インターネット中立性問題は2005年に始まっている。Google等のインターネット上でサービスを提供する事業者は中立性を求め、通信事業者は特定のサービス、アプリケーション等を優先する自由を求めている。2005年中に、議会ではネットワークの中立性を確立する為の法案がいくつも提出されるが、反対派も多く、通過はしなかった。FCCは2005年8月にネットワーク中立性原則をガイドラインとして採用した事に止まった。
しかし、オバマ大統領はネットワーク中立性を支持しており、その規制作りをFCCに命じた。FCCは既存の原則に新たな2項目を加えた物を新たなガイドラインとし、それを基にした規制化を進めていく事を発表した。FCCの6つのネットワーク中立性の原則は下記の通りである。最初の4つは、2005年からの原則がベースであり、最後の2つが新たに追加された物である。
適正なネットワーク運用の範囲内で、ブロードバンドインターネットアクセスサービス事業者は、
1. | ユーザが望む、合法的なコンテンツの送受信を阻止してはならない。 |
2. | ユーザが合法的なアプリケーションを走らせる事、それにユーザが望む、合法的なサービスを使う事を阻止してはならない。 |
3. | ユーザがネットワークに接続する事、それにユーザが望む、合法であり、ネットワークに障害を与えないデバイスの使用を阻止してはならない。 |
4. | ユーザに享受する権限がある、ネットワーク事業者、アプリケーション提供者、サービス提供者、コンテンツ提供者間における競争環境を奪ってはならない。 |
5. | 合法なコンテンツ、アプリケーション、サービスを差別無く、取り扱わなければならない。 |
6. | この規則が保証する保護をユーザ、そして、コンテンツ、アプリケーション、サービス事業者が受けるのに必要とされるネットワーク運用に関する情報、その他の実態を適正な範囲で公にする必要がある。 |
FCCは規制化に向けてのコメント期間を開始した。最初のコメント期間は2010年1月14日に終わり、120,000のコメントが提出されている。FCCはこれらコメントを考慮し、規制化を決定するが、これにはComcastの控訴の結果も大きな影響を与える。
Comcastは、Bit Torrentの利用者が極端に帯域資源を使っているとして、2006年頃からBit Torrentのトラフィックを限定してきた。FCCは、2008年1月に、Comcastの方針はネットワーク中立性ガイドラインに触れる可能性があるとして調査を始め、8月に差別的なネットワーク管理を止めるように命じた。ComcastはこのFCCの決定に対して上訴を行い、2010年1月8日にワシントンDCの控訴裁判所で、審問が行われた。
Comcastは同社が差別的なネットワーク管理を行ったかではなく、FCCの権限自体をその争いの中心にしている。Comcastは、FCCのネットワーク中立性方針は、単なるガイドラインであり、法に基づいた規制の様な執行権は無いと訴えている。これに対して、FCCは、1996年通信法、さらに2005年の最高裁が行ったインターネットの規制緩和決定には、情報サービスに対する規則作りをする権限をFCCに与え、ネットワーク中立性ガイドラインに基づいた裁定を行う事は合法だと反論している。
新たな法律無しで、FCCに果たしてネットワーク中立性を規則化する権限があるかは不明瞭である。FCCには通信事業に対する規制権限があるが、それがインターネットにも及ぶかは明確ではない。その為、FCCは規則化をする前に、この裁判で勝ち、法的根拠が欲しい。裁判の結果は6、7月頃であり、それと同じ頃にFCCもネットワーク中立性の規則化を狙っている。法廷が、FCCの権限を認めた決定をした場合、規則の合法性を争うことは難しくなる。しかし、法廷が、Comcastの言い分を認めた場合、FCCのネットワーク中立性規則の差し戻しを求めた訴訟が起きることは確実である。
(NSIリサーチ社は、2010年1月に、放送・メディアの規制環境とFCCの活動を調べ、まとめた、
新しいレポート「アメリカの放送・メディア政策と規制の状況、FCCの役割」を出版しました。)