DRI テレコムウォッチャー


2010年次、過去最大の拡大を示した携帯・スマートフォンの世界市場
2011年2月15日号

 携帯電話、スマートフォンの販売が、凄まじい勢いでグローバルに伸びている。2010年における携帯電話出荷数は13億台を超えた。うち、スマートフォンの出荷数は約3億台、携帯電話出荷数に占める比率は約3分の1に達している。スマートフォン出荷数の前年(2009年)に対する増率も87.2%と、ほぼ倍増に近い勢いである(IDCの資料による)。
 つまり、ユーザの携帯電話新規購入需要のほかに、通常の携帯電話→多機能付き携帯電話→スマートフォンへの性能向上、データ、ビデオの利用への機種変更の大量需要が、グローバルに爆発的に生じている。これら要因により、携帯電話需要が急成長しているのである。2011年後半からは、携帯ネットワークの3G→4Gへの移行(正確には3Gネット、4Gネット共存時代の始まり)が始まる。携帯電話・スマートフォン市場をめぐる競争は、益々激烈となり、この競争を通じ、携帯電話・スマートフォンの普及は益々高まっていくであろう。
 本号では、米国の調査会社IDCが、最近発表した報告書(World Wide Mobile Phone Tracker)に掲載された2009/2010年次の資料をベースにして、2010年次の5大メーカ別携帯電話・スマートフォンの出荷状況を紹介し、多少の解説を加えた(注1)。
 2010年を通じ、携帯電話業界で見られた大きな変動は、依然、最大の携帯電話グローバルメーカであるNokiaのシェアが急速に落ち込みつつあり、最近、マイクロソフトの提携したこと、韓国(Samsung、LG)、台湾(HTC)、中国(ZTE)など、アジアのメーカが軒並み上位にランクされ、上げ潮にあること、Appleは、2007年7月にスマートフォン市場に参入した新顔であるにもかかわらず、統計が利用できる最新の四半期(2010年第四半期)に、業界2位の地位を保っている等の事実が注目されよう。


年間74.4%の成長を遂げた世界のスマートフォン市場

表1 スマートフォンのトップ5メーカの出荷数、市場シェア(2010/2009年通期、単位:100万)
2010年次出荷数(シェア)2009年次出荷数(シェア)増減比
Nokia100.3(33.1%)67.7(39%)+48.2%
RIM48.8(16.1%)34.5(19.9%)+41.4%
Apple47.5(15.7%)25.1(14.5%)+89.2%
Samsung23.0(7.6%)5.5%(3.2%)+318.4%
HTC21.5(7.1%)8.1(4.7%)+165.4%
その他メーカ61.5(20.3%)32.6(18.8%)+88.7%
総計302.6(100%)173.5(100%)+74.4%


表2 スマートフォンのトップ5メーカの出荷数、市場シェア(2010/2009年の第4四半期 単位:100万)
2010年QC(シェア)2009年QC(シェア)増減比
Nokia28.3(28.0%)20.8(38.6%)+36.1%
Apple16.2(16.1%)8.7(16.1%)+86.2%
RIM14.6 (14.5%)10.7(19.9%)+36.4%
Samsung9.7(9.6%)1.8(3.3%)+438.9%
HTC8.6(8.5%)2.4(4.5%)+258.3%
その他メーカ23.5(23.3%)9.5(17.6%)+147.4%
総計100.9(100%)53.9(100%)+87.2%

 表1、表2から読み取れる主な事項は、次のとおり。

  • スマートフォンの5大メーカのすべてが、2010年次に大きく出荷数を伸ばしている。しかし、伸び率にはかなりの差がある。スマートフォンの老舗とも言うべきNokia、RIMが、Apple、Samsung、HTCの新興3社の急追を受け、伸び率で大きく引き離されている。この事実を端的に示すのが、AppleとRIMとの競争関係である。Appleは、2010年通期ではRIMに次ぐ3位の地位に甘んじていたが、2010年第4四半期にはRIMを追い抜き、第2位に躍進した。
  • AppleがiPhone機種のみで、業界2位の地位を占めているのは、驚嘆に値する。しかし、他の大メーカのうち、韓国のメーカ(Samsun)、台湾のメーカ(HTC)は、アンドロイドOSによりスマートフォンを製造している企業であって、両社の出荷数を総計すると、優にApple(OSはiOS)の出荷数を上回る。したがって、使用しているOSにおいては、アンドロイド(さらに言えばこのOSを開発したGoogle)が、AppleのiOSに勝利しているともいえる。
  • Nokiaが大幅にスマートフォンのシェアを減らしている原因のひとつに、同社 のスマートフォンOS、Symbianが、今や時代遅れになっていることが挙げられる。Symbianは、データ中心でソフトに弱く、PCソフトを基本に設計されたAppleのiOS、GoogleのアンドロイドOSに到底対抗できるものではなかった(注2)。
    2011年2月11日、Nokia のCEO、Stephen Elop氏は、Microsoft社と提携し、今後、MicrosoftのWindows Phone7OSを使用していくとの戦略の一大転換を発表した(注3)。


携帯電話総出荷数で際立つアジアメーカの躍進−上位5社中3社はアジア勢が占める

表3 携帯電話トップ5企業の出荷数、市場シェア(2010/2009年、単位:100万)
2010年出荷数(シェア)2009年出荷数(シェア)増減比
Nokia453.0(32.6%) 431.8(36.9%)+4.9%
Samsung280.2(20.2%)227.2(19.4%)+23.2%
LG116.7(8.4%)117.9(10.1%)−1.1%
ZTE51.8(3.7%)26.7(2.3%)+94.0%
RIM48.8(3.5%)34.5(2.9%)41.4%
その他437.7(31.5%)333.5(28.5%)+31.2%
総計1388.2(100.0%)1171.6(100.0%)+10.5%


表4 携帯トップ5企業の出荷数、市場シェア(2010Q4/2009Q4、単位:100万)
2010年4Q2009年4Q増減比
Nokia123.7(30.8%)126.8(37.2%)−2.5%
Samsung80.7(20.1%)68.8(20.2%)+17.3%
LG30.6(7.6%)33.9(10.0%)−9.7%
ZTE16.8(4.2%)9.5(2.8%)+76.8%
Apple16.2(4.0%)8.7(2.6%)+86.2%
その他133.4(33.2%)92.8(27.3%)+43.8%
総計401.4(100%)340.5(100%)+17.8%

 表3、表4についても表1表2の場合と同様、注目すべき点を数点、以下に列挙する。

  • 2010年次、携帯電話のグローバル市場は、2009年次の11.7億台から約13.9億台へと年率10.5%の高率で成長した。2010年第4四半期の出荷数を2009年同期と比較すると、増率は17.8%であり、増加率はさらに高い。
  • 2010年通期には、Samsungのほかに、同じく韓国メーカのLGがそれぞれ2位、3位と上位メーカの仲間入りをしている。さらに、中国メーカのZTEも4位に入り、上位5社中3社までを韓国、中国のメーカが占めた。これは、携帯電話の製造でいかにこれらアジアの国々が強力になっているかを示すものである(それにしても、わが国のメーカがリストにのらないのは、いかにも淋しい)。
    なお、ZTEは、中国本土のほか、主として発展途上国(東南アジア、中南米、アフ大陸)にも、通常の電話機、機能付き電話機の輸出で実績を収めていることで知られていた。最近は、アンドロイドOSによるスマートフォンの2機種、BladeとRacerにより、西欧、米国、日本にも販売攻勢を掛けている(注3)。表3から判るように、2010年次には、年間94%増もの販売実績を挙げ、Appleを抜いて4位になった(もっともAppleはスマートフォン専用メーカであって、まだスマートフォンの販売数が少ないZTEと同列に比較するのには、無理な点もあるのだが)。
  • 表3、4には表示されていないが、多分第6位、7位に、Motorola(米国)、ソニー・エリクソン(スエーデン・日本)のメーカが入っているはずである。激しい競争の下、メーカの順位は容易に入れ替わるものであるから、第6位以下のメーカにも、今後、大きな売り上げ拡大のチャンスがるとCDI報告書は指摘している。


(注1)携帯電話については2011.1.31付け、http://www.semiconductor-today.com/news, "Mobile phone market grows 17.9% year-on-year in Q4."
また、スマートフォンについては、2011.2.7付け、http://www.betanews.com/joewilcox/article/IDC-Samsung-smartphone-shipments-gre
(注2)2011.2.1付け、FT.com、"Nokia given second rating cut warning."、および、2011.2.13付け、"The Economic Times,"Elop gambles Nokia's future on Microsoft partnership."
なお、上記のThe Economic Timesの記事によれば、NokiaとMicrosoftの提携は、業界筋から一向に評価されていない模様である。あるGoogleの役員は、“ガチョウが二羽集まったところで、一羽の鷲にはなれない”と両社の提携を評したという。
(注3)2011.2.5、Philster.com、"ZTE joins IDC's list; Nokia still leads."


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