DRI テレコムウォッチャー


米国FCCブロードバンド計画報告書の概要(2)
− 労作だが、歩留まりはどうか

2010年4月1日号

 2010年3月17日、FCCは、待望のブロードバンド報告書(National Broadband Plan、NBP)を発表した。FCCのコーディネータ、Blair Levin氏を長とするブロードバンド・プロジェクトチームが1年近くの年月を掛け、文字通り不眠不休で制作した約260ページの労作である。
 本論では、できるだけ原文に即して、FCCプレスレリースに掲載された米国のディジタルギャップ、NBPのエグゼクティブ・サマリーによりブロードバンド改革の6つの長期目標を紹介する。

 前回のテレコムウォッチャー(注1)では、見込み情報をベースにして、NBPの概要についての予測記事を書いた。そのなかで、10年後のブロードバンドの利用可能数値(原文では、accessの語を使っているが、この語には、(1)実際の利用を含む場合(2)access可能を意味し、利用しているかいなかを問わない場合の双方の意味があり、誤解を招きやすい。NBPで使われているaccessは、(2)を指す)と普及率の関係の取り扱いがあいまいであったので、(注2)において訂正させて頂いた。
 ところで、NBPはFCC自体および議会、関係する行政機関、地方自治体に対し多くの勧告を行っている。NBPが完成したからといって、これ自体、なんらの効力を有するものではない。勧告を受けたそれぞれの機関が、この勧告に対する決定を行い、行動に出て、初めてNBPの内容が生かされる。
 しかし、勧告は、FCCに対して為されたものが大多数を占めており、FCCは、すでに、勧告の線に沿って着々と実施作業を始めている。特に、政府からもっとも多額の資金を引き出す必要がある、公安目的でのワイアレス全国ネットワーク構築の案件については、その動きが速い。
 最大の問題は議会であるが、NBSは、議会を刺激しないように、十分な努力を払っている。ブロードバンドの拡充、普及率の向上は、共和党ブッシュ元大統領も、最大の政策目標にしていたほどであるから、議会の共和党議員連といえども反対は難しい。結局、報告書の勧告内容をFCCが実施または規則化しようとする折々に、賛否を表明するということに留まるだろう。
 FCCは昨年、ブロードバンド拡充の目的で、法律により割り振られた72億ドルを今回の報告書の勧告実施に使うこともできるし、USF基金も毎年、潤沢に使用できるので、資金面で恵まれている。従って、公安用ワイアレス網の構築はともかく、原則的には、議会に経費支出を要請しなくても、NBPの勧告を実施に移せると、FCCのGenachouski委員長は強気の姿勢である。しかし、実のところは、NBS勧告には、政府、地方公共団体、州政府の資金支出要請を含む勧告が相当件数含まれており、これらを全部実施すると、その支出額はかなりの巨額に達することとなる。このため、予算面の制約から、NBS勧告のかなりの部分が見送られる恐れは、十分にある。

 ところで、NBPの内容が多方面にわたり、見方によっては、不要、実行不可能、確実性に乏しい等々の様々の反論を喚起する性格を有しているものであるために、NBP勧告に対する批判は、すでに数多く提起されている.。議会共和党筋はもとより、市民団体、評論家連中等々。さらには、Verizon(報告書発表までは諸手をあげて賛成していたのだが)まで、最近、強烈な反対表明を行った。次号では、これら反対論の概要を紹介することしたい。

ブロードバンド・ギャップの現状(注3)

 ここでは、FCCプレスレリース掲載の前文を訳した。アンダラインのタイトルは、筆者が付したものである

ブロードバンドを利用できない人々の数、状況

  • アクセスできるのに利用していない人は、ほぼ1億人に達している。
  • 利用したいのに、ブロードバンドにアクセスできない人が1400万人もいる。
  • 身障者のうち、家庭でインターネットを利用しているのは、42%に過ぎない
  • 少数民族(インディアンとイヌイット)の地域で、インターネットを利用しているのは、わずか5%である。
    デジタル利用から排除されている学生が宿題を達成できず、また、失業者がオンラインで求職活動ができないことによる損失は、年々増大している。

周波数帯不足の恐れ・国際競争の遅れ

  • 無線周波数帯の不足は間近に迫っており、これが、評判のよいワイアレスモバイル・ブロードバンド分野での米国のイノベーション、リーダシップを妨げかねない状況にある。
  • 消費者にとっての価値を生む出すためには、より役に立つアプリケーション、機器、コンテンツが必要である。
  • 米国は、ブロードバンドの力を政府サービスの伝達、医療、教育、公安、エネルギー保全、経済発展、その他の重要な国家施策に利用することに失敗している(2009年のOECD調査で、米国はブロードバンド普及率はOECD諸国中で15位)。

米国の効率を高めるための6つの長期目標(注4)

 ここでは、報告書エグゼクティブ・サマリーに記された長期目標の記述の主要部分(ゴシック部分は全訳、その他の部分は抄訳し、さらに、筆者のコメントを付け加えた)を紹介する。
 FCCのプレスレリースでは、ブロードバンド・ギャップが強調されているのに、報告書のこの部分では、ブロードバンドの高速回線の拡充に重点が置かれているのが特徴である。

 第1目標:少なくとも、2010年末までに、1億の米国世帯に、手頃な料金でダウンロードで100MHz、アップロードで50MHzのブロードバンドにアクセスできるようにする。
 競争を通じ、ブロードバンドの速度は年を追うごとに高まっていくものと予想される。上記目標の達成により、米国は、ブロードバンドのアプリケーション、端末、インフラストラクチャーの、もっとも魅力的な市場となろう。
 中間段階として、2015年までには、1億の世帯がダウンロードで50MHz、アップロードで20MHzの速度を達成すべきである。
 筆者コメント:すでに、Verizon、Comcastのブロードバンドは、今後数年間で目標スピードのブロードバンドを達成できるものと見られている。さらに、第4世代のワイアレスサービス提供が、数年後に始まるだろうから、大方の観測筋は、この目標達成は、さほど、難しいものではないとの見方が強い。ただし、ワイアレスの場合、周波数帝の不足がネックになるが、この解決策を報告書は、次の第2目標で提示している。

 第2目標:米国は、最も広汎な地域にサービスを提供する最高速のワイアレスレスネットワークにより、世界をリードすべきである。
 次の大きなチャレンジは、モバイル・ブロードバンドの機会を生かすことである。モバイル・ブロードバンドは、まだ萌芽期の市場であり、米国は、この市場で世界をリードしなければならない。
 現在、政府がブロードバンドに割り当てているのは、50MHzの周波数帯であるが、これでは、急成長するワイアレスブロードバンドの需要をカバーすることは、できない。
 上記の目的のため、2020年までに、500MHz帯をワイアレスブロードバンドに割り当てることを提案する。
 筆者コメント:第2目標は、ワイアレスブロードバンドの重要性を強調しているが、これの本当の狙いは、ワイアレスブロードバンドの成長に必要な周波数帯の確保にある。また、使い切れていない周波数帯域(特に、放送事業者所有の周波数帯)をオークションにより、ワイアレスキャリアに利用させる勧告も為されている。

 第3目標:すべての米国人は、手頃な値段で強靭なブロードバンドサービスにアクセスできるようにべきである。また、国民が望むなら、サービスに加入する手段とスキルにもアクセスできるようにすべきである。
 この要件を満たすには、第1に、ネットワークにアクセスできなければならない。 第2に、サービスの提供を受ける金銭面での余裕がなければならない。第3に、ディジタル技術を身につける機会を持たねばならない。
 上記の目的達成のため、以下の勧告をする。

  • USFを従来の音声サービス補助から、ブロードバンドサービスの補助もできるように仕組みを改める。
  • 現在、音声サービスを受けにくい低所得層の人々に対し提供されているLifeline(架設料金に対する補助)、Link Up(基本料の軽減)をブロードバンドサービスにも適用で来るようにする。
  • ディジタル・リテラシイーを身に付けさせる施策としては、本人の話す言葉が英語でなくても、所要の教育を受けることができるようにする。この目的のために、ディジタル・リテラシイ会社(Digital Literacy Corp)を設立する。

 上記の施策を講じることによって、米国世帯のブロードバンド普及率は、90%強に達するだろう。
 筆者コメント:当初、ユニバーサル・ブロードバンドを目指して、作業を行なったFCCブロードバンドチームであるが、少なくともユニバーサル・サービスの文言の使用を断念せざるを得なくなった。また、当初、目標値であったはずの90%の普及率も、目標値らしからぬ表現になってしまった。ここで、想定されているブロードバンドの速度は、現在の平均的な速度(4MHz程度)である。
 第3目標の控えめな表現は、多分、スムーズに、議会、利害関係者にNBPを認めてもらうための妥協であろう。
 しかし、報告書本文第8章 Adoption and Utilizationでは、さまざまのグループ別に、ブロードバンドの普及がどうして進捗していないのかの分析、対策が仔細かつ、情熱的に論じられている。
 補助金支出による加入者の増大は、FCCが特に、現1996年通信法制定以来、長年、実績を積み重ねてきた分野である。USFの資金も潤沢にある。“ユニバーサル・ブロードバンド”の旗を降ろしても、実質的に、ブロードバンドをユニバーサル・サービスにまで接近させようとのFCCの意欲は、十分に汲み取れる。

 第4目標:すべての米国のコミュニティーは、拠点となる組織(学校、病院、政府施設等)において、手頃な料金で、少なくとも1ギガ超のブロードバンドサービスにアクセスできるようにする。
 学校、図書館、病院は、目標達成に必要なブロードバンドへの接続性を備えなければならない。これにより、イノベーションが促進され、われわれの学習、健康管理、官庁との相互接触のやり方が改善される。
 筆者コメント:米国では,1998年から、E-rate(学校、図書館、病院にインターネットを装備するための資金供与政策)がUSF資金により、実施されている。しかし、実施以来10数年を経過し、E-rateの本来の目的は、ほぼ達成されている。第4目標は、E-rate政策の目標を高度化しての継続しようとする提案であると見てよい。

 第5目標:米国民の安全を確保するため、最初の応答者が、相互接続性ある全国ワイアレスブロードバンドに、アクセスできなければならない。
 9/11委員会(9/11Commission、2001年9月11日の多発テロ事件の原因究明を行った委員会)は、“地方自治体、州政府、連邦政府を相互に接続する通信網の構築が、未解決の重要課題である”との結論を出している。以来、この問題は依然として未解決のままである。
 現在、連邦政府は州、地方自治体と緊急時に早急な連絡が取れない。取れても、音声、データのみの伝達にとどまり、高速ブロードバンドによりもたらされる便宜を利用することができていない。
 筆者コメント:FCCは、このネットワークの構築に160億ドル、運営に年々60億ドルから100億ドル程度の資金が必要とみており、このプロジェクトに、多額の政府資金が必要だとしている。最新の報道では、FCCは、年々の運営費をカバーするために、ブロードバンドのユーザに対し、月額1ドル程度の税を課する案も考慮中だとのことである(注5)。

 第6目標:米国がクリーン・エネルギーの分野で世界をリードするためには、すべての米国人が、エネルギー消費をリアルタイムに追跡、管理できるようにしなければならない。
 米国は、もはや、化石燃料、石油の消費に頼ることはできない。保安を高め、汚染を減らし、競争力を強化するためには、米国は、クリーン・エネルギーの分野において、他国に追随するのではなく、主導権を握らなければならない。
 筆者コメント:NBPの12章では、スマート・グリットによる電力節減のための諸種の方策を含め、さまざまの分析がなされている。


(注1)2010年3月15日付け、DRIテレコムウォッチャー、「FCCブロードバンド計画報告書の概要(1)−定まったユニバーサル・ブロードバンドの定義」
(注2)ブロードバンド拡充、普及率向上についての長期目標について。
本文で紹介した長期目標でも明らかであるが、NBPでは、ブロードバンドの普及拡大について、2つの目標を設定している。
  • 2010年末までに、1億世帯に対し、100MHzのブロードバンドにアクセスできるようにする(筆者注:利用できるではない点に注意。換言すれば、1億世帯分のブロードバンド設備を架設するということ)。
  • 2010年末に、米国全世帯の90%の人々が、4MHz程度(ADSLも含め、現在のブロードバンド速度)のブロードバンドを利用することができるようにする(これは、実際に利用される比率を示すものであり、単なるアクセス比率ではない)。
    上図は、第2番目の目標達成に当たっての、ディジタル格差を見るのに役立つ。つまり、現在63.5%の普及率を90%にまで引き上げるということである。この場合、ブロードバンドのスピードアップは要求されていない。なお、FCCプレスレリースによれば、ブロードバンドを利用したくても利用できない人は、約1億人いるというから、今後、人口増加が無いと仮定しても、1億人分のブロードバンド利用者増を要する。
(注3)2010.3.16付け、FCCプレスレリース、"FCC sends national broadband Plan to Congress Plan Action for Connecting Consumers, Economy with 21 st Century Networks."
(注4)A National Broadband Plan Capter2、"Goals For A High - Performance America."
(注5)2010.3.16付け、http//www.Computerworldbroadband.com、"Public safety fee for broadband will be less than $1 a month."


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