DRI テレコムウォッチャー


FCC、ライフライン/リンクアップ改定の調査告示を発出
2011年4月15日号

 FCCは、2011年3月4日、ライフライン/リンクアップの改定についての調査告示を発出した(注1)。
 今回の調査告示は、2010年11月2日、連邦・州ユニバーサルサービス合同員会によるこの案件についての諮問結果を踏まえてなされたものである(注2)。
 FCCは、ライフライン/リンクアップの改革方向として(1)USF(ユニバーサル・サービス・ファンド)の一環として、ユニバーサルサービスの実現に重要な役割を果たしているこの低所得者に対する補助政策が、実は、収入(補助金)、支出(受給者への補助の配分)の実行過程で乱脈に流れているので、濫用、詐欺を一掃する対策を講じ、コスト削減を図ること(2)従来、ライフライン/リンクアップの補助対象サービスは、連邦段階では、音声サービスに限られていたが、これをブロードバンド段階にまで押し広めることの両点の実施を強く望んでいた。
 しかし、ライフライン/リンクアップ改定の取り組みについては、大方の州公益事業員会の委員には消極的な姿勢が目立った。これは、1つには、ライフライン/リンクアップの総枠抑制について、公益事業委員の側の方が、強い意欲とリアリスティックな感覚を持っていることによるものであろう。つまり、音声サービスに対する補助金支出だけでも抑制が困難なのであるから、補助金の支給対象をブロードバンドにまで押し広げるのは、実現困難であるとの判断が大勢を占めたのである。第2には、州公益事業員会が、今なお、音声サービス提供を主たる事業としているルーラルキャリアの立場の保護を強く支持したことにもよるだろう。農村地域に地盤を置く一部州公益事業員会は、ブロードバンドへの資金の移行を促進すると、ライフライン/リンクアップの資金がルーラルキャリアから、音声、ブロードバンド、ビデオを多角的に提供する他のキャリア(大手通信会社、MSO等を含む)へと流れ、ルーラルキャリアの力が弱まることを恐れたのであろう。

 したがって、今回のFCC調査告示は、2010年11月に表明された州公益事業員会の意見を色濃く反映するものとなった。本文で明らかにしたように、FCCの主要諮問項目は6件であるが、その内訳は“提案”(FCCの結論が定まっており、細部の変更を予定していない項目)3件、“意見聴取”が3件であって、しかも、“意見聴取”の3件こそが、FCCにとって最も実現したい主要項目なのである。
 それにしても、FCCとしては、先に発出した高コスト地域に対するUSF改定の調査告示(注3)において、補助対象にブロードバンドを加えたこととの論理的整合性を図る観点からすれば、是非とも、低所得層対象のライフライン/リンクアップ資金でも、ブロードバンドへの補助を行えるようにしたいところである。今回の調査告示とともに、発表された3人のFCC委員の声明にも、その強い念願が込められている。しかし、FCCは、たかだか、パイロット計画の試行についての意見聴取を求めているのであるから、この意見聴取の後に一挙にブロードバンドにまで低所得者補助の対象を広げることができることは、難しいとも見られる。
 先の中間選挙において共和党が勝利し、上院、下院両院で多数を制した。オバマ大統領をリーダとする民主党は、議会運営はもちろんのこと、すべての政策実行の側面において、共和党との強調を図って遺憾ければならない状況にある。FCCは、独立規制機関ではあるものの、最近のFCCの政策策定に当たっての弱腰は、議会における民主党議席のマジョリティー喪失がインパクトをおよぼしているのではないかという気がする。


FCCが調査とした主要項目の一覧

 次表に、FCCが今回の調査告示において、調査対象とした主要項目の一覧を示す。

表 FCC主要調査項目一覧
調査項目調査目的
提案
1.無駄・濫用・詐欺に対する対策の強化

ライフライン/リンクアップの運用については、従来から、無駄・濫用・詐欺が多く見られた。限られた資金を効率的に使用する観点から、これに対する対策を強化する。
2.受給資格者の全国的確認制度の確立
前項実施を効果的に行うため、受給資格者のデータベースを全国的に整備し、これにより、受給者確認をオンラインで全国的に行う制度を確立する。
3.サービスを現に使用しているものに、受給を限る対策
これまで、実際にサービスを受けていないものも、ライフライン/リンクアップを受給している例が多く見られた。今後、たとえば、6ヶ月以上サービスを利用しない受給者に対しては、受給資格を剥奪する等の措置を講じる。
意見聴取
1.ライフライン/リンクアップ適用範囲拡大

これまで音声サービスだけに提供されてきたライフライン/リンクアップの制度を組み合わせ(バンドル)サービスに対しても、適用することにする。これは、組み合わせサービスの利用が進んでおり、また、これに含まれているブロードバンドサービスの重要性が高まってきているからである。
2.ブロードバンドをライフライン./リンクアップに適用するパイロットプロジェクトを実施
将来、ライフライン/リンクアップにブロードバンドを適用対象とするかいなかを決定するに当たってのデータを得る目的のため幾つかのパイロットプロジェクトを実施する。
3.ライフライン/リンクアップに対する補助金の限度額(キャップ)を設定
具体的には、2010年次実績13億ドルの総額にするのが、適当かとも思われる。
低所得者に対するライフライン/リンクアップの将来需要の増大が見込まれるので、資金の需給のバランスを計ることが難しいとも考えられるので、それらの諸点についても、意見を聴取する。


利害関係者に意見聴取を求めた3つの項目についてのFCCの考え方

 ライフライン/リンクアップ利用範囲拡大 − 音声以外に組み合わせサービスにも

  1. FCCが利用範囲拡大を必要とする根拠
    1. 多くのサービスが、音声とインターネットの組み合わせ(バンドル)サービスになっている今日、このサービスに対しライフライン/リンクアップの補助を適用しないと、この補助制度の効用が著しく薄れてしまう。
    2. 現に、州段階においては、一部の州が、組み合わせサービスへの適用を行っている。オレゴン、テキサスの両州は、州段階で、音声ザービスを一部に含むすべての組み合わせサービスについて、ライフライン/リンクアップの適用を認めている、しかし、14の州は、音声サービス以外のサービスに対し、ライフライン/リンクアップを認めることを禁止している。
    3. 米国ブロードバンド計画では、ブロードバンドを含めた組み合わせサービ スに対し、ライフライン/リンクアップの割引サービスを適用し、これにおり、低所得者層のサービス利用に当たっての負担を軽減すべきだと勧告している。
  2. FCCが利害関係者から求める主なコメント
    FCCは、音声サービスに対する補助額と同額の補助を組み合わせサービスに付与することを前提にして、次のような諸点についてのコメントを利害関係者から 求める。
    1. FCCは、ブロードバンド計画の勧告の趣旨に沿って、すべての組み合わせサービスについて、ライフライン/リンクアップを適用する規則を制定すべきであろうか。
    2. 現に、州段階で、ライフライン/リンクアップを組み合わせサービスを導入している州の実施キャリアからは、実施状況についてのデータ提出を求める。
    3. ユーザに対し、ライフライン/リンクアップの対象範囲を広げた場合、 ユーザが、支払いに窮して、音声サービスを取り止めるといった事態が起きないだろうか。こういう事態に対する予防策のオプションはないか。
 ブロードバンドをライフライン/リンクアップに適用するパイロットプロジェクトの実施

  1. パイロットサービス計画実施の目的
    FCCは、USF(ユニバーサル・サービスファンド)基金を今後、従来の音声サービスへの補助から、ブロードバンドの補助へと大きく転換することを大きな政策目標に掲げている。しかし、USFにおいて重要な位置を占めるライフライン/リンクアップの補助をブロードバンドサービスに対し与えることは、連邦・州ユニバーサルサービス合同委員会は賛成しなかった。
    FCCは、今回の調査告示において、一挙に、ブロードバンドに対するライフライン/リンクアップ補助の付与を提案したかったのであろうが、州公益事業委員会の強い反対を考慮して、パイロット計画の実施により、低所得者層の反応、ブロードバンド普及に及ぼす効果等を測定し、ブロードバンドへの低所得者補助制度適用を将来実施する糸口をつないだものである。
    FCCは、パイロット計画について、ワイアライン、ワイアレスの区別を設けていないが、従来の経緯からして、ワイアレスによるブロードバンドサービス実施に大きな期待を抱いているものと思われる(注3)。
  2. パイロット計画のあらましの考え方
    1. 異なった幾つものプロジェクトの実施
      パイロット計画は、単一のものでなく、エリア、対象者等を異にした幾つもの計画の組み合わせからなるものである。それぞれは、たとえば、小数民族(インディアン)、英語を第2言語とする人々の地域を対処にするとか、特定の調査目的を包含するものとなろうが、総体として、低所得者層に対しブロードバンドを割引料金で提供する効果が測定できるものにならなければならない。
    2. 多様な参画者
      このプロジェクトには、FCCはもちろんのこと、PC・機器メーカ、ディジタル・リテラシーに経験を持つ非営利団体、社会サービス・経済発展の諸機関等、さまざまな組織に参画を誘い、低所得者とブロードバンド普及の問題を広い視野から検討してもらう。
    3. サービス提供業者には、ETC外の新規参入も認める
      この試行サービスの提供業者として、現在のETC(ライフライン/リンクアップのサービス提供事業者として、FCCが正規に認めているワイアライン、ワイアレスのキャリア)が参画するのは、もちろんであるが、FCCは、この機会に、他のキャリアが積極的に参加の申請をすることは、有意義だと考える。
    4. すべてのETCに対し、ライフライン/リンクアップの提供を義務付ける FCC規則の制定
      州単位で、ライフラインの提供になんら制約を設けていないのに、Sprint/Nextel、AT&T、Verizon等をも含むETCが、音声サービス以外のサービス提供を行っていない実態がある。FCCは、ETCが、これらサービスを全国的に提供することを義務付ける規則を提供する。
 ライフライン/リンクアップに対する補助金に限度額(キャップ)を設定

  1. 増大を続けてきたライフライン・リンクアップへの補助金支出
    2010年におけるライフライン/リンクアップに対する補助金実績は、13億ドルであった。2000年の実績額は6.67億ドルであったのだから、10年間でほぼ倍増したことになる。ちなみに、2011年の実績は17億ドルに達する見込みである。
    2009年、プリペイドのワイアレスキャリアが、新たにライフライン/リンクアップを受け取れる有資格事業者(ETC)となった。ライフライン/リンクアップへの補助金支出の増大は、ある程度、この対象者増大によるものである(注4)。
  2. ライフライン/リンクアップに対する支出抑制の必要性
    USFの他の項目(最たるものは、高コスト地域に対するサービスへの穂授)と同様に、 補充金の効率的使用を図る観点から、ライフライン/リンクアップに対する支出についても節減を図らなければならないことは、当然である。FCCは、既に、先に行った裁定により、高コスト地域におけるサービスへの補助金支出の上限(キャップ)を設定した
  3. ライフライン/リンクアップの補充金の上限を定め、これを実行数するに当たっての設問
    1. 原則的に、限度額を設けるとして、反面、特に、不況時などに、多くの低所 得申請者が出るような場合には、原則と実際の実施面のギャップが出てくることも予想される、この相反する2つの要件をどう調和させるか。  
    2. 限度額設定は、すべて、恒久的な措置とするのか、期間を定めての暫定的な措置でも、良いのではないか。
    3. 特例を設けてもいいのではないか。たとえば、少数民族の居住地域でア、 所得面からは、ほぼ、全員が対象者であり、しかも、現にライフライン/リンクアップに加入している世帯に比率は少ない。少数民族地域は、限度額設定の対象から外すことも考えるべきではないか。


(注1)2011年3月4日付け、"Lifeline, Link Up Reform and Modernization"に関するFCCの"Notice of Proposed Rulemaking."
(注2)2010年12月1日号、DRIテレコムウォッチャー、「連邦・州ユニバーサルサービス合同員会、低所得政策(ライフライン/リンクアップ)についてのFCCの諮問に回答」。
(注3)2011年3月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「FCC、USF刷新についての調査告示を発出 − USF基金をインターネット網に重点投資する方針を拡大」。
(注4)ちなみに、FCCは、また、所得格差がいかにブロードバンドの普及率に影響しているか(いわゆるディジタルディバイド)を次のように数字により、説明する。2010年において米国において、年収75,000ドル超の所得を有する世帯のブロードバンド所有比率は93%である。これに対し、20,000 ドル未満の所得の世帯のブロードバンド普及率は40%に過ぎない。つまり、ブロードバンドの普及を妨げているもっとも大きな要因は、潜在ユーザの低所得なのである。


テレコムウォッチャーのバックナンバーはこちらから



<< HOME  <<< BACK  ▲TOP
COPYRIGHT(C) 2011 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.