DRI テレコムウォッチャー


TV加入者を大きく失い始めたMSO
− 激突が予想されるMSOと大手電話会社の相手市場進入競争

2010年3月1日号

 2010年2月3日に発表された2009年次第4四半期の決算報告のなかで、Comcast社のロバーツ会長は、“困難な経済環境が消費者、広告業界に影響を及ぼしている状況の下で、当社の健全な財務成果を報告できることを誇りとする”と述べた(注1)。
 ロバーツ氏の言に偽りはないものの、Comcast社にとって、2010年は念願のNBCUniversal社への経営参加を実現すべき重要な年である。自社の弱点に触れず、いささか強がりを示した感は否めない(注2)。
 Comcast社決算報告の問題は、2009年に大量のTV加入者を減らしたこと、特にこの傾向は2009年第4四半期に顕著にあらわれた点である。ロバーツ会長は、この点について、言及を避けた。
 これを電話会社の側から見ると、ブロードバンド、ビデオサービス加入者の獲得競争で長年にわたり苦境をなめてきた状況に、ようやく反攻のチャンスが訪れたということだろう。
 今回は、2009年次のComcastおよびTimeWarnerCable、大手電話会社の業績を相互比較したが、その結果得られた最大の収穫は、上記の点であった。2010年次からは、大手電話会社、MSO両者は、それぞれ相手の本丸事業(大手電話会社→MSOのTV事業、MSO→大手電話会社のブロードバンドインターネット、VOIP)に大々的に参入を続け、両陣営の競争は、ますます激化するだろう。
 詳細は、本論で紹介する。


2009年次におけるMSO2社・大手電話会社の収入・営業利益の比較

表1 MSO2社・大手電話会社2社の収入、営業利益比較(2009年次、単位:100万ドル)
キャリア名収入営業利益営業利益率
 MSO
  Comcast
  TimeWarnerCable

35,756(+3.9%)
17,869(+3.9%)

7,214(+7.2%)
3,317(−11,782)

+20.2%
+18.6%
 大手電話会社
  AT&T
  Verizon

65,670(−6.0%)
45,080(−4.4%)

7931(−29.2%)
1981(−48.7%)

+12.1%
+4.3%
1、 MSOの収入は、全収入、大手電話会社の収入は、ワイアレス部門の収入である。
2、 括弧内の比率は、2008年次に対する2009年次の増減比率を示す。ただし、TimeWarnerCableの括弧内の数値のみは、2008年期の実績値である。この期、TimeWarner Cableは、TimeWarner社からの分離に伴う資産償却費を分担することとなったため、多額の営業利益赤字を計上した。

 表1からも、次のように、MSO2社の業績が、大手電話会社2社に比し好調な点が明らかである。

  • MSO2社の収入がいずれも3%台の増であるのに、大手電話会社2社の収入は、4%から6%台の減と、対照的な動きを示している。
  • 営業利益率の点でも、MSO2社がそれぞれ2桁台の数字を出しているのに、大手電話会社は、Verizonはきわめて低率、AT&Tもようやく2桁台という数値であり、振るわない。


MSO2社の高速インタネット・ディジタル電話加入者数

表2 Comcast、TimeWarnerCable両社のサービス加入者数(2009年12月末、 単位:万)
サービス/MSOComcastTime WarnerCable
ケーブルTV2355.9 (2418.2、−2.6%)1,285.9 (13069、−1.7%)
高速インターネット1593.0 (1492.9、+6.7%)899.4 (872.7、+3.1%)
デジタル電話762.2 (647.3、+17.6%)422.0 (377.7、+11.7%)
RGU3701.1 (4558.4、+3.1%)2607.3 (2557.3、+1.9%)
1、 括弧内の最初の数値は2008年末の数値、次の数値は、2009年末数値の2008年末数値に対する増減比である。
2、 RGUは、その3つの上欄の和、すなわち、収入を生み出すすべての加入者数の総計であり、収入創出力を示す指標となる。

ケーブルTV加入者数
 MSO2社は、TVサービスの提供について、大手電話会社からはもとよりのこと、衛星通信事業者、さらには、最近、サービスを伸ばしているワイアレス、ワイアラインのビデオ事業者から、激しい競争を受けている。
 これまで、Comcast、TimeWarner Cable2社のケーブル加入者の喪失はわずかなものであったが、2009年次には、競争業者からのインパクトが、数字の上ではっきりと現れるようになった。表でわかるように、もっとも影響を大きく受けているのは、Comcastである。同社は、2009年内に、計62.3万もの加入者を減らしており、しかも、2009年第4四半期の加入者喪失数、19.9万からすると、2010年には、さらにこの傾向が加速するのではないかとも見られる。この点については、さらに、項を改めて論じる。
高速インターネット加入者数
 Comcast、TimeWarnerCableは、2009年次、2008年次に比し、それぞれ6.7%、3.1%と高速インターネット加入者数を伸ばした。しかし、2008年次には、2007年対比の伸び率は、10.0%、14.5%であったのであり、増加率がかなり減速しているのが目立つ。
ディジタル電話加入者数
 ディジタル電話加入者数の伸びは、Comcastの場合、昨年の4.5%増に比し17.8%増と大きく加入者数を伸ばしている。現在、同社は、AT&T、Verizonに次ぐ米国第3位の長距離電話会社となった。TimeWarneCableも、ともかく2桁台の加入者数増を行っている。


加熱するMSO2社・大手電話会社2社の高速インターネット加入者獲得競争

表3 MSO2社・大手電話会社の高速インターネット加入者数の伸びの動向(単位:万)
キャリア/加入者数加入者数(2008末)加入者数(2009末)
 MSO
  Comcast
  TimeWarnerCable

 大手電話会社
  AT&T
   - U-verse
   - ADSL
  Verizon
   - FiOS Internet
   - ADSL

1492.9(+10.3%)
872.7(+14.5%)


1078.0(+7.3%)
104.5(+452%)
973.5(+0.6%)
867.0(+18.3%)
250.0(+67.4%)
617.0(+6.6%)

1593.8(+6.7%)
899.4(+3.1%)


1141.3(+5.9%)
206.4(+97.5%)
934.9(−4.0%)
922.8(+6.8%)
343.3(+37.3%)
579.5(−6.1%)
1、 括弧内の%は、前年同期に対する増減比である。
2、 AT&Tは、ADSLの数値を発表していない。計上したのは、推計値。

 表.から、次の諸点が読み取れる。

  • MSOの2008年における高速インターネットの加入者増は、引き続き堅調ではあるが、2007年に比し、かなり鈍った。
  • これに対し、大手電話会社の側も、同様に加入者増は2008年減速し、成長率はほぼ、MSOと同等になった。
  • 大手電話事業者(AT&T、Verizon)では、光ファイバーによるブロードバンド加入者U-verseとFiOS)の成長が大きく、ADSL加入者の減少をカバーしてあまりある。


効を奏したビデオ分野でのAT&T、Verizonの攻勢 ― 評価が低いMSOのビデオサービス

表4 MSO・大手電話会社各2社のビデオ加入者数の増減
キャリア/時期等2009年間2009年第4四半期第4四半期/年間
 電話会社
  AT&T
  Verizon
 MSO2社
  Comcast
  TimeWarnerCable

101.9
94.3

−62.3
−21.0

24.8
15.3

-19.9
-10.5

+24.3%
+16.2%

+31.9%
+50.0%
1、 ここで対象としたのは、AT&TのU-verse、VerizonのFiOSTVおよびComcast、TimeWarnerのビデオ加入者数である。
2、 表中、最後の欄の“第4四半期/年間”は、略記であって正確には、2009年第4四半期加入者増減数/2009年年間増減数×100である。この数値が25%を超える場合は、第4四半期の増減は、平均の四半期より大きいことを示す。

 表4で注目されるのは、第1に、Comcastのビデオ加入者数が2009年次に62.3万と同社にとって、無視できない大きさになったこと、また、AT&T、Verizonのビデオ加入者の獲得数が、AT&T 101.9 万、Verizon 94.3万とほぼ100万台の大台に乗ったことである。
 第2に、加入者増減数のうち、第4四半期にどれだけの比率を占めているかをみると、(1)Comcast、TimeWarner Cableでは、いずれも、ビデオ加入者減少率が31.9%、50.0%と、平均%の25%を超えており、加入者減に加速度がついていると思われること(2)しかし、AT&T、Verizonの側は、加入者獲得比率が両社ともに平均の25%以下であり、2009年第4四半期における加入者獲得のモメンタムが低下している。
 しかし、これまでComcastは、大手電話会社からの攻勢によるビデオ加入者の喪失はわずかのものであって、事業運営になんら支障がないと豪語してきたものであるが、2009年第4四半期の数値からすると、このような強気の姿勢はとることはできまい。
 米国のネット情報は、2009年次の決算を見て、Comcastの将来の事業運営を危ぶ 向きの報道が出現しつつある。その代表的なものとして、Strategy Analytics社が最 近、行ったユーザ調査のポイントを紹介する(注3)。

 Strategy Analytics社が、24万7千人のユーザを対象に調査した結果によれば、MSOの加入者の多くは、決して今受けているサービスに満足しておらず、他社に移るかあるいはテレビを見る事をやめたいと思っているという。
 ユーザの3分の2が、料金が20%安ければ他社に移りたいと感じているし、10%の料金減でも、他社に移りたいという加入者数は47%もいるという。ついでながら、MSO業界は、いまだに、監督機関の地方自治体から、コスト+アルファーの方式で料金引き上げを認められているのである。たとえば、2009年次に前年ほどではなかったが、TV料金の値上げを行ったと述べている。これも、利用者がケーブル事業者に嫌気を感じている理由の1つだという。
 この調査はさらに、MSOのサービスは、大手電話会社のビデオサービスに比し劣悪であり、さらに最近、インターネットTVが盛んに提供されてきているので、これら多様なオプションに魅力を感じるユーザも多いと分析している。
 Strategy Analytics社のBen Piper氏は、結論として、“ケーブル会社は、今や脆弱である。加入者は、サービスも技術も電話会社に比し劣っており、ますます、料金対価に見合ったサービスを受けていないと感じていることが基本的な問題である”と痛烈な批判を行っている。


(注1)2010 年4月10日付け、Comcast発表の決算資料。本論では、同日発表の一連の決算資料を利用した。資料名は省略する。
(注2)2010年1月1日付け、DRIテレコムウォッチャー、「Comcast、NBC Universal経営権の取得でGEと合意 ― Videoの配送とコンテンツ支配の一元化を図る」
(注3)2010.2.4付け、CNET News、"Could cable loss its grip on TV business?"


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