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DRI テレコムウォッチャー |
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米国3、4位の携帯電話キャリア2社(Sprint/Nextel、T-MobileUSA)の近況
2010年12月15日号
米国の主要携帯電話キャリアは、AT&T Mobility、Verizon Wireless、Sprint/Nextel、T-MobileUSAの4社である。上位2社が旧ベル電話会社系列、下位2社は独立会社系列、しかもT-MobileUSAは、ドイツ最大の電話会社、DTが100%資本を持つ外資系企業である。
AT&T MobilityとVerizon Wirelessは、携帯業界の横綱級企業であって、いずれが勝るとも劣らない企業活動を展開している。これに対し、下位2社のSprint/NextelとT-MobileUSAは、ニッチ市場の開発、革新的なタリフの考案等の新施策を取ることにより対抗している。
Sprint/Nextel は、SprintとNextel社が統合した2005年8月当時、AT&T Mobility、VerizonWirelessに匹敵する5000万台の加入者数を持つ一大携帯電話事業者であったが、統合前の2社のSprintおよびNextelの携帯ネットワークがそれぞれ異なっていため、それらの統合に大変な精力を費やした。このため、同社の巨大な加入者層は、他の携帯電話3社の草刈場になってしまい、上位2社の規模の半分強の規模にまで地盤が沈下した。しかし、2010年に入ってからの同社の復調は目覚しい。スケジュールから2年ほど遅れたものの、WiMax標準による同社の4Gネットワーク網は完成に近づきつつあり、サービスも一部開始された。同社のサービスはこれまで、最悪であると酷評されていたものであるが、最近きわめて評判がよくなった。品質優秀であるとして、さまざまの賞を獲得しているほどである。加入者数も減少から増加に転じ、2010年第3四半期には、64万の加入者増を記録した。ただし、財務状況は、さらなる悪化が続いており、同社が支配権を持つ4Gネットワーク構築に当たっている子会社、Clearwireは、2001年には資金が枯渇すると発表しており、この子会社の救済がSprint/Nextelの最大の課題になろう。
T-Mobileは、2000年12月にスタートして以来、2005、6年ぐらいまでは、米国携帯電話の需要が絶好調に達した時期に、順調に加入者数を伸ばした。しかし、最近の同社の活動は、著しく精彩を欠く。現在、辛うじて、利益を確保している状況であるが、このままでは赤字に転落してしまう可能性すらある。AT&T Mobility、VerizonWirelessがそれぞれ、スマートフォンの販売拡大を軸にして、大きく収入、利益を伸ばし、Sprint/Nextelが4Gネットワークの先駆者としての評価を勝ち得ているのに対し、T-Mobileの企業活動は、あまりにも平板であり、魅力に欠けている。
本文では、さらに、Sprint/Nextel、T-MobileUSAの最近の状況を紹介する。
最後に、米国主要携帯電話4社の最新の加入者数、収入、利益を表1に示す(注1)。
表1 米国大手携帯キャリア4社の加入者数・収入・利益の比較(2010年第3四半期)
項 目 | 加入者数(100万) | 収入(億ドル) | 利益(億ドル) |
AT&T Mobility | 92.8(+13.7%) | 151.8(+11.4%) | 48.5(+14.3%) |
Verizon Wireless | 86.7(+2.9%) | 162.5(+6.0%) | 35.0(+0.2%) |
Sprint/Nextel | 48.8(+3.0) | 81.5(+1.1%) | −9.1(−4.8%) |
T-Mobile USA | 33.8(+1.9%) | 53.5(−1.5%) | 2.7(−16%) |
1. | 括弧内の数値は2009年対比の増減比を示す。 |
2. | AT&T Mobility、VerizonWirelessの両社の利益は、営業利益である(AT&T、Verizonは、携帯部門の純利益を発表していない)。これに対し、Sprint/Nextel、T-MobileUSAの利益は、純利益である。 |
Sprint/Nextel、加入者増の復活、4G携帯電話サービスの先駆的開始で注目を浴びる
加入者はようやく上向きに転じたが、改善されない収支
Sprint/Nextelの収入・利益・加入者の数値を表2に示す(注2)。
表2 2010 年第3四半期におけるSprint/Nextelの収入・利益・加入者数と前年同期数値との比較 (単位:100万ドル)
項 目 | 2010年第3四半期 | 2009年第3四半期 | 増減比 |
収入 | 8,152 | 8,042 | +1.1% |
OIBDA | 1,339 | 1506 | −11% |
純利益 | −911 | −478 | −91% |
加入者数(単位:100万) | 48.8 | 48.3 | +1.0% |
表2により、Sprint/Nextelの加入者数が、これまでの慢性的減少傾向から一転し、増加に転じたことが示されている。同社は、2010年第1四半期にはまだ7.5万の加入者を減らしていたが、第2四半期には11.1万の加入者を加え、初めて、加入者数の純増を記録した。2010年第3四半期には、一挙に64.6万もの加入者増を達成した。これに伴い、収入もわずかながら、前年同期より増えた。
上記の加入者増、収入増の傾向は、Sprint/Nextelの果敢なマーケティング活動、また、WiMax標準による4Gネットワークが、米国携帯電話キャリアとしては初めて、2010年半ばごろから、幾つかの4G携帯端末の販売とともに稼動を始めたことが、大きく貢献している。
財務破綻に向かうSprint /Nextelの子会社、Clearwire(注3)
Sprint/Nextelの4Gネットワークの構築に当たっているのは、同社が54%の株式を所有しているClearwire社である。
ところが、Clearwire社は、一部4Gサービスの提供に漕ぎ着けはしたものの、同社の資金は枯渇しつつあり、2011年半ばまでに資金流入がないと、破産に追い込まれてしまう状況である。
そこで、今後、同社の救済策として、どのようなオプションが考えられるか。
第1に、Clearwireは、当面、保有する必要がない同社所有の周波数をオークションに掛けることができる。これにより入手できる金額は20億ドル程度のものである。
第2に、同社は、増資により、資本を集めることができる。
1、2は、Clearwireが自前で資金調達をするケースである。しかし、この方法に成算がないとなると、Sprint/NextelがClairwearのてこ入れに乗り出さなければならない。すなわち、第3の手段としては、Sprint/Nextelが社債を発行し、これによって得た資金をClearwireに回す方法もある。しかし、Sprint/Nextelにそのような財務力があるのかが、懸念される。
第4に、Sprint/Nextelが、自社のマジョリティー株式(54%)を他社に売却し、事実上、経営権を放棄することも、オプションの可能性としてはありうる。しかし、WiMaxによる4Gネットワークとそのサービスの提供に社運を賭けている同社にとり、これは、自社の存在を否定することであって、これの実施は考えられない。
実のところ、Sprint/Nextel は、昔も今も、革新を売り物にして、幾つもの艱難辛苦を乗り越え今日に至った歴史を持つ。それだけに、財務面で大きな危機にある現在でも、同社を支持する人も多い。最近も、シティーグループは、Sprint/Nextelのサービスの現状、同社の4Gネットワークの可能性を評価し、同社は投資適格だとの判定を下した。
業績低迷打開の糸口が見つからないT-MobileUSA(注4)
T-MobileUSAの業績低迷
T-MoblleUSAの前身は、独立系電話会社のVoice Streamであり、DTが同社を取得した当時(2001年12月)は、加入者数はわずか240万人、AT&T Mobility、Verizon Wirelessの2大強豪等が競合する米国携帯電話業界において、果たして生き残れることができるかどうか疑問であるとして、当初から取得に反対する意見も多かった。
しかし、同社は、T-Mobile(欧州屈指の携帯電話会社で、DT(ドイツテレコム)の完全子会社)のネットワークを利用した国際ローミングや、ユーザに対する手堅いサービス販売が効を奏した。たまたま、米国携帯電話業界の旺盛な需要も幸いし、2005、6年頃までは順調な加入者増を続けた。
しかし、表3が示すとおり、2010年第3四半期に至る3期の四半期、加入者数の伸びは低迷している。この結果、同期の成果は、前年同期に比して、全く横這いの状況だといってよい。
表3 最近1年間各4半期のT-MobileUSAの経営実績(単位:1000)
項 目 | 2010年第3四半期 | 2010年第2四半期 | 2010年第1四半期 | 2009年第3四半期 |
総収入(100万ドル) | 5,350 | 5,356 | 5,278 | 5,380 |
*OIBDA | 1,323 | 1,419 | 1,392 | 1,356 |
加入者数 | 33,757 | 33,620 | 1,392 | 33,420 |
ポストペイド | 26,692 | 26,752 | 26,646 | 26,882 |
プリペイド | 7,062 | 6,866 | 7,067 | 6,536 |
加入者純増数 | 137 | (93) | (77) | (77) |
APRU(平均、ドル) | 47 | 47 | 47 | 47 |
APRU(ポストペイド) | 52 | 52 | 51 | 52 |
APRU(プリペイド) | 19 | 18 | 18 | 20 |
投資額(100万ドル) | 645 | 682 | 666 | 787 |
(*OIBDAは、減価償却前の営業利益である。したがって、営業利益より高い数値となる。)
たとえば、2010 年第3四半期末の同社の加入者数は、前年2009年第3四半期末に比し、33.7万(+1.0%)増とわずかながら増加している。しかし、この増加は、APRU(月当たり収入)が低いプリペイド加入者の増(52.7万)T-MoboleUSAの通常のAPRUが約倍近くも高いポストペイド加入者数の大幅な減少(−190万)を上回ったことにより得られたものであって、収入には増要因となっていない。事実、2010年第3四半期の収入は、前年同期に比し、わずかではあるが、減収(538億ドル→535億ドル)となっている。
サービス拡大の柱を欠いているT-MobileUSAの弱み
T-MobileUSAが他の3携帯キャリアとの対比で有する弱点は、事業を推進する原動力となるサービスが欠けていることである。
周知のとおり、AT&T Mobility、VerizonWirelessの両社は、携帯電話需要の減速をスマートフォーンの販売強化により補填し、加入者当たりのAPRUを高め、収入を増大させている。また、Sprint/Nextel は、WiMax標準の4Gネットワークの他社に先駆けての提供に社運を賭け、既に説明したように、4Gサービスの先駆企業としての評価が、同社の大きな支えになっている。
これに対し、T-MobilUSAは、いち早くGoogleと提携し、米国で最初のアンドロイド携帯端末を市場に出したものの、残念ながらこの機種の売り上げが芳しくなかった。スマートフォーン分野での競争で立ち遅れている。
この事実は、表3において、同社のAPRUの数値が、ここ一年間まったく固定してしまっていることからも、明らかである。
T-MobileUSAは、4Gの構築においても、他の3社に遅れを取っている。他の3社のうち、Sprint/Nextel は既に、幾つかの主要都市でサービスを開始している。また、
VerizonWirelessも年末に至り、サンフランシスコでサービス提供を始めた。AT&T Mobilityのサービス開始は、2011年からに持ち越したものの、他社をはるかに凌駕する投資により、最新、最良のネットワークを整備すると言明している。
同社は、現在のHSPA標準によるネットワークをHSPA+4Gと名づけ、この実質的には、4Gサービスに劣らないスピードを持つサービスを2010年末には、米国100の主要都市、2億人の人々に提供可能にすると言明し、T-Mobileこそ、現在、もっとも広範囲にわたる4Gサービスを提供しているキャリアだと喧伝している。しかし、実態は、正規の4Gサービスを提供する計画を提示することができない同社の苦し紛れの広報戦略としか考えられないのであって、競争キャリアからの格好の攻撃材料とされている始末である(注5)。
(注1) | 表1は、2010年10月末までに、携帯電話4社がそれぞれ発表した2010年第3四半期の決算報告から、作成した。 |
(注2) | 2010年10月27日付け、Sprint/Nextelのプレスレリース、"Sprint/Nextel reports third quarter 2010 Results." |
(注3) | Clearwireの経営破綻の危険性に関する記述は、主として、次のネット資料によった。 http://www.bloomberg.com/news/2010-11-18, "Sprint's 4GLead at Risk Amid Clearwire Cash Crunch." |
(注4) | T-Mobile USAの業績は、2010年11月4日付けの同社プレスレリース、"T-Mobile USA reports third quarter 2010 results."によった。 |
(注5) | T-Mobile USAが、他の携帯電話キャリアに比し立ち遅れている実情については、次の資料を参照した。 http://uk.ibtimes.com/articles/79683/20101108/t-mobile-iphome-apple-verizon-sprint. "Analysts: T-Mobile's Problems Go Beyond No iPhone." |
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