DRI テレコムウォッチャー  from USA

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モバイル放送は成功出来るか (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.74)
2010年7月22日号

 調査会社のJuniper Research社は、モバイルTVの世界市場は2009年の32億ドル規模から、2015年には70億ドルに達するとの予想を発表した。モバイル放送を立ち上げようとしているアメリカの放送局にとって、良い予想のようだが、Juniper Research社は現在のモバイルTVの市場のほとんどは、モバイルデータ通信回線を使ったストリーミングであり、専用帯域を使ったモバイル放送の視聴者はわずかだと報告している。このトレンドは、今後も続き、モバイルTVの主体はストリーミングのままで進むと予測している。

 しかし、アメリカの放送局は、日本のワンセグと同様に、既存の地上波放送を使ったモバイル放送に強い期待をしている。5月からワシントンDCでモバイル放送のユーザテストがおこなわれている。テストでは9つの局が合計で、23のモバイルチャンネルの放送を行っている。モバイル放送対応の携帯電話、それにチューナ内蔵のネットPCが400人以上のユーザに配られ、テストが行われている。さらに、携帯電話事業者のパートナーは無く、モバイル放送対応の携帯電話はまだ市販されていないにも関わらず、ワシントンDC以外の地域でもすでに40以上の局がモバイル放送を立ち上げている。

 収入の減少に悩む放送局は、モバイル放送がもたらす新たな収入に大きな期待をしている。しかし、モバイル放送がいかに収入を生むのかはまだはっきりしていない。これまでと同様な広告収入モデルになるのか、有料放送なのか、携帯電話事業者等のパートナーがどの様に参加するのか等の答えは無い。ワシントンDCでのテストは、ビジネスモデルの決定に必要なデータを提供する事をその目的の1つにしているが、多くの局は有料放送モデルを採用する方向に目を向けている。地上波TVと同じ番組を放送しても、より広告収入が大きく増える可能性は低い。モバイル放送専用の番組を調達するべきだが、それにはコストがかかり、有料放送としてサービスをする必要があると、多くの局は考えている。Belo、Cox、Media Group、E.W. Scripps、Gannett、Hearst、Media General、Merideth、Post-Newsweek、Raycomの9つの放送局会社は、Pearl Mobile DTVグループを立ち上げており、有料モバイル放送向けの番組を制作する予定でNBC、Fox、Ion Mediaが設立したMobile Content Venture(MCV)と手を組む予定になっている。

 しかし、有料放送のモデルが成功するかも疑問である。FLO TVは2007年から有料モバイル放送を行っているが成功していない。その加入者数は発表されていないが、アナログ停波でサービス地域が広がっているにもかかわらず、低迷を続けている。サービスはVerizonとAT&Tが販売してきたが、どちらもスマートフォンの成功で、スマートフォン向けのデータサービスとしてビデオストリーミングには力を入れている。FLO TVはほぼ無視しており、しかたなく、FLO TVは独自で専用端末のPersonal TV、それにAudiovoxとの協力で、自動車向けレシーバーを売り始めている。しかし、これも成功していない。FLO TVの親会社のQualcommは、FLO TVの売却も視野にある事を発表している。

 FLO TVが成功出来ないのに、放送局が有料モバイル放送でなぜ成功をする事が出来るか。放送局は、自分たちにはすでに放送のインフラがあり、経験もあり、安く、素早く参入が出来るメリットがあると語っている。放送局は$100,000から$200,000の投資で、モバイル放送を始める事が出来る。しかし、地上波放送で使われている1つの高出力アンテナで、全地域をカバーする方法は、モバイルサービスには必ずも適していない。特に有料サービスを行う場合、受信状況は重要な要素になる。受信状況を良くするには、FLO TVが採用しているようなSingle Frequency Network(SFN)を採用し、複数のアンテナから放送する方法があるが、それには新たなコストと工事が必要となり、安く、素早く市場に参入をするメリットはなくなってしまう。


(NSIリサーチ社は、2010年1月に、放送・メディアの規制環境とFCCの活動を調べ、まとめた、
新しいレポート「アメリカの放送・メディア政策と規制の状況、FCCの役割」を出版しました。)


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