DRI テレコムウォッチャー


FCC、2010年秋にはブロードバンド規制を裁定へ
2010年9月1日号

 FCCは2010年5月初旬に、ブロードバンド規制の構想(内容的には、将来のFCC規側の草案)を発表した(注1)。
 草案発表以来、ブロードバンド提供事業者、IT事業者等をはじめとする利害関係者は、さまざまなロビーイング活動を行っている。また、この件についての責任者、FCC委員長Genachowski氏も、幾たびか業界団体の代表者たちと会合を行ない、また、講演会等でブロードバンドの重要性を強調し、ブロードバンド規制についての理解を求めている。
 Verizon、Google両社は2010年8月初旬、議会での法案に織り込まれることを前提にしたネットニュートラリティの提言を発表した。さらに、この提案が不評であることが判明すると、Verizon、AT&Tは、業界ロビーイング活動団体、ITIの場を借りて他のIT企業に働きかけ、さらに、新たな提言を行おうと努力中である。
 しかし、FCCは、このような情勢にあっても、既定のブロードバンド規制の方針を変える意図は毛頭ない模様である。
 それに、実のところ、FCCのブロードバンド構想には、ブロードバンドを“情報サービス”から、伝送部分を“電気通信サービス“に位置づけを変えるという、反対業者からすれば、確かに許容し難い内容はあるものの、運用に当たり、料金を含め、かつて電気通信会社に対し実施してきたような規制は、一切行わないことを確約している。その他の点では、IT事業者がどうしても反対しなければならないというような点は含まれていない。一見、反対の動きは強いようであるが、FCCが既存構想通りの裁定を下して、利害事業者が大いに損害を蒙るというような中身は含まれていない。
 将来、裁判所がFCC裁定の内容を否定する判決を下す可能性は大きいが、さればといって、米国議会が、FCCのブロードバンド構想を受け止めて、その内容を立法化する意欲は全然ない状況である。
 FCC委員長Genachouski氏としては、進むも地獄、退くも地獄ではあるが、どちらの道を選んでもリスクがあるのなら、既定方針を変えず前進する道を選ぶに違いない。FCC民主党委員は、5名の委員中3名の多数を有している。共和党委員2名がいくら反対しようと、十分、採決は可能である。
 筆者は、もう十分、利害関係者の意見は聞いたからとの理由で2010年秋には、FCCがほぼ、現構想どおりの内容で、裁定を下すものと見ている。


Verizon、Google両社の7項目のネットニュートラリティの提案概要

 Verizon、Googleの両社は、2010年8月9日、その内容が、米国議会における法案のベースになることを想定して、7か条のネットニュートラリティについての提案を発表した。その概要を次表に示す。

表 Verizon、Googleの7項目提案の概要
7項目の提案提案概要
1.開放性(オープンネス)の徹底的実現
インターネットの完全な開放化(オープンネス)を実現する。すなわち、消費者には、インターネットのすべてのサービス、コンテンツ、アプリケーション、端末を利用してもらえるようにする。
2.差別的な事業行動の禁止
プロバイダーが、差別的な行動を行うことを禁止する。すなわち、プロバイダーは、インターネット・コンテンツ、アプリケーションへの優先的取り扱い、特定トラヒックの優遇措置を行ってはならない。
3.消費者への完全な透明性提供
透明性(トランスペアレンシー)に関する規則を制定し、これをプロバイダーに遵守させる。プロバイダーは、自社が提供するサービスについて、明確で判りやすい情報を提供しなければならない。
4.FCCの役割、権限の明確化
FCCがブロードバンド分野で、どのような役割、権限を行使すべきかいなかという件については、コムキャストとFCCの係争に絡み下された裁判所の判決がでたこともあり、不安定な形になっている。したがって、この際、FCCの役割、権限を法定化する必要がある。法定化にさいしては、FCCは、第2項、3項のプロバイダーの違反に対し、ケース・バイ・ケースで、消費者からの請求に応じ、裁定を下す権限を持つ。
5.プロバイダーに対する新たな差別的サービス実施の容認
プロバイダーは、消費者に対するインターネットアクセス、サービス、ビデオサービス(FiOSTVのような)の提供だけでなく、他の事業者と共同して、差別化された新サービス提供の実施を認められるべきである。たとえば、ヘルスケアのモニタリング、スマートグリッド、高次の教育等の分野において。
FCCは、これらサービスが、インターネットアクセスに悪影響を及ぼすことがないようにするため、これらサービスをモニターする要があろう。
6.ワイアレス分野に対する規制の適用除外
第3項、第4項を除き、提案は、ワイアレス分野については、適用を除外する。これは、ワイアレスサービスがワイアサービスと多くの点で異なっていること、また、ワイアサービスに比し、まだサービス提供の期間が浅く、新興サービスに属するからである。
7.FCCによるUSF(ユニバーサル・サービス・ファンド)改革の支持
FCCが推進しているUSF改革(従来の音声基本サービスからブロードバンド・サービスに寄金を移そうとする改革)を 支持する。Verizon、Google両社は、この改革が国益にかなうものと考えるからである。


Verizon、Google提案の意味するもの

 Verizon、Google両社の提案については、利害関係者から、さまざまな解釈、批判が提出されている。まず、この提案にどのような意味があるのかを紹介する。

ネットニュートラリティ推進論者、Googleの180度方向転換
 Googleは、ネットニュートラリティの最大の推進論者であった。ネットニュートラリティーは、ネット・プロバイダーが、ネットの支配から生ずる力を恣意的に行使して、消費者に不利な利用を押し付けることがないよう監視、歯止めをかけようという意図から、生じた考え方である。最大限にこの考え方を主張すれば、かつて通信事業に対し実施されていたような規制を課するということになろう。
 筆者が2010年6月1日のテレコムウオッチャーで紹介したごとく、FCCのGenachouski委員長はブロードバンド規制化の草案でブロードバンドを現在の“情報サービス”から、“通信サービス”に位置づけたのであるが、これは、米国民主党の重鎮、Jay Rockfeller氏からの強い要請受けたものとみられている。しかも、Googleが5月末に、米国民主党の要人(Rockfeller氏自身であると特定されていないとしても)と会合したことも確からしい。
 してみると、Googleは、その後、わずか3ヶ月で自社の強い主張を撤回し、Verizonと共同で、両社のエゴに徹した今回のネットニュートラリティー提案を行ったことになる。
 これまで、Verizon、Googleは強い競争関係にあったため、今回の共同提案は、センセーショナルなニュースであった。Verizonは、最近、Googleが作ったアンドロイド標準(smartphoneの国際規格標準)に基づくsmartphoneの販売に力を入れている。今回の共同提案は、このsmartphone販売を契機としてのVerizon、Google両社の蜜月振りを示すものかもしれない。

ネットニュートラリティの法制化提案
 Verizon、Google両社は、今回の提案をネットニュートラリティ法制化の参考に供してほしいと述べている。FCCが現在考えているネットニュートラリティを規則化しても、裁判所の将来の判決により、否決される可能性があり、不安定であるとの危惧から生じたものである。一見、当然の提案ではある。しかし、既に述べたとおり、米国議会は、ブロードバンドの法案可決はもとより、起草する力もないような状況である点に問題がある。
Verizon、Googleの最大の狙いは、新サービス分野への拘束を受けない進出
 Verizon、Google両社の7項目の提案は、個々に検討してみると、そのほとんどが、規制の仕方あるいは、消費者保護の法定化を要望するのに尽きていて、さほど、目新しいものではない。
 第1項(開放性の徹底的実現)、第2項(差別的な事業行動の禁止)、第3項(消費者への完全な透明性の提供)の3点は、両社が提案しなくても、FCCがかねてから、ネットニュートラリティの柱にしようとしてきたものである。ただ、両社の提案は、消費者から、個々のクレイムが付いた場合、ケース・バイ・ケースにFCCが裁定を下すところまで、責任を負うべしと要求しているだけのことである。第4項(FCCの役割、権限の明確化)の意味については、すでに、前項で説明した。最後の第7項(USF改革の支持)は、単なるFCC既定の方針に対する賛成の意思表示であって、項目を立てる必要があるか否かが疑われる性質のものに過ぎない。
 してみると、両社が、もっとも、強く要望しているのは、すでに述べた第6項(ワイアレス部門の適用除外)と第5項(プロバイダーに対する差別的な新サービス実施)の容認の項目だということになる。
 表現が生硬でわかりづらいが、第5項は、公衆サービスから離れた特殊なニーズに基づく新規ブローバンドサービスの提供を自前、もしくは、他社と共同で実施するに当たってのネットニュートラリティの拘束から離れた自由な実施を指すものであろう。


原案を変える意向がない旨をほのめかすFCCのGenachouski委員長

不評だったVerizon、Googleの提案
 Verizon、Googleの提案は、両社の企業エゴが透けて見えるだけに、多くの利害関係者から不評を買った。なによりも、現に大きく成長しており、早晩、ワイアのブロードバンドを追い抜くものと考えられるワイアレス分野をFCCの規制、監視対象から除外するという提案は、強い批判を受けている。さらに、Googleが、これまでのネットニュートラリティの旗手の立場をかなぐり捨てて競争相手、Verizonと、この件でタッグを組んだことも、大きな批判の的となった(注3)。
 IT業界のロビーイング活動の大きな団体であるITI(Information Technology)は、8月19日、急遽、ワシントンで会合を開いた模様である、この会合は、先に発表した提案が不評であることを認めた当の提案者のVerizonにAT&Tが加わり、他のIT企業をも会合に巻き込んでよりよい提案を出すことが出来ないかを模索するため、召集を働きかけたものと観測されている。Googleは、この会合への参加を見送った。なお、ITIには、Micosoft、NCTA(National Cable and Telecommunications Associations)、Oracle CiscoといったIT業界の主要企業が集まっている。しかし、その後、ITIが、どのような行動を取るのかについて、触れた報道はない(注4)。

FCCのブロードバンド規制化方針を貫く意図を強くほのめかしたGunachouskiFCC委員長
 FCCのGenachouski委員長は、2010年8月24日、ミネアポリスにおける高速インターネット通信に関するサミット会議で、講演した。この講演で同氏は、米国のインターネットの発達が、いかに諸外国に遅れを取っており、危機的状況にあるか、また、ブロードバンドについて施策を講じないで済ませれば、ますます、この遅れが深刻になるかの持論を展開した。氏は、この会議終了後の質疑において、ブロードバンド規制の裁定を実施するか、Verizon、Google提案にFCCがどのような印象を持っているか等の質問については、一切答えていない(注5)。この役割を果たしたのは、民主党員Copps氏であった。
 Copps氏は、ブロードバンドのオープンネス(開放性)の原則が必要である点を強調するとともに、Verizon、Google両社を(1)FCCの規制権限を著しく弱め(2)重要なワイアレス分野のFCC規制、監督を一切排除し(3)いわば、プライベート・インターネットの差別的な提案を行ったとして激しく批判した(注6)。
 Genachouski、Copps両氏の見解からすると、FCCは、本年秋(多分、10月から11月に掛けて)このブロードバンド規制に関する裁定を下すものと見られる。


(注1)2010年6月1日号、DRIテレコムウォッチャー、「多難きわまる米国ブロードバンド規制化の前途」
(注2)http://www.boygeniusreport.com/2010/08/09、"Verizon, Google issue joint statement in net-neutrality."
(注3)批判は数多いが、たとえば次のネットニュース。
2010.8.20付け、http://www.usatoday, "Anger greets Google-Verizon proposal for routing Web traffic."
(注4)2010.8.20付け、http://www.dailyfinamce.com, "A Midsummer Net Scheme? Telecom Lobbyists Hold Secret Internet Talks."
(注5)2010.8.24 付け、http://www.twincities com、"FCC's Chairman warns of national crisis in broadband."
(注6)2010.8.20付け、http://www.radioink.com, "Copps urges broadband regulation to preserve openness."


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