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DRI テレコムウォッチャー |
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2010年次のAT&T・Verizonの決算 - 業績は両社とも2009年次より少し悪化
2011年3月1日号
VerizonとAT&Tは、それぞれ、2011年1月25日、27日に、2010年次全期および2010年第4四半期の決算を発表した。
決算のなかで、両社とも、業績は好調である点を強調しているが、仔細に分析してみると、決して楽観できる状況ではない。
ワイアレス部門は、スマートフォンがブーム期に入っていたため、ユーザの一人当たりデータ利用が伸び、収入も2009年を上回ったものの、スマートフォンの大幅な売れ行き増にもかかわらず、実質的なワイアレス加入者増率はむしろ、2009年より鈍っている。スマートフォンの台数の売れ行きは大幅に伸びているが、その圧倒的多数は、既存加入者の携帯機器の変更であり、直接、大きな収入増に結びついていない。2009年次と対比すると、収入、利益の増率は、低下している。
また、ワイアライン部門では、ここ数年来の傾向である大幅な固定電話加入者の減少が引き続いている。この収入減をブロードバンド部門でカバーし切れなくなっている状況が、慢性的となっており、AT&T、Wireless両社とも、減収減益である。
AT&T、Verizonの両社が、当初から、ビデオ、ブロードバンドの優勢な加入者層をベースにして挑戦を挑んでいるComcast、TimeWarnerCable等MSO(大手ケーブル会社に敗退し続けている冷厳な事実を直視しなければならない(注1)。
好調なワイアレス部門と不調のワイアライン部門の際立った対照
表1 2010年次におけるAT&T・Verizonの総収入、総利益(単位:100万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
収入 | 124,280(+1.4%) | 106,565(−1.2%) |
営業利益 | 19,573(−6.8%) | 14,645(−8.3%) |
純利益 | 19.400(+56.1%) | 10,217(−11.4%) |
営業利益率 | 15.7%(17.5%) | 9.6%(15.0%) |
(1) | 括弧内の数値は、2009年の数値に対する増減比である。
表2、3についても同様。 |
(2) | AT&Tの純利益には、税法改正に伴う利益増分が含まれており、実質純利益は、もっと少ないはずである。 |
表2 2010年次におけるAT&T・Verizonワイアレス部門の収入、利益(単位:100万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
収入 | 58,500(+9.3%) | 63,407(+5.1%) |
営業利益 | 15.257(+10.3%) | 18.724(+12.5%) |
営業利益率 | 26.0%(24.8%) | 24.5%(18.2%) |
表3 2010年次におけるAT&T・Verizonワイアライン部門の収入・利益(単位:100 万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
収入 | 61,202(−3.6%) | 41,227(−2.9%) |
営業利益 | 7,823(−7.1%) | 768(−51.2%) |
営業利益率 | 12.8%(12.1%) | 1.9%(4.3%) |
上記3表から読み取れる主要点は次のとおり。
AT&T、Verizonともに、2010年次の収支状況は、2009年次より低下。
両社の総収入は、微増(AT&T)ないし微減(Verizon)にとどまっている。また、営業利益の絶対額は減少、営業利益率も低下している。しかも、この業績は、両社による徹底したコスト削減努力によって、得られたものである。たとえば、2010年次、AT&Tは、従業員数を28.2万名から26.5万名へと、5.7%削減した。Verizonは、22.3万名から19.2万名へと、実に12.8%も削減を行った。これだけの努力をしても、なお、前年並みの業績が確保できない点に、両社のマネージメントの問題点がある。
両社の収支構造は、好調のワイアレス部門が不調のワイア部門が支えるという点で、共通している。
この傾向は、2010年に始まったものではない。しかし、AT&Tの場合、ワイアレス部門は、まだ、独立採算で運営していけるだけの財務基盤を有している模様であるが、Verizonの場合、すでに、実質、赤字に転落しているのではないかと推測される。
AT&T、Verizon両社の戦略の相違
AT&Tは、無理をせず現状の加入者層を大切にして、地道に加入者当たりの収入を高めて、収支を改善していくという現実主義的な戦略を追及している。ブロードバンドにしても、FTTC方式のU-verseを導入し、投資金額を節減している。
これに対し、Verizonは、顧客の構内まで光ファイバーを敷設するFTTH方式のFiOSを導入し、MSOから多くの料金を支払う加入者を引き抜く戦略を採用している。
現実路線のAT&T、高度に革新的な路線を歩むVerizonのいづれが成功するかは、まだ未知数であるが、中盤戦に差し掛かった現在のところ、やや、Verizonが息切れしつつあるのではなかろうかとも考えられる。
ワイアレス部門では、AT&Tより優位を示すVerizon
表4 2010年末におけるAT&T、Verizonのワイアレス加入者数(単位:1000)
項目 | AT&T | Verizon |
加入者総数 加入者増加数 | 95,536(+12.2%) 8853(+21.6%) | 94,135(+5.6%) 4,839(−14.4%) |
ポストペイド加入者総数 ポストペイド加入者増分 | 68,041(+5.3%) 2,153(−48.7%) | 87,535(+2.4%) 2,090 |
プリペイド加入者数 プリペイド加入者増分 | 6,524(+21.9%) *952(−801) | 6,600(+77.0%) 2,873 |
ネット機器接続加入者数 ネット機器加入者増分 | 9,326(+98.3%) 4,608(+222%) | 資料なし。ポストペイド、プリペイド加入者に、少なくとも一部は含まれていると考えられる。 |
(1) | 括弧内の数値は,2009年数値に対する増減比である。Verizonの幾つかの項目については、数値が得られないため、空欄にした項目がある。 |
(2) | 加入者総数の内訳については、AT&TとVerizonで項目が異なる。 表3では、VerizonのRetail加入者=ポストペイド加入者、Wholesale加入者=プリペイド加入者とみなして表示した。実は、Retail加入者のなかには、相当数のプリペイド加入者数が含まれているので、この読み替えは、便宜的なものであることをお断りしておく。 |
表4から読み取れることがらは、幾点もあるのであるが、ここでは、(1)過去最大であるとAT&Tが誇示するワイアレス加入者数増の約半分は、実は、iPod、各種タブレット等のネット接続機器の加入者数(多くの場合、AT&Tワイアレス加入者とダブるものと思われる)を含んでおり、AT&Tの収入の大勢を生み出すポストペイド加入者の増は、意外に少ないこと(2)AT&Tのワイアレス部門に対して、iPhoneが行ってきた貢献は、きわめて大きい点は、これまでも喧伝されてきたことであるが、これがいかに大きいものであったかの2点について、以下に述べる。
2010年次、AT&T加入者増の52%を占めたネット接続機器加入者
表4で明らかなとおり、AT&Tは2010年次において、885万を超えるワイアレス加入者数を増やした。この数字は、Verizonの加入者増分を大きく上回る。しかし、同年次におけるAT&Tのネット接続機器加入者数は、460万と前年の倍を越える増勢を示しており、その比率は、総52%と過半数を超えている。AT&Tのワイアレス加入者の主力となるべきポストペイド加入者数は、昨年に比して、大きく減少している状況である。この事実は、次項で触れるAT&Tに占めるiPhoneの比重の大きさとあいまって、AT&Tのワイアレス事業の将来に大きな不安を投げかけるものといえよう。
Verizonは、ネット機器接続加入者の欄を特に設けていない。ポストペイド・プリペイドの欄に本来のワイアレス加入者数と込みにして、合算してしまったのではないかと考えられる。
iPhoneに支えられて好決算が可能になったAT&T
表4から得られるAT&Tの2010年次のポストペイド加入者数約215万増の数値とこの同じ期間に同社がiPhone販売により得た加入者数との関連をもうすこし、探ってみよう。
著名な米国の電気通信アナリスト、Moffett氏によれば、2010年次、AT&TはiPhoneにより、390万の新規ワイアレス加入者数を獲得し、また、同期間において、1520万のiPhone加入者を稼動させたと推計している(注2)。
仮に、稼動させたiPhoneの個数=iPhone加入者とみなせば〔実際には、一人で複数のiPhineを購入したものもいるはずであるが〕、2010年次、AT&Tは1520万のiPhone加入者数を増やし、そのうち1130万は、もともとAT&T加入者であったものからの機種の変更、390万の加入者が新規加入者(全くの新規加入者+他の携帯キャリアからの移行加入者)であったと推計できる。
ここで、iPhone新規加入者(そのすべてがポストペイド加入者)の数、390万と表4に表示されたポストペイド加入者の増数、215万を比較してみよう。その差は、-175万となるのであるが、これは、ポストペイド加入者が175万(スマートフォーンだけでなく、通常の携帯電話機の加入者をも含むのであるが)、AT&Tから流出したことを意味する。
この事実の意味するところは、きわめて大きい。すなわち、AT&Tのポストペイド加入者数はiPhoneによりようやく前年増(前年比48%減)を維持することができたのである。
AT&T、Verizonともに、縮小が続くワイアライン部門
表5 AT&T、Verizonのワイアレス部門比較(2010年末)
項目 | AT&T | Verizon |
固定電話住宅用加入者数 (単位:1000) | 24,195(−11.5%) | 26,001(−8.2%) |
ブロードバンド加入者数 (単位:1000) | 計 14,320(+4.4%) DSL:9,405(−0.8%) U-verse:2,985(+44.6%) 衛星回線1,930(−11.2%) | 計 11,864(+8.7%) DSL:4,310(−11.6%) FiOS Internet
4,082(+24.2%) FiOSTV 3,472(+26.3%) |
計 | *1 38,515(−6.2%) | *2 37,865(−4.5%) |
(1) | 固定電話加入者数は、AT&TとVerizonで定義が異なる。AT&Tの数値には、VOIP加入者数を含めた住宅用加入者数である。Verizonの数値には、ビジネス用加入者数が含まれている。 |
(2) | AT&Tの衛星回線数は、衛星通信事業者2社(EchoStar、Direct TV)との契約により、販売した衛星回線数である。同様の契約は、Verizonも行っているのだが、同社は、この数をブロードバンドに計上していない。もし、この数を差し引くと、固定電話、ブロードバンド加入者の数は、Verizonの方が、AT&Tより大きくなる。しかし、実際には、AT&Tワイアレス部門の規模、売り上げともに、Verizonより相当に大きい。 表5と両社規模との食い違いは、1つには、既に述べたとおり、計上されている固定電話数の定義が異なること、両社ともい事業の中で、大きな鋭意とを占めるビジネス用ネットワークの設備が計上されていない点にあるだろう。 |
表5は、AT&T、Verizon両社のワイアレスサービスの各項目についての加入者、設備数を比較したものである。
両社ともに、ブロードバンド加入者(DSL+光ファイバー)が着実に増大しているものの、音声サービス回線を使用数する加入者数が、年率10%内外といった急減状況を呈しており、これによる収入源を食い止めることができないことが、明確に読み取れる。
(注1) | ビデオ、音声、インターネットのサービスを顧客に提供し、激しく競争しているという意味において、旧大手電話会社のAT&T、VerizonとMSO(大手ケーブル会社)、Comcast、TimeWarnerCableの業績、企業行動を同時に比較して論じるべきだというのが、筆者の持論である。紙面の都合で、今回、それができなかった。次号(2011年4月1日号では、MSO3社(Comcast、Time Warner、CableVision)の2010年次業績を紹介する。 |
(注2) | 2011.2.21付け、New York Times, "As Verizon's iPhone Sales Begin, Gauging the Effects on AT&T." |
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