FCCが放送帯域再編成の方法を提案するレポート、「Spectrum Analysis: Options for Broadcast Spectrum」を6月に発表した。ナショナル・ブロードバンド・プラン(NBP)は、モバイルブロードバンドサービスの為に放送帯域を再編成し、競売することを提案している。NBPでは2015年までに300 MHzを新たにモバイルブロードバンドで使える様にすることを提案し、その120 MHzは放送帯域の再編成で空けることになっている。
FCCが今回発表したレポートによると、トップ10放送市場区域(DMA)では現在放送向けにあてがわれている294 MHz(49チャンネル)の帯域の内、平均で120 MHzを使っている。100万世帯世帯以上があるDMA(トップ30)の平均は96 MHzであるが、それ以下のDMA(31位から210位)の平均は36 MHzでしかない。FCCは、DMA 100位から210位の市場では、既存の放送局から帯域の返上をさせること無く、必要な帯域を空けることが出来るとしている。
それらの地域では帯域の返上が必要になるが、競売した帯域の売上げを分け与えることで、自主的に放送局が協力をすると考えている。しかし、帯域を返上し、放送局が無くなることはその地域における情報メディアが減ることになる。これに対して、FCCはこれら市場では、多チャンネル事業者が数社参入しており、低出力局、それにマルチキャストもあり、さらにはインターネットによるビデオ番組の配信も進んでおり、インパクトは殆ど無いと分析している。
FCCはこのレポートで、帯域の返上以外の方法も提案している。1つは、アンテナのコロケーションである。複数の局の放送アンテナを1つのタワーにまとめることで、干渉を減らし、帯域を有効に使うことが出来る。しかし、FCCは現実的にはアンテナを動かすことが不可能な場合もあり、また、受信状況にも大きな影響を与えることになり、この方法で空く帯域は僅かでしかないのに、インパクトは大きいと分析している。
2つ目の方法はチャンネルの共有である。1チャンネル(6 MHz)の伝送速度は19.4 Mbpsである。SDでの放送に必要な容量は1.5〜6 Mbps、HDでは6〜17 Mbpsであり、チャンネルを複数の放送局で共有することが可能である。SDだけでの放送であれば、6つの局で1つの6 MHz帯を共有することが可能である。HDでの放送でも2つの局が1つの帯域を共有することも不可能ではない。しかし、1つの局で複数の放送をマルチキャストしていること、あるいは空き容量をモバイル放送に使う場合もあり、すべての局が帯域共有を出来る訳ではない。FCCは60〜120 MHzの帯域を空けるには2〜12%の放送局が帯域を共有する必要があると計算している。
空いた帯域を1つにまとめる為には、最終的に再編成を行う必要がある。この時点で、チャンネルの割り当てをより有効的に行うことで、さらに6〜42 MHzの帯域を空けることが可能だとFCCは分析している。この結果、18〜41%の局に対して新しいチャンネルが割り当てられることになる。
チャンネルの再編成のインパクトは少ないとレポートはまとめている。しかし、これにより、地上波放送の受信が困難になる地域は出てくる。FCCは0.6〜2.1%の世帯が影響を受けると計算している。これに対応する為に、FCCは再編成により受信が困難になった世帯に対しては、無料で多チャンネルサービスへの加入を提供し、その費用は帯域の競売から支払えるとしている。現在、多チャンネルサービスに加入していなく、地上波に頼っている世帯は15%程度である。その2%の約35万世帯に対して、多チャンネルサービスによる地上波再送信を無料で提供することになる。
このレポートは、FCCからの提案であり、コメントを求めている。家電事業者を代表するCEA(Consumer Electronic Association)は、この計画に対する支持を発表しているが、放送業界を代表するNAB(National Association of Broadcasters)は再編編成を真っ向から反対している。
(NSIリサーチ社は、2010年1月に、放送・メディアの規制環境とFCCの活動を調べ、まとめた、
新しいレポート「アメリカの放送・メディア政策と規制の状況、FCCの役割」を出版しました。)