DRI テレコムウォッチャー


米国携帯キャリア、続々と4Gネットワークサービスを提供へ
2011年1月1日号

 2010年は、携帯電話がグローバルに飛躍的に発展した年であった。
 当初、音声通話のみの機能からスタートし、その後メールの送受信、データの検索、カメラ機能の装備、音楽の受信等さまざまな機能を備えるようになった携帯電話は、今や、時代の寵児。パーソナルな生活必需品となっている。 
 さらに、PC機能を端末に取り込み、利用者が数多くのアプリケーションを選べる スマートフォンが登場し、年々その機能を高めている。この分野では、2007年7月、市場にデビューしたApple社のiPhoneが先鞭を切り、スマートフォン市場を先導した。しかし、その後、Googleが提供したスマートフォンのOS、Andriodが、無料かつ開放的であるため、世界の多くの携帯キャリア、携帯機器メーカからの強い共感と支持を得ている。今では、数多くのAndroid OS機器が市場に出回っており、Appleの出荷数を上回っている。
 このような状勢の中で、ようやくグローバルに使用され始めた3Gネットワークから、4Gネットワークへと大きな転換の動きが始まっており、ネットワークの高度化が益々進んでいる。
 以下、米国において、現に4Gサービスのスタートを開始、あるいは、今後、サービスを開始する予定である携帯電話キャリア4社のサービス提供、計画の概要を紹介する。
 4社は、大手携帯電話キャリア、Verizon Wireless、AT&T Mobile、Sprint/Nextel および、業界第5位の携帯電話キャリア、MetroPCSである。大手携帯電話キャリア第4位のT-Mobile USAは、当面、4Gサービス提供の計画を持たないので、解説を省いた(注1)。

 なお、本文の執筆に当たっては、まとまった資料がないため、幾10ものネット資料を利用した。煩を避けて、使用した資料の引用は、MetroPCS社の場合のみを例外として、一切、省略させて頂いたことをお断りしておく。


携帯電話キャリア4社のサービス提供状況、計画のあらまし

 携帯電話キャリア4社のサービス実施、計画のあらましを次表に示す。
 表をお読み頂ければ、明らかなとおり、米国における4Gサービスの先駆者は、WiMax標準により、かねてから社運を賭けて準備を積み重ねてきたSprint/Nextelである。これを追うのがVerizon Wirelessであり、LTE標準により、3年後の2013年末には、現在の3Gネットワークをすべてカバーする4Gネットワークの構築を目指している。
 AT&T Mobileも、長期的にはVerizon Wirelessと同様の4Gサービスの全国展開を予定しているが、現行の3Gネットワークのレベルアップ(3Gで最大のスピードが得られるHSPA+標準の利用)を計りながら、徐々に加入者を3G→4Gネットワークに誘導していく戦略を取っている。
 最後に、MetroPCSは、安い定額制、前払い料金により、音声サービス、ネット検索、ビデオの聴取に焦点を当てた制限されたサービスの提供により、ニッチ市場を狙っている。

表 米国携帯電話キャリア4社の4Gサービス提供・計画の概要
携帯キャリア名4Gサービス提供・計画の概要
Sprint/Nextel4Gサービス提供の先駆企業。WiMax方式により、2010 年後半から精力的にサービスを拡大中である。スマートフォンも2機種を備え、そのほか、タブレット、ノートブックも提供している。加入者数も伸びている模様。
Verizon Wireless2010年12月初旬から、サービス開始。LTE方式による全米、最大、最強の4Gネットワーク構築を目指している。2010年末には1.1億人の人口をカバー、2013年末には人口3億人をカバーする計画。
AT&T Mobile2011年半ばから、サービス開始。同年末には、7000万ないし7500万の人口をカバーする計画。Verizon Wirelessと異なり、3Gネットワークのスピードアップ、強化と並行し、斬新的に4Gサービスを導入していく計画。
MetroPCSLTE方式により、サービス種別を音声、インターネット検索、ビデオの受信に限った4Dサービスを2010年12月から開始した。
携帯端末は、Samsung社のGrafity Phoneのみ。2011年には、サービス提供のカバレッジを拡大するほか、サービス種類の拡大(たとえばWi-Fi)を計画している。MetroPCSは、米国第5位の携帯キャリアであるが、加入者数は約800万程度で、規模は小さい。


Sprint/Nextel:WiMaxサービスの滑り出しは好調、長期的に見て強豪2社(Verizon WirelessとAT&T Mobile)に対抗できるかは疑問

 Sprint/Nextel は、2008年5月、ネットワーク建設会社としてClearwire(Sprint/Nextelが株式の56%を所有)を選び、他社に先駆けて米国初の4Gネットワークの構築に乗り出した。以来、2年半の月日が経過。この間、Sprint/Nextelの業績悪化は止まらず、多くの加入者を継続的に失って今日に至った。
 しかし、同社は幾つもの困難を乗り越え、当初予定より半年ほど遅れたものの、2010年内に米国携帯キャリアの中で初の大規模な4Gネットワークサービス展開を実現している。
 同社は、2010年秋から年末にかけて、精力的に4Gサービスの提供を開始した。現に、ニューヨーク、ボストン、ナッシュビル等、数十の都市を含む地域へのサービスを提供中である。2010年末には、1.2億の人口をカバーするまでにサービスエリアを伸ばした。
 4Gサービス向けの端末の販売も進んでいる。3G/4G対応のスマートフォンは、Samsung Epic4GとHTC EVO4Gの2機種があり、販売は好調だといわれている。スマートフォンだけでなく、4G対応のUSMモデム(ハイスポット用)、タブレットも1ダースを超える種類のものが販売されている。
 Sprint/Nextelの他社に先駆けての4Gサービス実施は、すでに同社の業績にも、好影響を及ぼしている。同社CEOのDen Hesse氏は、2010年第3四半期の決算発表に際し、“わが社は、当期、他社に移行した加入者数よりも他社から奪った加入者数の方が多かった”と誇らしげに語った。
 同社は、4Gの下りサービスのスピードは、平均3メガから6メガ、最高スピードは10メガであると発表している(同社3Gの平均スピードは0.6メガから1.4メガ)。
 次項で述べるように、Verizonは、Sprint/Nextelを追撃しており、2011年半ばからは、AT&T Mobilityも市場に参画する。今後、これら3携帯キャリアによる4Gサービスの競争は激甚なものとなろう。


Verizon Wireless:米国最大の4G携帯ネットワーク事業者を目指す

 Verizon Wirelessは、2010年12月始め、LTEによる4Gサービスを開始した。同年末までに、米国総人口の約3分の1の1.1億人をカバーするエリアにサービスを提供した。サービス提供都市の中には、ボストンとワシントンを結ぶ米国西海岸地帯の都市(ニューヨークを含む)、西海岸のカリフォルニアの諸都市、シカゴ、マイアミ、アトランタ、ダラス、ヒューストン、シアトル等が含まれている。同社は、Wi-Fi利用の空港のホットスポットの4G化にも力を入れる。4G技術は、特に、導入時点においては、車を走らせ、同時にラップトップを駆使するビジネスマンの需要に焦点を当てている模様である。2013年末までに、全人口をほぼカバーする計画である。
 4Gネットワークのスピードは、下りで5メガから12メガ、上りで2メガ程度だという。現在のVerizonの3Gネットワークより、数倍早い程度。
 2010年末に、ネットワークの利用ができるようになっても、この段階でネットワークに接続できる機器はほとんどない。モデム利用により、ラップトップのコンピューターが利用できる程度である。
 これは、Verizonが4Gで同社に先行し2010年半ばにWiMax方式によるサービスを開始したSprint/Nextelを意識して、2010年内の第1段階のネットワークサービスの構築をぜひとも実施したかったからであろう。
 Verizon WirelessのCEO、Seidenberg氏は、2011年2月には、最初の本格的な4Gネットワーク用端末を市場に出す計画だといっている。
 また、2011年1月には、開催されるCES会場で、同社は幾種類かの4G電話機とタブレットを出展するものと見られる。しかし、本格的な4G用スマートフォンの登場は、2011年6月頃だと観測されている。
 Verizon WirelessがLTEによる4Gネットワークを早期に推進しなければならない大きな理由に、同社のCDMA標準による現行の3Gネットワークによるスピードが、AT&T、T-Mobileに劣り、この面で競争上不利な立場に追いやられるという事情がある。


AT&T Mobility:斬新的に進める4Gネットワーク構築、4GiPhoneに期待

 AT&Tは2011年の半ばから、4Gのサービス開始を始めるといっている。このようにAT&Tの4Gサービス開始は、Verizonより半年以上遅れているが、これは当初からの同社の戦略に基づくものであり、同社は決してサービス展開を焦っていない。もっとも、同社がこのネットワーク構築にかける熱意は、Verizonの場合に劣らず、きわめて旺盛である。同社は、2010年末までに、このネットワークの投資に7億ドルの投資を行ったが、2011年にも同額の投資を継続するという。また、AT&Tは、最近、Qualcomから、19.3億ドルの巨費を投じて、周波数を購入することで合意した。AT&Tは、Verizonと並んで、数年前、オークションにより、700MHZ帯周波数をもっとも大量に購入した企業であり、4G構築のための周波数帯の確保は充分にできていると見られていた。AT&Tが、このように、周到な周波数帯確保の準備をしているのは、同社が3Gネットワークにおいて、予想外のデータトラフィックの増大に対応し切れず、現在もその後遺症(AT&Tが提供するサービスの評価は未だに低く、最低の部類に位置づけられている)に悩まされているという苦い経験があるからである。AT&Tは、この過ちを4Gサービスにおいて、2度と繰り返さないと決意したのであろう。
 同時に、AT&Tは、2011年以降3Gサービスと4Gサービスの並存の時期が長期間続くと予想して、GSM方式でもっとも早いスピードが得られるHSPA+により、現行3Gネットワークの強化を図っている。
 AT&T Mobilityが、このように、斬新的は4Gネットワークへの移行を計っているのについては、同社のiPhone利用戦略が深く絡んでいる。
 つまり、AT&T Mobilityは、2011年半ばまでは、現行の3Gネットワーク網をHSPA+で、最大限、スピード、品質を高めて、iPhone4を最大限販売する。これまでの例によれば、2007年7月のiPhone市場投入以来、Appleは、毎年6月にiPhoneのバージョンアップを行っている。2011年半ばには、同社はかならずやLTE4Gネットワーク対応のiPhoneを市場に出すはずであるから、その機会には、引き続きApple社とバージョンアップ機種について、Apple社との契約関係を維持していこうという目算を立てている模様である。
 AT&Tは、2011年の時点で、Appleからの専売契約を解除は、充分覚悟している。Verizonを始めとする他の携帯電話会社が、iPhone販売について、競合事業者として立ち現われても、これまでの販売実績と3G網のレベルアップ、Verizonに劣らぬ優れた4Gネットワークの構築により、競争に打ち勝つことができると考えているのだろう。


MetroPCS:4Gのニッチ市場を狙う

 MetroPCSは、ダラスを本拠とする全米第5位の米国携帯キャリアである。加入者数は800万と少なく、いかに米国において携帯通信事業が4大キャリアに集中しているかを示す。MetroPCSは、その名称が示すとおり、米国全域の大中都市の加入者層に、低廉な携帯サービス提供を狙うニッチ携帯事業である。
 同社は、2010年11月に、ダラス・フォートワース、デトロイト、ラスベガス、ロサンジェルス、フィラデルフィアで、4Gサービスを開始、さらに、同年12月15日からは、ニューヨーク、サクラメント、ボストンにもサービスの提供を始めた。2013年末には、4Gネットワークを同社サービスエリアのすべてに展開する計画である。
 Verizon Wireless、AT&T Mobile等、他の主要携帯キャリアが、主として魅力的な諸種の優れたサービス提供により、ポストペイド方式により加入者の囲み込みを計っているのに対し、MeroPCSは、終始一貫プリペイド方式により、しかも、音声、データ、ビデオのすべてのサービスを定額料金(最新のサービスは月額50ドル)で提供するという破格の低料金、焦点を絞ったサービス提供で、加入者の吸収を狙っている、典型的なニッチ企業である。
 同社が、使用している4G携帯端末は、韓国Samsung社のCraftである。Samsung社は、MetroPCSの4Gネットワーク構築にも深く関与している。ちなみに、Sprint/Nextelが販売している4G電話機の1つ、SamsungEpic4GもSamsung製であり、Samsungが世界有数の4Gネットワーク先進国の優位を生かし、すでに、4Gネットワークのグローバルな市場の獲得に乗り出していることが判る。
 同社のサービスは、音声のほか、インターネット・アクセスも出来る。ビデオへのアクセス、音楽の受信もできるが、限られた内容のものである。
 Craftは、Samsungの独自標準を使用している。MetroPCSは、2011年2月には、Android標準のスマートフォンも提供するとのことである(注2)。


(注1)T-Mobile USAは、自社の3GネットワークをHSPA+方式でスピードを最大にまで拡大し、実質的に4Gサービスに劣らないスピードが出せるとして、広報活動をしている。この点については、前号のDRIテレコムウォッチャーで説明した。
DRIテレコムウォッチャー、2010年12月15日号、「米国3、4位の携帯キャリア2社(Sprint/Nextel、T-MobileUSA)の近況」参照。
(注2)MetroPCSが提供する4Gサービスについては、主として次のネット情報を利用した。2010年12月16日付け、http://www.newsfactor.com/news-Spreads Frature-Phone-LTE/story.xhtm, "MetroPCS Expands Feature-Phone LTE To More Cities."


テレコムウォッチャーのバックナンバーはこちらから



<< HOME  <<< BACK  ▲TOP
COPYRIGHT(C) 2011 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.