FCCは、アメリカにおけるブロードバンドの普及を促進する為の計画への提案として、そのナショナル・ブロードバンド・プラン(NBP)を発表した。NBPは300ページ以上のドキュメントであり、http://broadband.gov/plan/ にそのエクゼキュティブ・サマリー、全体、それに提案がある。
NBPの大きな目的は、現在64%と推定されるブロードバンドの普及率を高め、さらにその速度を増す事である。目標は、2020年で1億世帯が100 Mbps以上のサービスに加入している事であり、このレベルのサービスに加入出来ない世帯に対してはユニバーサル・サービスとして、4 Mbpsのサービスを提供する。NPBは、これを達成する為の計画であり、多くの提案がなされている。
多くの提案の基礎にあるのが、競合を育てる事である。NBPのエクゼキュティブ・サマリーには、FCCがブロードバンドの普及に対して出来る最大の事は、健全な競合を実現する政策を作る事だと書かれている。FCCは、78%の世帯では受けられるブロードバンドサービスの事業者は、2社であり、価格競争は殆ど存在していないと報告している。2社あるブロードバンドの1つは、ケーブルTV事業者、もう1つは電話事業者である。サービスの速度的には、ケーブルTV事業者が優位であり、DSLは大きく遅れを取っている。数十メガビットレベルのサービスでは、選択肢はケーブルTV事業者の1社でしかないのが現状である。
NBPには具体的な競合作りの目標は書かれていない。競合の目標に対しては、事業者が反対をする事は確実であり、現時点ではそれは避けた方が賢明との判断であろう。NBPには、競合を促進する為の提案が幾つかなされている。1つは、音声電話サービスの補助に使われている、ユニバーサル・サービス基金をブロードバンド普及に回す事であり、多チャンネルサービスのSTBをオープン化させるのも、その為の提案である。また、FCCは、消費者に対してブロードバンドサービスの比較が簡単に出来るようなラベル作りも提案している。
競合を促進する為の最も重要な提案は、無線帯域の確保である。NBPは2020年までに新たに500 MHzの帯域を提供する事を目標とし、その内、300 MHzは2015年までに競売する予定である。国土が広く、人口密度の低い地域が多いアメリカでは、無線を使ったブロードバンドが重要になる。また、NBPは、固定回線のブロードバンドの普及を目指しているだけでなく、ユニバーサル・サービス基金のモバイルデータ版を作り、3G(4G)のユニバーサル化も計画に入っている。この為には、帯域の確保が重要になる。
しかし、帯域の殆どはすでに利用目的があり、それを競売のために確保する事は容易ではない。FCCはNBPで、帯域政策を改めていく事を求めている。帯域免許は、競売制になっているが、政府が利用者に対して、貸している形態である。しかし、貸していると言っても実際的にこれを取り戻す方法は無い。FCCは帯域管理をより流動的に行う方法を作ろうとしている。
最初に必要な事は、帯域利用権限とその実際の利用をはっきりと把握する事である。FCCはそのデータベース作りを始めており、そのベータ版は、http://reboot.fcc.gov/spectrumdashboard/searchSpectrum.seam にある。FCCは、各地域で、誰が、どの帯域を何の目的で使っており、さらにどの程度効率的にその帯域が使われているかを調べ、公開していく。これだけでは、有効に利用されている帯域を返還させることは出来ない。FCCは返還をさせる為に「アメとムチ」の方法を提案している。
アメは、お金である。利用免許を得ている帯域を返還する事業者に対しては、それを競売で得たお金を分け与える。FCCはTV放送帯域から120 MHzを空けようとしており、競売金を分けることで、これを実現しようとしている。
ムチもお金であり、FCCは帯域利用料金を徴収する事を提案している。その詳細は発表されていないが、帯域利用料を徴収する事で、帯域権利を持っているが、その帯域を効率的に使っていない(売上げが少ない)事業者は、帯域利用料金を払わなければならないことで、赤字になるので、返却するとの考えである。
この「アメとムチ」を含め、殆どのNBPの計画は、既存のFCC権限の範囲で実施出来る物ではなく、議会が法律として通し、FCC(あるいは、他の組織)にその権限を与える必要がある。
(NSIリサーチ社は、2010年1月に、放送・メディアの規制環境とFCCの活動を調べ、まとめた、
新しいレポート「アメリカの放送・メディア政策と規制の状況、FCCの役割」を出版しました。)