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DRI テレコムウォッチャー |
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2011年第1四半期に商用化が期待されるVerizon iPhone
2010年11月15日号
2007年7月に米国で販売が開始されて以来、Apple社のiPhoneは、毎年、新バージョンを市場に出し、そのたびに売り上げを伸ばしている。2010年7月に発売されたiPhone4の評判も高く、売り上げは好調である。もっとも、iPhoneより遅れて登場したGoogle社開発OSのAndroidを使用したスマートフォン製造メーカも数多く出現しており、これらメーカ製造のスマートフォンからも人気機種が幾つも出ており、iPhoneを追撃している。このため、AndroidOS使用のスマートフォン端末のグローバルの出荷総数は、最近、iPhoneの出荷数を上回る勢いである。
さて、米国では、Apple社は、AT&TにiPhoneの排他的販売権を与え、今日に至っている。このため、AT&Tは、iPhoneの売れ行き収入から大きな利益を得ている。しかし、ユーザの立場からするとAT&Tのワイアレス網は脆弱であって、通話切れ、メールの遅れ等の故障を多く起こしており、同社が提供しているiPhoneサービス自体は劣悪である。また、携帯電話メーカが、特定キャリアと排他的契約を結んで、他のキャリアに使用させないというのは、通信機器をあまねくすべてのユーザに開放するとのFCCの方針にも反する。これらの点について、Appleは、iPhone販売当初から、ユーザ批判を受けて来た(注1)。
多くのユーザは、AT&T iPhoneと並んでVerizon iPhoneが市場に出ることを望んでいる。Verizonのワイアレスネットワークは強靭であって、米国ワイアレスサービスキャリアのうちでで傑出していることには定評がある。このため、ユーザの期待が大きく、米国ジャーナリズムはこれまで、恒常的にVerizon iPhoneがいつ登場するかに惜しみなく紙面を割いてきた。
ところが、当事者であるApple、Verizonの責任者は、これまで一言もVerizonによるiPhoneサービス実施の見通しについて語っていない。したがって、希望的観測に信を置くのは危険であるものの、ようやく、大方の報道は、近々Apple、Verizon両社は、2011年第1四半期から、Verizon iPhoneを発売するだろうということで一致している。状況証拠を寄せ集めた報道から来る予測であって、もちろん外れることもありうる。
本論では、最新の資料に基づき、この案件を論ずる。
また、テレコムウォッチャーでは、これまで、AT&T、Verizonの四半期の決算について、毎回、解説を書いてきたのであるが、今回はこれを省いた。ただ、参考として、両社の基本的な収入、利益の表を掲載した。AT&T、Verizon両社の経営比較は、2011年2月頃、2010年次の決算の後、解説する予定である。
激烈な米国市場におけるスマートフォン競争ー単体で首位の座を占めたiPhone
現在、米国のスマートフォン市場において、RIM(カナダの携帯電話メーカ)のBlackBerryシリーズ、Apple社のiPhone、Googleが定めたOSを使用するさまざまのAndroidOS機種が覇を競っている。
最新の情報によれば、スマートフォン開発の先駆者であり市場シェアにおいて、米国市場で不動の地位を長年保ってきたRIMのBlackBerryシリーズは、売り上げの鈍化が目立っておりAppleの最新機種、iPhone4に首位の座を譲ったと見られている。また、Verizonが携帯メーカーMotorolaとともに、iPhone4に対する対抗機種として、強力なセールズキャンペーンを行っているDroidシリーズ(AndroidOS使用)の売り上げも好調である。米国市場では、多くのAndroid使用の機種が販売されており、これらの総出荷台数は、iPhone、RIM双方の計に匹敵するほどに達している。短期間に、米国の携帯電話市場で首位の座を獲得したAndroidOSの威力は驚異的なものがある。
調査会社NPDグループの調査によると、2010年第3四半期における前記3機種の端末出荷数は、次のとおりである(注2)。
iPhone 550万、RIM 510万、Andropoid OS端末総数 910万。
ところで、表1に示したとおり、AT&T、Verizonのワイアレス部門の成長は目覚しいものがあり、また、最近のスマートフォンの増大からすると、携帯電話加入者数の伸びも大きいかのごとく推測しがちであるが、それは正しくない。AT&TでもVerizonでも、昨年同期に比し携帯電話加入者の伸び率は減少している。要は、携帯電話の加入者は、自分が所有する通常の携帯電話をスマートフォン機種に変更する大きな流れが進行しているのであって、携帯電話加入者数の伸び率は鈍化している。多分、今後、数年で完全に米国の携帯電話市場は、欧州、日本に倣って、飽和に達するに違いない。しかし、代わりに救世主として市場に登場し、人気を呼んでいるのが、iPad、e-book等のワイアレス端末であり、これが、携帯電話トラフィックのデータ化、画像化の進展とあいまって、携帯電話キャリアの収入を大きく支えることとなろう。
表1 2010年第3四半期におけるAT&T、Verizonの携帯電話加入者数 増数(単位:万)
項目 | 増数 | 増率(%) |
AT&T | 106.6 | −7.9 |
Verizon | 99.7 | −15.8 |
期待されている2011年初頭からのVerizon iPhoneの出現、しかし反論もある
現在、米国のジャーナリズムで大きな話題になっているのは、Appleがいつ、Verizonと共に開発中のVerizon iPhoneを市場に出すかというトピックスである。
大方のネット情報は、AppleがVerizonのCDMAワイアレスネットワーク用のiPhone4を完成しているとの前提のもとに(この前提についてすら確定情報はない)、Appleは、2011年第1四半期中に、Verizon iPhoneを市場に出すだろうと報じている。最近、Verizonは、iPadの販売キャンペーンを行ない始めたので、ジャーナリズムの一部は、これこそVerzonのiPhone販売の前触れである、クリスマス時点にでもVerizon iPhoneの発表があるのではないかと色めきたった報道を行っている。
しかし、反面、Verizonは、AndroidOSを使った幾つものスマートフォン機種でのAT&Tへの対抗に成功しておりiPhoneの販売に魅力を感じていないのでないかとか、仮にiPhoneを市場に出すにせよ、その時期を見計らっているのではないかといった冷めた見解を表明しているジャーナリズムもある。その最たるものは、ニューヨークタイムスである。以下、ニューヨークタイムスのそれぞれ7月、11月の2つの記事を紹介する(注3)。
ニューヨークタイムス紙は、7月24日の記事において、Verizonは、iPhoneを自社の機種に取り込まなくても、充分にAT&Tに対抗できると論じている。確かに、すでに表1に示したように、Verizonは、スマートフォン端末の販売数においてこそ、AT&Tに差をつけられている模様であるが、同社は、携帯電話加入者数の獲得において、AT&Tに肉薄している。さらに、表2(参考)が示すとおり、Verizonは、収入の伸び率こそ、AT&Tに及ばないものの、営業利益、営業利益率において、はるかにAT&Tを上回る業績を上げている。
ニューヨークタイムス紙は、さらに、AT&TはApple端末に対し、年間650ドルもの報酬を支払っており、これに対し、ユーザから平均徴収額は200ドル。差額は、AT&Tが負担していると推測している。VerizonがBlackBerryの販売に対しRIM社に支払っている報酬は、一台当たり200ドルだとのことである。AT&T、Verizonが主要スマートフォンに対し支払っているそれぞれの報酬額の大きな格差が、AT&TとVerizonの業績の差異に反映されていることは、充分に推測できるところである。
ニューヨークタイムス紙は、2010年11月3日の論説のなかで、”Verizon iPhoneがいよいよ2011年に実現する模様である“と冒頭に前置きしながらも、婉曲的な表現で、VerizonがiPhone販売に慎重である理由が、実は予想される大量の新規加入者が発するデータ、映像のトラフィックの巨大な需要に、同社のワイアレスネットワークが耐えられるかどうかにあるのではないかと推測している。
筆者は、もろもろの情報を基にして、次のように憶測する。多分、機密裡に幾たびも行われているにちがいないこの案件についてのSteve Job氏(AppleのCEO)とIvan Seidenberg氏の会合において、早期にiPhone販売実施を迫ってきたのは、Appleの側であろうと。そして、実施時期において慎重論を唱えながら、これを武器にして、かたわら、iPhone販売の報酬率の引き下げを交渉してきたのが、Verizonの側ではないだろうかと。AndriodOSによる他機種のスマート電話の販売数がiPhone電話機の販売数を上回ってきている今日、Appleにとって、マーケティング政策上から、米国の4社の主要ワイアレスキャリアのうち、AT&Tだけに頼っている余裕は既になくなっているはずである。
参考:2010年第3四半期におけるAT&T、Verizonの収入、利益
表2 AT&T、Verizonの総収入、総利益(単位:100万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
総収入 | 31,581(+2.8%) | 26,484(−2.9%) |
営業利益 | 5,464(+1.7%) | 3,747(−6.0%) |
純利益 | 12,417(+37.9%) | 2,920(+1.1%) |
営業利益率 | +17.3% | +14.1% |
純利益率 | +39.3% | +11.1% |
(上表で括弧内の数値は、前年同期対比の増減比である。表2、3の場合も同様)
表3 AT&T、Verizonのワイアレス部門の収入、営業利益(単位:100万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
収入 | 15,180(+11.4%) | 16,250(+6.0%) |
営業利益 | 3,500(+0.2%) | 4,854(+14.3%) |
営業利益率 | 23.1% | 29.9% |
表4 AT&T、Verizonのワイア部門の収入、営業利益(単位:100万ドル)
項目 | AT&T | Verizon |
収入 | 15,275(−3.0%) | 10,286(−3.6%) |
営業利益 | 1,839(+4.4%) | 19(−90.1%) |
営業利益率 | 12.0% | 0.2% |
(注1) | この点については、米国のネット紙では、2009年以降、多くの記事を掲載している。筆者も、次のテレコムウォッチャーで、その状況を2009年10月に掲載した。本号の記事は、いわば、このの記事の続編である。 DRIテレコムウォッチャー、2009年10月1日号、「AT&TによるiPhoneの排他的販売は継続できるか」。 |
(注2) | http://blogs.wsj/com/digits/2010/11/01、“Android Overtakes iPhone.” |
(注3) | 2010年7月14日付け、The New York Times、“Even Without iPhone,Verizon Is Gaining on AT%T.”、および、2010年11月3日付け、“Will the Verizon iPhone Cripple Verizon?.” |
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