USF(ユニバーサル・サービス・ファンド)の改革は、オバマ民主党政権の下で、FCC委員長Gunachowski氏が、精魂を込めて策定している「米国ブロードバンド計画」の核心を為す基本的な政策である。
一見、「USFの改革」と「ブロードバンド計画」の両者は、単語の字面だけを眺めていると、結びつきがないかのようである。
しかし、ここで、USFの改革とは、旧来の音声サービス普及を目的とするユニバーサルサービスを抜本的に見直し、インターネットのユニバーサルサービス実施の投資に全力を注ぐ施策にほかならない。つまり、米国ブロードバンド計画の財務基盤を形成する最重要のFCC政策なのである。
FCCのUSFが、(1)依然として旧態依然とした音声サービスの補助に焦点が向けられており、成長しつつあるインターネットサービスの支援がないがしろにされてきたこと(2)補助の基本が、支援の受給者に対する赤字補填ではなく、利益(構成報酬率)をも補填する仕組みになっているため、不当に潤沢な基金供給となっていること(3)(2)と関連することでもあるが、収支決算についての責任権限関係が曖昧であるため、非効率、無責任な運用が行われ、時には汚職が問題にされたこともあったこと等の問題点がかねてから指摘されており、その改革は超党派的に賛同を得ていた。
このようなUSF刷新の必要性にかんがみ、FCCは2011年2月8日、USF改革に関する調査告示を発出した(注1)。今回の調査告示は、FCC委員5名全員の賛同を受けたものであり、今後、米国議会、利害関係者等の意見を充分聴取することとなるが、FCCの要望どおり、2011年内には規則化されるものと考えられる。
本文では、調査告示のエグゼキュティブ・サマリーに掲載されている図表の幾葉かを紹介し、それに多少の解説、筆者の個人的見解を加えた。
枝葉末節の部分の問題はさておき、この調査告示を米国がインターネットのユニバーサル化(とりもなおさず、回線交換ネットワークからIPネットワーク、ワイアレスネットワークへの完全移行)を目指し、その段階での複数のUSF基金をConnect Americaに統合化するという壮大な構想と、その構想実現に至る道筋の概略を理解していただければ幸いである(注2)。
USF改革の4大方針
- ブロードバンドネットワークを支援するため、USF(ユニバーサルサービス基金)とICC(キャリア間の料金清算)を刷新する。
- 財務の責任体制(Responsibility)を確立する(USFの規模をコントロールする)。
- 収支について結果責任(Accountability)を求める。
- インセンティブをベースにし、市場により推進される諸政策を策定する。
上記方針の最初のものは、これまで、旧来のPSTN(公衆通信網)による音声サービスの米国民への普及を目的としたUSF、とりわけ、高コスト分野への投資を今後は、ディジタルのインターネット網の投資に振り向けることにした点で、画期的なものである。
2、3、4項目は、最初の項目と関連し、不必要に多額の基金をサービス提供キャリアに対し提供していた従来の方針の反省に立ち、今後は、市場競争をベースにし、財務についての結果責任(accountability)を追求し、USFの規模を抑制(現状維持あるいは現状以下)する旨を宣言したものである。
現行の高コスト基金の部門別基金額の内訳
表1に、2010年次の高コスト基金の部門別内訳を示す。
表1 2010年次の高コスト基金金額の内訳(単位:100万ドル)
支援対象 / 金額 | 既存キャリアへの支援額 | 競争キャリアへの支援額 | 計 |
*1 高コストサービスモデル | 157 | 153 | 310 |
*2 州際アクセス | 458 | 88 | 546 |
*3 高コストの市内回線部分 | 1,024 | 355 | 1,379 |
*4 高コスト交換部分 | 276 | 83 | 359 |
*5 州際共通回線部分 | 1,141 | 533 | 1,674 |
計 | 3,055 | 1,213 | 4,268 |
(1) | High-cost Model Support:ルーラル地域キャリア以外の大中長距離通話キャリアに対し、高コスト地域での収入不足分(赤字部分ではない。公正報酬率にもとずく利益分も含む)の支援 |
(2) | Interstate Access Support:大中長距離キャリアに対し、市内キャリアに提供しているUNEサービスから得る収入の不足分を補填する支援 |
(3) | High-cost Loop Support:中小の市内キャリアに対し、コストが掛る市内通話提部分収入不足分を補填する支援 |
(4) | Local Switching Support:中小のキャリアに対し、市内交換部分の収入不足を補填する支援 |
(5) | Interstate Common Line Support:中小のキャリアに対し、SLC(月々、加入者から支払われるサービス提供維持のための料金)でカバーしきれない州際収入部分を補填する支援 |
上表を一瞥して、まず驚くのは、高コスト基金額の絶対数の大きさである。
2010年実績、42.68億ドルは相当の巨額であって、しかも毎年といっていいほど増えている。たとえば、1997年、98年当時、USFの太宗を占めていた高コスト基金額は、15.5億ドルに過ぎなかった、当時に比し、約3倍に増大した。
その理由は、2点ある。本来、高コスト基金とは、ルーラルエリアにサービスを提供する通信事業者が、コストに忠実に料金設定をするとユーザの加入が減少し、ユニバーサルサービスが維持できないので、これを加入者負担、利益を挙げやすい長距離キャリアの双方が負担するという趣旨で設定されたものであった。上表左欄の下部3項目、金額にして計24.17億ドルが、その部分である。ところが、長距離事業者から、これら業者がサービスを提供している市内部門でも、高コストのため、相応の利益が出せないという苦情が起こり、これらコストの補填も行うこととなった。表左欄の上部2項目、金額にして6.25億ドルがその部分である。さらに、市内通信分野にワイア、ワイアレス双方の競争事業者が参入するようになると、これら事業者も、既存の長距離、市内通信事業者と同様に、一定の条件を備えれば、高コストのサービス分野での収入不足分を補填すべきであるとの要望が強まった。これら事業者に基金が提供された。この基金の支給総額は、表1の下部、総計12.13億ドルである。
このような、高コスト基金の支出に対しては、@ 支出が、収支見込に基づいて為されるので、実態に合っていない(水増し受領の可能性がる)。A 公正報酬率(つまり、10%を超える利益率)を認める基金供与であって、受領側にとって、甘きに過ぎる。B 収支決算の責任を明確にしなかったため、放漫の非難を受けてきた。
上記のような背景からして、FCCは、現行水準の高コスト基金により、従来の音声サービス中心の高コスト基金に加えるに、インターネットのユニバーサルサービス化を実現に移す自信が充分に抱いたものと考えられる。
2段階にわたるUSF変革のステップ
図1 高コスト基金から、コネクト・アメリカ基金への統合まで
(FCCの図を表示)
図1は、表1で示した高コスト基金をいかに効率的に、しかもできるだけ多くの基金をルーラル地域のインターネットに移行させて、究極的には、高コスト基金をConnect America基金に衣替えする過程を表示したものである。
筆者なりの図1の読み方(特に過渡期の)を以下、箇条書きで示す。
- 過渡期の狙いは、現行の高コスト基金をできるだけ圧縮していき、その圧縮により得られた金額を他の勘定に移すことである。また、音声通話は、インターネット、ワイアレス等で利用されていき、今後ますます、公衆電話網のウェイトが低くなっていくから、その面からも、基金量は少なくてすむはずである。
- 過渡期には、Connect America 基金の最初の段階がスタートする。すなわち、ルーラル地域にインターネット投資を敢えてして、サービスを提供しようとするキャリアに対しては、定まった方式による支援のための基金を提供する。この額は、年々、逓増して行くことが期待される。
- 過渡期に、力点が置かれる第2の基金は、ワイアレス利用基金である。これは、ワイアレスインターネットを住宅内に固定して利用し、安価で良質のサービスの提供を行おうとする試みである。FCCは、入札方式により、このサービス提供を行うキャリアを募り、このサービスをルーラル地域におけるインターネット普及の大きな柱に使用と考えている。
- 第3は、ICC(キャリア間の相互接続料金清算)で赤字を生じたキャリア側に対し行う補填であって、この点については、次項でさらに触れる。
上記の4つの基金が、進行し、刷新された高コスト基金がゼロになった時点(音声サービスが、回線交換回線で提供されなくなった時点)で、4つに分離された基金は、単一のConnect America Fundに統合される。
キャリア間料金(ICC)の精算
キャリアが、他のキャリアの設備、回線を使用して、その対価を支払う場合に生じるキャリア間の料金清算(アクセス料金の問題といってよい)は、高コスト基金の問題と並んで、複雑かつ係争の多い案件である。
ここでは、表2(FCC資料のほぼ全訳)により、この案件の改正の方向を紹介するに留める。
表2 ICC改定の道筋
現状 | 短期の状況 | 将来の状況 |
次のとおり、項目ごとに異なった料率を適用 | ● | 州内アクセス(州の管轄) | ● | 州際アクセス(FCCの管轄) | ● | 市内トラヒックについての料金清算(FCCが設定方法を定め、州が設定された料率を設定する |
| ● | トラヒックの偽造、水増しについての対策と取り組み、VOIPの相互接続料金の枠組みを設定する | ● | 料金清算のメカニズムの実施をも含め、料率の引き下げを開始する |
| ● | 従量料金(分単位)からの脱却を完全に実施する | ● | 長期的なビジョンの下に、必要に応じ、Connect America基金から支援を行う |
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ICCの改革が、USF基金も問題と並んで、FCCが取り組んでいる大きな課題であることは、表2の内容から察して頂くこととして、ここでは、米国の国内料金のキャリア間の清算問題(キャリア間の國際料金の精算問題は、これまた別個に大きな課題である)が生じた経緯について触れておく。
1984年、世界最大の通信キャリアであったAT&T(ベル・システムとも呼ばれた)は、長距離通信事業者と7つの地域電話会社(RHC)に分割された。それまで、AT&Tは、大きな収益が得られる長距離市外通話部門の利益の一部を収益率の低い市内通話部門に財務面で補助(内部相互補助)を行ってきたのであって、市内通話部門が、独立した会社となっても、これら市内通話会社に資金を供給しないと経営を行っていけないという問題が生じた。これを解決するために考案されたのが、新生AT&Tから、7RHCに供与されたアクセス料金(分単位加算の従量料金)である。つまりここで、アクセス料金とは、旧AT&Tの内部相互補助をキャリア相互間の料金清算問題に振り替えた措置であったのである。
しかし、キャリア間相互の関係も、対象とされるサービスもその後、大きく変化し、国内通信キャリア間のアクセス料金の持つ意義は、従来より大きく、少なくなっている。変らないのは、この制度を濫用して、1ドルでも多く、自社のふところに収益をもたらしたしというキャリアの貪欲性であるようである。
FCCは、表2に示すように、従量制の料金清算を廃して、またその金額自体も減らして行き、キャリア相互間で、決着が付かない清算料金はConnect America基金から支出することで、決着とする方式を考えている模様である。
(注1) | In the matter of Connect America Fund, Notice of Proposed Rulemaking and Further Notice of Proposed Rulemaking Adopted: February 8, 2011.
なお、すでに、今回の調査告示の構想は、2010年4月15日付け、DRIテレコムウォッチャー「米国FCCブロードバンド計画報告書の概要(3)−ブロードバンド長期目標設定の狙い」にも示されているので、参照されたい。 |
(注2) | 調査告示においては、USF改革の準備段階、過渡期、完成期それぞれの段階について、その時期が示されていない。(注2)で紹介したブロードバンド長期計画の概要紹介では、その時期はそれぞれ、2010-2011、2012-2016、2017-2020の期間が明示されていた。調査告示では、激しい論議を招くことを避けて、この数字の記載を避けたものと考えられる。 この数字からすると、FCCは、インターネットのユニバーサル化完成までの期間を今後10年間とし、2020年代初期にこれを完成させると見ていることが判る。長期計画として、妥当なタイム・スパンであろう。 |
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