えれば、AT&T固定部門、Verizon固定部門に匹敵するほどの収入規模を有するようになった。
 もっとも、現在、激しい競争にさらされている点では、他のケーブルテレビ事業者と変るところがない。特に、米国においては、パソコンによるストリーミング・ビデオの売り上げが大きく伸びており、最大手Netflixの加入者数は、Comcast加入者数を追い抜いた。まだ、加入者増の動きはそれほど高くはないにせよ、AT&T、VerizonからのU-verse、FiosによるComcastビデオ加入者の争奪は、着実に進んでいる。Comcastのビデオ加入者数は、2011年第1四半期末、約2270万であるが、これは、昨年同期に比し約80万の減、比率にして3.1%の減少である。
 このような競争環境の下にあって、Comcastの最重要の戦略は、事業の根幹をなすビデオ加入者を囲い込み、これら加入者に、できるだけ多くの音声サービス、高速ブロードバンドサービスを受けてもらうことである。このダブルプレイ、トリプルプレイの持続的遂行が見事に成功し、同社の業績向上に最大の貢献をしてきたのであるが、この戦略の効果が薄くなりつつあるのである。
 今回、年間3%強という数字で明らかになった同社のビデオサービス加入者の減少は、競争業者からの挑戦が、いよいよComcastの本丸にまで及んできた不吉な兆候として、読み取ることができる。
 Comcastは、年初来、自社ビデオ加入者囲い込みを確実なものにするため、積極的な活動を開始した。同社は、自社サービスを“Xfinity”に統一し、このブランド名の浸透に懸命である。実のところ、専門筋からは、どうして社名の”Comcast”を使わないのかといった批判があるが、これには、同社の最大の弱点が関係しているらしい。ケーブル業界で最高の地位を占めながら、ユーザから不良なサービスについて、苦情がもっとも多いのがComcast社である。悪名高いComcast社であるため、とても、自社名をそのまま、サービスブランド名に使えなかったのであろう。

 Comcastの総帥、CEO兼会長のBrian L Robert氏は、みずから、2011年6月16日、ケーブルテレビ業界にとっては、年1回のいわばお祭りであるNCTA Cable Show 2011(2011年6月14日から16日)において、将来のTVのありかたを示すデモンストレーションに出演した。講演は行わなかったようであるが、米国のメディアは、この事実を大きく報道した。Robert氏出演の2日前、Comcastは、同社のビデオサービスが進むべき方向、そのために現に進行しつつある他の競争業者との提携状況を簡潔に記した将来計画を発表した。
 CATV業界の一般的な戦略目標は、他社からの競争を防衛する手段としての“TV Everywhere”であって、自社のビデオサービスをできるだけ、オンラインで、パソコン、携帯端末に提供することにより、競争業者のストリーミング・オンラインに対抗しようというものである、これは、程度の差こそあれ、MSO始め多くのケーブルテレビ事業者が、現に実行しているところである。
 Comcastが、会長みずからのデモンストレーションにより訴えたかったのは、同社が高速ブロードバンドとそれに関連するもろもろの新技術を駆使して、テレビ画面自体に、パソコン、携帯電話で提供されているサービスを取り込むという構想、いわば、エンタテインメント分野に限ったTVのパソコン化である。雄大な構想といえようが、実現には多大の投資が掛かるし、そのコストを回収できるだけのユーザが得られるのかも気になるところである。
 本文では、Comcastの新たなビデオ革新戦略の構想の骨子、および同社の2011年第1四半期の決算を紹介する。


Video Xfinityのサービス拡大、品質向上に向けてのComcastのビジョン

 Comcastのロバート会長は、シカゴで開催されたNCTA Cable Show 2011の最終日、6月16日に、同社が実験している新サービスのデモンストレーションを行った(注1)。デモの題材は2つ。1つは、Comcastが、今後計画している1Gbitのブロードバンドのスピードがいかに速いものかを人気テレビお笑い番組“30Rock”の中継によって示したもの。2つは、TVの番組選択を従来のセットトップ方式から、サーバー使用のクラウドを行った場合の事例をデモしたものである。このデモンストレーションは、現に、ジョージア州、オーグスタ市でテスト中のサービスの一部を公開したものだという。
 以下、デモ開始の2日前のComcastが発表したプレスレリースに基づき、同社のサービス開発の計画を紹介する(注2)。
 Comcastは、これらサービス実施の時期を特段明示してはいないが、実施できるものは、年内にでも、順次実行に移していく計画のようである。

Comcastが新たにサービスを拡大していこうとする3分野

  • 番組の検索方法の刷新、スピード化:検索方法を刷新し、幾千ものオプションのなかから、瞬時に、顧客が望む番組を検索し、即、TV画面で見られるようにする。
  • My TVRの提供:ユーザの興味を反映するユーザの記録、好みの項目、勧告等を画面に表示し、TVを一層パーソナライズされたものにする
  • インターアクティブ・アプリケーションの提供:アクセスが容易であり、また、TV用に機能を高めたインターアクティブ・アプリケーションを提供する。トラフィックとか、天候の情報だとか、また、友人たちと情報を共有して、番組を決めるのに役立つフェイス・ブックとか。
3分野実現のため、実行、計画している技術開発計画、他社との提携等(注3)
  • TVで友人と経験を共有し合うことができるよう、ソーシャル・アプリケーションを実現するため、Facebookを利用できるようにする。
  • ユーザインターフェイスの高度化、新たなインターアクティブ/アプリケーション提供のためのセット・ボックス開発のため、Intel Corporationの技術を導入する。
  • 新たなTV技術を導入するため、ディジタルTV技術の指導的メーカ、Pace plcの技術も導入する。
  • 番組検索をクラウド化するため、the Platform®(Comcastの完全子会社)の技術を使う。


好調なComcastの2011年第1四半期決算 ー Xfinityの3サービスはいずれも増収

 表1では、Comcastの2011年第1四半期決算における収支、営業利益をAT&T、Verizon固定部門と対比して示した。なお、Comcastは、2011年1月中旬にGEから放送会社NBCの50%株式を取得した。ただ、以下の資料には、NBC Universalの決算数値は含まれていない。NBCの収入分、4348百万ドルを加えれば、Comcastの総収入は、13432百万ドルとなる。この収入規模は、Verizonの固定部門を上回るのはもちろんのこと、AT&T固定部門の収入規模に迫る。
 地方の個人企業ケーブルテレビ会社から、持続的な他社統合の努力により、事業拡大を行ってきたComcastは、今や、Verizon、AT&Tの固定部門と拮抗するIT・マルチメディア企業に成長したのである。

表1 Comcast、AT&T固定部門、Verizon固定部門の業績比較(2011年第1四半期、単位:100万ドル)
項目ComcastAT&TVerizon
収入9,084(+5.8%)14,950(−1,1%)10,147(−1.4%)
営業利益3,749(+7.7%)1,726(−2.1%)288(+13.8%)
営業利益率41.2%(+1.7%)11.5%(+13.0%)2.8%(+2,5%)

 上表によればComcastの業績は、AT&T、Verizonに比し、はるかに良好である。
 まず、AT&T、Verizonが減収であるのにもかかわらず、Comcastは5.8%と増収基調を保っている。
 また、Comcastの営業利益率はきわめて高い。この利益率の高さは、Comcastが、その多くの地域において、未だ独占(つまりVerizonのFiOSもAT&TのU-Verseもサービス提供を行っていない)を保持していることによる面も強い。
 表2では、Comcastの収入単位ごとの内訳を紹介した。

表2 Comcast収入の項目内訳(2011年第1四半期、単位:100万ドル)
項目収入
(2011年第1四半期)
収入
(2010年第1四半期)
増減比
ビデオ4,8914,808+1.7%
高速インターネット2,1061,936+8.8%
音声通信860808+6.4%
広告455412+10.4%
ビジネス・サービス394263+49.8%
その他378356+.6.2%
9,0848,583+5.8%

 すべてのサービス項目が、前年対比増収である。
 とりわけ、最大の成長分野である高速インターネットと音声通信の分野の成長が目覚しい。
 合計で、2011年第1四半期には、総収入の32.7%(約3分の1)に達していることを指摘しておきたい。

表3 Comcastのサービス別加入者数(2011年第1四半期/2010年第1四半期、単位:万)
項目2011年第1四半期2010年第1四半期増減率
ビデオ加入者数2,276.32,347.7−3.1%
高速インターネット加入者数17,40615,320+6.7%
音声サービス加入者数887.0789.5+17,6%
4,903.94,770.2+3.1%

 表3は、Comcastが収入を生み出す根源となる各サービス別の加入者数を示したものである。
 新規分野である高速インターネット、音声サービス加入者数は、順調に伸びている。しかし、Comcastにとってのアキレス腱は、同社本来のサービスであるビデオの加入者数が、−3,1%とかなりの減少を示したことである。Comcastは、もちろん、AT&T、Verizon等の他社からのサービス加入者を引き込んで、高速インターネットの加入者数を増大させているのであるが、それら加入者は、全くの新規者である場合は少ないと考えられる。Comcastは、周知のとおり、double play、triple playのパッケージサービス(単独の場合より料金が割安になる)の提示により、ビデオ加入者に対するサービス加入勧奨を勧めており、それゆえに、安い販促費用で、高速インターネット・音声サービスの獲得に成功してきたのである。しかし、本来のビデオ加入者数が減少に転じると当然、販促の効果が薄れるという事態が起こるはずである。


(注1)2011年6月14日付け、Comcastのプレスレリース、“Comcast Chairman and CEO Brian L,Roberts to Unveil Next Generation Television Experiences and New Broadband Speed.”、同じく、2011年6月16日付け、Comcastのプレスレリース、”Comcsst CEO Brian Roberts Demonstrates 1Gbps Speed Broadband Connection and Next Generation Video Product.” および、2011年6月20日付、FT.com、”Cable companies think outside the box.”
(注2)Comcastについては、同社のプレスレリース、”Comcast Reports 1st Quarter 2011 Results”からの数値を、また、AT&T、Verizonの決算数値については、DRIテレコムウオッチャー、2011年5月15日号、「2011年第1四半期におけるAT&T、Verizonの業績比較」に計上した数値を使用した。
(注3)注1のプレスレリースから洩れているが、Comcastは6月14日、Skypeとの戦略的提携を発表した。この提携により、Comcastは、自社の加入者とSkypeの加入者に音声通話、ビデオ通話を提供するという。このように、Comcastは、高速ブロードバンドのアプリケーションを順次、自社XfinityVideoサービスのメニューに繰り込んでいくため、今後、数多くのIP事業者との提携を考えている模様である。2011.6.14日付け、Comcastプレスレリース、“Comcast and Skype Annouce Agreement to Bring a new HD Video Calling Experience to the Television.”


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