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DRI テレコムウォッチャー |
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2011年第1四半期におけるAT&T、Verizonの業績比較
2011年5月15日号
AT&T、Verizon両社は、それぞれ、4月20日、21日に、2011年第1四半期における決算を発表した。
両社とも当日のプレスレリースで、“ワイアレスの収入が10%伸びた(AT&T)”
とか、“ワイアレス、FioS、戦略的サービスが引き続き利益を伴った成長をもたらしている(Verizon)”とか、業績好調を誇示する見出しを付けている。
しかし、こういった見出しは、偽りではないにせよ、誤解を招きやすい。AT&Tのワイアレス収入の成長が10%であるというが、これは、1年間の成長率であって、前期も、前年同期に比し、売上げ高は9.3%増加していた。今期、特に、ワイアレスの売り上げが大きく増えたわけではない。また、Verizonの場合、ワイアレス部門が利益を伴い成長したのは、事実である。しかし、成長が期待されてしかるべきはずのブロードバンド分野では、FioSの伸びに比し、DSLの落ち込みは著しく、ブロードバンド加入者の総数は、減少している。
AT&T、Verizonの両社は、収入、サービス加入者数との比較を、前年同期と対比して行っているが、これでは、当の2011年第1四半期の実績が不明になってしまう。前年同期との比較は、しばしば業績の低迷、低下の隠れ蓑としてなされるのである。
本号では、できるだけ、前期(2010年第4四半期)と対比して、両社の2011年第1四半期の業績を比較するよう試みた。
分析のすべては本論に紹介してあるので、ここでは、次の点を指摘するに留める。
AT&T、Verizonともに、それぞれ別個の大きな問題を抱えており、前途が多難である。
AT&Tの問題は、ワイアレス部門にある。これまで、iPhoneの排他的販売権をAppleから得ており、これにより、同社ワイアレス部門は加入者数、収入を大きく増やし、強豪のVerizon Wirelessに対抗できた。ところが、2011年2月、VerizonもAppleとの合意によりVerizoniPhone4の販売を開始したことにより、AT&Tは、にわかに、ワイアレスサービスの根幹を担う加入者層、プリペイド加入者(スマートフォンの加入者を含む)の増大が頭打ちになってきた。さらに、LTE網(4G)の構築でも、Verizonの方がはるかに進んでおり、AT&Tは苦戦を強いられることが必至の状況である。
他方、Verizonは、ワイアレス部門が、AT&T以上に不調であり、多分、赤字に陥っているのではないかと思われるほどに営業利益(Verizon Wirelessは、純利益を発表していない)が低い。
前号で紹介したとおり、Apple社では、収入、利益の50%超が、同社が卸売りするiPhoneから生み出されている(注1)。ところが、このマジック機器を顧客に売り込み、運用、メンテを行うキャリア(AT&T、Verizonを含め)の側が低成長から抜け出せないのは、皮肉なことではある。今後、Appleのように、イノベーションにより、創業者利益を生み出す新サービスを生み出していけない限り、AT&T、Verizonの将来は暗い。
総収入、総利益でAT&T、Verizonの業績水準はほぼ同じ(注2)
表1 2011年第1四半期におけるAT&T・Verizonの総体の業績比較(単位:100万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
収入 | 31,247(−0.4%) | 26,990(+2.3%) |
営業利益 | 5,808(+278%) | 4,453(−30.6%) |
純利益 | 3,408(+298%) | 3,264(−29.8) |
純利益率 | 11.0%(+3.7%) | 12.1%(+17.6%) |
(括弧内の%は、前期、2010年第1四半期に対する増減比を示す。ただし、括弧内の営業利益率は、実数である。) |
AT&Tは、2011年第1四半期において、大きく利益を伸ばした。同社のプレスレリースにおいても、この事実を大きくクローズアップされている。これに比し、Verizonは、かなり利益を減らした。
にもかかわらず、純利益率においては、なおVerizonがAT&Tを上回っている。AT&Tの株価が、最近、Verizonにかなり接近しながらも、依然、同社に追いつけない理由のひとつに、この収益力の差異があげられるだろう。
Verizon、ワイアレス収入、収入増でAT&Tに勝る
表2 2011年第1四半期におけるAT&T・Verizonワイアレス部門の業績比較(単位:100万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
収入 | 15,309(+0.8%) | 16,881(+4.5%) |
営業利益 | 3,946(0.1%) | 4,351(−10.4%) |
営業利益率 | 25.8%(+22.9%) | 25.8%(+30.1%) |
(括弧内の%は、前期、2010年第4四半期に対する増減比率を示す。ただし、括弧内の営業利益率は実数である。) |
前期対比において、Verizonのワイアレス収入は、AT&Tを大きく上回る。もっとも、両社ともに、営業利益率は、期せずして同率となった。
ワイアライン部門は、AT&T、Verizonともに減収、低利益
表3 2011年第1四半期におけるAT&T、Verizonワイアライン部門の業績比較(単位:100万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
収入 | 14950(−1.1%) | 10,147(−1.4%) |
営業利益 | 1726(−2.1%) | 288(+13.8%) |
営業利益率 | 11.5%(+13.0%) | 2.8%(+2.5%) |
(括弧内の%は、前期、2010年第4四半期に対する増減比を示す。ただし、括弧内の営業利益は、実数である。) |
AT&T、Verizon両社ともに、音声部門の減少を事業部門、ブロードバンド部門の増大により埋め合わせ、さらに、ブロードバンド部門を軸にして成長することを目標としている。
確かに、ここ、1、2年間、両社が推進する光ファイバーによるブロードバンド加入者数(AT&TはU-verse、VerizonはFioS)は、着実に伸びてはいるものの、今期の収入で見ると、前期に比し、1%を超える減少を続けており、決して良好な成績だとはいえない。
利益率で見ると、比較的、良好なAT&Tにしても、営業利益で、10%ギリギリの低比率である。Verizonに至っては、果たして、純利益を出しているかいなかが危ぶまれる。
以下の項では、AT&T、Verizonのワイアレス、ワイアラインの両部門について、各サービス加入者獲得の状況を考察する。
Verizonワイアレス部門、加入者獲得競争でAT&Tに圧勝
表4 2011年第1四半期末におけるAT&T・Verizonのワイアレス加入者数(単位:1000)
項目 | AT&T | Verizon |
加入者総数 加入者増加数 | 97,519 1,983 | 104,022 1,800 |
プリペイド加入者数 プリペイド加入者増分 | 6,013 89 | 4,383 不明 |
第3者販売の加入者数 上記増分 | 12,241 596 | 8,840 不明 |
ネット機器加入者数 上記増分 | 10,603 1,277 | 6,768 不明 |
(1) | 上表で、加入者増分は、いずれも2011年第1四半期(3ヶ月)のものである。 |
(2) | AT&Tは、2011年第4四半期末と2010年第1四半期末の加入者数から、2011年第1四半期間の機種別加入者数を算出し計上した。ところが、Verizonの場合、2011年第1四半期の項目の定義を変え、また、ネット機器加入者数を新たに計上するなど、項目の構成、内容に変更を加えたため、別途公表した加入者増加数以外は、期間内の増減の比較ができず、不明と表示せざるを得なかった。 |
表4から、Verizonが主要機種(ポストペイド加入者)において、AT&Tより、加入者増が大きかったこと、および、総体的にVerizonのワイアレス部門がAT&Tより、優位にあることが判る。
- Verizonは、2011年1月から3月の期間、加入者獲得競争において、AT&Tに圧勝した。その根拠は、主力機種であるポストペイド加入者において、AT&Tの加入者増がわずか21万に留まったのに対し、Verizonが90万加入とAT&Tを4倍以上、上回る加入者数を増やしたことに端的に現われている。AT&Tは、同期間に、198.3万とVerizonの180万を超える加入者数を獲得したが、これはAT&Tの優位をなんら意味するものではない。その大半が、第3者販売の加入者(59.6万)、ネット機器加入者(127.7万)と月額使用料の少ないマイナーな加入者の増で占められているからである。
- Verizonの加入者数獲得の成功は、前期のDRIテレコムウォッチャーのレポートで報道した(注1参照)新規のiPhone加入者獲得に起因するものではあろうが、このほか、VerizonがAT&Tに比して、4GのLTEネットワークを拡大しつつあり、すでに、LTE向けの新スマートフォン機種の導入を始めていることによるものと考えられる。すでにVerizonは、世界初のLTE対応機種、HTC Thunderboltを販売しており、この機種の売れ行きは極めて好調だとのことである(注3)。
- 表4によれば、AT&T、Verizonが主軸とするポストペイドの加入者数は、それぞれ8830万、7400万で、Verizonの規模は、AT&Tより20%近く大きい。しかも、ここ数年来、AT&Tのネットワークは、そのサービス品質が劣悪であるため、顧客から強い批判を受けている。同社は、その改善に努めているが、未だにユーザからの批判は強く、ここ1、2年来、大手携帯キャリア中、品質は最低であるとの批判を受けている。これに対し、Verizonの側は、最優良ワイアレス会社との評価が高い。
事態がこのまま、推移すれば、AT&TのVerizonに対する劣勢は覆うべくもない。この事態を挽回するウルトラC級のAT&T戦略は、すでに当事者間で合意し、FCCに申請しているT-MobileUSAの統合である。FCCは、すでに、この最近最大のIT、通信分野における最大のM&A案件の審査を開始している。AT&Tは、この案件の実現に向け、猛烈なロビーング活動を行っているが、反対派のロビーイング活動も激しく、その帰趨が注目されている(注4)。
縮小続く両社のワイアライン部門 ― 特に危機的なVerizon
表5 2011年第1四半期におけるAT&T、Verizonのワイアレス部門比較(単位:1000)
項目 | AT&T | Verizon |
音声回線/アクセス回線数 | *1 42,457(47,385、−10.4%) | * 2 25,500(26,000、−8.2%)/td> |
ブロードバンド加入者数 | DSL:9,424 (9,405) U-Verse:3,205(2,988) 衛星:1,886(1,930) 計:14,515(14,320) | DSL:320万(431万) FioS Internet:430万(408万) 計 750万(841万) FioS TV:370万(347万) |
(1) | *1 は、総音声回線経路数(Total Wireline Voice Connections)である。多分、この数には、AT&Tのアクセス回線数に加えるに、DSL、U-Verse利用の音声経路が含まれている模様である。 *2は、Verizonの交換アクセス回線数である。また、カッコ内の数字、%は、前期ではなく、前年同期(2010年第4四半期)に対する増減比である。 |
(2) | 括弧内には、前期(2011年第2四半期)の実績値を計上した。 |
表2で明らかな通り、AT&T、Verizonともに、アクセス回線、ブロードバンド回線の伸びは芳しくない。音声回線/アクセス回線数は、年率8%から10%の大幅な減少が止まらない。
また、ブロードバンドでも、U-Verse、FioSともに、加入者増分は、高々20万程度のものである。Verizonは、特にDSL加入者の大幅な減少が目立つ。DSLは、高速ブロードバンドとはみなされず、ゆくゆくはFioSの普及に伴い、消滅する運命にあるのだが、AT&Tの増加と比較すると、Verizonは、早くもDSLの今後の販促をあきらめたのではないかとも考えられる。
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