DRI テレコムウォッチャー


FCC、E-Rate制度を改正 - 中心は光ファイバー化の推進と資金の拡大

2010年10月15日号

 FCCは、2010年9月23日、E-Rate改正についての裁定を下した(注1)。裁定は、委員長Genachowski氏を含め4名の委員(民主党、共和各3名、1名)の賛成、共和党委員1名の部分的反対で可決された。部分的反対をした委員、MacDonell氏の反対意見は、多岐にわたり鋭いものではあるが、裁定の基調には全面的に賛意を示している。E-Rate改正は、ほぼ満場一致の賛同を受けたといってよい。
 FCCがE-Rate改定について調査告示を発出したのは、2010年5月20日である。調査終了までわずか4ヶ月足らず、早期かつ順調な決着であった(注2)。
 本文では、FCC裁定の本文およびプレスレリースに基づき、できるだけ正確にE-Rate裁定の概要紹介に努めたつもりである。この前書きでは、E-Rate改正についての筆者の感想を記すのに留める。

 第1に、E-Rate制度は、1996年新通信法において「ユニバーサルサービス」を定めた254条の(b)項に記載されている「学校医療機関および図書館へのアクセス推進」を根拠にして、1998年から実施に移されたものであった。米国民主党政権が、最も力を入れたユニバーサルサービスの拡充政策であることを想起しておく必要がある。
 E-Rate実施前、共和党は、納税者からの多額の資金を徴収するのは(E-Rateは、名称が示すとおり、“教育目的の特別税”なのであって、月々の長距離電話料金に賦課されている)法外な政策であるとして、全面的に反対した。同党は、この案件についてのFCC規側を無効とする趣旨の法案を提出し、民主、共和両党間での長期間における論戦が展開された。当時、議会でマジョリティーの議席を握っていた民主党議員の反対により、この法案を否決、ようやくFCC規側の有効性が確保されたという経緯がある。
 以来、13年間の経緯の後、今回、電気通信回線、低速ブロードバンド(ADSL回線が主体)→光ファイバーによる高速ブロードバンドへの補助の転換、インフレ率に連動させる資金増額を主眼とする改定が実現されたわけである。
 今回の裁定で注目すべきなのは、共和党委員2名が共に、これまでのE-Rateの実績を高く評価したことである。
 たとえば、共和党委員のMeredith A Baker氏は、声明の中で、次のように述べている。
 “米国ブロードバンド計画によれば、公立学校の97%、これら学校の教室の94%にインターネットが敷設されている。どう見ても、この成果には、E-Rateが寄与したのであって、E-Rateが成功であったことを示すものである”(注3)。同様の趣旨の評価を他の共和党委員、McDowell氏も声明のなかで、下している。
 1996年通信法は、将来を見据えながら、電気通信の競争と規制の関係をどうすべきか、また、19世紀末以来の伝統を持つユニバーサルサービスをどのように維持発展させていくべきかの方向を定めた米国電気通信の基本法である。競争、規制、キャリアのM&Aの分野では、当初の法律起草者の見通しは相当に外れている面もあり、それだからこそ、米国ブロードバンド計画による、実質的な1996年改正作業が、FCCの手により進められている.そういう状況下にあって、当初、猛反対した共和党サイドも、E-Rateの果たした役割の大きさを評価していることは、意義深い。
 第2に、筆者はFCCが、今回、実施を定めたオンライン学習のため、携帯端末を経済的ゆとりのない学生にも、校外で利用させる目的で、実施が定まったパイロット計画、EDU 2011に注目する。
 この裁定の基本は、携帯端末により、オンラインで教育を受ける学生の校外における通信費を補助するというものである。しかし、これは、“学校、図書館”に対し、電気通信、ブロードバンドを充実させるというE-Rateの趣旨を逸脱している。敢えて言えば、奨学金に属する経費補助であって、これの所管は、本来、教育省であろう。FCCが、あくまでも前向きにE-Rateを改革、拡大して行こうとする意欲は買うものの、この案件はいかにも勇み足に過ぎる。MacDonald氏は、同様の趣旨の反対意見を表明し、パイロット計画であるゆえに強く反対しないと述べている。
 最後に、FCCは、他の米国ブロードバンド計画関連の裁定実施の進展が遅い点が危惧される。特に、議論が煮詰まりGenachowski委員長のゴーサインを待つのみと期待されていたブロードバンド規則制定ついての裁定も、中間選挙後に見送りとなった。すでにネットでは、Genachowski氏の優柔不断な態度を批判する論調が見られる(3)。この点については、テレコムウォッチャーの2010年末の最終号において、FCCの2010年の成果を取りまとめる際、さらに触れたい。


E-Rate改定の概要

1. 競争入札による低コスト光ファイバー導入
 今後、学校・図書館に対するブロードバンド高速化の主体は、光ファイバーとなるべきである。しかし、光ファイバーは価格が高いし、提供事業者が、主として既存大手電話会社であるため、競争による価格低落のドライブが掛らない。
 この弊害を改め、学校、図書館が低価格で、光ファイバーの利用が出来るようにするため、FCCは、地方公共団体、研究機関等の非営利団体が有している未利用の光ファイバー回線‘いわゆる“ダークファイバー”をE-Rate資金により、学校・図書館が利用することを認める。
 具体的には、光ファイバー事業者とダークファイバーを提供できる地方公共団体(市、州、連邦政府、研究機関等)、研究機関等の非営利団体との競争入札により、 利用される光ファイバーが定められるようにする。競争入札制の導入は、ダークフ ァイバーが採用されない場合でも、光ファイバーのリース価格の低落をもたらすため、E-Rate寄金の効率利用に資することとなろう。

2.学校のブロードバンド設備、サービスの部外コミュニティーへの開放
 学校は、夜、週休日、夏・冬の休みなど、ブロードバンド設備、サービスが使われていない期間が結構多い。他方、学校を取り巻くコミュニティーは、ブロードバンド、特に、高速ブロードバンドのサービスが不足している。
 現在のE-Rateの規則によれば、E-Rateの補助を得たブロードバンドサービス・設備は、学校の教師、学生が専用に使うよう義務付けられている。しかし、FCCはこれまで、1、2の州において、特例により、学校周辺のコミュニティーに対し、学校が利用しない時間帯、期間に限り、学校ブロードバンドの利用を認める試行サービスを実施したことがあった。その結果は良好であったので、このサービスを規則に取り入れ本実施を行う。
 しかし、E-Rateによるサービスは、学校に提供されるのが主サービスであり、コミュニティに対するサービスは、あくまでも従的な性格のものである。したがって、以下の条件に服しなければならない。

  • コミュニティーへのサービス提供は、学校当局が自主的に提供するものであって、提供を義務付けられない。
  • 原則として、コミュニティーへのサービスは、新たなコスト増を伴わないとの前提で提供される。したがって、原則無料である。ただし、電力料、コンピュータの償却費等の所要実費は、コミュニティーに請求できる。
  • サービスの提供を受けたコミュニティーは、このサービスを第3者に再販してはならない。

3.特別のニーズを有する学校へのアクセス拡大
 特別のニーズを持つ学生を抱え、校舎だけにブロードバンドをアクセスしたのでは、彼らのニーズが充足されない学校がある。たとえば、少数民族の学校、特別の医療をほどこさなければならない生徒のいる学校、非行少年矯正のための学校、30%超の生徒が、昼、無料の給食を受けている学校等である。
 これらの学校の生徒は、おおむね学校の構内あるいは近くに建てられている寄宿舎に寝泊りしているのであるが、放課後、ブロードバンドアクセスにより、多くの学習効果が期待できる。通常の学校の普通の生徒であるのなら、自宅でブロードバンドにアクセスできるのであるが、これら特殊な学校の生徒は、寄宿舎にブロードバンドの引き込みがない限り、ブロードバンド利用ができない。
 上記の問題は、1990年代の後半から、E-Rateの対象にどのように組み込むべきであるかが議論されてきたが、今回、FCCは、次の結論に達した。
 上記の学校に対しては、学校の敷地内の寄宿舎、住宅エリアに、インターネット・アクセス、内線サービス、電気通信サービスを提供するに際し、E-Rateの補助を行う。
 学校は、公立、私立の別を問わず、E-Rate支給の対象となる。

4.E-Rate資金の消費者物価上昇分引き上げ
 E-Rate資金の水準は、この制度が実施に移された1997年以来、年間22.5億ドルに固定されていたが、今回、消費者物価指数と連動して引き上げる。
 FCCは、引き上げ理由として、従来、電話回線、DSL利用によるインターネットの使用が主体であった学校、図書館におけるE-Rateの補助対象のサービスが、現在では高度化しており、コストが嵩んでいるためだと説明している。旧来は、月々一回線当たり50ドル程度の料金で済んでいたが、今後、高速ブロードバンドを設置し、これに、ソフト、eラーニングの教材代等を加えると月額500ドルもの金額に達するという。
 現在、E-Rate資金は、6億ドルの繰越金を有し潤沢である。また、次年会計年度の消費者物価調整増分には、高コスト地域に対するUSF寄金への還元金がプールされているので、この資金を使用するという。
 なお、この案件について、FCC共和党委員両名から、このE-Rate資金アップの決定は、USF制度全体の見直し(現在FCC調査が進められている)を待ってからなされるべきであるとの反対意見が出された。

5.学習目的への携帯端末利用のパイロット計画の実施
 現在、オンライン学習が進んでおり、各種ワイアレス端末の利用が進んできた。最近、ワイアレス端末の機能向上が目覚しく、すぐれたソフトを使えば、論文作成、オリエンテーション実施の練習等、高次の学習をワイアレスネット上で、容易にできる環境が整いつつあるからである。
 他方、E-Rateの補助は、構内利用の場合だけに限られるため、有料で学校のネットを自宅等で利用して、オンライン学習ができる学生、経済上、この支出をする余裕がなく、学校のみの学習にとどまる学生との間の格差が懸念されるようになってきた。
 FCCは、E-Rateの調査において、上記の問題を提起したのであるが、結局、現段階で、この分野にもE-Rate資金を投じることは、時期時期尚早であるとの結論が出された。そこでFCCは、この案件については、次のように、パイロット計画(The E-Rate Deployed Ubiquitously Pilot Program、EDU 2011)を実施する。
 すでに、ワイアレス端末を学生に携帯させ、校内、校外でこれを利用することにより、学習効果を上げている教育機関がある。EDU 2011は、これら教育機関から提出された申請書を審査し、資金援助が有効と思われる申請に対しては、これを承認し、E-Rate資金を供与する。E-Rate会計年度に用意している資金枠は、1000万ドルである。

6.E-Rate申請業務簡素化等
 この部分は、煩雑であり重要度も低いので、説明を省略する。


(注1)2010年6月15日号、DRIテレコムウォッチャー、「FCC、E-Rate規制改正についての調査告示を発出」
(注2)2010年9月23日付け、FCCのプレスレリース、"FCC enables high speed,affordable broadband for school and libraries."
また、裁定の全文は、2010年9月18日付け、FCC裁定文書、"Schools and Libraries Universal Support Services."
(注3)Genachowski氏の不決断に関する温和な批判記事としては、たとえば、2000年9月28日付け、Wall Street Journal、"FCC Chief concedes slow pace."
なお、筆者は、2010年9月、FCCは2010年末には、ブロードバンド来側制定についての裁定を下すだろうとの予測記事を書いた。この予測が外れたことをお詫びする。
2010 年9月1日号、DRIテレコムウォッチャー、「FCC、2010年秋にはブロードバンド規則を裁定へ」


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