|
|
DRI テレコムウォッチャー |
|
FCC、第7回ブロードバンド進捗状況報告書を発表
2011年6月15日号
FCCは、2011年5月20日、第7回のブロードバンド進捗状況報告書を発表した。今回の報告書は、初めて、推計によらず、ブロードバンドが利用できていない地域を個別に調査し積み上げた実態調査に基づいたものであって、これまでの調査に比し正確なものだとFCCは自画自賛している。
ブロードバンド拡充は、オバマ政権の重要な政策目標であって、現在、FCCは鋭意、その目標達成に向けて、最大限の努力を払っている。また、民間キャリアのブロードバンドの設備投資額も多額に達している。にもかかわらず、その成果はまだ不十分であると報告書は述べている。この結論は、前回、第6回ブロードバンド進捗状況報告の場合と変らない。FCCのMcDonell共和党委員は、この報告書に対し鋭い批判を提出しており、筆者も同氏の意見に、おおむね賛成である。
本文では、FCC報告書の結論、McDonell氏の批判の概要、さらに、報告書の付録の資料のほんの一部の統計資料を紹介した。
米国政府がUSF(ユニバーサルサービス基金)を通じ、どれだけの資金援助をするかは1996年電気通信法706条の解釈とも関連し、これまで10数年間にわたり、民主、共和両党間で論議が交わされてきたところである。
筆者はこれまで、この案件については、終始、民主党寄りの考え方をしてきたのであるが、たまたま今回、米国の貧困率が予想以上に高く、しかも年々増大しつつあるとの情報を知るにおよび、従来の考え方に変化が生じた。
USFの財源は、結局、米国国民からの拠出に寄らざるを得ないのであって、今後はむしろ、国民の所得を高める経済政策を通じ、需要サイドからブロードバンドの普及率が高まるのを待つべきではないのだろうか。今回の報告書で、FCCは、高速ブロードバンドの定義を下り3Mbs、上り768kb/sと定義し、この速度を上回るブロードバンドが享受できる米国市民数、比率を算定しているのであるが、最近の不況は、米国のブロードバンドにもきびしい影響を及ぼしている模様である。ブロードバンド利用から脱落し、ダイアルトーンによるインターネット利用に戻る加入者数も増えつつあるとの報道すら見られる状況である(注1)。
この点、キャリア相互の競争による料金引き下げ、伝送速度のアップを通じて、ブロードバンドの普及を進めているわが国のやり方の方が、優れているように思える。
報告書の結論:米国ブロードバンドの進展はまだ不十分
第7回ブロードバンド進捗状況報告書の本文は、資料部分を含め100ページ超のかなりの分量であるが(注2)、ここでは、報告書が提示するデータの細部に入ることは避ける。主として、報告書と同時に発表されたFCCのプレスレリースおよび、FCC委員長、Genachouski氏の声明文(注3)をベースにして、FCCが米国のブロードバンドの現状をどのように捉えているか、また、どうして今後、さらなるブロードバンドの投資が必要としているかの記述を紹介する。
米国ブロードバンド普及の現状
- 2640万の米国国民が、高速ブロードバンド(下り3Mbs、上り768kb/s)にアクセスできない状況にある。そのほとんどがルーラル地域におけるものであって、これら地域では、ブロードバンドがもたらす職の提供、経済的機会が享受できない。
- さらに、高速ブロードバンドにアクセスできる地域においても、約3分の1の米国人(31.8%の家庭)は、高速ブロードバンドを利用していない。その主な理由は、利用に当たっての障壁 ― 料金が支払えない、ディジタル・リテラシイが不足、プライバシーに対する懸念 ― があるためである。上記のブロードバンドへのアクセス、利用が不十分である問題は、特に、低所得の米人、アフリカ系米人、スペイン系米人、高齢者世帯、少数民族の世帯において深刻である。
- 図書館、学校においても、品質の高いブロードバンドが充分に提供されていない。このことも、ブロードバンドの利用が適時、適切に行なわれていないことを示している。
ブロードバンドの拡充のためには、まだ、官民双方からの努力が必要
FCCはこれまで、USF資金により、固定電話サービスの普及と並んで、ブロードバンド拡充のための資金援助を行ってきた。さらに、現在、ブロードバンドの一層の拡充(いわば、ブロードバンドのユニバーサル化)のため、懸命に規則制定作業を行っている。また、民間企業においても、ブロードバンドへの投資は旺盛であり、その金額は2010年、推計、650億ドル(ワイアライン、ワイアレス双方のブロードバンドを含む)に及んでいる。
“米国のブロードバンドの進捗状況を充分であると見る論者もいるが、私はそう思わない。FCCは、1996年通信法706条により、タイムリーかつ適切なブロードバンドサービスが利用できるようにせよとの負託を受けているのであって、今後もこの目標に向けて、努力をしていく。”(Gunachouski FCC委員長の声明から)
報告書を強く批判する共和党のMcDowell委員
共和党FCC委員のMcDowell氏は、これまで、民主党委員長Gunachouski氏の下での多くのFCC裁定に対し、歯切れの良い議論(多くの場合、少数意見)を展開してきた論客であるが、今回の報告書に対しても、鋭い反対意見を提出した(注4)。ここでは、同氏の反対意見の概略を紹介する。ただ、同氏の意見表明は、ところどころ、婉曲的に過ぎるとも思われる箇所があるので、多少、より直裁な表現に改めた箇所があることをお断りしておく。
- 1996年通信法に基づく第7回ブロードバンド進捗状況報告書(Broadband Progress Report)は、2009年の第6回報告書に引き続くものである。第1回から第5回目までの報告書は、いずれも、米国におけるブロードバンドの進捗状況は順調であるというものであった。ところが、Genachouski委員長就任後、その結論が変り、通信法で定められた、“タイムリーかつ適切なブロードバンド架設”が行われていないとの結論になっている。この結論は、次のような、時系列で見ての急速なブロードバンドの進展からして、正当な判断とはいえない。
- 米国の家庭におけるブロードバンドのアクセス比率は、2008年12月の92%から、2010年6月の96%へと上昇している。アクセスできない家庭数は、この期間、880万から460万へとほぼ半減した。
- ブロードバンドにアクセスできる米国人の比率は、2003年にはわずか15%に過ぎなかったが、2009年末には95%にまで上昇したのである。
- FCCは、今回の報告書でも、また、その他のブロードバンド関係の文書においても、ブロードバンドにおけるモバイルの役割を大きく評価しながら、今回の報告書では、準備不足等の理由を挙げて、モバイルブロードバンドを統計資料から除いているのは、ブロードバンドの普及状況を過小に表示することとなり、適切でない。
- 実際のところ、下り3Mbps超のモバイル・ブロードバンド加入者は、2008年12月には13.3万に過ぎなかったが、これは、2010年6月には539万へと急増している。
- さらに2年前には、3社までのモバイル・キャリアにアクセスできる米国人の比率は、51%に過ぎなかったが、現在では、4分3の加入者が、3社までのモバイル加入者にアクセスできるようになっている。
上記と関連し、FCCは、統計の対象を高速ブロードバンドとし、その周波数を上り3Mbps、下り768bp/sと定義したのであるが、この定義にも疑問があるところである。
これ以下のスピードで、満足しているユーザも相当に多いので、高きに過ぎはしないか。
- 誤った解釈がなされているのは、1996年電気通信法第706条(b)の次の条文である。
“FCCは、高度電気通信能力を合理的かつ時宜に適した方法で、すべての米国人に提供されているかどうか(deployment)を判断しなければならない」(訳は、郵政省発行の「1996年米国電気通信法の解説」によった)”。
通常、米国の通信関係法律では、deploymentとavailabilityを区別する。deploymentは、ユーザが申し込めば、サービスが利用できるようサービスが提供されている状態を意味する。これに対しavailabilityはユーザが現に利用していることを意味する。
したがって、電気通信法の条文に則して解釈する限り、FCCは、前者の状況を調査すればいいのであって、実際にユーザが利用しているかどうか(いわば普及率)は調査対象外となる。
しかしFCCは、第6回調査のときにもMcDowell氏の意見を退け、電気通信法は、availabilityの調査をも認めているとの解釈を行っている。また、今回の第7回調査でも、この姿勢を崩していない。
さらに論を進めれば、FCCは、(1)料金が支払えない(2)デジタル・リテラシーが不足している(3)プライバシーに対する懸念があるとのブロードバンド普及率上昇を妨げる要因について論じている。しかしこれは、ブロードバンドの架設(deployment)が適切に行われているか否かのみをFCCに負託している電気通信法の意図からすれば、FCCが関与すべき領域を超えているのではないだろうか。
総じて、今回の報告書からは、FCCが今後、ブロードバンドの規制を強化したいとの意図(筆者注:すなわち、ネットニュートラリティー原則の侵害の意図)が強く感じられる。
州間の格差が大きい米国ブロードバンドサービス非提供の比率
第7回ブロードバンド進捗状況報告書は、その付録として幾種もの地域別ブロードバンド提供地域の人口等の統計資料を添付している。
以下に、付録Bのほんの一部(項目でも、地域でも)を紹介する。
表 ブロードバンドサービス未提供地域についてのデータ
対象とした地域 | *1 未提供地域比率(%) | 未提供地域GDP($) | *2 貧困者比率(%) |
未提供が少ない地域 ワシントン地区 コネティカット州 デラウェア州 マサチューセッツ州 ニューヨーク州 | 0 1 1 1 3 | 30,498 39,256 27,944 35,055 26,254 | 28,1 4,9 11,5 8,2 12,0 |
未提供中程度の州 アイオワ州 カリフォルニア州 ウィスコンシン州 アリゾナ州 ノースカロライナ州 | 10 11 12 12 13 | 24,583 30,005 26,734 22,340 21,716 | 9,0 12,6 8,7 17,2 17,5 |
未提供が多い州 アラスカ州 インディアナ州 ケンタッキー州 モンタナ州 ワイオミング州 | 22 28 28 29 47 | 27,626 23,076 20,871 22,055 26,747 | 11,2 13,9 19,1 14,8 9,4 |
平均 | 8 | 24,587 | 14,2 |
* 未提供地域の%は、地域人口に対する未提供地域人口の比率である。
筆者は、この表から米国のブロードバンドの架設は、州単位で大きな格差があるものの、全国平均8%という未架設地域の人口比率は、結構、良好な数値であると考える。
モバイルのブロードバンドを使用している者の比率は、McDowell氏が指摘するとおり、相当数に上っているから、もしも、統計値にモバイルを含めれば、未架設地域の人口はもっと減るはずである。
しかも、最小限度のインターネットの情報検索、メールの送受の最低限度のサービスを利用するというのなら、ダイアル・アップサービスを利用するという手もある。視点を変えて、”高速ブロードバンド“などという高い目標を取り下げ、インターネット・アクセスが可能かいなかの統計指標を求めれば、未架設エリアの比率は限りなくゼロに近づくのではなかろうか。ビジネス用ならいざ知らず、家庭用のインターネット利用なら、実のところ、高速ブロードバンドは、必ずしも必需サービスとはいえないかもしれない。すべてのユーザが、テレビで受像するサービスのほかに、PCにより、画像、映像の受信、あるいは、音楽の聴取を望んでいるわけでもあるまいし。
それよりも、上表から、米国の貧困者の比率poverty rateが、全国平均14,2%、州単位で見ても10%を下回る比率の州がきわめて少ないほどに、高いのには驚かされた。
米国Census Bureauの発表によれば、2008年における貧困層の人口は、2980万人(13,2%)であったが、2009年には3360万人(14,3%)に増大している(注5)。これだけの米国人が、満足な食を得られず、フード・スタンプ(食料切符)による配給を受けているのである。フード・スタンプは、1930年代の大不況時にスタートした救貧制度であるが、この制度がまだ存続しているどころか、受給者が増えている状況であるという事実に、米国社会の所得分配の著しい不平等が、如実に現われている。
こういう状況からすると、高速ブロードバンドを究極的にユニバーサルサービス化したいというFCC委員長Gunachouski氏の目標(氏はさる座談会の席上、この趣旨の発言をしている)が、いかにも白々しく聞こえてしまうのである。米国における最重要課題は、高速ブロードバンドのユニバーサル化ではなく、貧困の撲滅ではないのだろうか。
(注1) | Wikipedia、"Dial-up Internet Access." |
(注2) | 2011年5月11日付け、FCC文書、"Seventh Broadband Progress Report and order on reconstruction." |
(注3) | 上記FCC文書に付されたGenachouski委員長の声明、"Statement of Chairman Gunachousiki." |
(注4) | 同じく、上記FCC文書に付されたMcDowell委員(共和党)の声明、"Dissenting Statement of Commissioner Robert M Mc Dowell." |
(注5) | Wikipedia、"Poverty in the United State." |
テレコムウォッチャーのバックナンバーはこちらから
|
|