FCCは、2010年5月20日、E-rate規則を改正する調査告示(NPRM)を発出した(注1)。
この調査告示の官報公示から、それぞれ30日以内45日以内に、利害関係者からの意見提出、FCCの回答がなされた後、この案件について裁定が下される。
改正提案は、1996年に第一回の補助金配付が為されて以来の十数年に及ぶ経験にかんがみ、E-rate補助金を、よりサービス拡大の方向に向けて、効率的に配付しようとすることを目的としており、おおむね常識的な線に沿っている。ただし、E-rateへの配付額を今後インフレ率とリンクさせ、実質的に増額しようとする提案は確実に反対を受けるだろう。
最終的にFCCは、USFの他の項目の配付額を削減してでも、原案をそのまま押し通すものと考えられる。
今回の調査告示において、FCCのGenachouski委員長以下3人の民主党委員が、E-rateの徹底的実施に向けて掛けている情熱が並々ならぬものであることを教えられた。本文では、FCCのこの熱意のほどを読者の皆様に理解していただくため、調査告示の概要をそのまま、あるいは翻訳、あるいは要訳し、できるだけ忠実に紹介するよう努めた。箇条書き8点に取りまとめたが、項目番号、表題は、筆者が付した。また、配列も少し変更したところがある。
FCCが、USFを管理する組織、USAC(Universal Service Administrative Corporation)を通じ配付したE-rateの配付総額は、2009年までの14年間で316億ドル(1ドル110円で換算して3,465兆円)に達している(注2)。これにより、米国の学校生徒のDigital Literacyは、格段に向上したことであろう。他面、この金額は、そのほとんどが、通信キャリア、通信機器メーカの懐に入り、通信産業を支える一翼を担った。
ついでながら、米国政府は、産業界に補助金を支出していないという説が、未だにわが国でまかり通っているが、それは神話であって、E-rateは、米国の補助金支出のほんの氷山の一角に過ぎない。
しかし、それにしても、わが国の学校のインターネット導入はどうなっているのか。所得格差が進みつつある現在、Digital Literacyが拡大して、これがますます所得格差、雇用困難を生むことはないのか。米国のE-rateの経験から、学ぶべき点があるのではないかとも、考えられる。
FCCのGenachouski委員長の声明要旨、FCC委員の意見
Genachouskii委員長の声明要旨
E-rateは、米国全域の生徒、自治体(注3)の諸機会を拡大する革命的な業績であった。
E-rateプロジェクトにより、米国の97%の学校および、すべての図書館がインターネットにアクセスできるようになった。
しかし、米国ブロードバンド計画に述べられているとおり、ブロードバンドのスピードあるいは容量のニーズに応じるため、さらにアップグレードを高めなければならない学校が、未だ数多く残っている。本日、われわれは、e-RateについてのFCCの長年の知識、経験および米国ブロードバンド計画策定の過程において、計画参画者、教育専門家、その他の利害関係者から得た莫大な量のフィードバックをベースにして、幾つかの提案を行う。
提案のポイントは、次の3点である。
- 学校、図書館は、もっとも効率的で、教育上有益なブロードバンド・サービスを提供する柔軟性を備えなければならない。これには、生徒が教室外で利用できるワイアレス・サービスも含まれる。
- E-rateのアプリケーションを簡単にする。また、連邦、州、地方公共団体の要件のオーバーラップや事務の煩雑をなくす。さらに、特別の要件を備えている人々を有する地域にサービスを提供する住宅地域の学校の幾つかの制約を除去する。
- E-rateの支出限度額(年間22.5億ドル)をインフレ率とリンクさせる。この提案は、多くのE-rateプロジェクト推進者からの強い要請があったものである。
他のFCC委員の意見
民主党の3人の委員、共和党の2人の委員は、ともにE-rate プロジェクトの価値を認め、今回のFCC提案に賛成している。しかし、共和党のMcDowell、Baker両委員は、E-rateの配布額をインフレ率で調整することに大きな危惧を示している。この点について、再提案が原案どおりとなっても、共和党の2名の委員は、反対票を投じるだろう。しかし、FCCにおいて、民主党委員はマジョリティーを有しているのだから、裁定案は可決されるに違いない。
改正点の概要
1.申請手続きの合理化
電気通信・インターネットのアクセスについての申請手続き、競争入札手続を合理化する。これは、申請者の事務負担をさらに軽減することに努力し、同時に、潜在的な無駄、詐欺、職務濫用を軽減するための予防措置継続を目的としたものである。
2.無駄、詐欺、濫用を防ぐための公平、オープンは競争入札要件の規則化
無駄、詐欺、濫用をも含む案件に適用する規則制定能力を高めるため、これまでFCCが、"公平、オープン" な競争入札制度について、積み上げてきた先例を規則に折り込む。
3.割引率算出の簡素化、E-rateの定義の変更
学校に適用される割引率の算出を簡単にする。また、E-rateにおける "ルーラル" の定義を教育省のルーラル定義に合わせる。
4.携帯ブロードバンド端末のオンライン学習目的のための利用補助
現在の規則では、E-rateの補助は、校内でのインターネット使用のみに認められている。この規則を廃止し、オンライン学習について、校外のワイアレス端末使用にも補助ができるようにする。
(補足説明)
現在、オンライン学習が進んでおり、学生は、ワイアレス端末により、学校でも自宅でも、あるいはどこででも、学習ができるようになっている。しかし現状では、E-rateの補助は、放課後のインターネットアクセスにまで及ばないので、自己負担ができる家庭の生徒とできない生徒との間に、格差が生じている。従って、放課後に利用されるオンライン学習のインターネット利用の月額基本料を補助するよう提案する。また、生徒のみならず、家族のものも、このインターネット学習に参加してよいかどうかについて、意見を求める。この学習は、家族のDigital Literacyを向上させると考えられるからである。
ちなみに、最近の幾つかの調査によれば、携帯ラップトップによるオンライン学習が大きな教育効果を上げているとの結果が示されている。たとえば、オンライン学習に力を入れているメイン州においてUniversity of Southern Maineが行った調査では、ラップトップを終日利用した中学生の生徒は、それ以前に比し、著しく学習が向上したとのことである。
5.実質価値でのE-rate補助金の支給
現行E-rateの購買価値を維持し、将来における高速ブロードバンドおよび機器の相互接続の支援を継続するため、22.5億ドルのE-rate補助額の限度額(キャップ)を名目でなく、実質(インフレ率を乗ずることにより)で算出する。
(補足説明)
今後、より多くの学校、図書館が、各クラスにビデオを流すなどの技術的により高度のアプリケーションを提供し、またすぐれた学習機会を与えなければならない。そのため、E-rate補助金の価値を高める必要がある。
具体的には、22.5億ドルの実質価値を維持すること(E-rate実施以降、インフレの進行によって、6.76億ドルの減価が生じている)により、利用できる補助金を端末相互接続の回線、機器の増強、相互間のインターネットアクセスサービスに、一層振り向けるようにする。
現在、E-rate補助金は、まず、優先度が高い機器・サービス(補助金受領者の接続ポイントまでの回線、端末の架設および通信、インターネットサービス、即ちプライオリティー・ワン)に当てられている。
構内、図書館内の機器相互間をつなぐ機器(ルータ等)の架設費、保守費は、支出対象となっているものの、プライオリティー・ツーに位置づけられている。
現在、プライオリティー・ワンの申請に対しての充足率は高いが、申請件数は増えている。プライオリティー・ツーに対する充足率はまだ低い。給食費用が免除されている低所得の生徒を多く持つ学校は優先されているので、充足率が高いという現象が生じている。現状のままでは、2011年には、プライオリティー・ツーサービスにまわす補助金が皆無になる事態すら考えられる。
インターネットが有している強い力を、広く、ネットとして、学級の端末にまで及ぼすことができるように、プライオリティー・ツーのサービス拡大を図る必要がある。
6.不要になった機器・サービスの処理
学校、図書館が、E-rate補助金を使って購入した機器、サービスが不要になった場合の処理手続きを定める。
(補足説明)
現在、E-rateに関する規側では、補助金により購入した機器、サービスを第3者に転売、譲渡することに対し、厳しい禁止条項が置かれている。しかし、これら、サービス、機器が陳腐化した場合の処理方法についての規定が欠けている。
FCCは、競争入札により、これら機器、サービスを売却することを認める条項を設けるよう、提案する。この際、E-rate補助金の受給者は、一定額を超えた収益を得た場合、これを返還することを条件とする。
7.電気通信キャリアでない地方公共団体から、低コストのファイバーのリースをE-rate補助受領者に認める
これにより、受領者がインターネット接続のニーズに対し最もコスト効率の良い広帯域ブロードバンド利用の解決方法をより柔軟に選択できるようになる。
8、特別の課題がある住宅地域の学校に対するブロードバンド拡充の特例
少数民族の学校とか、身体、知能的、行動の面で障害を持った子供がいる学校とかの特別の課題を有する住宅地域の学校に、ブロードバンドを拡充する。
(補足説明)
現在、E-rateによる補助金支出条件は厳しく、教室に対するプライオリティー・ワン、プライオリティー・ツーのサービスに限られている。たとえば、聾唖者教育学校の場合など、寄宿舎に寝泊りしている学生は、放課後にオンラインで学習しようと思っても他の手段がない。学校のインターネットを利用しようと思っても、無料でそれを受けることができない(筆者注:学校は、補助を受けず、自前でやりくりして、寮にインターネットを引き込んでいる場合が多いと考えられるが、多分、通信料を寮生から、回収しているものと思われる)。
上記のような場合、インターネットサービスの拡大をすること自体が、教育目的の一部であると考えられるので、FCCは、この拡大をE-rate支給の範囲対象にするよう提案する。
(注1) | 2010.5.20付け、FCCのNotice of proposed rulemaking, "In the Matter of Schools and Libraries “Universal Support Mechanism." |
(注2) | USFに占めるE-rateの地位については、かなり古いが、次のテレコムウォッチャーに記述している。2005年10月15日付け、DRIテレコムウォッチャー、「FCCのハリケーン災害に対する救援対策 - USF基金を動員」。 |
(注3) | E-rateの本来の対象が、学校、図書館に対するインターネットの普及であるのにかかわらず、ここで、自治体(community)にも貢献したと述べられているのは、次の理由による。米国では、特に、図書館において、インターネットの無料利用が進んでおり、自宅にPCを有していないものは、図書館において、インターネット検索、メールの発信ができるからである。つまり、図書館は、公衆電話が有線電話にとって果たしてきたと同様の役割をインターネットについて果たしており、これにより、ユニバーサルサービス不完全実施を補完する役割を担っているのである。 |
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