DRI テレコムウォッチャー


驚異的な成長を続けるApple
- iPhoneの売り上げ高で携帯電話業界トップに

2011年5月1日号

 Appleが新型スマートフォン機種、iPhoneの販売を始め携帯電話業界に乗り出したのは、2007年7月のことであった。
 当初は、IT業界で商売上手で知られているAppleといえども、Nokia、Samsung、Motorola等世界の強豪メーカが激しい競争を展開している携帯電話業界で、果たしてどれだけのシェアを獲得できるかについて、疑問を抱く向きも多かった。
 しかしAppleは、その後、携帯ネットワークの進展に応じて、毎年新機種を発表するたびに、iPhoneの売り上げ高は増大し続け、今日に至っている。
 2010年12月に、Appleが市場に出した3Gネットワーク対応のPhone4は特に人気が高く、同社は、この機種の販売が全期間をカヴァーした最初の決算期間である2011年第1四半期に、前年同期に比し、売り上げ、利益をほぼ倍増するという快挙を成し遂げた。

 この決算で、既存携帯電話業界の雄、フィンランドのNokiaが携帯電話の売り上げ高において、AppleによるiPhoneの売り上げに追い抜かれたとの衝撃的な事実が明らかとなった。
 1980、90年代に、性能のよい携帯電話機種を陸続と発表し、グローバル携帯市場の約3分1を占めるほどの力を持つ優良企業として他社を圧倒してきたNokiaも、ここ数年来、きわめて多くのアプリケーションが利用でき、携帯PCに近くなった新型スマートフォンの登場の前に、敗退を続けている。今回、売り上げ高において、Appleに敗退するという事態を招いた。正に、2011年が携帯電話業界の転機になりつつあることを予感させる出来事であった。
 本文では、AppleとNokiaの売り上げ高、出荷額の比較、さらに、米国でVerizon iPhone4の登場により始まったiPhone4の市場争奪戦の模様を紹介する。


観測筋を驚かせたAppleの好決算

年間でほぼ、倍増したAppleの収入、純利益

 表1は、2011年第1四半期におけるApple社の収入、純利益を示したものである(注1)。

表1 2011年第1四半期におけるApple社の収入と純利益 (単位:100万ドル)
項目2011年第1四半期2010年第1四半期年間増減率
総収入24,66713,497+83%
純利益5,9873,074+95%
純利益率24.3%22.8%+8.7%

 上表が示すとおり、Appleは2011年の初頭から3ヶ月間において、収入、純利益をほぼ倍増させた。
 この間、まだ発売されてから4年を経過していないで同社の主製品となっているiPhoneの売り上げ台数は1865万台であった。これは、前年同期に比し、112%と倍以上の増大である。
 スマートフォンのグローバルな競争は、きわめて激しい。すでに、4Gネットワークで使用できる新型スマートフォンが人気を呼んでいるのであるが、Appleは、これら競合機種からの競争を振り切って、単独の機種としては、世界1の座を確保した。
 また、2011年2月から、米国では、iPhoneのAT&Tへの排他的販売が終わり、VerizonがAT&Tと並んで、iPhoneの販売を始めた。後述するとおり、このVerizonへの販売解禁により、米国におけるiPhone市場の広がりもApple社の販売増に寄与したものと見られる。

Apple、携帯電話の販売高においてNokiaを抜く

 Appleの好業績は、グローバルな携帯電話市場にも、深刻な影響を及ぼしている。
 調査会社、Strategy Analyticsは、いちはやく、AppleのiPhoneが売り上げ高において、Nokiaの携帯電話売上高を凌駕したと報道した。
 次表に、Strategy Analysisが報道したApple、Nokia両社の業績比較の要旨を転載する(注2)。

表2 グローバル市場におけるApple、Nokia両社携帯電話の売り上げ、出荷数比較
項目2011年第1四半期2010年第1四半期増減率
AppleiPhone
出荷数(単位:万)
売上高(億$)

1,860
119

880
53

221%
224%
Nokia
携帯電話出荷数(単位:万)
売上高(億$)

10,850
94

10,780
89

+65%
+5.6%

 上表の数字は、躍進するAppleと、いまや携帯 - とりわけ携帯の花形になった - スマートフォンの成長に追いつけなくなったNokiaの携帯売り上げのあまりにも顕著な対比を示している。
 Appleは、過去1年の間に、出荷台数、売上高において、倍を超えるiPhoneの販売に成功した。これに対し、Nokiaは出荷台数こそ65%の成長を遂げたものの、売り上げ増は5.6%にとどまっている。この成長率の差が、Appleが2011年第1四半期において、一挙にNokiaを大きく抜き、売り上げにおいて、携帯電話業界第1位の地位を収めた偉業をもたらした。
 AppleのiPhone販売数が1,860 万台とNokiaの販売数、10,850万台に比し約6分の1に過ぎないのに、売上高においてNokiaを抜き去っているのは、同社の付加価値創出がいかに大きいかを示すものである。上表には掲示されていないが、あるネット紙によれば、携帯端末の平均販売高は、Apple、Nokiaがそれぞれ、$638、$87であるという(注3)。
 また、Nokiaの第1四半期における携帯出荷数10,850万台のうち、スマートフォンの出荷数は、2420万台だとのことである。
 Appleを上回るスマートフォンを有し、さらに、Appleが販売していない、世界最大の通常携帯電話の出荷数を加えて、なおかつAppleの販売高に及ばなくなってしまった。
 Appleは、iPhoneのすぐれた性能のゆえに、ネット業者に危険負担を負わせることにより(つまり、ネット業者は卸し値よりはるかに安い価格でiPhoneをユーザに提供、ユーザから赤字分を月額基本料で償還)、有利な状況でiPhoneをネット業者に卸している事実が数字により示されている。
 せちがらい競争で一般の業者が販売に苦労している折からである。いまさらながら、卓越した技術力を利用したマーケティングの力に驚嘆させられる。


Verizon iPhone4の登場 ― AT&T iPhoneとの競争は当面、互角

Verizon iPhone4、静々と米国市場に登場

 さて、米国市場では、実現するかいなかが大きな議論の的となっていたVerizon iPhoneが遂に、2月初旬から米国市場に登場した(注3、注4)。
 Verizonは、2月2日から自社携帯電話加入者向けにネットによる販売を開始、2月10日午後7時半から、店頭(AppleおよびVerizonの直売店)での一般顧客に対しての販売を始めた。
 ネット販売は、人目を惹くものではない。また、これまで、例年のAT&T iPhoneの販売の際には長蛇の列ができて、ジャーナリズムを賑わせたものであったが、今回のVerizonのiPhone4発売に当たってはこの現象は見られず、Verizon iPhoneは穏やかに始まり、穏やかに進行している。発売前、Verizon iPhone4は市場を席巻し、AT&Tを窮地に追い込むだろうとの報道も、かなり見られた。しかし、発売後は、大半のジャーナリズムは、Verizon iPhoneの売れ行きは、予想したほどのものではないのではないかとの控えめな予測が大半となった。
 Verizon WirelessのCEO兼会長のDan Mead氏は、上記メディアの予想に反発して、次のように、同社によるiPhone端末の販売が好調である旨を強調した。
 “Verizon iPhone4は、2月2日、わが社が、これまで発売した携帯端末の中で、史上空前の売れ行きを示した。また、店頭販売も予想通り順調に進んでいる(注5)”。
 もっとも、売り上げ数については、Verizon Wirelessは、2011年第1四半期の決算を発表するまでは、一切、明らかにしなかった。

2011年第1四半期におけるAT&T、VerizonのiPhone獲得競争は引き分け(注5)

 AT&T、Verizon両社は、それぞれ2011年4月下旬に発表した2011年第1四半期決算において、iPhoneの販売数を発表した。
 両社が発表した販売数は、AT&Tが360万台、Verizonが220万台である。Verizonが発売を開始したのは、2011年2月2日であったから、AT&Tと次元を合わせるため、2011年初頭から販売していたものとみなして修正すれば、Verizonの販売数は370万台となる。
 Verizon優位との下馬評があったのにもかかわらず、AT&Tは、Verizonからの激しい攻勢をしのぎ、面目を保ったということができよう。もっとも、Verizonの販売数は、そのすべてが、iPhone4であるが、AT&Tが販売したiPhoneには3GベースのiPhone3(料金を引きさえている)も含まれており、この機種の販売数が多かったことも影響しているのではないかとの推測もある。
 なお、前項で紹介したとおり、2011年第1四半期におけるグローバルなiPhone販売数は、1865万台であって、このうち、米国で販売されたiPhone販売数580万台は、グローバル市場のシェア31%を占める。実は、2011年第1四半期のiPhoneのシェアも、同じく31%だったのであり、この数値から見るとなんのことはない、米国市場におけるVerizon iPhoneの登場は、iPhoneの世界市場におけるシェアを前年並みに維持するのに貢献しただけであったと言うこともできる。
 2010年後半から、Android標準(Googleが設定、同社と協定を結んだメーカが無料で使用)使用のスマートフォンが、急激な売れ行きを示し、総体でiPhoneの販売数を上回る売れ行きをしめしている。特に、米国を始め、一部の国々では携帯電話のネットワークは、すでに4Gに移行しており、4G対応の機種の売り上げが人気を呼んでいる。
 したがって、観測筋の関心は、この点で出遅れているAppleが、いつ、4G対応のiPhone(iPhone5?)を市場に出すかの予想に移っている。


(注1)2011年4月20日付け、Appleのプレスレリース、"Record March Quarter Drives 83 Percent Revenue Growth, 95% Profit Growth Record iPhone Sales Grow 113 Percent."の記述から表を作成。
(注2)http://iphonetouch.blorge.com/2011/04/23/iphone-number-one-where-it-counts/、"iPhone number one where it counts"から孫引き。また、Appleが売り上げ高でNokiaを抜いたことの意味については、2011年4月21日付け、Cnet News,”Apple jumps ahead of Nokia in phone revenue."
(注3)DRIテレコムウオッチャー、2010年11月15日号、「2011年第1四半期に商用化が期待されるVerizon iPhone」。
(注4)次の2件のAppleのニュースレターによる。
2011年2月25日付け、"Verizon says iPhone4 launch largest in its history, LTE on the way."
2011年4月24日付け、"Apple begins shipping white iPhone 4s to stateside retail stores."
(注5)似通った内容のネット記事が幾点か出ている。特に、次の2つのネット紙を利用した。
2011年4月21日付け、examiner.com,"Comparing Q1 2011 Verizon iPhone4 Sales vs. AT&T iPhone4 sales."
2011年4月22日付け、Communities Dominate Brands, "First numbers of the first quarter in Bloodbath year2: Apple reports stunning quarter."


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