DRI テレコムウォッチャー


NBCU(大手放送・コンテンツ企業)の取得により総合メディア企業へと脱皮するComcast
2011年2月1日号

 2011年1月18日、FCCと司法省は、Comcast によるNBC Universal Corp(以下、NBCUと略称)の取得を承認、翌1月29日には、Comcast は早々とNBCUの統合を完了した。
 ComcastがNBC Universal Inc統合を申請したのは、2009年12月初旬のことであった。申請以来、1年1ヶ月強、近来まれな大型合併、しかも、インターネットへのヴィデオ配信が急速に進んでいるさなかで、メディア事業の垂直的統合を目指すComcastの野心的な意図が明らかになっている背景でのM&A案件である。規制機関の決定は、むしろ、予想より早かったといってよかろう(注1)。
 FCCが合併に際しComcast に付した条件、FCC委員連の票決にさいしての見解、専門筋の今回の合併の評価等については、本論で紹介する。

 ただ、この前書きにおいて、筆者の個人的な感想を1、2点述べて置く。
 従来、FCCは、委員長が共和党の場合にはM&Aの承認に甘く、民主党委員長の場合は慎重であるといわれてきた。しかし、2009年秋の大統領選挙戦当時、市民派の立場に迎合したかのような演説を繰り返してきたオバマ大統領と親しいFCC委員長、Gunachowski氏が下した今回の裁定は、一見、ユーザの利益も考慮するようであるが、実は、Comcast に有利な裁定を下したと批判されている。これは、中間選挙において、マジョリティーを失ったオバマ政権下でのFCCとして止むを得ないことであったのかもしれない。
 第2点目として、筆者が注目するのは、米国規制機関による今回のComcastとNBCの合併承認について、もっとも大きな利害関係を有しているはずのAT&T、Verizonの両社が、当面なんらの意見を表示していないことである。
 両社は、必ずや、Comcastと同様に、M&Aを通じ、メディア統合会社への道を模索(たとえば、ABC等の放送会社の統合を図るとか)を始めるのではなかろうか。1996年通信法制定の精神からすれば、このような行動は非難されるべきであろうが、今後、AT&T、Verizonが類似のM&A案件を申請してきたと仮定した場合、FCCがこの案件を安易に拒否するとは、考えられないからである。


NBCU統合に際しFCCがComcast に課した諸条件およびComcastが行った誓約

 以下は、FCCのプレスレリースに掲載されたNBCU統合に際しFCCがComcast に課した諸条件およびComcastが自発的に行った誓約のあらましである(注2)。概ね、原文の要約であるが、一部、表現を解説風にした部分(特に、見出し)がある点をお断りしておく。

  1. Comcastの競争力が強力になることを阻止するためFCCが課した歯止め条件
    1. ビデオ配送業者が、Comcast-NBCUの番組への理にかなった(reasonable)アクセスを可能にする。FCCは、MVPD(Multiple Video Programming Distributor)のために、Comcast-NBCのプログラム販売条件(料金、契約期間等の条件等)について、改善された調停手続きを設ける。なお、FCCは、この手続きを通じ、放送、地域スポーツの番組だけでなく、ケーブル放送の番組も、競争業者に開放するよう求める。
    2. ビデオのオンライン競争の保護(ネットニュートラリティー原則のComcastへの適用)今回のComcast-NBCUの統合が、革新的なビデオのオンライン配信に及ぼすリスクを理解した上で、FCCはオンライン配送事業者が適切な状況下において、Comcast-NBCUの番組使用の許可を受けることができるよう、同社に条件を課した。その要旨は、次のとおりである。
      • MVPD、オンライン・ビデオの業者に対し他業者と同等の条件で番組を卸売りすること
      • 充分な周波数帯を備えたインターネットアクセスを提供すること
        ユーザは、このために、特段、Comcast-NBCUからケーブルテレビ契約を要しないこと
        (筆者注:換言すれば、Comcast-NBCUは、組み合わせサービスの強制を禁じられる)
      • 自社の番組、他の供給業者の番組のオンライン配送を不当に制約するような合意は行わないこと
      • 自社のブロードバンドアクセスサービス、セットトップボックスのいずれかあるいは双方において、競争業者のオンライン・ビデオ配送に不利を与えるような行為はしないこと
      FCCは、また、幾点もの公益に関する案件についての条件を付している。
      これら条件には、とりわけ、多様性、地域性、放送についての条件が含まれる。
      たとえば、FCCは、地上波放送の統合性、合弁会社との公平、平等な番組再放送の交渉等に条件を付している。
  2. 公益拡大のためのComcastが行った自発的な誓約
    ComcastがNBCU統合の機会に、コミュニティー、低所得者等の利便増進のためにと自発的に申し出た貢献の誓約の主なものは次のとおり。
    • ブロードバンド利用の拡大
      次の諸施策により、250万の低所得世帯にインターネットを提供する。
      1. 月額10ドル未満で、高速インターネット・アクセス・サービスを提供する。
      2. パソコン、ノートブック等のコンピュータ端末を150ドル未満の原価提供を行う。
      3. 幾種類ものディジタル・リテラシーの教育機関を提供する
      4. インターネット・アクセス網を拡大し、6つのルーラル・コミュニティ、600箇所の低所得エリアの学校、図書館等に対し、高速インターネットを無料で提供する。
    • 地域性(ローカリズム)
      放送の地域性をさらに向上させるため、少なくとも、NBCUの自前の放送局における放送のニュース、情報番組の現行水準を確保する。また、ローカル・ニュース、情報の番組を数千時間追加する。さらに、オン・デマンドの無料地方番組も、利用できるようにする。
    • 子供番組
      子供番組を提供する放送局数を増やす。少なくとも、1500 のオン・デマンドの子供向け情報を提供する。また、12才未満の子供に対する広告は制減し、児童問題向けの公共番組を提供する。
    • 番組の多様性
      FCCは、地上波あるいはオン・デマンドの放送において、Comcast-NBCに対し、スペイン語コミュニティーに対するスペイン語番組を拡大することにより、番組の多様性を高めるよう求める。
    • 公共番組、教育番組、政府関係番組(PEG番組)
      Comcast は、引き続き、自社のケーブルテレビシステムにより、PED番組へのアクセス、品質を確保することとする。


FCC共和党委員2名の賛成に支えられた異例の多数決票決

 Comcast によるNBCU取得の票決は、5名のFCC委員のうち、4名が賛成、1名が反対で決定された。賛成票のうち2票は、共和党委員により投じられたものであり、この票が、反対票であったとするなら、この案件は、否決されていたこととなる。FCC委員会票決の多くは、党派ラインに沿って、3対2で決せられることが多いのであるが、今回はそのルールによらず、ただ、一人の反対委員(Copps氏)は、FCC与党、民主党に所属するという異例な表決行動が生じた。
 票決にさいしてのFCC各委員の意見の骨子を、次表に示す。

FCC委員名意見の骨子
Genachowski
(委員長、民主)
賛成。FCCは、両社の統合が公益に資するよう、幾つもの条件を付し、また、Comcastも自発的に社会貢献を行う旨の誓約を行った、という趣旨の簡潔な声明にとどまった。詳しい解説は、同僚の民主党委員、Cyburn氏のに委ねた模様。
Cyburn
(民主)
賛成。利害関係者と徹底的な資料提出と合議を重ねた結果、Comcast に対しては、反競争的行動に対する多くの歯止め条件が課された。さらに、Comcast自体も公益を促進する施策を誓約した。
Comcastが、今回の統合に際しての条件をすべて遵守すれば、ユーザは、統合による実害を上回る便益を得るはずであり、統合は成功だといえようとの確信を持つに至った。
McDowell、Barker
(共和)
賛成。ただし、M&Aは、当事者相互間の自由な契約に委ねるべきであって、FCCが介入すべきではない。M&Aにより問題が生じれば、独禁法等の関連法規を適用して、是正措置を講じればよい。つまり、この案件について、FCCは、多くの期間を費やし、無駄な仕事をした。(筆者注:これは、終始、M&Aに対するFCC共和党委員の一般的意見である)。
Copps
(民主)
反対。Comcast によるNBCUの統合は、FCCが取り扱ったM&A案件のなかで、類を見ない規模のものである。この合併は、米国メディアのすべての側面に、深刻な影響をもたらす。FCCは、その影響力を抑止するため、幾つもの歯止め条件を付し、また、Comcast自体も、公益に資する目的のため、幾点もの施策実施を約束した。
しかし、このような施策により、Comcast によるメディア支配が阻止されるわけではない。そもそも、FCCの歯止め条件は、さほど厳密なものではなく、強制力に乏しい。しかも、7年間の時限的なものである。
公益に害を及ぼすと考える案件に異議申し立てをしないとすれば、私は、法令にも、また、過去20年にわたり行ってきた主張にも、忠実でなかったとのそしりを免れまい。


アナリストたちは今回のNBCU合併はComcast に有利と判断、効を奏した大掛かりなロビイング活動

 素人筋が、FCC裁定を通読すると、いかにも、Comcast はNBCU取得に際しさまざ まの条件を課され、これでは、同社の今後の運営は大丈夫かと思ってしまう。ところが、幾人ものアナリストたちが、今回のFCC裁定では、得をしたのはComcastであり、長期的には、ユーザが同社の料金値上げにさらされるだろうとの意見を述べている。FCCでただ一人、反対票を投じたCopps委員の意見に通底する点は、注目に値する。彼らの意見を要約すると、Comcast は、主として次の4点の理由により、FCCの課する条件からの影響をほとんど受けないという(注3)。
 第1に、FCCの歯止め条件は、一見、制約が厳しいように見えながら、それらの多くは、“reasonable”とか“sufficient”と言った定性的形容詞が判断基準になっており、Comcast は容易に、この曖昧さを抜け道として、FCC規則を潜ってしまうこと。
 第2は、仮に、FCC規則違反が明らかとなっても、250ドルから100万ドル程度の罰金が課されるだけのことであり、規則違反の抑止力として働かないということ。
 第3に、これら歯止め条件は、すべて、最高7年の時限立法であって、7年間後、効力を失う時限制約に過ぎないこと。
 第4に、今回の裁定は、ネット・ニュートラリティーの原則適用を明らかにした 点において、Comcast に少なくとも、インターネット・アクセス料金の従量制導入への暗黙の承認を与えたものだと解釈されることである。

 ちなみに、今回のM&Aを達成するについて、Comcastが行ったロビーング活動は、きわめて大掛かりなものであった。その一端を物語るものとして、同社が下院議員に対し、かなりの資金をばらまいた事実を幾つかのネット紙が指摘している。このため、2010年末には、無条件でComcastのNBCU合併を認めることが、国益にかなうとの書簡をFCCに送るほどの成果を収めた(注4)。
 さらに、当初は、強硬に、合併反対を叫んでいたプレス、消費者グループ等の20もの団体もComcastがNBCUを統合した当日の2011年1月29日、FCCのGenachowski委員長に、今後も、Comcast-NBCUの行動に監視の目を緩めない旨を謳った書簡を送り、事実上、反対闘争を終えた(注5)。Comcast は、しばしば御しがたい消費者団体の反対も、ほどよい程度に抑えることに成功したわけである。


(注1)Comcast によるNBCU取得の意義、条件等については、2010年初頭のDRIテレコムウォッチャーにおいて、詳しく解説した。その後、変更はほとんどないようであるので、本号では、再度の説明は省略した。
DRIテレコムウォッチャー、2010年1月1日号、「Comcast、NBC Universal経営権の取得でGEと合意 ― Videoの配送とコンテンツ支配の一元化を図る」
(注2)FCCは、本案件について、270ページを超える詳細な裁定文を公表している。ただし、筆者は、今回、裁定本文によらず、次のFCCレリースプレスを参照した。
2001年1月18日付けFCCプレスレリース、"FCC Grants approval of Comcast-NBCU Transaction."
(注3)代表的なものとして、次の2つの情報が有益である。
2011.1.19付け、Wall Street Journal、"Comcast Wins Regulatory Approval for NBC Deals."
2011.1.19付け、CS Monitor.com、"Comcast-NBC Universal deal: Can Comcast now crush its rivals?"
なお、本文の筆者の解説は、上記第2番目のサイアンス・モニターの記事に負うところが大きい。
(注4)2011.1.14付け、http://www.dslreports.com/shownews/、"The Best NBC/Comcast Merger Enthusiasm Money Can Buy."
(注5)2011.1.29付け、free Pressのニュースレリース、"Comcast-NBC Merger Complete: Free Press Warns of Harms."


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