DRI テレコムウォッチャー


FCC、オープン・インターネット規則を制定:訴訟を引き起こすことは確実
2011年1月15日号

 FCCは、2010年12月23日、2010年の最大の懸案であったインターネットの開放性についての規則を制定した(注1)。
 今回制定された規則の名称は、“オープン・インターネット”となっている。この呼称は、2005年から2006年に掛けて、米国議会で法制化が論議されたが成案に至らず、ようやく、FCCが政策宣言の形でインターネット・アクセス業者に対するガイダンスの形で示した“ネットニュートラリティー”の名称を変更したものに他ならない(注2)。FCCのGenachowski委員長は、共和党の前Martin委員長が2005年ガイダンスの形で発表したインターネットニュートラリティーに関する政策宣言をベースにし、これを発展させ、さらに利害関係者の意見を多く吸収し、今回の裁定を行った。

 精力的に、規則案の準備に掛った初期の検討段階では、この機会に、ブロードバンドを一挙に、通信法第II部に記載されているコモンキャリアとしての規制の下に置くべきだという主張の民主党FCC委員、Copps、Baker両氏が草案作成をリードした。これに対し、Genachowski委員長は批判的であリ、“ライトタッチ”(軽い規制)を提唱したが、議会民主党の一部強硬派議員たち(民主党議員の重鎮、ロックフェラー上院議員も含む)からの強い突き上げもあり、この流れに逆らえなかった。
 ところが、2010年秋に入ると、急に流れが変った(注3)。
 中間選挙に敗北した議会における民主党の劣勢、インターネットに規制を掛けることに反対する大手インターネット事業者(AT&T、Verizonを含む)からの凄まじいロビーング活動に押され、Genachowski委員長は、FCCによるインターネットにコモンキャリア規制を掛ける方針を取りやめた。それに、そもそも、2010年の連邦地裁の控訴審判決(Comcastによる同社ネットワーク・マネージメント介入が、1996年通信法違反であるとの訴えに対するもの)は、FCCによるインターネット業務への介入は、法律違反であるとの明確な司法判断が下されてもいた。
 共和党FCC委員のMacDowell、Baker両氏が票決に当たっての反対意見で解明しているように、そもそも、今回のFCCによる規則制定は、法解釈上、無理がある(注4)。ただ、Genachowski氏を始めとする民主党FCC委員とすれば、この案件は、オバマ大統領の大統領選挙時の公約である。どうしても2010年内に決着をつけようとした理由は、この点にあったとも考えられる。
 このように、当初の思惑からかなりかけ離れた内容のFCC規則が、年末ギリギリの12月23日に制定された。票決は、民主党3人の委員が賛成、共和党委員の2人が反対という党派別の線に則って行われた(注4)。

 FCC規則は、インターネット・アクセスに伴うアクセス提供業者に徹底した情報開示(言い換えればトランスペアレンシー)、理にかなったネットワーク・マネージメントを要請し、これをFCCが監督、このような持続的なプロバイダ、ユーザ、FCCの協業を通じ、インターネットの価値が益々ユーザに評価され、需要、供給が増え、競争も刺激されるとのインターネットエコロジー哲学を根底に置いている。そして、このエコロジー遂行の過程において、投資資金を調達するのに、料金修正も必要だろうという理解をアクセス業者に示し、料金修正の余地を残すといった、インターネットのユーザ、アクセス事業者の双方が、めでたし、めでたしの果実を得るという図式である(注5)。
 本論では、FCCのこのような図式に則った規則を、裁定本文に即し、できるだけ忠実に紹介した。また、今回の裁定で、FCCがインターネット・アクセスの料金改正をどのように見ているかの問題も、項を分けて解説した。


裁定の主要ポイント

  1. 透明性(transparency)
    (1)透明性がもたらすメリット
    ブロードバンド提供業者のネットワーク・マネージメント、ネットワークの性能、ユーザとの契約条件を透明化すること(データを開示すること)により、次のメリットが得られる。
     (a) ユーザは、情報に基づいた選択ができる。
     (b) その結果、ユーザはインターネット事業展開に必要な技術情報を得ることができるため、情報開示は、イノベーション、投資、競争の支援となる。
     (c) 情報開示により、悪い情報が駆逐されて行き、また、是正措置を迅速に取ることができる。
     (d) FCCは、情報開示により、他のオープン・ネットワーク規則を制定するのに充分な情報を得ることができる。
    (2) 透明性規則の定義
    “ブロードバンド・インターネット・アクセスの提供に従事する者は、ブロードバンドネットワーク・アクセスサービスについて、ネットワーク・マネージメントの実施方法、ネットワークの性能、ユーザとの契約条件について、正確な情報を公開しなければならない。この情報は、ユーザがこれらのサービス、コンテンツ、アプリケーションを利用するのに、また、機器メーカがインターネット用機器を開発、販売、保守するに足るものでなければならない。”
    (3)ネットワーク・マネージメントの情報開示内容
     (a) 混雑(コンジェスション)のマネージメント
    混雑の種類、実施方法の目的、どの混雑段階で措置を講じるか。ユーザのインターネット利用制限の基準等
     (b) アプリケーション単位のトラフィック規制
    特定のアプリケーションに対し、どうしてトラフィック規制を行うかの記述。
     (c) インターネットへの機器接続の規則
    提供可能なものであれば、ネットワークに接続する機器の制約および機器認証手続き
    (4)ネットワークの性能
     (a) サービスの記述
    サービス概要の記述、これには、サービス技術、スピード(理論値、実績価を含む)等
     (b) 特殊サービスのインパクト
    提供可能であれば、特殊サービスの種類、それぞれの特殊サービスが、ブロードバンド・インターネットサービスの加入者引き込み箇所の部分(ラストマイル)に、影響をもたらしているかどうか。
     ここでの特殊サービス(specialized service)とは、通常のインターネット・アクセス・サービス以外のサービス(VOIPとか、相対契約で大口加入者に提供するアクセス・サービスとか)を指す。
    (5) ユーザとの契約条件
     (a) 料金
    月額料金、従量制料金、早期契約解除の場合のペナルティ料金、ネットワークサービスの付加料金等
     (b) プライバシー政策
    ネットワーク・マネージメント実施方法には、トラフィックの監視を含むのか。トラフィック情報は、蓄積され、第3者に提供されるのか。または、キャリアは、トラフィック情報をネットワーク・マネージメント外の目的に利用するのか等。
     (c) 矯正措置のオプションエンド・ユーザからの苦情、質問を解決する事務処理要領
  2. ブロッキング
    (1)ブロッキングは、原則的に禁止。
     固定インターネットプロバイダに対するブロッキング禁止の原則は、次のとおり。
    “固定インターネット・アクセス業務に携っている者は、合法的なコンテンツ、合法的なアプリケーション、合法的なサービスおよびネットワークに害を及ぼさない機器のブロッキングを禁じる。ネットワークマネージメントは、理にかなったものでなければならない。”
     また、上記の原則で保護されるコンテンツは、合法的なものに限られる。
    (2)ブロッキングが認められるケース
     (a) 法に反する(unlawful)トラフィックは、ブロックできる。
    ブロッキングの原則は、合法的なコンテンツの伝送のみについて、認められる。
    たとえば、児童ポルノのようなコンテンツの伝送をブロックすることは、妨げられない。
     (b) 理にかなった“ネットワーク・マネージメント”によるブロッキング
    固定ブロードバンドインターネットのサービス提供に携わる者は、消費者のブロードバンドサービスを伝送するに当たって、理にかなわないブロッキングを行ってはならない。しかし、理にかなったネットワーク・マネージメントは、理にかなわない差別には当たらない。
  3. 理にかなったネットワーク・マネージメント
    (1)定義
    “ネットワーク・マネージメントの実行は、それが適当なものであり、正当なネットワーク・マネージメントの目的に向けられたものである限り、理にかなったものである。この場合、特定のネットワーク・アーキテクチャ、特定のブロードバンド・インターネット技術が考慮される。”
    (2)ネットワーク・マネージメントの必要性
    ネットワーク・マネージメントは、顧客の要望に応じうるようにするため、ネットワークのセキュリティー、統合性を常に保持するために必要である。トラフィックの常態が乱されるケースとして、(1)ネットワークに障害が生じるとか、サーバー攻撃が加えられるといった異常事態の措置、トラフィックに混雑(コンジェスション)が生じる場合の措置に大別される。
    (3)コンジェスションの場合のネットワーク・マネージメント原則
    トラフィックの混雑を救済手段として、ネットワーク・マネージメントを実施することは、正当化される。たとえば、大量のトラフィックを発生するユーザにより、他の利用者が押し退けられてしまうような場合、ブロードバンド・プロバイダは、適切な措置を講じなければならない。
    異常に大量のトラフィックを使用するユーザに利用制限を訴えるケースも認められよう。
    ブロードバンド・プロバイダは、実験、革新を行い、ネットワークを柔軟にマネージして行くフレクシビリティーを有しなければならない。
  4. 特殊サービスに対する特例
    FCCは、インターネット・アクセスのサービス以外のサービス(特殊サービス、VOIP、インターネットビデオを含む)については、今後、監視を続け、しかも、監視の度合いを強めるものの、インターネット・アクセスのサービスの場合のようなオープン・アクセス保持のための措置を強制しない。これは、FCCが、これらサービス分野では、競争業者の数が多いため、競争によって、おのずから、オープン・アクセスの効果がもたらされるとみているからであろう。
    FCCは、特殊サービス監視の必要性について、特に、(1)これら特殊サービス部門に対し多額の投資が行われるため、本来のアクセスサービスがなおざりにされることがないか(2)プロバイダが反競争的行動に訴えることがないか(3)消費者保護が充分になされるかの諸点に留意するとしている。
  5. モバイルインターネットサービスに対する規則の一部適用除外
    モバイルインターネットサービスは、固定インターネットサービスから遅れてスタートし、現在、急成長している分野である。このため、固定モバイルのインターネットサービスと異なった取り扱いを要する。
    透明性の規則は、固定モバイルインターネット事業者の場合と同様に適用
    FCCは、固定インターネット業者に適用されるのと同様の透明性の規則をモバイルインターネット業者に課する。
    FCCは、モバイルインターネット事業者に対し、自らのネットワークに、第3者のモバイル機器、モバイル・アプリケーションの使用を義務付けようとは思わない。しかし、ネットワークへの使用を制限する理由を知るため、第3者機器を認証する手続きの情報開示を求める。
    一部サービスの場合を除き、ブロッキングが認められる。
    モバイルインターネット事業者に対するブロッキングの原則は、次のとおりである。
    “モバイルインターネット・アクセスに従事する者は自分が提供している音声サービス、ビデオサービスと競合するコミュニケーションをブロックしてはならない。しかし、理にかなったネットワーク・マネージメントが為されているとの前提の下に、ユーザを合法的なネットワークサイトから、ブロックしてはならないとの固定インターネット・アクセス業者に対する制約は、適用を除外する。”

裁定およびGenachowski委員長の発言に見られるインターネット料金についてのFCCの考え方

 1995年、1996年に、インターネットをインターネットプロバイダの立場からでなく、ユーザの視点から監視するためには、ネットの中立性を確保する理念が必要であるとして、インターネットの大口ユーザ(主唱者はGoogle)から提唱されたのが、インターネット・ユーティリティーの概念であった。
 そして、こういった主張が、大手インターネット・プロバイダのAT&T、Verizon等が計画していた2層料金(アクセスサービスを高速、低速の2層化にし、それぞれ料金を別にする)の実施を阻止することを主目的にしていたことは、明々白々たる事実であった。
 そこで、今回の裁定では、次のように理由を明示し、一般アクセス料金の品質に基づく差別化を認めない旨の記述を行っている。裁定に示された定義を使用すれば、こういった料金は、“理にかなった差別”とはみなされないということであろう。
 裁定では、two tiered pricing(2層料金)という言葉を避けて、priority for priceという言葉を使っているが、双方ともに同義である。
 2層料金が認めることができない理由として、裁定は次の3点の理由を挙げている。
 第1点は、沿革的に、ブロードバンド・アクセスサービスは、無料ベースからスタートしたものであり、これが、商用サービスになってもこの原則が守られており、この原則から大きく逸脱する料金制度の採用は米国で採用された例がほとんどなく、この現状を変える料金制度は実施しがたいこと。第2にこの新たな料金制度は、インターネットの投資、革新に大きな損害を与えること。第3には、個人のブロッガー、図書館、学校等公共機関、非営利団体等のインターネットと利用に害が及ぶと考えられることである。

 ところが、専門家の意見によると、裁定は、特段、従量制料金を禁止していないというから、ややっこしい。
 幾つもの米国のネット紙は、その旨を報じているし、わが国の日経も、FCCが従量制料金容認を見出しにしたかなり大きい記事を掲載している(注6)。
 してみると、表面上は、消費者保護本位の構成による斬新なインターネット・アクセス監視の仕組みを導入するというFCCの主張は、ほんの見かけであって、真の狙いは、大手インターネット・プロバイダの権益擁護ではなかったかという見方もできる。
 ダイアルトーン方式により、インターネット・アクセスの従量制が支配的であった20世紀の末頃であるならともかく、2010年代に入った今日、インターネット・アクセス料金は定額制であるのが、グローバルな趨勢である。万一、米国の大手インターネットキャリアが、将来、インターネット・アクセスに従量制料金を導入することがあれば、米国は、技術、アプリケーションの開発の側面では世界のトップを走っているが、サービスの品質は発展途上国並であるとのそしりを受けることともなり兼ねまい。


(注1)Report and order in the matter of Preserving the Open Internet Broadband Industry Practices 2010.12.23.
(注2)DRIテレコムウォッチャー、2006年5月1日号、「FCCが仕切る米国のネット・ニュートラリティー政策」参照。
(注3)DRIテレコムウォッチャー、2010年9月1日号、「FCC 2010 年秋にはブロードバンド規制を裁定」参照。
(注4)2010年12月21日付け、FCCプレスレリース、"Dissenting Statement of Commissioner Robert M. MacDowell"、および、"Dissenting Statement of Commissioner Meredith Attwell Baker."
いずれも、根拠を明確に示した理路整然とした論説であり、両委員(もちろん両氏のスタッフも含め)の力量を証明するに足るものである。
(注5)FCCのGenachowski委員長は、裁定時の同氏の声明の中で、この哲学を詳しく説明している。FCC Chairman Julius Genachowski, "Statement on preserving internet freedom and openness."
(注6)流石にエコノミストの解説だけあって明解な、2010年12月29日付け、The Economist, "A tangled Web" 、および、"http://gigacom.com/2010/12/28."


テレコムウォッチャーのバックナンバーはこちらから



<< HOME  <<< BACK  ▲TOP
COPYRIGHT(C) 2011 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.