DRI テレコムウォッチャー


地位が低下しながらも健在を示す市内交換網電話サービス - FCC統計報告から
2010年7月15日号

 FCCは、2010年6月に定例の「市内電話市場競争に関する統計」を発表した(注1)。前回のFCC統計報告については、本テレコムウオッチャー2009年9月1日号において、その抜粋を紹介済みである(注2)。
 今回のFCC統計資料には、ILEC(Incumbent Local Exchange Carrier(旧ベル系電話会社および以前から営業を続けてきた独立電話会社)、非ILEC(VOIP業者、電話事業に参入しているケーブルテレビ会社等すべての電話提供会社を含むILEC以外のキャリア)の事業別、技術別等さまざまな経年別統計資料が含まれており、両者の競争関係を読み取ることができる。ただ、統計資料の鮮度が古い(1年前の資料)のは難点である。
 本文では、統計資料のうち重要と思われるもの数点を選んで、筆者なりの解釈を加え紹介した。内容は本文をお読みいただくとして、ここでは、一点だけ所感を述べるに留める。
 
 周知の通り、回線交換網による電話サービスは、強力な競争業者からの挑戦を受けて、年々減少を続けている。しかし、表2、表5に示されている通り、通信インフラとしての基盤は強靭であり、その存在は大きい。
 VOIP契約数も含めた住宅用電話回線数は、2008年12月で約9900万。これは、同時期における米国全世帯数約1億1200万の87%を占める。POT(Plain Old Telephone)は、健在である(注3)。
 実は、この事実の反面は、米国におけるブロードバンドの成長が鈍い点であって、これは、まさにFCCの通信政策の実行を微温的なものに留めている大きな原因にもなっている。


市内回線数の増減に見られるILECとCLECの対照的な差異

表1 ILEC、CLECの交換アクセス回線+VOIP契約数の経年別増減(単位:100万)
調査時点 ILECCLECアクセス+VOIP総数CLECのシェア
2000年12月177.614.9192.57.7%
2002年12月164.424.9191.313.0%
2004年12月144.832.9177.718.5%
2006年12月138.828.6167.417.1%
2008年12月118.543.7162.226.9%

 上表で際立っているのは、ILEC、CLECの交換アクセス回数線数プラスVOIP契約数が、経年別にそれぞれ、対照的な動きをしていることである。前者は、2000年12月から、2008年12月までの期間に、1億7760万から1億1850万へと33.3%減少した(約3分の2になった)。これに対し、同期間、前者は、1490万から4370万へと約3倍に増えた。総数に占めるCLECの比率も同期間、7.7%から26.9%へと大幅に増加した。
 もっとも、同期間、両交換キャリアグループの交換アクセス回線数+VOIP契約数の減少は、1億9200万から1億6220万へと16%の減にとどまっている。


表2 住宅・ビジネス別のILEC、非ILEC別小売アクセス経路数(VOIPを含む)
(単位:100万、2008年12月末現在)

住宅用ビジネス用
ILEC72.845.7118.5
非ILEC24.619.143.7
97.464.8162.2

 表2からすると、米国の住宅用アクセスの経路数は、ILEC、非ILECを含め、9700万と1億弱の数値を保っている。はしがきでも述べたとおり、固定キャリア加入者数の継続的減少は、覆うべくもない。しかし、総体として、固定アクセス経路が持つ通信インフラの重みは、依然として大きい。


表3 ILEC、CLECにおける交換回線数およびVOIP契約数(単位:100万、2008年末)
ILECCLEC
交換回線数117.923.0
VOIP契約数0.620.7
118.543.7
VOIP契約数比率0.45%49.4%


 表3では、今回、初めてFCCが発表したILEC、CLECそれぞれについての2008年12月時点における交換回線数、VOIP契約数の構成比率を示す。この表から読み取れる重要なポイントは次の通り。

  • CLECにおいては、VOIP契約数が、交換回線数にほぼ匹敵するほどになっている。最大のVOIP提供業者は、ケーブル事業者であるので、このことは、ILECの最大の競争相手が、ケーブル事業者である事実を数字で示すものでもある。
  • ILECにおいて、VOIPの占める比率は、微小であるといってよい。これは、ILECが自社の交換サービス加入者の減少を恐れ、故意に、VOIPの積極的販売を差し控えているためであろう。

VOIPで利用されている技術

表4 VOIPで利用されているILEC、非ILEC別の技術別アクセス経路数
(単位:1000、2008年12月末現在
表4の対象は、バンドリングサービスの一部として提供されているVOIPのみ)

技術ILEC非ILEC
DSLあるいはその他のワイアライン4816581,139
FTTP7129136
ケーブルモデム215,87015,881
地上系固定ワイアレス01717
その他08787
49116,76917,260


 図1は、表4の数値を比率化し、パイチャートで示したものである。

図1 表4に示された技術別アクセス経路数の構成比率


 表4、図1から、およそ、次の諸点が読み取れる。
  • ILECの技術は、DSL等のワイアラインが主体である。FTTP、ケーブルモデムの使用は、きわめて弱い。これら新技術は、多分、RBOCによるものではなく独立系電話会社の利用によるものであろう。そもそもILECでは、VOIPに組み合わせ(バンドリング)サービスに利用しているケースが、ほとんどない。
  • 非ILEC(そのほとんどがCLEC)では、ケーブルモデムの利用が際立つ。裏を返せば、これは、非ILECのうち、最大のVOIP提供キャリアは、ケーブルテレビ事業者であることを意味する。
  • 結論として、VOIPサービス提供の技術は、そのほとんどが、DSLあるいはケーブルモデムである。将来、本命となるべきはずの光ファイバー(FTTP)の利用がほとんど進んでいない。

交換アクセス回線で使われている技術

表5 技術別交換アクセス回線数(単位:1000、2008年12月末現在)
技術ILEC非ILEC
FTTP2,8671,2084,075
同軸ケーブル992,7022,801
地上系固定ワイアレス91423
その他114,99919,076134,075
117,97523,000140,975
注:ILECにおける「その他」のほとんどが、カパーワイアであることは、容易に想定できる。非ILECにおけるその他には、1000万を越えるケーブルモデムが含まれている。


図2 表4に示された技術別交換アクセス回線数の構成比率

 表5によるより、図2の技術別アクセス回線構成比を見た方が、ILECと非ILECの差異が理解できる。すなわち、ILECでは、光ファイバー(FTTP)の回線比率が2.4%であるのに比し、非ILECのFTTP比率は5.3%を超えている。設立時期が早いベンチャー通信キャリアの方が、所有回線の絶対数が少ないのはともかくとして、比率において、FTTP回線の提供比率は高い(ILEC2.4%に対し、非ILEC5.3%)点が注目される。


アクセス回線数と携帯電話回線数との経年別比較

表6 アクセス回線+VOIP契約数と携帯電話加入者数の敬年別比較(単位:100万)
調査時点アクセス+Vの計携帯電話加入者数
2005年12月175.2203.7378.9
2006年12月167.4(−4.5%)229.6(+12.3%)397.0(+4.8%)
2007年12月158.4(−5.4%) 249.3(+8.6%)407.7(+2.5)
2008年12月162.2(+2.4%)261.3(+4.8%)423.5(+3.8%)
注:括弧内の%は、前年に対する増減比を示す。

 表6は、最近、5年間の固定サービスと携帯サービスの利用状況の比較を2005年12月から、4年間の時系列で比較した表である。
 この資料では、アクセス回線+VOIP数の毎年の減少と携帯電話加入者数の増加がきわだつ。(2009年次のFCC統計資料で明確に示されているとこころであるが、携帯電話加入者数が、固定系アクセス回線数を抜いたのは、2004年から2005年に掛けてのことであった。)
 固定電話加入者+VOIP契約者数は、年々、5%程度の減少である。(2008年12月に、数字上、持ち直しているように見える。しかし、この年から、統計資料に初めてVOIPを加えたこともあり、増大したのは、統計的誤差による部分が大きいと推定される。)
 携帯電話加入者数は、2006年12月に12.3%と2桁台の増加を示したが、以来、1桁台の増加にとどまっている。この統計では、200812月の増率が4.8%となっているが、これは、もう1年半前の数値である。現在は、携帯電話の増率はさらに低くなっているであろう。  

 

(注1)2010年6月のFCCプレスレリース、"Local Telephone Competition :Status as of December 31, 2008."
(注2)2009年9月1日号、DRIテレコムウォッチャー、「米国市内通話における競争状況 ― FCC統計資料から」
(注3)ちなみに、筆者は、6年半前の2003年11月1日号のテレコムウオッチャーに書いた論説「POT(Plain Old Telephoneはなくならない」で、回線交換サービスが容易になくなるものでないことを予想した。


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